“ロック魂”を込めたボーカル&重厚な低域作り〜Ryosuke "Dr.R" Sakaiが語るNovel Core「TROUBLE」

“ロック魂”を込めたボーカル&重厚な低域作り〜Ryosuke Dr.R Sakaiが語るNovel Core「TROUBLE」

Novel Core『No Pressure』の冒頭を飾る「TROUBLE」は、ロックとヒップホップのテイストが融合した幕開けにふさわしい一曲。重厚なシンセ・ベースやNovel Coreが各展開で聴かせるさまざまな声色が魅力的だ。プロデューサーは、SKY-HIやBE:FIRSTなどBMSG所属アーティストの楽曲も手掛けてきたRyosuke "Dr.R" Sakai。制作が行われたSTUDIO726 TOKYOを訪問し、“セッション”による制作手法の全容を尋ねた。

Text:Kanako Iida Photo:Hiroki Obara

“宇宙語”で歌ってメロディを固めていく

「TROUBLE」の制作はどのように進んだのですか?

Sakai 僕は基本的にどのアーティストともセッションで曲を作っていくので、一緒に曲をやると決まって、Core君に実際にスタジオに来てもらいました。

“セッション”はどのように進めていくのでしょうか?

Sakai  Core君が、3連でロックとヒップホップが合体したような感じの“登場感”がある曲をやりたいと話していたので、そこからインスパイアされてビートを作っていきました。最初はベースのリフを打ち込んで、そこに合うドラムを置く感じです。あとはプリコーラスで落としてコーラスを盛り上げて、という展開が見えてくるとCore君も “格好良い!”と言ってくれたりしてジャム・セッションの延長みたいな会話をしながらオケを作りました。1曲通してオケができてきたらメロディを作り始めました。

その段階ではリリックはないということですよね?

Sakai ないので“宇宙語”で9テイクくらい歌ってもらって、パートごとに良いテイクをまとめてメロディを固めていきました。Core君からはすごく良いアイディアが出てきましたね。この“宇宙語”の語感がすごく大事で、実際に聴こえ方が近い単語などを入れるとグルーブを壊さずイメージした感じになりやすいんです。2回目に来たときにはリリックができていたので、本番のリバーブを使って歌を録りました。セッションのときはミックスしながら作るので、初日のラフ・ミックスは完成形に近いですね。最後は分離を良くしたり歌を前に出したりする処理で詰めていきます。

「TROUBLE」はAVID Pro Toolsを使い18trで構成。緑のトラックがドラム、赤がシンセ関連のサンプル、SynBassがSPECTRASONICS Trilianによるシンセ・ベースで、以下ソフト・シンセ、画面外にはボーカル・トラックが並ぶ

「TROUBLE」はAVID Pro Toolsを使い18trで構成。緑のトラックがドラム、赤がシンセ関連のサンプル、SynBassがSPECTRASONICS Trilianによるシンセ・ベースで、以下ソフト・シンセ、画面外にはボーカル・トラックが並ぶ

「TROUBLE」の制作が行われたRyosuke "Dr.R" Sakaiのプライベート・スタジオSTUDIO726 TOKYO。左のボーカル・ブースにはMANLEY Reference Cardioidがセットされ、マイクプリはデスク左端に位置するN-TOSCH HA-V1JRを使用。メインのモニター・スピーカーADAM AUDIO S5Hをはじめ、6〜7種類のモニター・スピーカーや10種類ほどのヘッドフォンなどを用いてミックス・チェックを行う

「TROUBLE」の制作が行われたRyosuke "Dr.R" Sakaiのプライベート・スタジオSTUDIO726 TOKYO。左のボーカル・ブースにはMANLEY Reference Cardioidがセットされ、マイクプリはデスク左端に位置するN-TOSCH HA-V1JRを使用。メインのモニター・スピーカーADAM AUDIO S5Hをはじめ、6〜7種類のモニター・スピーカーや10種類ほどのヘッドフォンなどを用いてミックス・チェックを行う

EQ5段がけで磨き上げたシンセ・ベース

頭から登場するシンセ・ベースは「TROUBLE」を象徴するような音色ですね。

Sakai SPECTRASONICS Trilianの“Big Boy Oscar”という音をEQなどでブラッシュアップしています。EQはFABFILTER Pro-Q3で、調整前の状態を残しておけるように日によって別に立ち上げて増やしていき、最終的に5段かかっています。ほかにはサイド・チェイン用にWAVES C1 Compressorをかけたり、メイン楽器としての存在感を与えるためにWAVES Doublerでステレオ感を出したりと試行錯誤しました。ベースは音高によって音量感が変わるので、オートメーションで高域だけ音量を下げたりもしています。

Pro-Q3の各段階ではどのような処理をしたのですか?

Sakai 最初は37Hzくらいの低域を上げて、サイド・チェイン用C1 Compressorの後段となる2段目ではベース・ラインを聴きたかったので4kHzくらいを持ち上げています。Doublerを挟んでから3段目ではよりベース・ラインを聴かせるために低音(45Hz付近)と倍音(2kHz付近)の音階が分かりやすそうな部分を上げました。4段目では低域と高域を切って、5段目でめちゃめちゃ追い込んでいます。サブウーファーのADAM AUDIO Sub10を入れた状態でスタジオが共振せずに奇麗に鳴るかを調整の目安にしているのですが、このEQを入れると共振しなくなるんです。

メインのシンセ・ベースに施したFABFILTER Pro-Q3による5段階のEQ処理。最初に37Hz周辺をブーストし、ベース・ラインを聴かせるために2段目で4kHz周辺、3段目で45Hz、2kHz付近をブースト。4段目で低域と高域を切り、5段目で最終的な追い込みを行った

メインのシンセ・ベースに施したFABFILTER Pro-Q3による5段階のEQ処理。最初に37Hz周辺をブーストし、ベース・ラインを聴かせるために2段目で4kHz周辺、3段目で45Hz、2kHz付近をブースト。4段目で低域と高域を切り、5段目で最終的な追い込みを行った

共振せずに奇麗に鳴るかを調整の目安にしているというサブウーファーのADAM AUDIO Sub10。スタジオで問題なく鳴れば「クラブから東京ドームまでどんな会場でも大丈夫」だという

共振せずに奇麗に鳴るかを調整の目安にしているというサブウーファーのADAM AUDIO Sub10。スタジオで問題なく鳴れば「クラブから東京ドームまでどんな会場でも大丈夫」だという

ベース以外にもシンセが多く入っていますね。0:38~のプリコーラスで鳴るリバーブが効いたシンセは何ですか?

Sakai これはIZOTOPE Irisで、リバーブはIris内蔵のものなのですが、よくできているんです。サビにはソフト・シンセのXFER RECORDS SerumやREFX Nexus、ピッチ・シフトして音階を付けたブラスのサンプルも入っています。バースの中盤(0:23~)から入るディレイがかかったシンセは、VALHALLA DSP ValhallaDelayの後段にMSコントロール用プラグインのMATHEW LANE DrMSを入れて、ディレイの広がりを立体的にしています。

ドラムは、サビ前のタムのパンニングが良いアクセントになっていますね。

Sakai  CABLEGUYS Panshaperで帯域ごとにパンニングしています。タム自体はNATIVE INSTRUMENTS Abbey Road Modern Drummerで、ひずみのAVID Black Op DistortionをかけたりDrMSで立体感を出したりしました。

ボーカル・コンプは−10dBくらいたたく

続いてボーカルについてお聞きしたいのですが、今回歌録りに使ったマイクや機材を教えていただけますか?

Sakai マイクはMANLEY Reference Cardioidです。最近男女問わず誰のレコーディングでも使いますね。音質が過不足無く高域が奇麗に録れて、歯擦音も程良く残るし今っぽく録れるのでEQも楽です。マイクプリは古いNEVE卓から抜き出して作られたN-TOSCH HA-V1JRを使っています。

「TROUBLE」の制作を通して、SakaiさんはNovel Coreさんの声の特徴をどのように感じましたか?

Sakai ラッパーとして大事なアタックがすごくありますね。ラップする声と歌う声、ささやくような声などバリエーションが多くて楽しいです。ラップはすごくスキルフルですし、一方ですごくロックっぽいメロディを付けられるのも面白いと思います。「TROUBLE」はシンプルかつ“ロック魂”みたいな裏テーマがあったので、Core君の声をロックっぽくするために結構エフェクティブにしました。

ボーカルにはどのようなエフェクト処理を?

Sakai ひずみ成分としてAVID Black Op Distortionを薄くかけました。かける量はセクションごとにトラックを分けて変えています。リバーブはAVID D-Verbです。ディケイは5秒程度と長めに設定していて、Pro-Q3でリバーブ成分に不要な450Hz以下と2.4kHz以上をカットすることで歌の後ろにだけリバーブがかかるので、比較的ドライに聴こえるんですけど、実は結構響きが深いんです。プリコーラスではリード・ボーカルに1オクターブ下げたボーカルを敷いて少し怪しさを出しています。

「リード・ボーカルにひずみ成分を付加したAVID Black Op Distortion。バースではDry/Wetのミックス・バランスを14%に設定している。タムなどにも適用し「何にでもかける“ふりかけ”みたいなもの」というSakaiのコメントからも信頼度の高さが伺える

リード・ボーカルにひずみ成分を付加したAVID Black Op Distortion。バースではDry/Wetのミックス・バランスを14%に設定している。タムなどにも適用し「何にでもかける“ふりかけ”みたいなもの」というSakaiのコメントからも信頼度の高さが伺える

1オクターブ下げたボーカル、ということは、コーラスは録音したものではないということですか?

Sakai ビートがしっかりしている曲はメイン・ボーカルとハーモニーをどうリズムにシンクロさせるかが大事で、歌い直すとどうしても長さや歌い出しがずれるので、リード・ボーカルを複製してCELEMONY Melodyneで人工的に作っています。その方がソリッドになるんです。ただ、サビだけは広がりを出したかったので、メインをトリプルで録りました。

その後のボーカル処理についても教えてください。

Sakai バース部分のリード・ボーカルはディエッサーFABFILTER Pro-DSとPro-Q3で歯擦音を大きく切っています。その上でWAVES Vocal Riderで音量を一定にして、ちょっと機械っぽくするためにANTARES Auto-Tuneも少しかけました。コンプはSLATE DIGITAL VMRのFG-401を使っていて、−10dBくらいたたいています。ただコンプを深くかけると小さいブレスまで上がってくるので、それらは1個ずつ手動でボリュームを小さくするんです。そうすると歌は全体的に前に出て、ブレスはナチュラルになります。

最終的なミックス・チェックはどのような方法で行っているのですか?

Sakai 最近はミックス段階でイアフォンやヘッドフォンを10種類くらい、スピーカーを6、7種類くらいとほぼ抜かりなく聴いています。普段マスタリングもするので、外部にマスタリングを頼むときもEQは自分の理想に近づけた状態にして、ほぼマスタリング段階までやってリミッターだけ抜いて渡しています。今回はエド・シーランなども手掛けるスチュアート・ホークスだったので仕上がりが楽しみでした。

最後に、Novel Coreさんとの制作は2日のみというスピード感でできた「TROUBLE」ですが、制作を振り返ってみていかがでしょうか?

Sakai 今回は本当にスピーディで、とてもスムーズな制作になりました。昔はメロディや歌詞も全部一人で作っていましたが、最近はアーティストに好きなようにやってもらったのを、ブラッシュアップしたりディレクションしていく方法で作ることが多いです。それならアーティストの本質や歌のタイム感から外れないので。Core君はメロディのセンスがあるのですんなり行って、全くストレスを感じずに作れましたね。

 

Ryosuke "Dr.R" Sakai

Ryosuke "Dr.R" Sakai
【Profile】ちゃんみなやmilet、AK-69、Ms.OOJA、UVERworld、東方神起、SKY-HI、BE:FIRSTなど、数多くのアーティストを手掛けるプロデューサー。2021年からはDr.Ryo名義でアーティスト・プロジェクトをスタートした。レーベルMNNF RCRDSを主宰する。

Release

Musician:Novel Core(vo)
Producer:Novel Core、Ryosuke “Dr.R” Sakai、MATZ、KM、Yosi、KNOTT、UTA、Aile The Shota、Matt Cab、Yuya Kumagai
Engineer:Ryosuke “Dr.R” Sakai、HIRORON、MATZ、D.O.I.、SHIMI from BUZZER BEATS、Da.I (KNOTT)
Studio:STUDIO726 TOKYO、magical completer、HLGB、他

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