「OVERLOUD Comp670」製品レビュー:往年の名機を再現し独自機能を追加したコンプレッサー・プラグイン

OVERLOUDComp670
OVERLOUDはイタリアのモデナに拠点を置く、気鋭のプラグイン・メーカーです。UREI 1176やAPI 550、NEVE 1084などのアナログ機材をモデリングしたプラグイン開発を得意としています。今回はFAIRCHILD 670をリクリエイトしたとうたわれる、Comp670を試してみましょう。

コンプレッション・カーブを調整可能
ひずみ成分を加える独自のHARMノブ

Comp670はMac/Windowsに対応し、AAX Native/AU/VSTとして動作するエフェクト・プラグインで、スタンドアローンでも使用可能です。実機の670は発売以来、今日まで長年使用されている真空管コンプレッサーで、それぞれサウンドに個体差があります。今回OVERLOUDは、Comp670を開発するにあたってロンドン、ロサンゼルス、ミラノのスタジオにある3つの670をセレクトし、第4世代DSPテクノロジーを使ってリアルにエミュレーションしているとのこと。これら3つのサウンド・キャラクターは、画面上段の左端に位置するSTUDIOノブで簡単に切り替えることが可能です。

▲STUDIOノブは、ロンドン、ロサンゼルス、ミラノのスタジオにある3モデルのサウンド・キャラクターを切り替えることができる ▲STUDIOノブは、ロンドン、ロサンゼルス、ミラノのスタジオにある3モデルのサウンド・キャラクターを切り替えることができる

その右隣には、入力レベルを調整するINPUT GAINノブとコンプレッション量をコントロールするTHRESHOLDノブ、アタック/リリース・タイムを6段階で設定できるTIME CONSTANTノブ、メーター、メーター表示をゲイン・リダクション量/インプット・レベル/アウトプット・レベル/後述するHARMの量から選択できるMETERINGノブが、それぞれL/Rのチャンネル分並んでいます。

INPUT GAINノブとTHRESHOLDノブ、TIME CONSTANTノブの間には、L/RをリンクさせるLINKボタンを装備。また、L/RとLAT/VERT(M/S)の動作モードを切り替えできるAGCノブも確認できます。また、実機ではパネルに隠れているDCスレッショルドですが、Comp670では画面下段の左端にDC THRESノブとして備えられていて便利。DC THRESノブはコンプレッション・カーブをソフト・ニーからハード・ニー間で滑らかに調整することができ、THRESHOLDノブと組み合わせれば、さまざまなかかり具合をコントロールすることができます。特筆すべきはDC THRESノブの下に搭載された、実機にはないHARMノブ。ノブを回すと、なんと信号にサチュレーション効果を与えることができるのです!

▲DC THRESノブ(上)は、コンプレッション・カーブをソフト・ニーからハード・ニー間で調整可能。HARMノブ(下)は、サウンドにひずみを加えるためのものだ ▲DC THRESノブ(上)は、コンプレッション・カーブをソフト・ニーからハード・ニー間で調整可能。HARMノブ(下)は、サウンドにひずみを加えるためのものだ

この2つのノブの右側には、コンプレッション後のレベルをコントロールするL/RのOUTPUTノブや、サイド・チェイン用ハイパス・フィルターの周波数を設定するL/RのSIDECHAIN FILTERノブ、コンプレッションした音と原音のミックス量を調節するPARALLELノブ、全体の出力レベルを±15dBで可変させるOUTPUT LEVELノブを装備。2つのOUTPUTノブとSIDECHAIN FILTERノブの間にも、それぞれL/RをリンクさせるLINKボタンが備えられています。

ナロー・レンジなロンドンや張りのあるLA
サチュレーション豊かなミラノ

670をモデリングしたプラグインは数多くのメーカーから発売されていますが、Comp670の音はどうでしょうか。まずはマスターに挿し、フラットなセッティングで音を聴いてみましょう。STUDIOノブでロンドン、ロサンゼルス、ミラノとサウンド・キャラクターを切り替えていきます。恐らくモデルにした実機を忠実に再現しているのでしょうか、ロンドンでは入出力のレベルに差はありませんが、ロサンゼルスでは+1.5dB、ミラノでは+1dBレベルに違いがありました。ですので、それぞれのレベルを調整して3つのモデルを聴き比べてみました。

ロンドンはナロー・レンジに聴こえ、いかにもUKという印象。ロサンゼルスは低域と高域に張りがあり、ワイド・レンジで前に来るサウンドです。最後のミラノは、説明書によると3つの中で最も修理回数が多く、オリジナルではないパーツを使用した670がモデリングされているとのこと。そのため3モデルの中で一番サチュレーションを含んだサウンドとなっています。それぞれキャラクターが豊かなため、音色を使い分けるのがかなり楽しいと感じました!

信号をコンプレッションすると、その特徴はさらに強調されていくのですが、忘れてはいけないのがHARMノブの存在。ノブが0の位置でも、かなりひずみ成分が足されていることが、メーターでも確認できました。ここがほかの670系モデリング・プラグインと違う、最大の特徴だと言えるでしょう。

プリセットも試してみました。全体的にComp670の特徴をよく引き出している非常にいいプリセットが並んでいると思います。特に気に入ったのは、パラレル・コンプレッションをうまく使ったセッティングです。信号入力を最大にし、内部回路とトランスに過大入力することによってドライブ感を生み出しているのですが、ドライブ感は信号入力の突っ込み具合とPARALLELノブを使ったドライ/ウェットの混ぜ具合で調整するというもの。これを実機で再現しようとすると複雑なルーティングを組まなければなりませんが、Comp670なら一瞬で実現可能なのです。

先述したように、Comp670の最大の特徴はひずみを加えるHARMノブ。私は670のモデリング・プラグインを何種類か持っていますが、どのプラグインも“最高の状態の670を再現”といううたい文句が多かったと思います。しかしこのComp670は、3つのモデルを1つのプラグインに搭載するという新しいアイディア。それにより幅広い音作りが可能となっています。非常に気に入ったので、あるプロジェクトで使用していた670系のプラグインを、すべてComp670に置き換えてしまいました。

サウンド&レコーディング・マガジン 2019年4月号より)

OVERLOUD
Comp670
オープン・プライス(市場予想価格:17,000円前後)
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:OS X 10.6以降、AAX(Native)/AU/VST対応のホスト・アプリケーション上またはスタンドアローンで起動 ▪Windows:Windows Vista以降。AAX(Native)/VST対応のホスト・アプリケーションまたはスタンドアローンで起動 ▪共通項目:INTEL Core I3 1.4GHz以上のCPU、4GB以上のRAM、1,200×800ピクセル以上のビデオ解像度