TK AUDIO Transceiver 2 レビュー:バランス信号とアンバランス信号を変換する4chのインサート・ステーション

TK AUDIO Transceiver 2 レビュー:バランス信号とアンバランス信号を変換する4chのインサート・ステーション

 TK AUDIOはスウェーデンの技術者、トーマス“TK”クリスチャンソンによって2008年に設立された新興ブランド。ヒット商品のステレオ・バス・コンプレッサー、BC1は時折スタジオでも見かけるので試したことがありましたが、音楽的かつクリーンな印象でした。今回レビューするTransceiver 2は音色のフラットさが肝になるので、どこまで使える作りになっているのか検証していきたいと思います。

ギター録音時のリアンプやインピーダンス・マッチングに便利

 Transceiver 2は、4chのインサート・ステーションで、バランス信号をアンバランス信号に変換し、色付けなしに元に戻すためのデバイスです。高品質のDIボックスとリアンプ・ボックスがセットになったものと考えると分かりやすいでしょう。主な使用用途は、オーディオ・インターフェースに本機を接続して、コンパクト・エフェクターをDAW上でインサートしたり、ライン録音したギターをギター・アンプで鳴らすリアンプなどですが、そのほかにスタジオ機材をギター用のエフェクターとして使いたいときにインピーダンス・マッチングを取るのにも便利です。もちろん、シンプルにDIボックスとしても使えます。

 フロント・パネルにはTRSフォーンのセンド端子とリターン端子、フェーズ・スイッチ、センドとリターンの音量つまみに加えて、エフェクトのDRY/WETを調整するブレンド・コントロールのつまみを配置。こちらは旧Transceiverから新たに追加された機能です。つまみは41ステップのクリック式になっていました。

フロント・パネル(1ch分)。左端の上がセンド(TRSフォーン)、下がリターン(TRSフォーン)。その右からセンド・レベルつまみ、リターン・レベルつまみ、フェーズ・スイッチ、ブレンド・コントロールつまみ(0がDRY、10がWET)。各つまみは41ステップのクリック式となっている

フロント・パネル(1ch分)。左端の上がセンド(TRSフォーン)、下がリターン(TRSフォーン)。その右からセンド・レベルつまみ、リターン・レベルつまみ、フェーズ・スイッチ、ブレンド・コントロールつまみ(0がDRY、10がWET)。各つまみは41ステップのクリック式となっている

 リア・パネルにはXLRの入出力端子が配置されており、それぞれが4系統分用意されています。入出力はトランスレス設計で、電源回路にはトロイダル・トランスを使用するなど、妥協のない仕様と言えるでしょう。

リア・パネルには4チャンネル分の入出力(XLR)が並んでいる

リア・パネルには4チャンネル分の入出力(XLR)が並んでいる

シンプルで自然な録り音 抜けの良い音のまま音量を調整可能

 それでは実際に本機を試していきましょう。今回はギターにFENDER Stratocaster、アンプに同社のTwin Reverb、マイクにAKG C414、マイクプリにFOCUSRITE ISA828を使用しました。DAWシステムにはAVID Pro Toolsを使い、オーディオ・インターフェースのAPOGEE Symphony I/O MKIIに本機を接続してチェックしていきます。

 まずリターン端子にY字ケーブル(モノラル信号を2系統に分岐させるケーブル)をつないで、ギターをライン録音しながらアンプにも送り、アンプの音を聴きながら録音していきます(図①)。

図① リアンプ用ギターの録音セッティング。Y字ケーブルを使って、ギターをギター・アンプとReturn端子にそれぞれ入力

図① リアンプ用ギターの録音セッティング。Y字ケーブルを使って、ギターをギター・アンプとReturn端子にそれぞれ入力

 単純にライン録音してからリアンプでも問題はないですが、このようにした方がアンプの出音におおまかな当たりをつけられるので、プレイ内容が不自然にならなくてよいと思います。

 ライン録音の音はごく自然です。本機のゲインを上げるとシングル・コイルでパッシブ・ピックアップのStratocasterでも、別途プリアンプ無しで直接録音できる音量になりました。試しにFENDER Precision Bassもつないでみましたが、本当にカラーリングがなくて良い音です。一般的なDIボックスと比べてハイファイなのはもちろんですが、高級なモデルのいかにも高級な感じの色付けも無く、ただただシンプルに普通の音で好感が持てました。

 次に録音した音を再生して、ギター・アンプを鳴らしてみました(図②)。

図② 図①で録音したギターを鳴らすときは、Sendをギター・アンプに接続して、センド・レベルを調整する

図② 図①で録音したギターを鳴らすときは、Sendをギター・アンプに接続して、センド・レベルを調整する

 これは驚くほどにしっくりくる音で、“これですよ、これこれ”感が半端ないです。通常のリアンプでも、アンプ・シミュレーターと比べると圧倒的に存在感がある音ですが、やっぱりアンプ直で鳴らすのとは何かが違うんですよね。従来のリアンプ・ボックスを使って録音した音も悪くはないのですが、バッファーが入っていてトゥルー・バイパスじゃないコンパクト・エフェクターを何個か挟んだ感じの音というか、アンプに直でつないだ音とは何かが違う鈍ったサウンドになってしまいます。それが本機を使うと、普通にアンプ録音したのとほとんど変わらない自然な音で録音できました。従来のリアンプ・ボックスとは、ちょっとリーグが違うクオリティだなと感じます。

 最後にコンパクト・エフェクターをセンド/リターンにつないでインサートしてみます。ボーカルやスネアにファズやディストーションをかけて、ミックスに味を出すのは定番の手法ですが、ブレンド・コントロールがついているので、これを行うときにかなり便利に使えますね。

 いろいろ試してみて特に使えると思ったのは、空間系エフェクトをつないだときの抜けの良さ。DAWからの音をコンパクト・エフェクターに入力する際に、従来のリアンプ・ボックスだとインピーダンス・マッチングは取れても音量が大きすぎるので、これを音量つまみで絞るのですが、下げれば下げるほどこもった質感になってしまいます。しかし、本機はアンプ回路が優秀なのか、音が抜けたまま音量を下げられるのでノー・ストレスでした。今までの苦労は何だったのか……。

 正直、最初に価格を見たときにこれは高すぎるのではないかと思ったのですが、ここまで違うものならそれだけの価値はあるし、大幅に時短できることを考えるとお得な製品だと思います。

 

中村公輔
【Profile】neinaの一員としてドイツの名門Mille Plateauxなどから作品発表。以降KangarooPawとしてソロ活動を行い、近年は折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子らのエンジニアリングで知られる。

 

TK AUDIO Transceiver 2

140,800円

TK AUDIO Transceiver 2

SPECIFICATIONS
▪バランス最大入力:+27dBu ▪バランス入力インピーダンス:24kΩ ▪アンバランス最大出力:+21dBu ▪バランス出力インピーダンス: 50Ω ▪アンバランス最大入力:+21dBu ▪バランス最大出力:+27dBu ▪リターン・ゲイン:0〜20dB ▪リターン・インピーダンス:1MΩ ▪SN比:100dB ▪外形寸法:483(W)×44(H)×280(D)mm(※実測値、ノブ等の突起物含む) ▪重量:3kg(※実測値)

製品情報

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