高橋健太郎〜音のプロが使い始めたECLIPSE TDシリーズ

TD510MK2はどんな音源もフラットに再生する

タイムドメイン理論に基づき設計されたECLIPSEのスピーカー、TDシリーズ。2001年に最初のモデルがリリースされるやいなや、ミックスやマスタリングなど正確な音の再現が要求される現場で高い評価を獲得。その後ラインナップが拡充され、現在は12cmのユニットを使用したハイエンド・モデルのTD712Z MK2から、10cmのTD510MK2、8cmの508MK3、6.5cmのTD307MK2A、さらにはアンプや24ビット/192kHz対応のDAコンバーターを内蔵したほか、USB接続やAirPlayにも対応した小型モデルTD-M1まで多種多様。そんなECLIPSE TDシリーズの魅力をトップ・プロに語っていただくこのコーナー、今回登場していただくのは高橋健太郎氏だ。本誌人気連載「History of Sound & Recording~音楽と録音の歴史ものがたり~」の筆者であり、豊富な知識をベースとした音楽評論を展開する傍ら、ミュージシャン、エンジニア、プロデューサーとしても活躍している。そんな氏が自宅でTD510MK2を愛用しているとの情報をキャッチしたので、早速訪ねてみることにした。

この記事はサウンド&レコーディング・マガジン2019年5月号から編集・転載したものです。

バスレフなのに密閉型のような音がする

高橋氏は自宅近くにプライベート・スタジオを構え、そこではモニターにATC SCM10を使用している。一方、執筆作業は自宅の一室で行っており、そこに置かれるスピーカーは、実にさまざまな変遷があったそうだ。

「ROGERS LS3/5AやATC SCM10だったこともあるし、KRKやALR JORDAN、さらにはFOCALのユニットを使った自作スピーカーなど、いろいろなものを使ってきました。ECLIPSEのスピーカーについては、佐久間正英さんのdoghouse studioやオノセイゲンさんのsaidera masteringで聴く機会があって、それでTD307MK2Aを買ってみたんです。最初に自宅のリビングに置いてみたら、マスタリングのチェックができるというか、音源に何かいけないところがあるとすぐに分かった。ローは出ないスピーカーのはずなんだけど、ちょっと重苦しいなと感覚的につかめたりもする。あと、奥が見えるのも気に入りました。BECK『モーニング・フェイズ』のリバーブが奥まで見えたスピーカーは、僕のところではTD307MK2Aだけでしたね」

このように高橋氏のお気に召したTD307MK2Aは、執筆部屋用スピーカーへと格上げされることになる。ただ、低域の不足は否めなかったため、FOSTEXのサブウーファーPM Subminiを加えていたそうだ。

「本当に薄く足すくらいでしたけどね。でも、やっぱりもっと低域が欲しいなと思っていたときにTD508MK3とTD510MK2を試聴する機会があって、TD510MK2がすごく気に入ったんです。ハイもローもあんなに出るとは思っていなくて、音色的にもナチュラルで申し分なかった。ということで仕事部屋用のスピーカー変遷は終わり。もう満足というか、TD510MK2以外の選択はないですね」

そのような結果となったのは高橋氏自身にとっても驚きだった。というのもこれまでは密閉型のスピーカーが好みで、バスレフはまったく眼中に無かったからだ。

「“バスレフなだけで駄目!”みたいな人間だったんです。遅れて来る付帯音が嫌いなんですね。でも、ECLIPSEのスピーカーってバスレフなのに密閉型的な音がするというか、ディケイが長くなることがない。かつ密閉型の欠点である最初のアタックが来ない感じがTD510MK2だとちゃんと来る。TD510MK2のバスレフは低音を出すためというより圧を抜いているだけで、なるべく音を出さないようにしている感じがしますね」

フルレンジだから空間や定位が見えやすい

執筆部屋での“最終形”となったTD510MK2だが、スタジオでは先述のATC SCM10を使い続けている。モニター用とリスニング用とでスピーカーに求められるものは違う、とはよく耳にする話だが、高橋氏はどう考えているのだろうか?

「SCM10はモニターとして使い倒すのには本当にいいスピーカーです。だけど、書き物の仕事部屋ではさまざまな音源を一日中聴き続けることもあるので、SCM10だとちょっと疲れるというか、自分の集中によって聴こえ方が違ってしまう。以前使っていたLS3/5Aはモニター的な音でありつつ疲れないからすごく好きだったんだけど、ソースによって鳴り方が違い過ぎる……特に現代の速い低音には向いていないから、クラブ・ミュージック以降の音楽には使えなくなったんです。その点、TD510MK2はどんな音源でもすごくフラットで、向き不向きも無い。常にニュートラルで、集中しても聴けるし、だらっとしても聴けるというか、自分にかかる負担が少ないのがいいですね」

TD510MK2がリスニングだけではなく、モニターとしての役割も果たしていることを高橋氏は最後に強調する。

「スタジオでSCM10で作業して、それをTD510MK2で聴き直すという工程は重要です。TD510MK2はフルレンジだから空間や定位が見えやすく、“あっ、余計な作業をやっているな”というのが分かるんですね。本当にいいスピーカーだと思います」

【PROFILE】
音楽評論家として1970年代から健筆を奮う。著書に『ポップ・ミュージックのゆくえ』、『スタジオの音が聴こえる』(DU BOOKS)、小説『ヘッドフォン・ガール』(アルテスパブリッシング)。音楽制作者としても活躍しており、インディー・レーベルMEMORY LABを主宰し、プロデュースやエンジニアリングを多数手掛ける。また音楽配信サイトOTOTOYの創設メンバー/プロデューサーという一面も。

TD510MK2

TD510MK2 ■スピーカー・ユニット:グラスファイバー製10cmコーン型フルレンジ ■方式:バスレフ・ボックス ■再生周波数:42Hz~22kHz(-10dB) ■能率:84dB/W・m ■許容入力(定格/最大):25W/50W ■インピーダンス:6Ω ■角度調整:ー10°~30°(通常時)、10°~ー75°(天井面取付時) ■カラー・バリエーション:ブラック、シルバー、ホワイト ■外形寸法:255(W)×391(H)×381(D)mm ■重量:約9.5kg ■価格:120,000円(1本)

問合せ:デンソーテン http://www.eclipse-td.com/ ECLIPSE LOGO(FIX)