SKY-HI『THE DEBUT』インタビュー 〜衝動性とピュアネスが主題の楽曲制作に迫る

SKY-HI『THE DEBUT』インタビュー 〜衝動性とピュアネスが主題の楽曲制作に迫る

ラッパー/シンガー・ソングライターとして活動する一方で、マネージメント/レーベルであるBMSGの代表取締役CEOも務めるSKY-HI。めまぐるしい日々のなかで“気付いたら出来上がっていた”という彼の6作目のオリジナル・アルバム『THE DEBUT』について、本人および、表題曲「The Debut」を手掛けたプロデューサーChaki Zulu氏、収録曲のレコーディングを手掛け、SKY-HIのライブではDJ/マニピュレーターとして活躍するHIRORON氏へインタビューを敢行。“THE DEBUT”というテーマを伝えるために、何を考え、どのような制作手法を採ったのだろうか。ここでは、まずSKY-HIの声を届けるとしよう。

心の機微がある日々から楽曲が生まれた

前作『八面六臂』についての本誌のインタビューで“オルタナティブな人になっていきたい”と発言されていたのが印象的でした。本作の収録曲もバラエティに富んでいて、そのマインドを感じます。

SKY-HI 自分がそう話したことを覚えていないくらい、“オルタナティブな人でありたい”というのが根底にあったと思います。やっぱり自分で面白いと思えるものしか出したくない、という思いはすごく強くなった気がしますね。

『THE DEBUT』はアルバムを作ろうと意識して制作されたのですか?

SKY-HI 全然ですね(笑)。なので、もうこういう作り方は本作でやめようと思っています。完全に構築性のみに振り切ったアルバムの制作を年末くらいから考え始めて、早くて2年後くらいにリリースできるかなと。『THE DEBUT』は“スタジオ入りました、作りました”の連続でした。心の機微が大いにある日々を過ごしているが故にできた作品だと思います。とてもありがたい日々ですね。

制作が一番楽しかった曲は何ですか?

SKY-HI う~ん……難しいな。すごいスピードで出来上がったのは最後の「The Debut」で、“ノー・プレッシャー”という意味だと「Crown Clown」かな、「Happy Boss Day」かな……?

「Crown Clown」と「Happy Boss Day」はどちらもRyosuke “Dr.R” Sakaiさんがプロデュースされていますね。

SKY-HI このアルバムにおいて、Sakaiさん(Ryosuke “Dr.R” Sakai)にプロデュースしてもらった頭の3曲と、最後の「The Debut」が重要で。『THE DEBUT』は“衝動性とピュアネス”がテーマなんです。なので、余計なことを一切考えずに脊髄反射的に出てきたものに身を任せていくという作業が一番すべきことでした。やっぱり生きているといろいろなことを考えるじゃないですか。それはそれでいいことだと思うんです。曲を作るときも“どうやったら売れるかな”って、少なからず考えちゃう癖が体に染みついているんだけど、それを一切なくすっていう。“ボールが来たから打った”みたいな感じにとことんするっていうのが大事で、今それが一番できるのは、Sakaiさんとスタジオに入ることなんです。

Ryosuke “Dr.R” Sakaiさんが手掛けた最初の3曲と、最後の「The Debut」は、どちらも“衝動性”を感じる一方で、曲調は真逆と思えるほど違いますね。

SKY-HI 「The Debut」は、“このアルバムを象徴するものを作らなきゃいけない”と思い、ある意味計算して衝動性を出していきました。複雑な話ですけど、制作時間はとても短かったです。

どのくらいで完成したのですか?

SKY-HI トラック制作から歌詞を作って歌入れまでで2時間くらいかな。自分はどうしても音符の数やメロディの幅だったり、技術的にできることをたくさんやりたくなってしまうのですが、Chakiさんと“今やるべきことは何なのか”を分析して、そういうものはほかにもいっぱいやっているんだから、一切難しくないものを作るべきだという話になりました。脊髄反射的に出てくるものは、やっぱり頭の3曲になるんです。それはそれで正しいんだけど、説明しないと伝わらない。説明無しで伝えるには、体系的に分解して表現することが必要だと思います。そのサービス精神を排除して作りたかったのが頭の3曲で、実際伝えるために何をするべきかを考えたのが最後の「The Debut」。歌詞を書くときはニヤニヤしながら書きましたね。最初の3曲で“社長でボスでリーダーで”って言っているのに、最後の曲で“大人になんてなりたくない”って……めちゃくちゃ面白かった(笑)。

おっしゃる通り、そのギャップには驚きました。

SKY-HI 俺もびっくりしちゃった。でも、大事にしていることでもあるかなという気がします。BMSG設立以降プロデュースやディレクションをする機会が本当に多くなって、その際に自分が一番大事にしているのは、完璧じゃなさそうな面も相手に見せ続けられるかどうかなんです。自分が裸になれる状態だと、相手も“この人にかっこいいところを見せなくてもいいんだ”っていう気持ちで向き合ってくれる。それはプロデューサーとアーティストのコミュニケーションとして理想的だと自分では思っています。

それをリスナーに対しても試みたのが最後の「The Debut」ということですね。

SKY-HI そうですね。多分できているんじゃないかな。特にこの曲は作り終えたとき、“あれ、これでいいんだっけ”みたいな気持ちにもなりましたが、今では家に帰ると一番よく聴いています。BE:FIRSTのメンバーに歌詞だけ見てもらったら、“世間一般的な”社長っぽくは全くないけど、超日高さん(SKY-HI)っていう感じがするって言われて、“やっぱりそうかもね!”という気持ちになれました。楽曲制作において、手癖の言葉遣いやラッパーとしてのアティチュードが、時には人間としての本質的な部分を濁らせることもあると思うし、濁ってもかっこいいと思うんだけど、今回はさらけ出せて良かったなという気がしています。

イメージは身振り手振りで伝える

Ryosuke “Dr.R” Sakaiさんは、SKY-HIさんの楽曲ではおなじみになりつつありますね。

SKY-HI 結構長い付き合いかと思ったら、実は一緒に制作をするようになってまだ2年なんですよ。頭の3曲はSakaiさんとスタジオで会話をしながら作って、帰るころにはもう完成していました。2週間で3曲すべてできていたと思います。

会話を通してどのようにイメージを伝えるのですか?

SKY-HI 今回はテーマである“衝動性とピュアネス”を表せるのってどんな音像なのかっていうのを、実際に歌ったり、動きで表しながら伝えました。イメージを伝えるときは、ノンバーバル・コミュニケーションが多いです。

身振り手振りを交えたコミュニケーションの取り方ですね。「I am」はソウル感のあるイントロからインパクトを感じました。

SKY-HI ソウルネタのヒップホップを長いことやってこなかったのですが、そういうものを青春時代に聴いていたので、回収したいなと思っていたんです。黒沢さん(黒沢 薫)から「Wake Up」という楽曲でフィーチャリングのオファーをいただいたのもあって、黒沢さんから音楽的なフィードバックが欲しくて。おこがましくも、そのレコーディングの際に歌声をいただいて、この楽曲を作る意義ができました。

3RACHAが客演参加したUTAさんプロデュースの「JUST BREATHE」は、展開が多く挑戦的な曲になっていますね。

SKY-HI 3RACHAやStray Kidsの作品には音楽的なチャレンジがあってかっこいいので、彼らをとにかくびっくりさせたいと思ったんです。ノリはドリル寄りにして、プリフックで展開させて、さらにフックでノリ方を変えて前半を作りました。そして後半は“もっと遊ばなきゃだめだ!ここまでは想像できる!”と思い、まさかの途中で6/8拍子に変えちゃうっていう。あれは最高でした。UTA君のところで悪乗りしてできた曲と言ってもいいですね(笑)。

☆Taku Takahashiさんプロデュースの「Fly Without Wings」は、映画『ソニック・ザ・ムービー/ソニックVSナックルズ』を見ながら作ったと聞きました。

SKY-HI そうですね。2000年代のビッグ・ビート的なヒップホップが、ソニック的にわくわくすると思ったので、その方向性で制作をしました。

ボーカル・エフェクトが多彩ですね。

SKY-HI 2000年のものをそのまま今やってもしょうがないので、未来感を作るために試行錯誤したうちの1つがそれかな。ただラップは2000年代のマナーのものがやりたくて。テクニックが要されるものをやりがちなんですけど、今回はオーセンティックなラップをしっかりやりたかったんです。それで、フックはどうしたらもっと面白くなるかなと考えて、ANTARES Auto-Tuneをかけたり、オクターブ上を加工して入れたりという作業をしました。

「MISSION」は自分にしか作れない曲

「MISSION」は、2023年1月13日に放送が開始されるBMSGの新グループ=MAZZELのオーディション・ドキュメンタリー番組『MISSIONx2(ミッション・ミッション)』のテーマ・ソングです。SKY-HIさんとSHIMIさんによるユニットSOURCEKEYが手掛けていますね。

SKY-HI この曲の制作は自分じゃないとできない作業でした。誰かプロデューサーを入れてしまったら完成させられないんです。気持ちを込めて、自分の好きなように作りました。

前半のビートはリバービーなのに対し、ドロップで一気にタイトになる、というように、音作りを含めて場面が展開していきますね。

SKY-HI 映画っぽくしたかったんです。ストーリーのあるものなので、展開ごとに違う曲を作っているイメージでした。

どのような手順で制作されたのですか?

SKY-HI 最近はトップ・ライン(歌メロ)を先に作るという方法に妙に可能性を感じています。1回メロディを頭の中で完全に構築してから、そのメロディが入るトラックをイメージして作り、トラックに合わせてメロディを変える、という方法ですね。「MISSION」は、まずフックができて、その延長でバース、プリフックを作り、もう一回頭のフックを入れてみたら、求めていた盛り上がりより少しミニマルな響きになってしまったので、メロディを変えました。ドロップは全然違うものにしたくて、“ここはドロップですよ”という空間とラップだけを入れた状態でSHIMIさんに送っています。ソフト・シンセは、SPECTRASONICS Omnisphere、NATIVE INSTRUMENTS Massive、FUTURE AUDIO WORKSHOP SubLabなどを使いました。この辺りがあればどんな曲でも作れると思っています。Spliceなどのサンプル音源はあまり使わないようにしているのですが、「MISSION」のボイス・サンプルはSpliceのものです。これは、ピッチを変えるだけで完璧にはまりました。

Spliceなどのサンプル音源をあまり使わないようにしているのはなぜですか?

SKY-HI サンプル音源に魂がないというようなことは全く思っていませんが、意識すると単純に自分の気持ちが乗らなくなっちゃうんです。使う必要の無いところは使いませんが、逆にハマるところには使います。ただ、歌っているときにSpliceだなっていう意識があると衝動性とピュアネスに欠けるので、今はとにかくそれを大事にしたいんです。

SHIMIさんに渡す際には何を伝えたのですか?

SKY-HI 『MISSIONx2(ミッション・ミッション)』のテーマ・ソングで、こういう気持ちで作っているんだよねという話をしました。信頼しているがゆえ、SHIMIさんに投げる段階は年々雑にはなっていますね。そして、SHIMIさんも遠慮無くいじってきます。確か「MISSION」のイントロのオケヒットはSHIMIさんだったかな。

どこからがSHIMIさんで、というような境界線ははっきりしていないのですね。

SKY-HI そうですね(笑)。SHIMIさんとのやりとりもそうだし、大げさじゃなく、アルバムも日々の中で気が付いたらできていたという感じだから。今は本当に仕事とプライベートの境界線も特にないし、制作もライブもすべてがフラットです。

SHIMIさんはアルバムのミックスも多く手掛けられています。本作のミックスを手掛けたエンジニアの方にはどんな要望を伝えたのですか?

SKY-HI “ちょっと割る”ということですかね。ここ1年はプロデュースやディレクションの関係で歌唱技術において知見が膨らんだのですが、中でも“声を割る”という作業を、衝動性とピュアネスを表現するために意識的に多くしています。それをミックスで奇麗にしてしまわないよう、かつピーキーにならないように、元の素材を大事にしつつ、割っていくっていう。ビットを荒くするものもあれば、薄いディストーションをかけるものもありました。方法はいろいろでしたが、どれも目的は衝動性の担保でした。

最後に今後の音楽制作においてチャレンジしたいこと、やりたいことを教えてください。

SKY-HI そろそろ周りの音楽をやっている友人がプロデュースなどに回るタイミングなので、今のうちにそういう人と一緒に音楽をやっておきたいです。その後は構築性だけで作られたようなアルバムの制作ですね。これができれば自分の音楽人生、結構満足なところまで行く気がしています。

Release

通常盤
通常盤(2DVDもしくはBlu-rayが付属)
初回生産限定盤(CD+2DVDもしくはBlu-ray+フォト・ブックを同梱)
左から通常盤、通常盤(2DVDもしくはBlu-rayが付属)、初回生産限定盤(CD+2DVDもしくはBlu-ray+フォト・ブックを同梱)

『THE DEBUT』
SKY-HI
B-ME:AVC1-63394/B~C、AVC1-63395/B、AVCD-63391/B~C、AVCD-63392/B、AVCD-63393
※2DVD/Blu-rayには、『SKY-HI HALL TOUR 2022 -八面六臂-』のライブ映像(2022年2月25日のLINE CUBE SHIBUYAおよび2022年9月1日の国際フォーラムA)、「JUST BREATHE feat. 3RACHA of Stray Kids」「Bare-Bare」「Fly Without Wings」「The Debut」のミュージック・ビデオを収録

Musician:SKY-HI(vo)、Aile The Shota(vo)、JUNON(vo)、LEO(vo)、3RACHA of Stray Kids(vo)、Novel Core(vo)、edhiii boy(vo)、Atsuki(tp)、Tocchi(tb)
Producer:Ryosuke “Dr.R” Sakai、SUNNY BOY、TRILLl DYNASTY、hokuto、UTA、KM、SOURCEKEY、☆Taku Takahashi、Chaki Zulu
Engineer:Ryosuke“Dr.R”Sakai、HIRORON、D.O.I.、SHIMI from BUZZER BEATS、Hideaki Jinbu、Tadashi Matsuda、Chaki Zulu
Studio:STUDIO726 TOKYO、magical completer studio、Daimonion Recordings、NEW WORLD STUDIO shibuya、prime sound studio form daikanyama、MSR lab、Husky Studio

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