Vaundy one man live ARENA tour “replica ZERO”の音響システムを大解剖!【コンサート見聞録】

Vaundy one man live ARENA tour “replica ZERO”の音響システムを大解剖!【コンサート見聞録】

全公演ソールドアウト!6大都市12公演で開催されたアリーナツアー、ツアーファイナルのサウンドメイキングに迫る

2023年11月に2ndアルバム『replica』をリリースし、同月より自身最大規模となる6大都市12公演のアリーナツアーを敢行したVaundy。全公演ソールドアウトということが、その注目度の高さを表していると言えるだろう。今回編集部は、1月21日に開催されたツアーファイナルの国立代々木競技場 第一体育館公演に潜入。超満員のオーディエンスをうならせたライブサウンドがどのように作られたのか。PAエンジニアを務めたヒビノサウンド Div.の佐藤伸太郎氏と、同じくシステムエンジニアの永易雅章氏に話を伺っていこう。

DATE:2024年1月21日(日)
PLACE:国立代々木競技場 第一体育館
PHOTO:日吉“JP”純平

スピーカーの位置と角度が最重要

 国立代々木競技場 第一体育館は、アリーナ部分に仮設で約4,000席、スタンドが1、2階合わせて約9,000席と、最大で約13,000人収容可能な国内でも屈指のキャパシティを誇る大規模な会場だ。音響のプランニングにあたって、どのような点を考慮しているのかを永易氏に聞いた。

 「アーティストやオーディエンスの求める音量に応えられる機種選びやその数に最も注意を払っています。どこの会場でもそうですが、スピーカーを適切な位置に設置して音のばらつきがないようにする。その上で、ここはとても反射音が長く、反射量も多い会場なので、反射音に対する直接音の割合を少しでも増やすようにプランしました」

 スピーカーにはL-Acoustics製品を採用。リニアリティが高く素直なサウンドであることと、シミュレーションから音響測定、コントロールまですべての工程をL-Acousticsのソフトで一括して行えるため、スムーズに作業を進められるところも採用理由であると永易氏は語る。

 「スピーカーの一つ一つまでソフトからコントロールしていますが、EQ補正はメインスピーカーでも数ポイントしか行っていなくて、それくらい位置と角度のプランが重要なんです。ただ100Hz以下の低域はシミュレーションしづらい帯域のため、そこは会場に入ってから細かく調整しています。ライブツアーはどうしても時間が限られているので、与えられた時間の中で最高の結果を出すために、ある程度調整する箇所は絞っています」

国立代々木競技場 第一体育館のFOHからステージを見た様子

国立代々木競技場 第一体育館のFOHからステージを見た様子。客席はアリーナとスタンド(1階と2階)で、ステージ横のスタンドもステージサイドバック席として開放された。客席の間にディレイスピーカーなどはなく、音はすべてステージ周りのスピーカーから出力している

リギングされているL-Acousticsのスピーカー群

リギングされているL-Acousticsのスピーカー群。メインスピーカーは写真左手前のK1×12台で、最下部にダウンフィルとしてKARA II×3台がセットされている。その後ろにあるのはサブウーファーKS28×11台。写真右にアウトサイドのK2×12台と、トラスの向こう側にはステージサイドバック席に向けたK2×8台も用意されている

ステージ前にはサブウーファーKS28を4台セット

ステージ前にはサブウーファーKS28を4台セット

フロントフィルにはA10を、片側4台の合計8台を配置

フロントフィルにはA10を、片側4台の合計8台を配置

PAエンジニアの佐藤伸太郎氏(写真右)と、システムエンジニアの永易雅章氏(写真左/岡山科学技術専門学校映像音響学科卒業)

PAエンジニアの佐藤伸太郎氏(写真右)と、システムエンジニアの永易雅章氏(写真左/岡山科学技術専門学校映像音響学科卒業)

「呼吸のように」でリバーブとディレイをオフに

 FOHのコンソールはDiGiCo SD5。PAエンジニアの佐藤氏いわく「サンプリングレートが96kHzに対応していて、解像度の高い音でミックスできるのが利点です」とのことだ。

 「一昨年に、1年間48kHzにしてみようと思ってやってみた結果、やっぱり96kHzだなと。48kHzの方がガッツのあるサウンドという話もありますが、パートごとでは96kHzの質感の方が作業しやすいんです」

 Vaundyのボーカルにはプラグインとして、WAVES Sibilance→F6 Floating-Band Dynamic EQ→Q10 Equalizer→CLA-2A→APHEX VINTAGE AURAL EXCITERを順にインサート。1kHz近辺に特徴があるVaundyの声質を生かすように調整しているそう。リバーブはWAVES H-Reverb、ディレイはSD5内蔵エフェクトを使用。リバーブとディレイについて、佐藤氏がライブならではの興味深い話を教えてくれた。

 「セットリストの中で1曲、「呼吸のように」だけは、後半のバンドが入ってくるところまでボーカルのリバーブとディレイをオフにしているんです。全公演で同じようにしていて、ここでも初日(1月20日)にやってみたら、会場の反射と曲のテンポ感が合っていて、“ディレイ切ってるのにな”って(笑)。各会場がどういう残響なのかがよく分かりましたね」

FOHのコンソールは、DiGiCo SD5を採用

FOHのコンソールは、DiGiCo SD5を採用。約40chをインプットとして使用している。WAVESのSoundGridプラグインに対応しており、佐藤氏は「例えばQ10 Equalizerのパラメーターひとつとっても、会場ごとに全部変えていて、気持ち良く聴ける状態にしようというのが大きい。音は生ものですからね」と語る

SD5の右隣にセットされたラック類

SD5の右隣にセットされたラック類。写真左上のラック最上段にあるYAMAHA SPX990は、佐藤氏が「いろいろ試したけれど、ゲートリバーブだけはこれに代わるものがない」と言う、唯一のエフェクト用アウトボードだ。右側のラック前にあるコンピューターには、L-Acousticsのコントロール/モニタリングソフトLA Network Managerが立ち上がっている。シミュレーションにはSoundvision、音響測定にはM1と、それぞれの用途に合わせたL-Acousticsのソフトが使用された

パワーアンプのL-Acoustics LA12X

パワーアンプのL-Acoustics LA12X。1台で4chの入出力が可能で、総出力は12,000Wを誇る

モニターコンソールのDiGiCo SD10

モニターコンソールのDiGiCo SD10

10UサイズのI/Oラック、DiGiCo SD-Rack

10UサイズのI/Oラック、DiGiCo SD-Rack。データ伝送にはOptocoreを1ループで使用。永易氏は「PAの周辺機器はこの10年で大きく進化しました。Optocoreが出てきたことによって、アナログケーブルを長々と引き回さなくてよくなり、ノイズも乗らないし軽い。願ったりかなったりです」と語る

 全体的な出音の音作りについて佐藤氏は、特にドラムとベース、低域の迫力を出すことを心がけているそうだ。

 「良い音を聴いたなというよりは、ライブに行ったらすごかったな、と思ってもらいたいです。奇麗な音はレコーディングエンジニアの照内(紀雄)君がアルバムで作っているから、こっちはテーマパークに来たような体験をしてほしいなと」

 永易氏も「そう思います。Vaundyさんを引き立たせることが我々の仕事で、PAはあくまでそのセクションの一つ。照明や舞台も含めたみんなの力で作り上げています。来場者の方々には純粋に楽しんでほしいです」と語ってくれた。

 2人の言葉通り、隅々まで埋め尽くされたオーディエンスは、Vaundyの一挙手一投足まで見逃さないかのごとく熱狂していた。Vaundyやバンドメンバーはもちろん、綿密に計算されたインパクトのあるサウンドもその一翼を担っていたことは間違いないだろう。今年も11月からアリーナツアーの開催が発表されたので、それぞれの街で迫力のライブサウンドを味わってみるのはいかがだろうか。

Vaundyのボーカルマイク、SHURE AD2/BETA 58

Vaundyのボーカルマイク、SHURE AD2/BETA 58。佐藤氏いわく「僕は最初からBETA 58が声に合っているだろうと思っていて、本人とも話しながらいろいろ試したところ、やっぱりBETA 58に落ち着きました。でも最終的には、歌っていて気持ち良いマイクを選んでもらうようにしています」と語る

hannaのギターアンプは、VOX AC30HW2

hannaのギターアンプは、VOX AC30HW2。マイクは同じくSM57とC-38Bの2本。「フェスなどでセッティングに時間がない場合はSM57だけですが、アリーナクラスのツアーなので足し算でもいいかなと思い増やしました」と佐藤氏

TAIKINGのギターアンプ。MARSHALL JTM45 Offset reissueのアンプヘッドとキャビネットを使用

TAIKINGのギターアンプ。MARSHALL JTM45 Offset reissueのアンプヘッドとキャビネットを使用。マイクはSM57とSONY C-38Bの2本をセット

Merlyn Kellyのベースアンプ。アンプヘッドはLaney DB500H、キャビネットはDBV410-4

Merlyn Kellyのベースアンプ。アンプヘッドはLaney DB500H、キャビネットはDBV410-4。DIのRADIAL J48と、SHURE SM58で収音している

BOBOのドラムセット

BOBOのドラムセット。マイクは、ハイハットにSHURE SM57、タムはそれぞれSENNHEISER e 904、オーバーヘッドにAKG C 414を使用。過剰な処理をせずに済むチョイスにしているそうだ

スネアのトップにはSM57とAKG C 451をセット。ボトムにはMilab VM-44を使用する

スネアのトップにはSM57とAKG C 451をセット。ボトムにはMilab VM-44を使用する

キックは、インマイクにSHURE BETA 91AとBETA 52を、アウトにBETA 52を用いている

キックは、インマイクにSHURE BETA 91AとBETA 52を、アウトにBETA 52を用いている

マニピュレーターの荻野目諒のセッティング

マニピュレーターの荻野目諒のセッティング。コンピューターにはMOTU Digital Performer、RME TotalMix FXが立ち上がっている。ラックにはRME MADIface XT、FERROFISH A32が格納され、クリックを含む12chを出力している

 

 MUSICIAN 

Vaundy(vo)、hanna(g)、TAIKING(g)、Merlyn Kelly(b)、BOBO(ds)、荻野目諒(manipulator)

 MUSIC 

  1. ZERO
  2. 裸の勇者
  3. 美電球
  4. 恋風邪にのせて
  5. カーニバル
  6. 踊り子
  7. 常熱
  8. そんなbitterな話
  9. 黒子
  10. NEO JAPAN
  11. 不可幸力
  12. 呼吸のように
  13. Tokimeki
  14. 花占い
  15. トドメの一撃 feat. Cory Wong
  16. CHAINSAW BLOOD
  17. 逆光 - replica -
  18. 怪獣の花唄 - replica -
  19. replica

 STAFF 

主催・企画:SDR/Vaundy_ART Work Studio
制作:SDR、Intergroove Productions Inc.

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