変態紳士クラブ インタビュー 〜最新EP『舌打』GeGの音作りを探る

変態紳士クラブ インタビュー 〜最新EP『舌打』GeGの音作りを探る

大阪を拠点に活動するラッパーのWILYWNKA(写真右)、シンガー/レゲエ・ディージェイのVIGORMAN(同左)、プロデューサー/トラック・メイカーのGeG(同中央)からなるジャンルレス・ユニット、変態紳士クラブ。昨年5月にはヒット曲「YOKAZE」を収録した1stアルバム『ZURUMUKE』をリリースし、今年2月には日本武道館公演を成功させるなど、活躍の場をさらに広げている。そんな彼らが4月27日に最新EP『舌打』をリリース。同作は、ヒップホップ/R&B/トラップ/レゲエなどをポップスへと昇華した楽曲を収録し、新しい変態紳士クラブのサウンドを享受できる内容だ。ここでは、全楽曲のプロデュースを担うGeGに音作りへのこだわりをインタビュー。後半では、日本武道館公演時のライブ・セットや音響機器などの写真も掲載する。

Text:Susumu Nakagawa

ビル1棟をまるごと制作スタジオに

最新EP『舌打』を一聴して“面白い”と感じたのは、「Okay」のアレンジでした。

GeG ですよね(笑)。よく自分らで“ジャンルレス・ユニット、変態紳士クラブ”と名乗っているように、オリジナリティへのこだわりは強いです。「Okay」はトラップとレゲエがブレンドされたようなアレンジになっています。ビート感はトラップなんですが、ベース・リフや上モノにどことなくレゲエ感を足して、ただのトラップにならないように仕上げました。アウトロではレゲエ特有のダブワイズも取り入れています。フレーズはキーボーディストのKazuhiko MaedaさんとG.B.'s Bandの(中村)エイジのものを使わせてもらいました。

 

まさに、レゲエに音楽的ルーツを持つGeGさんならではのプロダクションですね。

GeG そうですね。自分の音楽的なルーツは忘れたくないです。

 

今作には、2月20日に日本武道館公演で初披露された「溜め息」や「Zombie Walk」も収録されています。制作はいつごろから進めていたのでしょう?

GeG この2曲は日本武道館公演でやろうと思って作り始めていました。残りの2曲を含めたEP全体としては公演後、一気に仕上げたという感じです。

 

ということは、約1カ月強という短期間で残りを作り終えたのですね(インタビューを行ったのは4月1日)。

GeG そうなんです。大変でしたけど、締め切りに追われることもなく毎日昼の12時から夜8時までというスケジュールで間に合いました。昨年リリースした1stアルバム『ZURUMUKE』と大きく違うところは、制作環境にあります。当時はAPPLE MacBook ProにIMAGE-LINE FL Studioを立ち上げてデモ・トラックを作り、それぞれのパートをミュージシャンの方々に演奏し直してもらうようなやり方でした。モニタリングもMacBook Proのスピーカーや外スタジオのスピーカーで行っていたんです。しかし今作では、完成してまだ3カ月という新しい大阪の音楽スポット、G.B.'s Studioでデモ作りからレコーディングまでを成し遂げました。最近、ビル1棟をまるごと制作スタジオにしたんですよね。

 

えっ、ビル1棟ですか!?

GeG はい(笑)。このビルには、制作ルームからミックス・ルーム、レコーディング・ブースなど制作に必要なものがすべてそろっています。最近コレクションしている約15台のビンテージ・シンセやキーボードも設置していて、まるで博物館のようになっているんですよ。最終的なミックスは、前作『ZURUMUKE』のときにもお願いしたエンジニアの渡辺(紀明)さんにお任せしています。

ビル1棟をすべてスタジオに改築したというGeGのプライベート制作環境、G.B.'s Studio。写真はその制作ルーム。ニアフィールド・モニター・スピーカーは2ウェイのATC SCM20ASL Proで、ラージ・モニターは3ウェイのNEUMANN KH 420を設置する。ラックにはオーディオ・インターフェースのRME Fireface UFX IIが、デスク上にはリモート・コントローラーのRME ARC USBの姿が見える

ビル1棟をすべてスタジオに改築したというGeGのプライベート制作環境、G.B.'s Studio。写真はその制作ルーム。ニアフィールド・モニター・スピーカーは2ウェイのATC SCM20ASL Proで、ラージ・モニターは3ウェイのNEUMANN KH 420を設置する。ラックにはオーディオ・インターフェースのRME Fireface UFX IIが、デスク上にはリモート・コントローラーのRME ARC USBの姿が見える

海外寄りのトラック・メイキングがテーマ

本番ではミュージシャンによる演奏データに差し替えるということですが、デモ・トラックの制作ではGeGさんはどのような音源を使っているのでしょうか。

GeG デモはRHODESとかで基本的なコード進行を決めたり、FL Studioでビートを打ち込んでスウィング率を決めたりしたら速攻でミュージシャンに送ります。今作で自分が弾いたのは「Zombie Walk」のベースで、アナログ・シンセのMOOG Minimoog Voyager Electric Blue Editionを本番で使用しました! MOOG Minimoog Model Dも持っているんですが、Minimoog Voyager Electric Blue Editionの方がステレオ出力ということもあり、現代的なベースの音だなと思ったので採用したんです。ちまたにはMOOGをシミュレーションしたソフト音源がたくさんありますけど、実機の音には絶対勝てませんね。

 

今作では、全体的に“音数が洗練されている”という印象を受けたのですが、あえてこういうアレンジを意識したのですか?

GeG そうですね。国内はもちろん世界にも通用する音楽を作りたいと考えているので、音数の少ないプロダクションを意識しています。普段Jポップを中心に聴いている人は『ZURUMUKE』の方が好きかもしれませんが、しかし、変態紳士クラブのサウンドは日々進化しているんです。今作では、海外寄りのトラック・メイキングをテーマに制作していて、そういった意味では、今作は攻めの姿勢に出ているのかもしれません。

 

先ほど“バンド・セッションした録音素材をFL Studio内で編集して作り上げる”と話していましたが、要はここで音数やアレンジを見極めてしているのですね。

GeG おっしゃる通りです。例えば「溜め息」は、作り始めた当初、キーボードやエレキギターなど音数がたくさん入った楽曲だったんです。そこから思いっきり削ぎ落として現在のアレンジになっているので、楽曲クレジットに記載するはずだったミュージシャンの名前も減ってしまいました……。それくらい“音数の少なさ”に、こだわったということです。

ソフト音源の音をあえてマイクプリに通した

音数を減らす際、GeGさんはどういったところを基準に判断していますか?

GeG 極端に言うと、“メイン・リフとドラムとベースだけ残す”くらいのイメージで作業しています。最初に取り除くのを検討するのは、コードを鳴らしているパートや裏メロを奏でる楽器などですね。昔、先輩から“音数が増えちゃうから、ミックスしながらアレンジもした方がいいよ”と言われていたのですが、まさにその通りでした……最近まで気付けなかったです。そして、そこで重要になってくるのが、各パートにおける“音色の作り込み”なんですよ。

 

音色の作り込み……本番では、各パートの演奏者自身が音色を作って録音するというお話でしたね。

GeG そうですね、各パートの音色作りはその道のプロに任せています。ただギターやベースなどはそのまま使えないので、自分でEQやサチュレーション処理を行ってから、エンジニアに投げるようになりました。もう一つ言うならば、今作で大きく変わったのは“新しいマイクプリ”を導入したことでしょうね。

 

録り音にもこだわったということですね。具体的にどんなマイクプリを?

GeG G.B.'s StudioにはSSL Originという32chコンソールを導入しました。今作では、このマイクプリとAMS NEVE 1073DPA、AVALON DESIGN VT-737SPを使い分けています。やはりオーディオI/O内蔵のマイクプリではなく、こういったアウトボードのマイクプリを通した音だと耳触りが良く、後からEQプラグインで調整する手間が省けるくらい良い音になるんです。むしろEQでは再現できないサウンドになるので、今回のレコーディングではこれらのマイクプリをほとんどの楽器に通しています。そのまま本番で採用することになったソフト音源の音でさえも、マイクプリにあえて通したんですよ(笑)。

 

一見マイクプリへ通すことが手間に見えて、実は時短になっているということですね。

GeG 結局、録り音が良いと後から微調整しなくてよいですからね。パキッとさせたいならOriginへ、音量を大きくしたときに耳に付く帯域を中和させたい、または温かみのあるサウンドにしたいときは1073DPAへ、という具合で使い分けています。

コントロール・ルームには、コンソールのSSL Originが鎮座している

コントロール・ルームには、コンソールのSSL Originが鎮座している

上から、今作で取り入れたというマイクプリのAVALON DESIGN VT-737SPとAMS NEVE 1073DPA、コンプレッサーのEMPIRICAL LABS Distressor EL8-X、UREI 1176LN

上から、今作で取り入れたというマイクプリのAVALON DESIGN VT-737SPとAMS NEVE 1073DPA、コンプレッサーのEMPIRICAL LABS Distressor EL8-X、UREI 1176LN

コントロール・ルームのラックには、オーディオ・インターフェースのAVID Pro Tools|MTRXや、MADI/AESコンバーターのDIRECT OUT TECHNOLOGIES Andiamo.AES SRCなどを格納している

コントロール・ルームのラックには、オーディオ・インターフェースのAVID Pro Tools|MTRXや、MADI/AESコンバーターのDIRECT OUT TECHNOLOGIES Andiamo.AES SRCなどを格納している

ボーカルの録音には、どのようなマイクを?

GeG 普段WILYWNKAはSONY C-800Gで、VIGORMANはNEUMANNのマイクを使っているんですが、今作ではカスタムしたWARM AUDIO WA-8000を試してみました。そうしたら、かなりいい感じに録れたのでそのまま採用することにしたんです! WA-8000カスタムは息遣いまでしっかりと収音でき、密度の高い音で録れるので気に入っています。

 

GeGさんの方で収録したパラ・データは、最終的に渡辺氏によってミックスされたわけですが、どのようなことをリクエストしましたか?

GeG 長年、変態紳士クラブのエンジニアをやってもらっているので、最近はもう何も言わなくなりました(笑)。リファレンスも送っていません。渡辺さんは変態紳士クラブ4人目のメンバーみたいな感じなので、基本的にお任せしています。先ほどお話しした通りマイクプリを導入したことで、結果、渡辺さんとのやり取りが減りました。昔は40回くらい修正のやり取りをしていたのに!(笑)。

 

今後は、こういったアウトボード類もスタジオに増えていきそうですね。

GeG ライブも制作も含め、自分が目標とするのはアナログとデジタルの“ハイブリッド・スタイル”なので、両者の良いとこ取りをしたいと思っています。アナログ機材をどう便利に使うのか、をテーマにスタジオでは日々模索が続いてますね。今年いっぱいでスタジオが完成すればうれしいです。シンセやキーボードの数だけで言えば、日本で一番持っているんじゃないかな? OBERHEIM OB-XAも届く予定ですし、こないだはRHODESの最新モデル、Rhodes MK8を注文したところです。スタジオにあるすべてのキーボードはパラで卓につなげて、MIDIデータやり取りのシステムも構築しているので、あとは自由にマイクプリを使い分ける……ということができたら、もっと実用的なスタジオになるのかもしれません。

 

単に機材を並べるだけでなく、実践的なスタジオに進化していきそうですね!

GeG 変態紳士クラブで得たお金をすべて機材に投下する勢いでやってます。金のネックレスも高い時計も要らないので、スピーカーとかが欲しいですね(笑)。ただ、スタジオに来た若いミュージシャンたちに実機を体験させてあげられる場所にもなっているので良いのかなと。ソフト・シンセと実機の弾き比べとかをしてもらって、実機の良さを知ってもらえるとうれしいです。そして、“音”にこだわりを持つ人をもっと増やせていけたらと考えています。機材一つでこんなに変わるのか、とね。自分も最近まで知らなかったのですが!(笑)。

 

後編では、 2022年2月20日に行われた日本武道館公演のライブ・セットや音響機器などの写真を多数掲載!

Release

『舌打』
変態紳士クラブ
(トイズファクトリー)

Musician:WILLYWNKA(vo)、VIGORMAN(vo)、GeG(k、prog)、中村エイジ(k)、銘苅麻野(vln)、須原杏(vln)、角谷奈緒子(viola)、伊藤修平(vc)、林拓也(b)、knockwide(g、ds)、Kazuhiko Maeda(k)、山岸竜之介(g)、平畑徹也(k)、FUNKY(b)
Producer:GeG
Engineer:渡辺紀明
Studio:G.B.’s Studio、MECH

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