音楽は全部データ化できると思うんですけど
数字だけでは解明できない部分で
気持ち良いとかカッコイイという言葉で表現されている
2021年、“再起動”したTM NETWORKは、この2年間で期待を裏切らない活動を展開してきた。コロナ禍における配信ライブ『How Do You Crash It?』は、ボーカル宇都宮隆とギター/キーボードの木根尚登、そして小室哲哉の3人のみで行われ、新曲とともに新たなライブ・アレンジ楽曲も相まって彼らの音楽世界が存分に発揮された内容となっていた。さらに2022年は7年ぶりとなるライブ・ツアー『TM NETWORK TOUR 2022“FANKS intelligence Days”』を開催。全9公演で行われたライブで、今後の展開をさらに期待させる演出を見せた。そして、2023年4月21日、TM NETWORKデビュー39周年となったこの日、最新作『DEVOTION』のリリースと秋のツアー開催が発表。2024年のデビュー40周年に向けて歩みを止めないTM NETWORKだが、今回はそのキックオフとなるプロダクト『DEVOTION』について、小室に制作過程を大いに語ってもらった。
『シティーハンター』をきっかけにTMの40周年をスタートさせる
——昨年のライブ・ツアー『TM NETWORK TOUR 2022“FANKS intelligence Days”』を経て、今回の制作へはどのように進んでいったのでしょうか?
小室 あのツアーを3人だけで行ったというのはTM NETWORKとしては大きな出来事でした。40年近く経って初めてだったので。3人でやろうと思ったのは、せっかく久々の有観客でライブを見ていただくなら視線を浴びるのは3人が等分で良いんじゃないかというのが発想の発端だったんです。特に木根さんにはギターをもう一回頑張ってみようよ、という思いがあって(笑)。もともと、3人でも音楽を奏でられるという前提はあったので、そこまで落とし込んでみようと。結果、お客さんにも喜んでもらえたと思っていますし、さらに40周年ということも現実的に見えてきたので、そこからスタッフとどう動いていくのが良いのかな?と話し合いを進めました。
——その中で、今年公開のアニメ『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』のオープニングテーマが決まったのでしょうか?
小室 そうですね、『シティーハンター』をきっかけにTMの40周年をスタートさせるのがすごく良いなと思って。「Get Wild」をエンディングテーマというお話もいただいていたんですけど、当時から新宿の街も随分変わりましたし、公衆電話からスマホにもなっているし……冴羽獠の年齢は当時のままですけど(笑)。とにかく古き良きものはそのままで、何か新しい曲は欲しいよねというのは僕らも願っていたので、それが『シティーハンター』のオープニングテーマというのはぴったりだなと。それで昨年のうちに「Whatever Comes」を作り始めたんです。今回のアルバムには入っていないんですけどね。似てないですけど、「Self Control」とか「WILD HEAVEN」くらいのスピード感は感じてもらえるかなと。
——では、順序としては「Whatever Comes」ができてから、アルバム・タイトル曲「DEVOTION」を作っていったのですか?
小室 そうですね。
——「DEVOTION」はどのように生まれた曲だったのでしょう?
小室 世の中に、日々、どんどん楽曲が生み出されている状況になっていて、まずキーとなる言葉を選ばないといけないなと思ったんです。TMだと「I am」くらいからそういう考え方になっていたんですけど、せめて同時期にかぶらないタイトルをと。すごく普遍的なワードとかフレーズなどは仕方ないと思うんですけど、ある程度オリジナリティを感じられる言葉、響きが必要だなと思って。1990年代までは良かったですよね、「Self Control」など、まだ使われていないタイトルがゴロゴロありましたから(笑)。困らなかったんです。でも今回はなかなか思い浮かばなくて……「How Crash?」のときも、タイトルにはすごく悩んだんですけど、特にコロナ禍ということもあり、ちょっと重めの言葉を選び、“How Crash?”という言葉ありきで曲を作っていったんです。なので、今は次から次へと新ネタが思い浮かぶような多作になるのは難しいですね。僕らの年齢の問題ではなく、そういう時代になっちゃったなと。だから今作も全曲オリジナルではなくて良いなと思ったんです。
——タイトルが先だったのですね。
小室 そうですね、去年のぴあアリーナMM公演が終わったくらいから、何となく新曲についてのイメージはしていて、ふとしたタイミングに“DEVOTION”という言葉を見つけたんです。“~TION”というワードがメロディにハマりそうだなという点と、意味合い的にも良いなと。「Whatever Comes」も作っていたので、アニメ制作のスタッフからいろいろと話を聞いていて、「DEVOTION」の歌詞にも影響を受けましたね。そのときの印象として、皆さんちょっとシャイというか、いい意味でデフォルメして伝えているという感じが、“DEVOTION”の意味=献身にもハマると思いました。ちなみに「Whatever Comes」の作詞は小室みつ子さんなんですけど、僕が電話で2時間くらいアニメの物語の内容を説明して(笑)、その上で書いてもらったんです。そういうやり取りは懐かしかったですね。最近は作詞作曲をパッケージでやることが多かったので。
——そうだったのですね。では「DEVOTION」の作曲はどのように進めていったのでしょうか?
小室 頭のリフからですね、いわゆる小室哲哉リフというか(笑)。それを取っ掛かりに他の楽器のリフもどんどん重ねていって、ハマりそうなリフをはめていく感じでオケを作っていきました。隣に“DEVOTION”という言葉を置きながら、どこにその言葉が入っていくかな?というのを考えていましたね。
Photo:Mutsumi Ito
ウツのボーカルに関してはリクエストしたことはほとんどない
——サウンド面で今回気に入って使ったシンセというのはありましたか?
小室 その辺はあまり変わってはいないですね。ソフト・シンセが中心で、近年よく使っているソフトでお気に入りのサウンド・リストがあって、そこから選んだり。もちろん新しい音も探しながらやっていましたが、そろそろサウンドを提案してくれるAIの機能も当たり前に実装されそうですね。自分の音を作ったり探したりする作業って、面倒くさいし大変だけど、ハマったときの気持ち良さがあるので、それをAIが決めてしまうのは寂しい面もありますけど。あとは、さっき言った木根さんにギター回帰してもらおう、というのが制作面でも反映されていて、音色に関してはライブでもそのまま再現できるようにLINE 6 Helixを使っているんです。
——小室さんもギターを弾きながらリフを作ったのですか?
小室 そうですね、僕が弾ける範囲ですけど(笑)。あとはギターのソフト音源を使って、フレーズを考えたりもしました。画面に指板が表示されるので、それを見ながら運指を確認したり。フレーズ自体はそんなに難しくないので、昔ギターをやっていた人が、ちょっとやってみたいな、と思ってもらえるものを作りたいとも考えていたんですよ。
——トラックが完成して小室さんのガイドメロを乗せて宇都宮さんへ渡してボーカル・レコーディングへ進んでいく、というのはこれまで通りの流れでしたか?
小室 ええ、順番はこれまで通りで。メロディを乗せるときに歌詞も一緒に書いていきますが、部屋に持ち帰ってから考えることもありましたね。「DEVOTION」は、歌うのはそんなに難しくないのかな?と思ってウツに送ったんですけど、“また難しいのが来たね”という反応でした(笑)。多分、「I am」のときくらいから、TMの歌はちょっと違うフェーズに入ったかなと感じているんですけど、意外とサラッとやってくれていたので今回も大丈夫かなと思ったら、そういう反応でした。でも、上がってきたのを聴いたら想定通りしっかりハマっていました。
——上がってきた歌に関して、小室さんからのリクエストというのはあったのですか?
小室 基本、ウツに関してはリクエストしたことはほぼないです。向こうは(ボーカル録音担当の)伊東俊郎さん含め、分析してやってくれているし、今回も僕のガイドメロほとんどそのままで歌ってくれていたと思いますよ。結果この「DEVOTION」は、前ツアーの「How Crash?」のように、今後のTMにとっても重要な曲になっていくんだろうなという予感はしていますね。
「TIMEMACHINE」は頭からMinimoogを手弾きした
——アルバム収録曲には、再起動からのライブで披露した曲を“TK Remix”という形で収録しています。選曲の基準などはあったのですか?
小室 最初にお話したように、全曲オリジナルではなくても良いなと思っていたので、ライブのみで披露したアレンジで収録しようと選びました。今回のリミックス曲は、コロナ禍に行ったライブ・アレンジがベースになっているので、そのときの世界の情勢や地球というのがテーマになっているのが多いですね。リミックスは、過去に海外のリミキサーへ依頼して作品を作ったことがありましたが、当たり外れもあり(笑)。自分でもこれ以上のリミックスは難しいよね、という曲も実際にはあるんですけどね。例えば「STILL LOVE HER (失われた風景)」などはこれ以上いじりようはないなと。リフがAメロになっているし、僕が最も好きなアレンジのパターンなんですけどね。
——そんな中で木根さんが作曲した新曲「君の空を見ている」が入りました。
小室 今回のアルバムに入れる曲として、木根さんが候補曲を幾つか送ってくれていて、その中でTMの曲としてどう生かしていくか、という観点で一番しっくり来たのがこの曲でしたね。その判断をするのも僕の仕事だと思っているので、結構たくさん曲は送って来てくれたんです。歌詞は小室みつ子さんに依頼して、僕は木根さんのデモも参考にしつつ、アレンジを施していったという流れですね。
——木根さんの作曲としては、今回初めてスタジオ録音となった初期の代表曲「TIMEMACHINE」が、ボーナス・トラックとして収録されています。
小室 僕ら3人としては、すごく意識しているという曲ではないんですよね、「Nights of The Knife」も含めて。やっぱり1994年の終了コンサート『TMN 4001 DAYS GROOVE』のイメージがあって、「TIMEMACHINE」を音源化すると“TMが終わるんじゃないか?”と思う人がいるかもしれないんですけど、そんなことはなくて。僕らはサラッと作ってしまおう、という感じでした(笑)。でもアレンジは悩みましたね。1980年代ならではのフォークっぽさと現代の曲とのバランスを考えた際に、なかなかサウンドがなじまないなと。結果、MIDIを使わないで、頭からMOOG Minimoog Model Dを手弾きで、フィルター操作なども全部マニュアルで演奏したらハマったんです。あらためてMinimoogのすごさを実感しましたね。オーケストラと一緒に演奏しても、あの1台だけは抜けてくる。今、一番好きなシンセを挙げてと言われたら間違いなくMinimoogを選びますね。
——「TIMEMACHINE」が1980年代の曲で、Mimimoogは1970年代の楽器ということで、それの組み合わせが現代の音像にハマるというのは、興味深いですね。
小室 そうですね、そのロジックは音響工学やAIなどが解明することができるようになるとは思うんですけど、でも今はまだ感覚的に良いよね、というのが正解だと思うんです。音楽は全部数字に置き換えられデータ化できると思うんですけど、数字だけでは解明できない部分で、気持ち良いとか、カッコイイという言葉で表現されているんだと思います。
TM NETWORKのように素直に歩めていけるグループはなかなかいない
——今回のアルバムを通して聴いてみると、ツアーのテーマも踏襲していたと思いますが、歌詞の中で“地球”というワードがほとんどの曲で使われていて、TM NETWORKとして今表現したい部分も収められた作品と感じました。
小室 来年40周年を迎え、まぁまぁ長く続いているバンドだと思うんですけど(笑)、紆余曲折を経ていろんな時代にアジャストしながらここまで来たんだと思うんです。30周年くらいからTM NETWORKとしての立ち位置はほぼ決まっていて、「KISS YOU」や「Self Control」のMVを見返してみても不思議と一貫性があるんですよね。だから良い立ち位置になっていると思っています。でも、この先も新曲という意味でも新しいものは積み重なっていくので、そこはぶれずに進んでいきたいと思います。
——秋からはツアーも始まりますし、そちらも楽しみです。
小室 今回のアルバムや昨年のツアーで披露した曲以外にも、また進化させた形で披露できたらとも思っています。現時点ではまだ具体的な曲に関しては決まっていないですけどね(笑)。
——今回のアルバムが完成した後に、宇都宮さんや木根さんとはどんな話題になりましたか?
小室 歳を取ったからかもしれないですけど、素直に“良いね!”と言っていましたね。昔はそんなに言ってもらえなかったんですけど(笑)。制作中は、こうしてほしいとか、ちょっとしたことでも意見を言ってくれるようになって、それも前より素直に言えるようになったのかなと。とてもいい関係だと思いますよ。
——アルバムを聴くと、ライブで披露された曲もあったからもしれませんが、3人の良い関係性が伝わってくる感じがしました。
小室 そうだとうれしいですね。いろいろな理由でうまく運ばないバンドもいる中で、TM NETWORKのように、素直に歩めていけるグループはなかなかいないと思いますし、この先も、まずは40周年に向けて進んでいきたいですね。
【インタビュー】TM NETWORK『DEVOTION』を小室哲哉が全曲解説
【インタビュー】小室哲哉の制作拠点「TETSUTA KOMURO STUDIO」に潜入!
Release
『DEVOTION』
TM NETWORK
ソニー・ミュージックレーベルズ/ALDELIGHT
初回生産限定盤:MHCL-30834~5、通常盤:MHCL-30836
Musician:宇都宮隆(vo)、小室哲哉(k、g、cho)、木根尚登(g、cho)、溝口和彦(prog)、赤堀眞之(prog、g、b)、松尾和博(g)、佐々木詩織(cho)、SAK.(cho)、会原実希(cho)、大越王起也(g)、iBerry(g)
Producer:小室哲哉
Engineer:佐藤雅彦(mixmix)、奥田裕亮(Sony Music Studios Tokyo)、デイヴ・フォード、佐竹央行、伊東俊郎、溝口和彦、赤堀眞之
Studio:Pavillions、Basement、HeartBeat、MECH、Sony Music Studios Tokyo
TM NETWORK TOUR 2022 FANKS intelligence Days AFTER PAMPHLET



TM NETWORKの再起動後初となるツアーに密着した3巻構成のアフター・パンフレットが小社リットーミュージックより発売中。Vol.1はリハーサルからDay1の三郷市文化会館公演、Vol.2は東京国際フォーラム/大阪オリックス劇場/名古屋国際会議場センチュリーホール、Vol.3はDay8~9のぴあアリーナMM公演をバックステージや機材も含め徹底レポート。『DEVOTION』から今秋のツアーに至る40周年目前のTMを知る、FANKS必携の3冊!