BOGREN DIGITAL MLC S_ZERO 100 〜Rock oN Monthly Recommend vol.64

BOGREN DIGITAL MLC S_ZERO 100 〜Rock oN Monthly Recommend vol.64

 注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞くRock oN Monthly Recommend。今回は、スウェーデンのプラグインメーカー、BOGREN DIGITALがリリースしたアンプシミュレーター・プラグインのMLC S_ZERO 100をピックアップ。本製品について、クリプトン・フューチャー・メディアの小竹森敬太氏と辻宏崇氏、メディア・インテグレーションの天野玲央氏に詳しく伺った。

MLC S_ZERO 100

MLC S_ZERO 100 |17,457円(価格は為替レートにより変動)

MLC S_ZERO 100 |17,457円(価格は為替レートにより変動)

 MLC S_ZERO 100は黄枠部分でセクションを選択。左からSTOMP(オーバードライブ)、AMPLIFIER(アンプ)、CABINET(キャビネット)、EQ、POST EFFECTS(ディレイ/リバーブ)となっている。画面はAMPLIFIERを選択した状態で、一番右にあるCHANNELノブでは、クリーン、クランチ、ハイゲインといったサウンドのキャラクターを切り替え可能。その左にはパワーアンプに使用する真空管、6L6とEL34を再現して選択できるノブを備えるほか、ゲートやゲイン、プレゼンスやEQなどの各種ノブを装備。そのほか画面上の左右に入力/出力ボリューム、画面左下にチューナー、メトロノーム、スタンドアローン起動時に使用できる録音ボタンなども用意している。


●まずBOGREN DIGITALの成り立ちを伺えますか?

 プロデューサーやレコーディングエンジニアとして活動するイェンス・ボグレン氏が中心となって設立したスウェーデンのメーカーです。ボグレン氏はメタルの分野で約20年のキャリアを持ち、自身のスタジオも運営しています。BOGREN DIGITALは、ボグレン氏が作成したギターアンプ用キャビネットのIRパックや、実際の作品で使ったドラムのサンプルライブラリー、ワンノブのアンプシミュレーターAMPKNOBシリーズなどを発表してきました。今回満を持して発売したフルアンプシミュレーターが、MLC S_ZERO 100です。

 

●ユーザーからはどのような評価を受けているメーカーなのでしょうか?

天野 AMPKNOBシリーズの名前が挙がることが多いです。操作性がシンプルという点もさることながら、何より音が太い。“バン!”と前に出てくる感じの音で、ソフトウェアベースのアンプシミュレーターではなかなかないような手応えのサウンドを得られます。店頭でアンプシミュレーターを検討している方に試していただくと、“これはすごいね”と感想をおっしゃる方が多いです。

 シンプルにアンプ自体をモデリングしているだけではありません。マイキングやアウトボードを通した質感になり、音源制作やミックスにまで対応するサウンドを得られるのがAMPKNOBシリーズの特徴です。

 

●その技術がMLC S_ZERO 100にも生かされているのですね。開発の経緯を伺えますか?

 ポーランドにあるアンプメーカーのMLCが発売しているギターアンプ、SUBZERO 100をボグレン氏がスタジオに導入したのがきっかけです。SUBZERO 100をかなり気に入っていて、プラグイン化したいということをMLCに直接打診して開発を進めていきました。両社がパートナーシップを結び、共同開発を行っています。

 

●ジャンルとしてはやはりメタルやハードロックに特化したものなのでしょうか?

 そうですね。BOGREN DIGITALが定めているターゲットとしては、メタルやハードロックに特化しているところはあります。ただMLC S_ZERO 100は激しいサウンド一辺倒ではなく幅広いトーンも出せるので、ジャンルを問わずギタリストの方であれば満足して使っていただけると思います。

 

●音作りは、画面中央上のアイコンから5つのセクションを切り替えて行う仕様となっています。各機能について、まず一番左にあるSTOMPセクションの詳細を教えていただけますか?

 アンプの前段に位置していて、Vanilla SkyとFASCINATION STREET OVD-1という2つのオーバードライブを備えています。Vanilla SkyはMLCが実機で発売しているエフェクターを、FASCINATION STREET OVD-1はボグレン氏がスタジオで愛用しているエフェクターをそれぞれモデリングしています。2つを重ねることも可能で、アンプだけでは作れないキャラクター付けをこのセクションで行っていきます。

小竹森 Vanilla Skyはアンプ自体の出力をプッシュして音を整えてくれます。FASCINATION STREET OVD-1はリッチなひずみを加えられるような印象ですね。

2種類のオーバードライブペダルを調整するSTOMPセクション。左のVanilla Skyは、MLCがリリースしているクラスA回路を搭載したトランスペアレントオーバードライブをモデリング。右のFASCINATION STREET OVD-1は、ボグレン氏が自身のスタジオで手掛けるほぼすべてのギタートラックで使用するという私物ペダルを再現。それぞれを組み合わせて使用することもできる

2種類のオーバードライブペダルを調整するSTOMPセクション。左のVanilla Skyは、MLCがリリースしているクラスA回路を搭載したトランスペアレントオーバードライブをモデリング。右のFASCINATION STREET OVD-1は、ボグレン氏が自身のスタジオで手掛けるほぼすべてのギタートラックで使用するという私物ペダルを再現。それぞれを組み合わせて使用することもできる

 

●その右がAMPLIFIERセクションです。ギターアンプらしいユーザーインタフェースで、さまざまなノブが装備されています。

 音作りのメインとなっているのは、CHANNEL Ⅰ/Ⅱ/Ⅲの切り替えですね。右に回していくに連れて、ひずみの量が増えていきます。ボグレン氏もやはりCHANNEL Ⅲを気に入っているとコメントしていましたよ。

小竹森 シングルコイルのギターで演奏してみたところ、開放弦の際立つ感じや、テンションコードを弾いたときの粒立ち具合が本当に良かったです。ひずんだ中でもしっかりと輪郭が聴こえてきました。

 ハムバッカーのギターでは、やんちゃな音も出せます。ゲインを上げてもぐちゃっとつぶれることはなく、オケの中でも抜けてくるサウンドになっています。CHANNELノブは元になったSUBZERO 100にも備わっている機能で、各キャラクターがしっかりと出ているのは、丁寧にモデリングされているからこそだと思いますね。

天野 見た目は完全にメタルって感じですが、クリーンなCHANNEL Ⅰ、クランチ系のCHANNEL Ⅱも張りのあるサウンドです。CHANNEL Ⅱにして、FENDER Telecasterタイプのギターでコードをかき鳴らしてみるのもいいと思います。

 

●EQなどのほかに、6L6とEL34という2つの真空管の切り替えをモデリングしたスイッチもあります。

小竹森 6L6はミッドレンジがより前面に出てくるようなサウンドです。EL34は、スピーカーから“ボン”と出てくる鳴りを感じられます。

 

●続いてCABINETセクションはどのような仕様でしょうか?

 VintageとModernという2種類のキャビネットが用意されています。チャンネルが2つあり、それぞれをミックスすることも可能です。マイキングは、ポジションや角度まで調整できます。各キャビネットにはIRの読み込みもでき、デフォルトで収録しているものだけでなく、ユーザーが所有するお気に入りのIRを使うこともできます。中でも一番肝になっているのは、画面中央下にある“IRDX”のノブです。

CABINETセクション画面。キャビネットはVintageとModernの2種類で、5種類のマイクを選択しマイキングを調整できる。マイク位置の前後左右に加え、角度も設定可能。チャンネルは2つ用意され、それぞれのミックス度合いをキャビネット上部にあるスライダー(赤枠)で調整できる。また黄枠の“IRDX”ノブでは、独自開発のIRDXテクノロジーを設定可能。演奏に伴うよりリアルなキャビネットの挙動を、IRに反映させることができる。IRは、MLC S_ZERO 100にプリインストールされているものだけでなく、外部のIRも読み込んで適用可能

CABINETセクション画面。キャビネットはVintageとModernの2種類で、5種類のマイクを選択しマイキングを調整できる。マイク位置の前後左右に加え、角度も設定可能。チャンネルは2つ用意され、それぞれのミックス度合いをキャビネット上部にあるスライダー(赤枠)で調整できる。また黄枠の“IRDX”ノブでは、独自開発のIRDXテクノロジーを設定可能。演奏に伴うよりリアルなキャビネットの挙動を、IRに反映させることができる。IRは、MLC S_ZERO 100にプリインストールされているものだけでなく、外部のIRも読み込んで適用可能

 

●独自開発のIR技術が使われているとのことですが、特徴は?

 通常のIRの場合、演奏の強弱に関係なく安定した音が出せるというのがIRの弱点でもあり強みでもあるのですが、IRDXでは時間軸状の音の変化が生成されます。例えばピッキングの強弱など、プレイヤーが演奏で表現するダイナミクスに追従して鳴らすことができます。

天野 IRはある音量で出力したときの挙動を再現するので、すごく大きな音量でサンプリングしたIRだと、優しく弾いたときでもその大きな音量の振る舞いになってしまう。その点が解消されているので、弾いている方ならほぼ百発百中で違いが分かるというくらい、弾き心地に大きな影響があると感じました。またデジタルの領域が進化したんだなと感動しましたね。

 

●そのほかEQ、POST EFFECTSセクションもあります。

小竹森 EQはシンプルな10バンドのEQです。楽曲に合わせた音作りやミックスなどに活用できます。POST EFFECTSはディレイとリバーブです。シンプルな仕様ですが完成度は高く、外部のエフェクトを使わなくてもある程度までは音を作り込めるようになっています。

EQセクションには、10バンドのグラフィックEQを用意。ミックスでの細かな音作りなどに対応する。なお、全セクション画面に共通して、背景に見えるアンプヘッドはパラメーターの操作が可能。画面を切り替えなくても調整できる便利な仕様となっている。こういったユーザビリティの高さは、ボグレン氏が音楽制作を行っているからこそ反映されているそうだ

EQセクションには、10バンドのグラフィックEQを用意。ミックスでの細かな音作りなどに対応する。なお、全セクション画面に共通して、背景に見えるアンプヘッドはパラメーターの操作が可能。画面を切り替えなくても調整できる便利な仕様となっている。こういったユーザビリティの高さは、ボグレン氏が音楽制作を行っているからこそ反映されているそうだ

POST EFFECTSセクションではリバーブ/ディレイを調整。左のMAX DELAYはアナログライクな温かみのあるディレイで、ピンポン機能も搭載。右のWET VERBはクリーンなサウンドが特徴のリバーブだ

POST EFFECTSセクションではリバーブ/ディレイを調整。左のMAX DELAYはアナログライクな温かみのあるディレイで、ピンポン機能も搭載。右のWET VERBはクリーンなサウンドが特徴のリバーブだ

 

●プリセットも多数用意されていますね。

 ファクトリープリセットはボグレン氏が作成したもので、そのほかアーティストプリセットも収録されています。

天野 アーティストのラインナップが豪華ですね。メタル系のそうそうたる方々が協力しています。

小竹森 ファクトリープリセットだと、クリーンな“Real Sparkle”がいいですね。曲のブリッジでアルペジオを弾いたりすることで、展開作りとしても効果的だと思います。

プリセットは、Clean/Crunch/High Gain/Leadでカテゴリー分けされたボグレン氏作成のファクトリープリセット27種類を用意。そのほかアーティストプリセット(赤枠)として、15名以上のプロデューサー/ギタリストによるプリセットも収録されている

プリセットは、Clean/Crunch/High Gain/Leadでカテゴリー分けされたボグレン氏作成のファクトリープリセット27種類を用意。そのほかアーティストプリセット(赤枠)として、15名以上のプロデューサー/ギタリストによるプリセットも収録されている

 

●最後にMLC S_ZERO 100は、どういったユーザーに向いていると思いますか?

天野 新たな音作りをしてみたいメタル系のギタリストの方はもちろん、最近のデジタル系のアンプシミュレーターってどこまで進化してるんだろうと興味のある方に試してみてほしいです。そのクオリティに本当に驚かされるかなと。あとは万能選手で音作りに悩まないという意味では、自分ではギターは弾かないけれど、ゲストとして誰かに弾いてもらう際に用意しておくアンプシミュレーターとしても最適です。

小竹森 昨今の音楽はジャンルミックスされたものが多いですよね。普段メタルをやっていない方でも“ここはメタルチックなソロにしよう”という状況はあるでしょうし、そういったときのために用意しておいてもいいと思います。プリセットが充実していて、価格としても求めやすい設定になっていますし、初めてのアンプシミュレーターとして導入していただくのもいいのではないでしょうか。

 各社から出ているアンプシミュレーターもクオリティが高いですが、定番ブランドのアンプは“あの音だな”というのが分かってしまいます。そういった点で耳なじみのない音で独自性を出せるのもポイントかと思います。粒立ち良く低音のリフまでくっきり表現できるので、多弦ギターを扱うテクニカルなギタリストの方にもお薦めですよ。

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