第一線で活躍するエンジニアがSHURE KSM8の実力をテスト

2枚のダイアフラムを使ったDualdyneカートリッジによって、近接効果の低減とフラットな周波数特性、全帯域にわたってリニアなカーディオイド特性を実現したSHURE KSM8。この最新型ダイナミック・マイクを、さまざまな現場で活躍するPAエンジニア、小松“K.M.D”久明氏がチェック。SHURE独自のテクノロジーを結集したマイクは、プロの目にどう映るのだろうか?

フラットかつ高感度でスペック通りの性能

−−実際にKSM8を手にしてみての第一印象から教えてください。

小松 まず、形がかっこいいですね。ブラックもいいですが、特にブラッシュド・ニッケルは、個人的にこういう輝きのある感じは好きです。照明の反射が気になるんじゃないかという声もありそうですが、実際にホールでチェックしてみたら、全く問題ありませんでした。むしろ、めっき仕上げのマイク・スタンドの方が光の反射が強いと思ったほどです。

−−どんな環境でお試しいただいたのでしょうか?

小松 弊社オアシスの倉庫で、コンソールとモニターで行ったのと、あとはホールでのライブ・リハに持ち込んでみました。

−−サウンドの印象は?

小松 まず、SM58と比較してみたんですが、やはりSM58の“後継”ではないなと思いました。SM58は3kHz付近のミッドレンジがパシッと出ていて、近接効果がはっきりとあります。好き嫌いはもちろんあるでしょうが、こうした特性を味方につけて歌っている人も大勢いますよね。それに対してKSM8は、SM58にあった中域のピーク感がフラットになっていて、奇麗に音色が伸びている。これは周波数グラフに描かれている通りなのですが、この高域のフラット感がすごくいいです。それから感度が高いので、その分ヘッド・アンプのゲインが下げられて、ハウリング・マージンが取れます。これも素晴らしいですね。あと、ハンドリング・ノイズも少ないです。

−−近接効果の低減がKSM8の特徴として謳われていますが、その点については?

小松 近接効果が全く無いわけではないですが、従来のものとは異なり、マイクから離れていっても周波数が乱れたり音質がガラッと変わるということはありません。イメージとしては、従来のダイナミック・マイクの近接効果がベル・カーブで持ち上がるようなのに対し、KSM8は140Hz以下がシェルビングで上がるような感じがしました。そういう意味でもフラット感がありますね。ベル状に上がると、ホールの形状やモニター・スピーカーなどによって、近接効果の周波数がモニターやホールのピークと重なって、低音が広がってしまうことがある。一方で、KSM8は持ち上がり方がシェルビングっぽいので、EQでも処理しやすいでしょう。

−−指向特性についてはいかがでしたか?

小松 正面軸上や横軸に移っていったときも、グラフに出ている通りの素晴らしい特性で、これはいいと思いました。多少マイクを動かしても、音質が乱れることはないと思います。

▲上は一般的な単一指向性ダイナミック・マイク、下はKSM8の距離特性イメージ。一般的なマイクは離れるにつれて周波数バランスが変わり音が薄くなるが、KSM8は距離が離れても一定の周波数バランスを保ち続け、安定した音質を確保している ▲上は一般的な単一指向性ダイナミック・マイク、下はKSM8の距離特性イメージ。一般的なマイクは離れるにつれて周波数バランスが変わり音が薄くなるが、KSM8は距離が離れても一定の周波数バランスを保ち続け、安定した音質を確保している
▲KSM8の周波数帯域別指向特性。周波数を問わず、均一な単一指向性パターンを描く。つまり、距離だけでなく、マイクに対する角度での音質変化が少ないことをこのグラフが意味している ▲KSM8の周波数帯域別指向特性。周波数を問わず、均一な単一指向性パターンを描く。つまり、距離だけでなく、マイクに対する角度での音質変化が少ないことをこのグラフが意味している

ボーカル・マイクはアーティストの“命”

−−総じて、KSM8にどんな印象を持たれましたか?

小松 SHUREはKSM8に関するさまざまな情報を公開していますが、試してみてもその通りの印象で、SM58やSM57というスタンダードを作ってきたメーカーが、真面目に作ったマイクだと思います。

−−実際のオペレートで、KSM8が有利だと感じられる点はありますか?

小松 KSM8はフラットで感度が高いから、ある程度の音量でモニターを返す中で、ハウる前に聴こえるでしょう。モニターの場合、“ハウリングを切る”という、マイナスを補う目的でEQを使うことが多いですが、積極的な音作りでEQを使えそうです。

−−メイン・ボーカルを担う一本としての評価は?

小松 僕は、担当するアーティスト自身に選んでもらうことにしているんです。ボーカル・マイクはアーティストが持っているイメージやテクニックを最初に電気信号に変換する、いわば“命”です。だからエンジニアとしては最大限の提案をしてあげたいので、最初に顔合わせをするときに、5〜6本の中から選んでいただくことにしています。その選択肢としてもKSM8を用意しておきたいですね。また、僕自身、ライブ・ハウス規模でもクオリティを確保するために使用するマイクをすべて持ち込むようにしているんですが、そんな現場でもいろいろな用途に試してみたいと思っています。

小松“K.M.D”久明

ヤマハ音楽振興会を経て、1997年オアシス設立。LUNA SEAや石川智晶、石野真子、大黒摩季、ROTH BART BARON、Sound Schedule、手蔦葵、吉澤嘉代子などのコンサート・オペレートを手掛けるほか、洗足学園音楽大学で後進の指導にも当たっている ヤマハ音楽振興会を経て、1997年オアシス設立。LUNA SEAや石川智晶、石野真子、大黒摩季、ROTH BART BARON、Sound Schedule、手蔦葵、吉澤嘉代子などのコンサート・オペレートを手掛けるほか、洗足学園音楽大学で後進の指導にも当たっている

取材協力:プレミアホール(プレミア ヨコハマ 7F)

【製品情報】
●KSM8/N(ブラッシュド・ニッケル):88,000円
●KSM8/B(ブラック):88,000円
●RPW174(ハンドヘルド型送信機用KSM8マイク・ヘッド/ブラック):120,000円

▲左からKSM8/N、KSM8/B、RPW174 ▲左からKSM8/N、KSM8/B、RPW174

【問合せ】
ヒビノインターサウンド 
http://www.hibino-intersound.co.jp/

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