プロダクト・マネージャー、ジョン・ボーン氏来日。SHURE KSM8新製品発表会レポート

SHUREは新型ダイナミック・マイクKSM8を発売した。サウンド&レコーディング・マガジンWebではNAMM2016で初披露された発表会の模様をいち早く紹介したが、日本のユーザーへKSM8の良さを伝えるため、SHUREプロダクト・マネージャーのジョン・ボーン氏が来日。ヒビノインターサウンド主催によるKSM8新製品発表会が大阪と東京で開催された。

ジョン・ボーン氏に加え、通訳としてSHURE JAPANプロダクト・マネージャーの沢口宙也氏が登壇。SHUREのダイナミック・マイクの歴史、新カートリッジ“Dualdyne”の図解を交えた解説、そして発売前にベータ・テストを行った関係者による評価など、製品開発にまつわるエピソードを交えながらKSM8の魅力について語った。

sawaguchi-john ▲左からSHURE JAPANプロダクト・マネージャーの沢口氏、SHURE プロダクト・マネージャーのジョン・ボーン氏

 ダイナミック・マイクの基本的な仕組み

ダイナミック・マイクでは音を電気信号に変換する仕組みとして電磁誘導を利用している。音は空気を媒介し、薄いシート状のダイアフラムに到達。磁界の中でダイアフラムに取り付けられたコイルが振動し電流が流れる。

dynamic-mic-struncture ▲ダイナミック・マイクのカートリッジを横から見た図

原理は簡単だが、物理的な素材の組み合わせでだけで理想の音声信号を作り出すためには物理学からのアプローチが必要で技術的にも難しいという。

dynamic-mic-struncture-2 ▲音がダイアフラムの前面に当たり、電流が発生するイメージ図

Unidyneカートリッジの基本構造

SHUREは1939年にダイナミック・マイクModel55を発売した。その中に搭載されたのが1つのカートリッジで単一指向性を実現したUnidyneと呼ばれるカートリッジで、今日の単一指向性ダイナミック・マイクのベースになっている。以下の図はUnidyneの原理を現したものである。

unidyne-structure ▲カートリッジ後方からの音を排除するための仕組みを表す図

1つのカートリッジに指向性を持たせるためにはダイアフラムの背面から拾う音を排除する必要がある。Unidyneでは後方からの音がダイアフラムの前面と背面にあたるタイミングを同じにして打ち消し合うことで単一指向性を実現している。そのタイミングを合わせるために、ダイアフラムの背面に当たる音を遅らせる工夫が施されている。

その後、小型化したUnidyne IIを経て、Unidyne IIIが誕生。これにはニューマティック・ショック・マウントと呼ばれる、ハンドリング・ノイズやメカニカル・ノイズを抑制する機構が搭載されている。これによりマイクを手に持ってパフォーマンスができるようになり、SHUREの象徴的なダイナミック・マイクSM58Beta 58にも採用されてる。

sm58-flow ▲ Unidyne IIIのニューマテック・ショック・マウントの仕組み。マイクからハンドル内入った音が、押し戻されることによってハンドリング・ノイズを防ぐことがきる。

新技術 Dualdyneカートリッジの特長とその仕組み

KSM8にはDualdyneと呼ばれる新しいカートリッジを搭載したことにより、今までのダイナミック・マイクにはない3つの特長を持っている。

① 近接効果を低減
② フラットな周波数特性
③ 周波数帯ごとの指向性が均一

※これらについては、こちらのNAMM2016レポートも併せて参照ください。
→ ダイナミック・マイクSHURE KSM8 新製品発表会 in NAMM 2016

Dualdyneカートリッジは、アクティブとパッシブとのダイアフラムの2枚構成。パッシブのダイアフラムは電気信号を発生しないが、音響的なチューニングを施すために重要な役割を果たしている。

diaphragms ▲Dualdyneの要。2つのダイアフラムが構成する部分
ksm8-flow ▲Dualdyneの背面からの音の流れ

まず背面から入る音は、パッシブ・ダイアフラムを通過し、低域を部分的にブロックすることで近接効果がコントロールされる。その後、チューブ・システムおよび後ろのダイアフラムの周りを通ってニューマティック・ショック・マウントが搭載されているハンドル部分へと伝わるという仕組みで、非常に複雑な空気の流れを実現している。そして、パッシブ・ダイアフラムを今までのカートリッジに入れるという作業は機構上不可能であったため、ゼロ・ベースで設計を行う必要があった。

ちなみにDualdyneのプロトタイプのいくつかが会場内に展示されていた。中にはカートリッジの空気容量のテスト用でシリンダーが取り付けられたタイプも見られる。このような実験をはじめ、さまざまな過程を経る必要があったためKSM8は、開発から7年の歳月を費やしたのだという。

proto ▲Dualdyneのプロトタイプ

KSM8は以下のような細かなパーツによって構成されているが、数々の過酷なテストにも通過し耐久性にもこだわって作られているのでSM58と並んで安心して使用できるとジョン氏は語った。

ksm8-structre ▲ KSM8の内部構成

KSM8のグリルは堅いカーボン・スチール製で、さらに裏側から疎水性織布を使用し、へこみにも耐水性にも強い。ジョン氏はグリルにペットボトルの水を掛けるパフォーマンスも見せて会場を沸かせた。製品開発の段階で行った耐水性のテストでは、グリル部分に30分シャワーをかけてもタオルでふいただけで問題なく使用できたという。

steelgrill ▲ KSM8のカーボン・スチール製グリル

KSM8デモ 〜SM58、Beta 58との比較テスト

ジョン氏によるプレゼンテーションの後、YonYon(ボーカル)、石居 悠大(ギター)によるユニットコトバセレクトを迎え、KSM8のサウンドチェックが行われた。

まず初めにYonYonのボーカルで、SM58Beta 58KSM8それぞれと口元との距離約1cmの場合、約10cmの場合での音の違いを確認した。

mic-test-a ▲コトバセレクトのYonYon

マイクとの距離約1cmの場合のチェックでは、KSM8はSM58、Beta 58ほどの低域の持ち上がりは感じられず、ナチュラルな高域がとても印象的だった。またマイクとの距離約10cmの場合は、KSM8の低域は削られることがなく、ボーカルの量感は健在で、どちらの場合でも普段から聴き覚えのあるダイナミック・マイクのサウンドとは違った印象だった。

mic-test ▲YonYonによるサウンド・テスト①
mic-test-b ▲YonYonによるサウンド・テスト②

その後、さらに石居 悠大によるギターを交えたパフォーマンスで2曲披露。KSM8を使用したナチュラルな高域の伸びとウォームなYonYonのボーカルと、石居 悠大のアコースティック・ギターがとてもマッチしていた。

タッチ&トライ・ブース

会場ではKSM8を個々で試すことが出来るタッチ&トライ・ブースを設置。ステージと同じようにSM58、Beta 58と比較ができた。また事前の告知どおり、参加者の中には、持参したマイクとKSM8と比較する様子もみられた。

try-touch

try-touch2 ▲ 左からKSM8、Beta 58、SM58
try-touch3 ▲実際に試すと今までのダイナミック・マイクとは一線を画したサウンドが体験できる

SHURE KSM8

shure-ksm58-namm-a

仕様
カートリッジタイプ: デュアル・ダイアフラム・ダイナミック(ムービング・コイル)
周波数特性:40〜16,000 Hz
指向特性:カーディオイド
出力インピーダンス:300 Ω
感度:-51.5 dBV/Pa(1.85 mV) (1 kHz、開回路電圧)
極性:ダイアフラムへの正圧印加時にピン 2 に正電圧を発生
質量:330 g
コネクター:3 ピン XLR、オス
ハウジング:アルミ・ダイキャスト製(ブラック塗装またはブラッシュド・ニッケル仕上げ)

ラインナップ/定価(税抜)
・KSM8/N(ニッケル) /88,000円
・KSM8/B(ブラック)/88,000円
・RPW174 /120,000円
(ハンドヘルド型送信機マイクヘッド/ブラック)

rpw174

ヒビノインターサウンド SHURE Webサイト
http://www.hibino-intersound.co.jp/shure/

SHURE KSM8特設ページ
http://www.shure.co.jp/go/ksm8/jp/
→ SHURE KSM8をデジマートで探す