ペトロールズ『detour』【コンサート見聞録】

ペトロールズ

結成から約20年を迎えた屈指の3ピースバンドの全国ツアーより、ソールドアウトとなったZepp DiverCity(TOKYO)公演をピックアップ!マイキングやメンバーの使用機材とともに音作りの内側に迫る

長岡亮介(vo、g)、三浦淳悟(b、cho)、河村俊秀(ds、cho)の3人からなるバンド、ペトロールズ。2023年末、初のストリーミング解禁アルバムとなる『乱反射』を発表するなど、結成から約20年を経てますます円熟味を増していると言えるだろう。今回は、2024年3月から5月にかけて行われたツアー『detour』のZepp DiverCity(TOKYO)公演を訪問。3月17日に開催され、ソールドアウトとなった本公演のサウンドメイキングについて、PAエンジニアを務めたWanpakusha K.K.の圓山満司氏に話を聞いた。

DATE:2024年3月17日(日)
PLACE:Zepp DiverCity(TOKYO)
PHOTO:KATADA SHOHEI(ライブ)、小原啓樹(機材)

低音パートに少しだけサチュレーションを

 ペトロールズのPAを行うようになって7年ほどという圓山氏。まずは音作りで意識している点を伺った。

 「あまり僕の方で味付けせずに音が出せたらいいなと考えています。ステージで鳴っている音、3人が考えている音をできるだけ純粋に出すことを意識していて。ツアーの中でも日々バンドの雰囲気が少しずつ変わっていったりするので、そこを曲げないようにしたいんです」

 Zepp DiverCity(TOKYO)では、これまでにもペトロールズのライブが開催されている。会場の印象について聞いてみると、こんな答えが。

 「反響も適度な具合で、この規模の会場としてはすごくやりやすいです。ほかのバンドでPAを行うこともありますが、元からフラットな音になっているので、ブイブイ出したり、逆に抑えたりもでき、比較的自由度が高いと思います。ペトロールズの場合は、低域を強調しすぎないようにコントロールしています。あとはツアーで各地域のZeppでライブを行う際、システムなどほぼ同じ条件でできるのもいいですね」

Zepp DiverCity(TOKYO)は、スタンディング時には1階2,107人、2階214人(座席)、152人(スタンディング)の合計2,473人のキャパシティを誇る。今回のツアー『detour』は、3月10日に神奈川のKT Zepp Yokohama公演からスタートした

Zepp DiverCity(TOKYO)は、スタンディング時には1階2,107人、2階214人(座席)、152人(スタンディング)の合計2,473人のキャパシティを誇る。今回のツアー『detour』は、3月10日に神奈川のKT Zepp Yokohama公演からスタートした

常設のメインスピーカーは、JBL PROFESSIONAL VTX-V25を左右に8台ずつリギング。その下にはサブウーファーのVT4880Aと、その前にVRX928LAが用意されている。サイドのモニタースピーカーは、CODA  AUDIO AIRLINE LA8とLA8-SUB

常設のメインスピーカーは、JBL PROFESSIONAL VTX-V25を左右に8台ずつリギング。その下にはサブウーファーのVT4880Aと、その前にVRX928LAが用意されている。サイドのモニタースピーカーは、CODA AUDIO AIRLINE LA8とLA8-SUB

ステージ前方のウェッジモニター、CODA AUDIO Cue Two

ステージ前方のウェッジモニター、CODA AUDIO Cue Two

PAエンジニアを務めたWanpakusha K.K.の圓山満司氏

PAエンジニアを務めたWanpakusha K.K.の圓山満司氏

 FOHのコンソールは、会場に常設されているDiGiCo Quantum338。圓山氏は、以前常設されていた同社のSD8から使いやすいと感じていたそうで、Quantum338になってさらに多用する機能が増えたとのことだ。

 「Quantumエンジンの機能であるMustardチャンネルストリップに収録されている“Mustard Tubes”はよく使います。複数のサウンドカラーを選択できるサチュレーターのような感じで、バスドラムやベースなどの低音パートに少しだけ混ぜることが多いです。本当に少しだけというイメージで、味付けとコントロールの間のような扱いです」

FOHコンソールの、DiGiCo Quantum338。圓山氏はアウトボードなどを使わず、エフェクトはすべてQuantum338内蔵のものを使用。「できるだけフラットな状態から生まれる良さがあると思っていて、『detour』から内蔵エフェクトだけで挑戦しています。(KT Zepp Yokohamaの公演を終えて)もうちょっとで仲良くなれるかなというところまで来ました」と圓山氏は語る

FOHコンソールの、DiGiCo Quantum338。圓山氏はアウトボードなどを使わず、エフェクトはすべてQuantum338内蔵のものを使用。「できるだけフラットな状態から生まれる良さがあると思っていて、『detour』から内蔵エフェクトだけで挑戦しています。(KT Zepp Yokohamaの公演を終えて)もうちょっとで仲良くなれるかなというところまで来ました」と圓山氏は語る

モニターコンソールのYAMAHA CL5

モニターコンソールのYAMAHA CL5

長岡亮介のボーカルマイク、DPA 2028。バンドサウンドのかぶりへの配慮からフラットなマイクを求め、1〜2年ほど前から使用しているとのこと

長岡亮介のボーカルマイク、DPA 2028。バンドサウンドのかぶりへの配慮からフラットなマイクを求め、1〜2年ほど前から使用しているとのこと

三浦淳悟のボーカルマイクは、Audio-Technica ATM98

三浦淳悟のボーカルマイクは、Audio-Technica ATM98

NEUMANN TLM 102をギターアンプに

 インプットは合計20チャンネルほど。その中でひときわ目を引いたのが、ギターアンプに設置されたNEUMANN TLM 102。レコーディングスタジオで使われる印象の強いマイクだが、かなり効果を発揮しているとのことだ。

 「ライブではあまり見ないですよね。高域が出すぎないイメージがあり、適度なクリアさでちょうどいい。ギターアンプが音量のしっかり出るDr.Z Prescription RX ES Comboなので、コンソールのヘッドアンプでゲインをそれほど上げなくてもよく、周囲の音を拾ったりするのもあまり気にならないです。もう使いはじめて何年かたちますが、コンソールで大きな処理をしなくてもよくなりましたよ」

 バスドラムにはALIEN8、ベースにはCAPSULE8と、DrAlienSmithの双指向性マイクがそれぞれ用いられている。

 「最初にALIEN8を使用しました。使う前は双指向性で大丈夫なのかなと思っていましたが、アタック感と、空間を含めたロー感を収録するなら理にかなっているなと感じています。すごくナチュラルな音、という印象です」

長岡が使用するRS Guitarworks STee Blackguard II

長岡が使用するRS Guitarworks STee Blackguard II

長岡のペダルボード。左上から時計回りに、Sonic Research ST-200(チューナー)、GFI System Specular Reverb V2(リバーブ)、UNION TUBE & TRANSISTOR TSAR BOMBA(ファズ/ディストーション)、WAY HUGE ELECTRONICS FAT SANDWICH(ディストーション)、操作子の表記からひずみ系と思われるペダル、VITAL AUDIO POWER CARRIER VA-R8(パワーサプライ)、JIM DUNLOP GCB-95 cry baby(ワウペダル)、BOSS DD-5(ディレイ)とフットスイッチ、STUDIODAYDREAM TRIGGER 3(スイッチャー)、solidgoldfx NU-33(ローファイモジュレーター)、strymon blueSky(リバーブ)

長岡のペダルボード。左上から時計回りに、Sonic Research ST-200(チューナー)、GFI System Specular Reverb V2(リバーブ)、UNION TUBE & TRANSISTOR TSAR BOMBA(ファズ/ディストーション)、WAY HUGE ELECTRONICS FAT SANDWICH(ディストーション)、操作子の表記からひずみ系と思われるペダル、VITAL AUDIO POWER CARRIER VA-R8(パワーサプライ)、JIM DUNLOP GCB-95 cry baby(ワウペダル)、BOSS DD-5(ディレイ)とフットスイッチ、STUDIODAYDREAM TRIGGER 3(スイッチャー)、solidgoldfx NU-33(ローファイモジュレーター)、strymon blueSky(リバーブ)

ギターアンプのDr.Z Prescription RX ES Combo。マイクは左にNEUMANN TLM 102、右にSHURE SM57を立てている

ギターアンプのDr.Z Prescription RX ES Combo。マイクは左にNEUMANN TLM 102、右にSHURE SM57を立てている

三浦が使用するFender Jazz Bass

三浦が使用するFender Jazz Bass

三浦のペダルボード。左上から時計回りに、dicosimo Audio 360+ bass preamp(DI/プリアンプ)、VITAL AUDIO POWER CARRIER VA-R8(パワーサプライ)、peterson STROBO STOMP HD(チューナー)、electro-harmonix Bass Micro Synthesizer(ベースシンセ)、BASSBALLS(フィルター)、MXR M288 bass octave deluxe(オクターバー)

三浦のペダルボード。左上から時計回りに、dicosimo Audio 360+ bass preamp(DI/プリアンプ)、VITAL AUDIO POWER CARRIER VA-R8(パワーサプライ)、peterson STROBO STOMP HD(チューナー)、electro-harmonix Bass Micro Synthesizer(ベースシンセ)、BASSBALLS(フィルター)、MXR M288 bass octave deluxe(オクターバー)

ベースアンプのFender Super Bassmanと、キャビネットのBassman 610 NEO ENCLOSURE。マイクのDrAlienSmith CAPSULE8と、ライン出力もミックスしている

ベースアンプのFender Super Bassmanと、キャビネットのBassman 610 NEO ENCLOSURE。マイクのDrAlienSmith CAPSULE8と、ライン出力もミックスしている

河村俊秀のドラムセット。トップのL/RにはAKG C 414を配置

河村俊秀のドラムセット。トップのL/RにはAKG C 414を配置

バスドラム内側のホール付近にあるのが、双指向性マイクのDrAlienSmith ALIEN8(赤枠)

バスドラム内側のホール付近にあるのが、双指向性マイクのDrAlienSmith ALIEN8(赤枠)

スネアのトップとボトムには「ソリッドな感じが合うかと」という理由から、Audio-Technica AE2300をチョイス

スネアのトップとボトムには「ソリッドな感じが合うかと」という理由から、Audio-Technica AE2300をチョイス

河村のボーカルマイク、SHURE BETA 56A

河村のボーカルマイク、SHURE BETA 56A

 また、長岡と三浦のモニターにはイヤモニを使用していない。スピーカーを使うことにも確固たる理由があった。

 「ここ数年コーラスワークが増えたことでモニターの重要度が高くなっていて。イヤモニを試したりもしましたが結局戻りました。モニタースピーカーにはボーカル以外、楽器の音はほとんど返していなくて。ステージ上の音作りでモニタリングが完結しているとも言えるから、ステージで鳴っている音を客席へ奇麗に出すことで、バンドの魅力が伝えられるんじゃないかと。PAエンジニアがいないものだと思って、ステージ上の音を想像して体感してくれたらうれしいです」

 「3人が集中できる環境こそが大事だと思っています」とも語る圓山氏。ステージ上は過度な装飾を排したシンプルなセッティングになっていて、ライブが始まると、気づけば3人の密度の濃い演奏に集中していた。自然と体が動きだすようなグルーブ感や心地良いコーラスワークは、唯一無二と言えるだろう。テンポよく掛け合うMCとのギャップも楽しく、ステージと客席が一体となっているのを大いに感じられた。

 

 MUSICIAN 

長岡亮介(vo、g)、三浦淳悟(b、cho)、河村俊秀(ds、cho)

 MUSIC 

  1. トンネル
  2. ツバメ
  3. No
  4. KOMEKAMI
  5. 夜中の数学
  6. Bus31
  7. WAON
  8. 水蒸気
  9. また会う日迄
  10. HIGH LIGHT
  11. Talassa
  12. アニマル
  13. SIGHT
  14. Fuel
  15. ASB
  16. ないものねだり
  17. SIDE BY SIDE

 MUSIC 

企画:花岡無線電気株式会社・WKK/ENNDISC
主催:シブヤテレビジョン

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