深田晃〜ECLIPSE TDシリーズを頼りにするプロフェッショナルたち(2)

“タイムドメイン理論”に基づき設計されたECLIPSEのスピーカー、TDシリーズ。2001年にTD512とTD508の2モデルがリリースされるやいなや、ミックスやマスタリングなど正確な音の再現が要求される現場で高い評価を得る。その後モデル・チェンジやラインナップの拡充が続けられ、2012年にはTD510MK2、TD510ZMK2、TD508MK3がリリース。インパルス・レスポンスのさらなる向上や周波数特性の拡張など、さまざまな点で進化を遂げている。そんなECLIPSE TDシリーズの魅力をトップ・プロにうかがっていくのがこのコーナー。2回目に登場していただくのは、サラウンド用マイキング“Fukada Tree”の考案者として海外でもその名を知られるエンジニア深田晃氏だ。

この記事はサウンド&レコーディング・マガジン2012年10月号から編集・転載したものです。

ECLIPSEはスピーカーの音であることを感じさせない

 深田氏がNHK在籍時に考案した“Fukada Tree”は、現在ではサラウンド録音法のスタンダードとして広く世界中で採用されている。

「オーケストラをホール録音する現場で、どうやったら理想的なサラウンド収録ができるかを実験していく中で考えたものです。空間の響きを録る手段としてはメイン以外に前後左右4本のマイクをある程度離して置く方法がありますが、それだと前方のメイン・マイクと時間差が生じてしまう。もちろん後でDAWで調整することも可能ですが、生放送のような現場では不可能です。そこでオーケストラとホールの響きのバランスがとれた最適な場所に、全体の音が録れるワンポイント・マイクのようなものを置けば一番シンプルに録れるだろうというのが大本の発想なんです。それを実現するために、前に向けて3本、後ろに向けて2本という計5本のマイクを計算によって割り出した距離と角度で立てます。前と後ろの音はなるべくセパレートしたいのですが、単一指向性マイクだと低域が薄くなりますので、基本的には無指向性を使い、場合によってはリア用のマイクにアコースティック・イコライザーを付けるなど、場所に応じてのアレンジも行いますね」

 そんなサラウンド録音の研究を重ねていたNHK時代、深田氏はTDシリーズと出会った。

「TDシリーズを最初に聴いたときは、正直よく分からなかったんです。ところが聴いている内に“分かりやすい”ということが分かってきた。リバーブで顕著なんですが、どれくらいかけたかがすごく分かる。レンズの焦点が合っているというか全部を見せてくれるので、おかしいなことが起きているときもちゃんと教えてくれるんですね」

 そもそもモニター・スピーカーは正確な再生を行うためのもの。TDシリーズはそれに愚直なまでに答えているのだが、その正確さを生み出している要因はフルレンジにあると深田氏は指摘する。

「マルチウェイのスピーカーだと位相やクロスオーバーの問題は避けられず、一番大切なはずの中域の再現に支障を来すことが多いんです。でも、TDシリーズのようにユニットが1つだけのスピーカーではその問題が生じません。結果としてバランスを正確に確認できるんです」

 その反面、フルレンジでは再生周波数に限界があるのも事実。しかし、その点は新しいモデルでかなり解消されているという。

「最近、TD508MK3を導入したのですが、以前のモデルと比べて明らかに周波数レンジが広がりました。特に高域が伸びましたね。もちろん低域も全く不足していなくて、実際ここではサブウーファーは導入していません」

 上に掲載した写真からも分かるように、深田氏は自宅のリビングにサラウンド環境を設置し、そこで最終的なミックスを確認している。

「上階にも作業場はあるのですが、サラウンド・ミックスの確認はここで行っています。同じサイズのTDシリーズを5本そろえると、空間のつながりがすごく自然な音場になり、いいミックスが出来上がると隣りのキッチンでも立体的なサウンドに聴こえるんで、“キッチン・サラウンド”と呼んでいます(笑)」

 「サラウンドのミックスの面白さはリアだけでなく、センター・チャンネルの活用法にある」とも語る深田氏。TDシリーズは見た目にも容積的にもサラウンド設置のハードルが低いので、これまで手をこまねいていた方も試してみてはいかがだろう? 制作そしてリスニングにおいてきっと新しい体験をすることができるはずだ。

 

【深田晃 PROFILE】 CBS・ソニー録音部、NHK放送技術制作技術センター番組制作技術部でチーフ・エンジニアを歴任。サラウンドの研究者としても知られ、1997年のAESコンベンションでサラウンド用のマイキング=“Fukada Tree”を発表。現在はdream window inc.を設立し、エンジニア、ディレクターとして活動するほか、音響空間のデザイン、録音技術の研究や普及活動を行う。

“エッグシェル・コンストラクション”とは?

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空気の動きを妨げない構造を追求して生まれた卵形のキャビネットのこと。同一半径面が存在しないため内部定在波を抑制したりスピーカー前面での回折効果を回避することができる。新しいシリーズでは内部容積がTD510MK2/TD510ZMK2で14%、TD508MK3で34%もアップしており、再生レンジを拡大することに成功している。

深田晃氏の使用スピーカーTD508MK3

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●ユニット/8cmコーン型フルレンジ ●再生周波数帯域/52Hz〜27kHz(ー10dB) ●能率/82dB/W・m ●許容入力(定格/最大)/15W/30W ●インピーダンス/8Ω ●カラー・バリエーション/シルバー、ブラック、ホワイト ●価格/47,000円(1本)

問合せ:富士通テン
http://www.eclipse-td.com/

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