KREVA インタビュー【前編】〜サンプリングの面白さを表現したソロ作品&3人で集まって作るKICK THE CAN CREWの制作背景

KREVA インタビュー【前編】〜サンプリングの面白さを表現したソロ作品&3人で集まって作るKICK THE CAN CREWの制作背景

ソロでの活動、そしてKICK THE CAN CREWのメンバーとしても活躍するヒップホップ・アーティストのKREVA。昨年9月8日には自身のアルバム『LOOP END / LOOP START』を配信リリースし、今年2月には新曲2曲を追加した『LOOP END / LOOP START(Deluxe Edition)』を発売。さらに3月30日には約5年ぶりのKICK THE CAN CREWのアルバム『THE CAN』リリースと、破竹の勢いで新たな音楽を届け続けている。トラック・メイクからラップ、プロデュース、レコーディング、さらにはミックスまで自ら手掛けるKREVAのプライベート・スタジオにて活動の真髄に迫る。

Text:Kanako Iida Photo:Takashi Yashima Styring:Daisuke Fujimoto(tas) Hair & Make-up:Ai Yuki
衣裳協力:ジャケット 72,600円、パンツ 37,400円/ともにYOKE(ENKEL 03-6812-9897) カットソー 28,600円/08sircus(STUDIO FABWORK 03-6438-9575) スニーカー 15,400円/ASICS(アシックスジャパン株式会社 お客様相談室 0120-068-806)

ループをDAWに張りグルーブが出るようにカット

ソロとKICK THE CAN CREWでリリースが続いていますが、制作は同時進行だったのでしょうか?

KREVA 『LOOP END / LOOP START(Deluxe Edition)』の新曲2曲(「クラフト feat. ZORN」「LOOP END / LOOP START」)とKICK THE CAN CREW『THE CAN』、『ヒプノシスマイク』用に書き下ろした「キズアトがキズナとなる」が全部同時でした。トラックはソロとKICKで分けて作るのではなく、作った中からこっちかなと思った方で使います。

 

現在、制作ツールは何をメインに使用されていますか?

KREVA 今回は全部DAWの中で完結させることが多かったですね。トラックはABLETON Live 11で作るんですけど、ボーカル録りにはAVID Pro Toolsを使って、録ったものをLiveに移植して編集して、ミックスに出す前にもう一回Pro Toolsに戻しています。

 

Liveをメインで使うきっかけはあったのでしょうか?

KREVA まず立ち上げやすいというのがあったと思います。あと、前作『AFTERMIXTAPE』のときにLiveが分かってきて、ループをどんどん張って編集していくような感じはLiveの方が良いと思う場面もありました。

KREVAが制作の拠点とするプライベート・スタジオ、monday night studioの全景

KREVAが制作の拠点とするプライベート・スタジオ、monday night studioの全景。モニター・スピーカーはMUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL901、FOSTEX NF-01Aを設置。オーディオI/Oは、AVID HD I/Oを使用している。写真手前のデスク上には、メインDAWのABLETON Live 11が映し出されるディスプレイのほか、ミキサーのMANLEY 16×2が備えられ、引き出しにはMIDIキーボードとして使用するYAMAHA Motif XF6が収納されている

近年のライブはバンド・スタイルで行われていますが、制作段階からバンドでの演奏は意識していますか?

KREVA 『LOOP END / LOOP START』では、生バンドではできない質感を目指して、打ち込みが持っている良さ、サンプリングの面白さを表現しようとしました。バンドでは、そのサンプル中心の作品を“再現”しないようにしています。そこのさじ加減はバンド・メンバーも分かってくれてきていて、作品と同じことをやった方が良い、ここは弾かない方が良いというジャッジがすごく速くなっていると思います。あと、小さいサイズの五線譜に手書きした楽譜が活躍していて、バンド・アレンジしたいときにすぐ伝えられるのでバンド・メンバーとのやり取りも速くなったし、自分でアレンジするときにも役立っています。TOONTRACK EZ Keysなどで欲しい音を弾くとコードが出てくるのでそれを書く。そこにベースをコード通りに当てて、MIDIで打ったものをPro Toolsで立ち上げると楽譜表示できるので、それを見ながら書いています。これは成長した部分だと思います。

田中義人へギター演奏を依頼する際に使用されたKREVA直筆の「THE CAN(KICK THE CAN)」譜面

田中義人へギター演奏を依頼する際に使用されたKREVA直筆の「THE CAN(KICK THE CAN)」譜面。用紙の小さいサイズ感が気に入っているといい、「文房具好きとしてはこういうのがモチベーション上がるんですよね」と語る

打ち込みでグルーブを出すための工夫はありますか?

KREVA クオンタイズを80~90%くらいに設定して、数%は自分のノリを生かします。どのくらいの割合でクオンタイズをかけるかは重要です。あと、演奏がうまい人たちは俺が欲しいノリを出せることと、自分が頭の中で求めているノリをどうすればLiveで再現できるかが分かるようになってきました。ハイハットは、ドラマーの白根(佳尚)に来てもらって何十本もループを録って。ループをDAWに張ってグルーブが出るようにカットして、打ち込みでキックを足したりします。

 

白根さんのハイハットはどのように録音したのですか?

KREVA 白根がビンテージのシンバルを3種類持ってきてくれて、同じパターンを幾つも録りました。ほかの人はあまりやらないと思いますけど、SHURE SM57をトップとボトム両方に立てて録ると、トップとボトムで全然音が違うんです。上から録ると少し軽くて、下から録ると太くなる。シンバルによっても全然音が違って、面白く録れたので気に入っています。

KREVAお気に入りの密閉型ヘッドフォンSHURE SRH1540

お気に入りの密閉型ヘッドフォンSHURE SRH1540。「7〜8年前にひたすら試聴した結果これだってなって。今年、あらためてスタジオでも家でも使えるヘッドフォンを探して、高いのから安いのまでいろいろ聴いてみたんですけど、やっぱりSRH1540が良かったです」とKREVA

3人だけで集まると良いノリが出て芯を食ったテーマが出てくる

KICK THE CAN CREWのMCUさん、LITTLEさんとの制作はどのような流れで行うのですか?

KREVA まずはミーティングですね。トラックを流しながらテーマ決めをします。それを持ち帰って歌詞を書いて集まって録るんですけど、一度に3人録ると時間がかかるし、ボーカル・ブースに入れ替わり立ち替わり入るとコロナのことも考えてあまり良くないので、俺はなるべく事前に録っておくようにしました。今回は全部俺がレコーディングをしたから、2人が来たときは録る係をしっかりやって、録り終わったら3人でサビを作ります。サビはしっかり時間をかけて、妥協はしないです。3人で録ったら2人には帰ってもらって、構成をいじったり、ドラムの抜き差しをします。それを毎週やっていましたね。

 

レコーディングのディレクションはどのように?

KREVA 結構細かくやります。ラップのうまさだけじゃなく、声の調子が悪いときには一回休んでもらったり、換気をしたり、その辺の気を遣うのが大変でしたね。3人だけで集まると良い3人のノリが出て、普通に話している流れの中から芯を食ったテーマ的なものが出てくることもあるので、なるべく3人でできるようにというところもありました。

 

『THE CAN』は特に序盤の勢いがすごいですね。

KREVA 100BPM近い「THE CAN(KICK THE CAN)」「YEAH!アガってこうぜ」「We Don’t Get Down」を頭に出して今までに無かったような感じを出しつつ、「トライは無料」「カンヅメ」みたいな俺たちが育ってきたヒップホップもしっかりやるのは目指したところではありますね。

6ボイス・アナログ・ポリシンセのSEQUENTIAL OB-6 Moduleは「カンヅメ」などで使用

6ボイス・アナログ・ポリシンセのSEQUENTIAL OB-6 Moduleは「カンヅメ」などで使用。自分が良いと思ったリードの番号をメモしてあり、制作時にはその中から探して使用するという

ローファイな質感のトラックが多いようにも感じました。

KREVA 元からローファイに録ろうとかビンテージのものを使おうという感じはなくて、カセット・テープをエミュレートしたプラグインのABERRANT DSP SketchCassetteⅡをシンセやギラギラし過ぎたハイハットなどに挿しました。

 

ザラ付いたものをサンプリングするわけではなく、後から汚しているのですね。

KREVA まさに。録りは32ビット/48kHzでやりました。

 

「YEAH!アガってこうぜ」はRHYMESTER「ビッグ・ウェンズデー」のMummy-Dさんのフレーズをサンプリングされていますが、このトラックの制作の背景は?

KREVA このMummy-Dの声をずっと使いたくて。なんか聴こえてきたんですよね。KICKで使おうと思って作ったわけじゃないんですけど、KICKにぴったりだと思って。

 

─KICK THE CAN CREW「ユートピア」で使った「敗者復活戦」以来のRHYMESTER楽曲のサンプリングですね。

KREVA やっぱり『リスペクト』(編注:1999年リリースの「敗者復活戦」「ビッグ・ウェンズデー」収録アルバム)世代だなって感じがします。

 

KREVA

 

 

インタビュー後編(会員限定)では、 ソロ・アルバム『LOOP END / LOOP START(Deluxe Edition)』&KICK THE CAN CREW『THE CAN』のレコーディング/ミックスについて語ってもらいました。さらに、KICK THE CAN CREW「Boots」のLiveプロジェクトとPro Toolsセッションから制作手法を紐解いていきます。

Release

『LOOP END / LOOP START (Deluxe Edition)』
KREVA
ビクター:VIZL-2006(完全生産限定盤 A)、VICL-65656〜7(完全生産限定盤 B

Musician:KREVA(vo、prog、all/M1〜16)、SONOMI(vo/M6、11)、ZORN(vo/M7、14)、三浦大知(vo/M10)、田中義人(sitar/M10、11、g/M10、14)
Producer:KREVA
Engineer:KREVA (rec、M2、8、16)、BACHLOGIC(M1、3〜6、9、M13〜15)、G.M-KAZ(M7)、諸鍛冶辰也(M10、11)、熊井吾郎(M12)
Studio:monday night、prime sound studio form、P-STUDIO、MIG

 

『THE CAN』
KICK THE CAN CREW
ビクター:VIZL-2048(完全生産限定盤 A)、VIZL-2049(完全生産限定盤 B)、VICL-65679(通常盤) 3月30日発売

Musician:KREVA(vo、prog、all/M1〜11)、LITTLE(vo/M1〜11)、MCU(vo/M1〜11)、田中義人(g/M1)、RYO the SKYWALKER(vo/M8)、NG HEAD(vo/M8)、岡村靖幸(vo、g/M11)、蔦谷好位置(b、prog/M11)、SONOMI(cho/M11)、小西真奈美(cho/M11)、綿引さやか(cho/M11)
Producer:KREVA
Engineer:KREVA(rec)、The Anticipation Illicit Tsuboi(M1)、D.O.I.(M2、3、9)、BACHLOGIC(M4、5、7、8)、G.M-KAZ(M6、11)、David Nakaji(M10)
Studio:monday night、Daimonion Recordings、P-STUDIO、Slick Suze Sound

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