制作やレコーディングから趣味まで含め、ずっといられる空間としての心地良さを追求
シンガーソングライターの清水翔太が、2023年6月にリリースしたアルバム『Insomnia』。その制作の拠点であり、ジャケット写真の撮影場所ともなったのが、清水自身のプライベートスタジオだ。清水の話から、自宅環境での制作によってもたらされたポジティブな変化をたどっていこう。
スペースを分けたことで何をすべきかが明確に
清水のスタジオの空間作りにおけるコンセプトは“空間としての心地良さ”だという。
「以前はスタジオだけの空間にしていましたが、それだと息が詰まるので、空間としての心地良さと、趣味も含めてずっといられる場所にしようというのがテーマですね。照明器具にもこだわっていて、電球も間接照明もディスプレイ裏のLEDテープも、PHILIPS製品で統一しています。スマートホーム化していて、アプリで全部制御できるので便利です」
スタジオ内では、3方向に作業スペースを展開。正面のデスクではビートメイクや仮歌録りなどの制作、右のデスクでは本番用のレコーディング、左のデスクでは、清水が趣味としているゲームを行うシステムが構築されている。
「制作しやすさの改善を考えて、本チャンを録るスペースと制作スペースを分けたら、今何をすべきかが明確になりました。椅子はずっと座っていられるものにしたくて、デスクワーク用よりかなり低い書斎用の椅子を選んだので、デスクはすべてその高さに合わせられる昇降式のものにしています。あとはディスプレイ配置も追求しました。ミキサー、プラグイン、歌詞をそれぞれ別のディスプレイに映したいんですよね。曲作りはかなり細かい作業の積み重ねなので、せめて環境は分かりやすく整理することが大事だと思います」
「仕事用にはApple Mac Pro、ゲーム用にはWindowsのゲーミングPCを使っています」と話す清水。幼い頃からのコンピューターに対する関心の強さが楽曲制作を始めるきっかけにもなったという。
「小学生の頃からパソコンが好きで、頼み込んで買ってもらったノートパソコンを抱えて日本橋(大阪)の電気街に行ってパーツを眺めたりしてました。16歳の頃にはシンセを買って、最初は意味が分からずピアノ音色だけ弾いてたんですけど、DAWの打ち込みに使えると知ってからは“パソコンを使うなら!”と思って、曲を作るようになりましたね」
制作の中心を担っているソフトについてはこう話す。
「DAWはPreSonus Studio Oneを使っていて、直感的な操作が多いところが気に入っています。シンセはXfer Records SERUM、SPECTRASONICS OMNISPHERE、KEYSCAPE、ギターはNATIVE INSTRUMENTS SESSION GUITARISTS Picked Acoustic辺りで作りますね。ドラムの打ち込みはXLN AUDIO XOのシーケンサーを使うことも多いです。ベロシティとかパターンのランダマイズ機能で、自分ではやらないことが起こるのもいいですね」
冒険したいけど冒険するところは見られたくない
続いて、レコーディングツールの選び方を語る。
「制作のときはほぼスピーカーでモニターしていて、GELENEC 8351Bを使っています。レコーディング用のヘッドホンはSHURE SRH1540です。僕は満足いく1本のテイクを作るために1文字単位でも細かくパンチインするので、繰り返し録っていても疲れなさそうな、抜け感がありつつシャリシャリしないヘッドホンを探しました。マイクは、レコーディングスタジオで“これが合うと思う”と選んでもらったNEUMANN M 149を自分でも買って、マイクプリはUNIVERSAL AUDIO LA-610 MkⅡ、オーディオインターフェースはapollo x8pを使っています」
清水は続けて、自宅スタジオでの制作を行うようになったきっかけや、この場所での制作スタイルを話す。
「結果にたどり着くプロセスをあまり人に見せたくないのも家でレコーディングする理由の一つです。フェイクとかコーラスワークもその場の感覚でやるので、何声か重ねた結果“音がぶつかる感じが渋くていいな”ってことがあるんですけど、スタジオだと途中で“大丈夫?”って思われるのが嫌で挑戦できなくて。トラックも、割と出来上がった段階でドラムをミュートして、別のループの雰囲気を元に打ち込み直したり、テンポを変えてみたりとか、いろいろ冒険したいけど、冒険してるところは人に見られたくないんです」
今後の制作の展望について尋ねると「クリエイターとして、リファレンス感がなく“新しいけどすごく清水翔太らしい”曲を作ってみたいという欲はあります」と話す清水。早速この場所での制作は良い効果をもたらしているようだ。
「ここで作った『Insomnia』の収録曲「SUMMER」は、そういう欲と自分らしさとか、自分にしかできない表現が良い具合にアウトプットできた感じがするんです。あまり聴かない曲の構成とか音の雰囲気だけど、自分が伝えようとしていることはちゃんと反映されてるっていうバランスが取れて、自分のそういう欲を満たせた1曲でした」
スタジオ環境について「ブースを作りたいとか夢はあるんですけど、当面はこれで問題ないですね」と話す清水。
「良い曲を作れていないときとか、アイディアが浮かばないときほど機材が欲しくなりがちですけど、物だけ増えて肝心の曲ができないのは嫌だし、今あるシンセもDAWも、勉強すべきことやトライすべきことがいっぱいあるので、あるもので良い曲を作ろうって気持ちも大事かなと思います」
仕事の息抜き、何してます?
息抜きはゲームですね。制作中に行き詰まったらすぐゲームしたいし、逆にゲームをしていても何か浮かんだらすぐ作りたいんです。ゲーミングPCがすごく好きで、パーツを全部自分で選んで組み立ててもらうBTO(Build To Order)パソコンを使ってます。今のゲーミングPCはめちゃくちゃかっこ良いので、これからDTMを始める人にもお薦めです。
Profile
清水翔太:作詞/作曲/アレンジまでこなすシンガーソングライター。時に力強く、時に儚く歌い上げ、感情豊かな歌唱からラップまでこなし、ポップス、R&B、ヒップホップを横断しマルチな才能を発揮。日本の音楽シーンのトレンドセッターとしての存在感を発揮し続けている。
Recent Work
『Insomnia』
清水翔太
(ソニー・ミュージックレーベルズ)