プレフューズ73発掘interview【2】 ~ WARPレコーズ特集

「今回はビートそのものよりも、曲に近いものをたくさん作っていたんだ」 (スコット・ヘレン/2005年インタビュー)

2005年のスコット・ヘレンの発掘インタビュー第二弾。2003年の『ワン・ワード・エクスティングイッシャー』に続く本作は、曲ごとに多彩なMC/ボーカリストを交えた意欲的なビート作品に仕上げている。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2005年5月号のものです] Interpretation:Yuko Asanuma


その音楽性によって複数の名義を使い分けるスコット・ヘレン。昨年もサヴァス+サヴァラス名義でのアルバム・リリース、ヒューマン・ビートボクサーAFRAの最新作プロデュースなどで活躍した彼だが、今年はヒップホップを聴かせるプレフューズ73名義での新作『Surrounded By Silence』をリリース。その新作について彼に聞いてみた。


ラッパーの声にとても満足していたから、あえて加工しないことに挑戦したんだ


■2ndである前作は「大量に作ったビートの中から選りすぐりを形にした」そうですが、今作は?


スコット  今回はもっと曲に近いものがたくさんあったんだ。まだ完成していないものもかなりある。前作『ワン・ワード・エクスティングイッシャー』を作った後、アウト・テイクなどを集めた『EXTINGUISHED』をリリースしたけれど、今作もそれとは違う形で続編が出ることになると思うよ。僕はどこにいても常にビートを作っている状態だから、ストックは何百もあるんだ。AKAI PROFESSIONAL MPC2000XLとDIGIDESIGN Pro Tools 、ギターの3つはいつも持ち歩いているね。


■今作はこれまでのアプローチに加え、ラップやボーカルなど"声"が印象に残りました。


スコット  1stを作るとき、まさに"声を主に使ってメロディ的なものとリズムを両方作ろう"と考えた。その後も声を使ってできることを新たに見つけて発展させることで今作に至っているんだ。声をカット・アップしてビートを組むような、1stのころに使っていた技は既に一般的だからね。


■ラップやボーカルなどはほぼゲストによるものですが、あなたが録りを行ったのですか?


 スコット  ほとんどの録音現場に出向いて立ち会い、自分で音を聴いて録っていった。メインのマイクはSHURE SM58だ。各曲のイメージは録りの段階でかなり固まっていたから、例えばaesop rockの参加している「sabbatical with options」では彼に「田舎から都会に出てくる内容の詞を書いてくれ」と前もって頼んだんだ。また「we go our own way」は僕が歌詞を書いている。


■録った素材にはどんな加工を?


 スコット  レベルやコンプの調整だね。これにはいつも苦労させられるけど、声を際立たせるより、それを曲に溶け込ませるように心がけている。そういえば新たに"なにもしない"ことにも挑戦した。今まで、ラップの素材を加工せずに使ったことはないんだけど、今回はラッパーの声にとても満足していたから、あえて手を加えなかったんだ。


■以前のインタビューでは「サンプルの処理にはMPC2000XLのみを使い、その後ProToolsを使ってミックス・バランスなどを調整する」と語られていましたが、今回は?


スコット  全く同じ。機材も手法もそのままだ。


■「pastel assasins」は浮遊感のあるボーカルとひずんだビートの対比が独特ですね。


スコット  この曲は、ほかに収録されているどの曲とも違う成り立ちで出来上がったんだ。ボーカルのクローディアとアレハンドラは双子の姉妹なんだけど、彼女たちはお互い波長が合うのでスタジオでも自然にメロディが作れる。僕は普段そうした作曲法を採らないけれど、このときはスタジオである程度のビートを打ち込み、2人の歌と一緒にギターを弾いてコード進行を決めていった。試しに弾いてみたギターが彼女たちの声ととても合っていたからね。


■「pagina dos」でのゲスト、the booksはどんな人たちなんでしょう?


スコット  バンジョーやチェロ、ギターを弾く2人組で、この曲は彼らと一緒に飲んでいて、酔っ払ったときに録ったんだ。だから、彼らの素材は全部バーで録ったものだよ(笑)。バーのノイズもそのまま使っていて、それに合わせて僕がボーカルを入れたり、ノイズのキーを変えるなんてマニアックなこともやっている。


■レコーダーを用意して飲みに行ったのですか?


スコット  レコーダーと言っても、僕が使っているのはSONYのポータブルMDだよ(笑)。


■「we go our own way」のパーカッションは、ティンバレスのような音が跳ねていてユニークですね。これはサンプリング?


スコット  いや、僕がパーカッションをたたいたよ。普通のヒップホップ・ビートではなくて、少しズレたものが欲しかったので、キューバのリズムを意識してたたいたんだ。ロックな感じの中に、あえてキューバのリズムを入れたかったんだよね。


■3月には来日ツアーがありますね。


スコット  ライブはドラム・セットを2つとベース、DJ、ダブ・エンジニアという編成を考えている。僕はドラムやMPC2000XL、シンセをプレイするよ。でも、ギターは弾くか分からないな。いろいろやり過ぎて走り回っているようなイメージになっても困るからね(笑)。



Surrounded By Silence.jpgPrefuse 73 『Surrounded By Silence』


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