江畑コーヘーのプライベート・スタジオ|Private Studio 2023

江畑コーヘーのプライベート・スタジオ|Private Studio 2023

ギタリスト/作編曲家の江畑コーヘーが、自宅の中に構えるスタジオ。約10畳のコントロール・ルームへ入ると、MARSHALLやBOGNER AMPLIFICATIONなどのアンプ・ヘッドとともに、壮観たる録音システムの姿が。天井高は3mで、開放感のある空間だ。江畑がこのスタジオを造った背景には、1人のプレイヤーとしての熱い思いがあった。

“考え込むより行動”でスタジオを造った

 ギタリストを象徴する機材のほか、マイクやアウトボードもそろえる江畑。「ここを造る前から、自作のキャビネット・ボックスにマイクを立てて録音するようなことをやっていました」と語る通り、エンジニアリングへの関心も高い。

 「ラインの音が苦手で。ピッキングへのレスポンスが遅く感じられるし、真空管アンプを使った方が圧倒的に速く前に飛ぶと思うんです。それもあってマイクで録るのを基本にしているんですが、ボックス内にマイクを立てていた頃は、低音弦をブリッジ・ミュートで弾いたときに特定の帯域が膨らんでしまったりと、周波数的なウィーク・ポイントを解消できずにいました。でも、このスタジオを造ってからは、すべての音が奇麗に出てくれるようになったんです」

 スタジオの音響設計/施工を手掛けたのはアコースティックエンジニアリング。ギタリストで作曲家のZENTAから紹介され、依頼することにしたという。

 「そもそもZENTAさんのスタジオがアコースティックエンジニアリングさんの施工で、伺うたびに“うわ~、すごいスタジオだな”と思っていたんです。同時に、自分もスタジオを造りたいと考えていたので、コロナ禍に入ってすぐ着手しました。2020年の4~5月には設計図を書いていて、竣工したのが2021年の1月です」

 スタジオ造りを決断したのは、コロナ禍に伴い、ギタリストとしての仕事が減ったことに端を発するそう。

 「この先、音楽のあり方が大きく変わるという予感がしていました。でもそれ以上に、仕事が激減してあらためて音楽に向かい合ったとき、“楽しく生きていける場所を作ろう”と思って。業界が変わったとしても、信頼し合えるプレイヤー仲間たちと音楽を作れる場所があったら楽しいだろうなと。スタジオ造りは、そういう考えによる部分が大きいです」

 コロナ禍のあおりを受けた音楽業界にあって、スタジオ造りにかけたコストを回収できる保証は、どこにも無かったのではないだろうか?

 「それを考えたら負けかな、と思っていました。これまでは、ありがたいことにお仕事をいただけて今も生活できているわけですが、そもそもプレイヤーをやっている時点で将来の保証はありませんから、悩むよりも行動してみようと。そして、造るなら中途半端なものにはしたくなかったんです。もちろん、予算には限りがありましたけど、行けるところまで行きたかった……“ドラム録りもできるスタジオにしよう”という思いが念頭にありましたからね」

コントロール・ルームのデスク。AVID Pro Tools、パッシブ・ラジエーター付きのパワード・モニターFOCAL Shape Twin、マスター・キーボードとして使っているNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61などが見える。壁のディスプレイに映るのはFLUX:: Analyzer System

コントロール・ルームのデスク。AVID Pro Tools、パッシブ・ラジエーター付きのパワード・モニターFOCAL Shape Twin、マスター・キーボードとして使っているNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61などが見える。壁のディスプレイに映るのはFLUX:: Analyzer System

愛用マイク。写真左上から時計周りにAKG C451 B、NEUMANN KM 184、ROYER LABS R-10、TELEFUNKEN M80、SHURE SM57×4本、Beta 91A、AKG D112 MKII、AUDIO-TECHNICA ATM25、LEWITT LCT 440 Pure、「SONY C-800Gをモデルにした一本で、リーズナブルですがハマったときの威力がすごい」と言うTONEFLAKE T800G、SEIDE PC-VT2000、SE ELECTRONICS Voodoo VR2、ROSWELL PRO AUDIO Mini K87×2本、AKG C414 XLII×2本、AKG C414 XLS×2本、SENNHEISER MD 21-II×3本

愛用マイク。写真左上から時計周りにAKG C451 B、NEUMANN KM 184、ROYER LABS R-10、TELEFUNKEN M80、SHURE SM57×4本、Beta 91A、AKG D112 MKII、AUDIO-TECHNICA ATM25、LEWITT LCT 440 Pure、「SONY C-800Gをモデルにした一本で、リーズナブルですがハマったときの威力がすごい」と言うTONEFLAKE T800G、SEIDE PC-VT2000、SE ELECTRONICS Voodoo VR2、ROSWELL PRO AUDIO Mini K87×2本、AKG C414 XLII×2本、AKG C414 XLS×2本、SENNHEISER MD 21-II×3本

ギター録り用のアンプ・ヘッド。写真上からFRIEDMAN Pink Taco Custom、MARSHALL VintageModern 2466、BOGNER AMPLIFICATION Shiva、TWO-ROCK Custom Reverb Signature V3、DIVIDED BY 13 AMPLIFICATION RSA 23。Shivaの傍らにはマイクプリのTELEFUNKEN V76Sを置く

ギター録り用のアンプ・ヘッド。写真上からFRIEDMAN Pink Taco Custom、MARSHALL VintageModern 2466、BOGNER AMPLIFICATION Shiva、TWO-ROCK Custom Reverb Signature V3、DIVIDED BY 13 AMPLIFICATION RSA 23。Shivaの傍らにはマイクプリのTELEFUNKEN V76Sを置く

使用ギターの一部。手前から奥にかけてGIBSON Country Western、Les Paul Custom、FENDER Stratocaster、XOTIC XSC-1、FENDER Telecaster

使用ギターの一部。手前から奥にかけてGIBSON Country Western、Les Paul Custom、FENDER Stratocaster、XOTIC XSC-1、FENDER Telecaster

ライブで使用しているギター用ペダルの一部。ボードに固定し、可搬性を高めている

ライブで使用しているギター用ペダルの一部。ボードに固定し、可搬性を高めている

主力のマイクプリは12chのAPI

 スタジオには、ドラムを常設する約12畳のライブ・ルームがある。これを構えた意図とは?

 「近年、打ち込み主体の音楽がものすごく増えていますよね。その中で、バジェットの都合上、本当は生のドラムを使いたいのに打ち込みを選ばざるを得なかった曲、というのもあると思うんです。それはもったいないなと。もし周りに同じような思いを抱えるミュージシャンがいたら、このスタジオを使って生ドラムを録って、納得のいく作品にしてもらえたらと思っています。バジェットを抑えながら、素早く大量に作って出す、というスタイルとは違って、ドラムのサウンドひとつにも十分にこだわれるようにしたい。もっと一つ一つの音楽にじっくりと向き合って、時間をかけて作り上げる場があってもいいと思うんです」

ドラム録りにも対応したライブ・ルーム。基本的にはグラスウールで吸音しているが、写真右の壁には木製パネルを貼って響きを持たせている。「ライブ感のある音像で録るために、そうしています。“Ebata Studioの音”と言われるようになればいいですね」と江畑。木製壁の手前ではコントロール・ルームのMacをミラーリングし、Pro Toolsを操作できるようにしている

ドラム録りにも対応したライブ・ルーム。基本的にはグラスウールで吸音しているが、写真右の壁には木製パネルを貼って響きを持たせている。「ライブ感のある音像で録るために、そうしています。“Ebata Studioの音”と言われるようになればいいですね」と江畑。木製壁の手前ではコントロール・ルームのMacをミラーリングし、Pro Toolsを操作できるようにしている

ライブ・ルームをドラム・キット側から見たところ。ギター用のキャビネットが置かれており、アンプのマイク録りも行える

ライブ・ルームをドラム・キット側から見たところ。ギター用のキャビネットが置かれており、アンプのマイク録りも行える

DYNAMOUNT X2-R Microは、専用のソフト/スマホ・アプリから遠隔操作できるマイク・ポジショナー

DYNAMOUNT X2-R Microは、専用のソフト/スマホ・アプリから遠隔操作できるマイク・ポジショナー

 実際に、懇意なミュージシャンたちに貸し出す機会があるという。その際、江畑がエンジニアリングを担当することも。AVID Pro Tools|MTRX Studio(オーディオI/O)の16chのライン入力には、それぞれアウトボードのマイクプリを接続している。主力は、都合3台のAPI 3124Vだ。

 「好きな海外のアーティストに影響されて、やっぱりAPIは良いなと。それで、スタジオを造る前に、3124Vをまずは1台買ったんです。ドラムを録るならあと2台は要るだろう、と思って追加しましたが、キックやスネアにはNEVE系のAURORA AUDIO GTQ2 Mark IIIを使うこともあります。同じラックのAMEK System 9098 Dual Mic Amplifierは、ZENTAさんからの借り物です。多点ドラムを録る際、同時にベースを録音するときがあるので、“プリが足りないから貸してください”とお願いして(笑)。おかげさまで、オーディオI/Oのアナログ入力が埋まるだけのマイクプリを持っておきたい、という願望が叶いました」

マイクプリは、ラック上段からAMEK System 9098 Dual Mic Amplifier、API 3124V×3台、AURORA AUDIO GTQ2 Mark IIIを用意。ラック最下段のオーディオI/O、AVID Pro Tools|MTRX Studioの内蔵マイクプリと先のV76Sを含め、計18chのマイク入力に対応

マイクプリは、ラック上段からAMEK System 9098 Dual Mic Amplifier、API 3124V×3台、AURORA AUDIO GTQ2 Mark IIIを用意。ラック最下段のオーディオI/O、AVID Pro Tools|MTRX Studioの内蔵マイクプリと先のV76Sを含め、計18chのマイク入力に対応

 マイクプリのほかにも、API 500シリーズのEQや500互換のテープ・エミュレーター、UREI 1176スタイルのFETコンプ、真空管コンプなど各種アウトボードがそろう。

 「ここを拠点に、作編曲からミュージシャン集め、録音~マスタリングまでワンストップで請け負えるようになりたいです。そうすれば、メジャーやインディーズを問わず、予算に限りがあっても満足のいくものを作れるのではないかと。生のドラムやストリングスが欲しいけど諦めようかな……と思っているような方の相談に乗れたらうれしいです」

ラック上段には左から、API 550B×2台、560(以上EQ)、RUPERT NEVE DESIGNS 542×2台(テープ・エミュレーター)、535×2台(ダイオード・ブリッジ・コンプ)、RETRO INSTRUMENTS Doublewide II(真空管コンプ)を設置。その下にはEMPIRICAL LABS Distressor EL-8XとBLACK LION AUDIO Blueyの2台のコンプを設置。「Blueyは歌やキック、アコギなど幅広いソースに使います」と江畑

ラック上段には左から、API 550B×2台、560(以上EQ)、RUPERT NEVE DESIGNS 542×2台(テープ・エミュレーター)、535×2台(ダイオード・ブリッジ・コンプ)、RETRO INSTRUMENTS Doublewide II(真空管コンプ)を設置。その下にはEMPIRICAL LABS Distressor EL-8XとBLACK LION AUDIO Blueyの2台のコンプを設置。「Blueyは歌やキック、アコギなど幅広いソースに使います」と江畑

ラックの上から3番目のWARM AUDIO WA76は、江畑が初めて購入したというUREI 1176系コンプ。「僕のWA76では、コンプレッションが浅くても特徴的なひずみが得られます」と語る。その下のTWO NOTES Torpedo Liveはスピーカー・シミュレーターで、ライブ時に真空管アンプ・ヘッドの後段で使うことがあるそう。DBX 160Aは、Distressor EL-8Xと1176系コンプとは違うバリエーションとして用意

ラックの上から3番目のWARM AUDIO WA76は、江畑が初めて購入したというUREI 1176系コンプ。「僕のWA76では、コンプレッションが浅くても特徴的なひずみが得られます」と語る。その下のTWO NOTES Torpedo Liveはスピーカー・シミュレーターで、ライブ時に真空管アンプ・ヘッドの後段で使うことがあるそう。DBX 160Aは、Distressor EL-8Xと1176系コンプとは違うバリエーションとして用意

Equipment

 DAW System 
Computer:APPLE iMac
DAW:AVID Pro Tools Ultimate
Audio I/O:AVID Pro Tools|MTRX Studio

 Recording & Monitoring 
Monitor Speaker:FOCAL Shape Twin、YAMAHA MSP3
Headphone:SONY MDR-CD900ST
Microphone:AKG C414 XLII、AUDIO-TECHNICA ATM25、LEWITT LCT 440 Pure、NEUMANN KM 184、他

 Outboard & Effects 
Mic Preamp:AMEK System 9098 Dual Mic Amplifier、API 3124V×3、AURORA AUDIO GTQ2 Mark III、TELEFUNKEN V76S
Compressor:BLACK LION AUDIO Bluey、DBX 160A、EMPIRICAL LABS Distressor EL-8X、RETRO INSTRUMENTS Doublewide II、RUPERT NEVE DESIGNS 535×2、WARM AUDIO WA76
EQ:API 550B×2、560
Delay:LINE6 Echo Pro
Speaker Simulator:TWO NOTES Torpedo Live
Pedal Effects:1981 INVENTIONS DRV Black Hyperfade、BOGNER AMPLIFICATION Harlow、CARL MARTIN PlexiTone Single Channel、KLON Centaur、LIMETONE AUDIO LTV-30H、JCB-4SM、MUSICOMLAB EFX MK-V、VEMURAM Jan Ray、Shanks II、WREN AND CUFF The Caprid、XOTIC EFFECTS XW-1、ZVEX EFFECTS Channel 2、他

 Instruments 
Guitar:FENDER Stratocaster、Telecaster、GIBSON Country Western、Les Paul Custom、IBANEZ UV777P、XOTIC XSC-1、他

 

江畑コーヘー

江畑コーヘー
札幌市出身。ジェジュン、TAKURO(GLAY)、DGS(神谷浩史、小野大輔)、ラブライブ、アイドルマスターなど、さまざまなライブ・サポートや録音に参加。アーティストへの楽曲提供や舞台音楽制作、編曲もこなす。近年はエンジニアも務めマルチに活動中。

 Recent Work 

『Never the Fever!!』
佐咲紗花
(Lantis)
※収録曲「光彩と涙」の制作にEbata Studioを使用

次に欲しい機材は…?

 いっぱいあります。欲しいものだらけ(笑)。スタジオ用の機材で一番欲しいのは、NEUMANNの真空管マイクM 149 Tubeです。外部のレコーディング・スタジオでアコースティック・ギターに立ててもらったとき、すごく印象が良かったからです。それに、ボーカルに使うこともできますよね。あるパートに特化したようなマイクは、買うのに結構な勇気が要るんですけど、M 149 Tubeは汎用性の高さも魅力です。

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