長岡亮介とausのスタジオワーク。「これは普通、やらないだろう」という驚き

長岡亮介とausのスタジオワーク。「これは普通、やらないだろう」という驚き

ギタリストの自分には思いつかないような発想。弾くのが難しい反面、すごく面白かったです

音楽家/ギタリストの長岡亮介とエレクトロニックミュージックのアーティストaus(アウス)のニュープロジェクト、Ryosuke Nagaoka & aus。長岡はペトロールズでのバンド活動のほか、『LOUNGE LOVER』(2014年)や『MIXED MESSAGE』(2015年)、『N/A』(2018年)などのソロ作を手掛けており、それらにausがビートメイクで参加してきた経緯がある。今回のプロジェクトで生み出されたのは、6曲入りの作品『LAYLAND』。ausが英Lo Recordingsから発表したソロアルバム『Everis』(2023年)に通じるアトモスフェリックな音像だが、長岡のギターと歌が乗ることで独特のヒューマングルーブや温かみを感じさせる。長岡の創作の場であり、『LAYLAND』のレコーディングが行われたスペース“8F”にて作品制作を振り返っていただこう。

ギターの音作りとしてアリなのかどうか

——お2人がコラボする際は、長岡さんの曲に対してausさんがビートをつける、というのが基本だったのですよね?

aus はい、これまでは。でも今回は、僕がデモを作るところから始めて、長岡さんにギターや歌を入れてもらいながらブラッシュアップしていきました。

長岡 ギターのフレーズの一部や歌のメロディ、歌詞などは俺が考えているけど、トラックは全部ausさんです。

——「Hyatt Earp」の主旋律となっている艶(つや)やかな音はギターでしょうか?

aus そうですね。あれは僕が“このメロディで”とお願いしたもので、もともとは鍵盤を弾きながら作ったんです。でもギターで演奏されるのを初めて見たとき、付点8分と16分が交互に出てくる部分で“あ……すみません”と思ってしまって。左手をかなり大きく動かさないと、自分が想定したメロディにはならないんだなと。

長岡 「Hyatt Earp」のギターしかり自分では思いつかないようなこと、もしくは“俺ならそこにコレは入れないだろうな”みたいなことが結構あって。それは、ausさんがギタリストじゃないからっていうのが理由の一つで、音楽的なところにフォーカスして作っているんだろうなと。だから、自分がいつもやるギターの動きでない部分に関しては弾きにくいと感じる反面、すごく面白かったです。

——ギター録りは、どのような方法で?

aus ここで僕のsteinberg  CUBASEに録音しました。

長岡 オーディオI/OはUNIVERSAL AUDIOのapollo|twinかapollo|x8pで、本体の楽器入力に直接つないで、ほぼドライな音で録っていました。モニターには、ある程度エフェクトをかけていたかな……? でも、最終的な音色がどうなるのか分からない状態で演奏していたんです。

——普段、音作りせずに録ることはあるのですか?

長岡 ないですね。でも、自分はギターの音色にこだわりがなくて。ダイナミクスを感じないような音は嫌だけど、基本的には何でもOKなんです。最近の音楽には、かつて良いとされていた音って、もはや入っていませんよね。ビンテージのこれがいい、みたいなやつ。そういう時代だから、素の音で録っておいて、自分が驚くような音色に仕上げてもらえたらいいなと思っていました。フレーズに関しては“ギターギターした感じ”にはしたくなかったんですけど、ausさんは結構、いかにもなアプローチも好きなんですよ。グインってチョーキングするフレーズとか、ギターらしい“泣き”とか。その一方で“ギターで弾いたことのないようなフレーズを”と言われることもあったので、その幅がすごく面白かった。

aus いずれの場合もテイク選びやコンピングを行いましたが、ノートを動かすようなタイミングのエディットは、ほとんどやらなかったんです。長岡さんは、そもそものタイム感がすごくて。DAWのグリッドに沿っていない部分も、聴感上は良い具合に聴こえる。だから、ループするフレーズもコピペを使わず、通しで弾いてもらいました。「Hyatt Earp」の主旋律や「Murmurs」の頭から入ってくるフレーズがそれですね。繰り返されるのが同一のフレーズであっても、長岡さんのギターだから聴きつづけられるのかなと。

長岡 いつまでたっても“もういいです”って言われないなと思いながら、ずっと弾いて録ってました(笑)。

aus 録音後はギターの音作りが不安で。僕はギターに詳しくないので、例えばディストーションをかけたとしても、それが“ディストーションギターとしてOKかどうか”は見当がつかないわけです。ギタリストの方が聴いたときに“これさあ……”ってなったらどうしようと思って。

長岡 ギターに関する前提がないもんね。基本的には問題ないと感じていたけど、「Murmurs」の終盤のソロについては“おお! これは普通、やらないだろうな”って思いました。どうすれば、ああいう音色になるんだろう?

aus CUBASEのampsimulatorとcompressor、zynaptiqのsubspace、soundtoysのDECAPITATORを使って、“ベールがかかっているけどインパクトのある音”をイメージして音作りしました。subspaceのリバーブがすごく人工的というか変に濁りがないので、いわゆるディストーションギターらしい音と組み合わせれば、ストリングスやパッドと融和しつつも面白い響きになりそうだと思って。ただ、それだけだと奇麗すぎる感じだったから、最後にDECAPITATORでアナログ感を足してギターの前に“膜”を作り、その後ろでひずみが鳴っているような感じを目指しました。

長岡 俺の使っているBOSS DD-500というディレイに割と似た感じのプリセットが入っているんだけど、エンジニアから“すごい音だね、それ”って、ちょっと難色を示されたことがあって。でも個人的には好きなので、ausさんの作ってくれたものを聴いたときには“これこれ!”って思いましたよ。

——「Hyatt Earp」の主旋律の音色も印象的です。

aus あのメロディは2本のギターで構成していて、1本目はCUBASEのampsimulatorとVINTAGE COMPRESSOR、カセットテープ・シミュレーターのCaelum Audio TAPECASSETTE2、サチュレーターのDECAPITATOR、アナログシミュレーターのHEAVYOCITY PUNISH、ディレイ&リバーブのVALHALLA ValhallaSupermassive、リバーブのiZotope NIMBUS by EXPONENTIAL AUDIOで音作りしています。2本目に使ったのはWAVESのギター用エフェクトGTR Stomp 2、H-CompやMeldaProduction MTurboCompといったコンプレッサーです。

ausがドラム打ち込みに愛用するNATIVE INSTRUMENTS MASCHINE MK2。右のMacにはsteinberg  CUBASEを立ち上げている

ausがドラム打ち込みに愛用するNATIVE INSTRUMENTS MASCHINE MK2。右のMacにはsteinberg CUBASEを立ち上げている

8Fの機材。上からUNIVERSAL AUDIO apollo|x8p、RUPERT NEVE DESIGNS R6(R6内は左から542×2台、api 560、Solid State Logic 611EQ)、花岡無線のトランス(試作機)、Sherman FILTERBANK、voltampere GPC-TQ、R6(R6内は左から560、Solid State Logic G-COMP)、花岡無線のコンプ(試作機)、DK-AUDIO PT0600C-5.1。花岡無線のトランスは中域が強く前に張り出すような特性だそうで、ペトロールズ「エイシア」のマスタリングに使用。その際はプリマスターに対してパラレルで使った

8Fの機材。上からUNIVERSAL AUDIO apollo|x8p、RUPERT NEVE DESIGNS R6(R6内は左から542×2台、api 560、Solid State Logic 611EQ)、花岡無線のトランス(試作機)、Sherman FILTERBANK、voltampere GPC-TQ、R6(R6内は左から560、Solid State Logic G-COMP)、花岡無線のコンプ(試作機)、DK-AUDIO PT0600C-5.1。花岡無線のトランスは中域が強く前に張り出すような特性だそうで、ペトロールズ「エイシア」のマスタリングに使用。その際はプリマスターに対してパラレルで使った

長岡亮介が『LAYLAND』の制作に用いたGibson ES-325。1972年製の一本

長岡亮介が『LAYLAND』の制作に用いたGibson ES-325。1972年製の一本

RS GUITARWORKSのWorkhorseも『LAYLAND』の制作で使用。こちらは2014年製

RS GUITARWORKSのWorkhorseも『LAYLAND』の制作で使用。こちらは2014年製

8Fにあるmusikelectronic geithainのRL 901Kと吸音パネル。後者は国内にわずかしか入っていない

8Fにあるmusikelectronic geithainのRL 901Kと吸音パネル。後者は国内にわずかしか入っていない

8F常設のヘッドホン。手前左から反時計回りにJVC HA-MX100-Z、PHONON SMB-02G、OLLO Audio S4R、FOCAL Clear Professional

8F常設のヘッドホン。手前左から反時計回りにJVC HA-MX100-Z、PHONON SMB-02G、OLLO Audio S4R、FOCAL Clear Professional

サブウーファーmusikelectronic geithain BASIS 14Kをテーブルに乗せて撮影。8Fでは、さまざまな機材を常に動かせるようにしており、アーティストやプロジェクトに合わせた構成を採ることができる

サブウーファーmusikelectronic geithain BASIS 14Kをテーブルに乗せて撮影。8Fでは、さまざまな機材を常に動かせるようにしており、アーティストやプロジェクトに合わせた構成を採ることができる

ソフトシンセは衝撃的!

——歌は、デモに何らかのガイドを入れていましたか?

aus 入れてはいたんですが、それにとらわれずに歌ってくださいました。プリプロ的に録っているときは、ここにあるマイクのUNIVERSAL AUDIO sphere lx、本チャンではSONYのC-800G/9Xで収音しています。

長岡 面白かったのは、「Murmurs」の仮歌みたいなのが東欧っぽい音楽の女性ボーカルだったこと(笑)。しかもサンプルでした。今まで関わってきた現場ではあり得なかったことですが、言葉やガイドメロディよりも声音でイメージを提示してもらったほうが分かりやすいなと実感しました。

——どの曲も平歌やサビが明確に分かる構成ではないと思いますが、どのような判断基準で歌メロを考えていったのですか?楽器になったような気分で歌ったのでしょうか?

長岡 多分、そうだったと思います。Aメロはこう、Bメロはこう……というふうに区分けして考えるのではなく、“このポイントに、こういうフレーズを声で入れよう”みたいな感じ。ただ、耳に入ってきやすいメロディのほうが良いだろうなとは思っていましたけどね。

aus ボーカルの音色に関しては、トラックとの相性を考えて、ちょっと湿った感じにしようと思っていました。ほぼすべて、コーラスのようなエフェクトをかけているはずです。

——トラックについては、どのように制作しましたか?

aus ドラムはNATIVE INSTRUMENTS MASCHINE MK2でリアルタイム打ち込みすることがほとんどで、ほかのパートにはKOMPLETE 14やARTURIA V COLLECTION 6などのソフトシンセを使いました。実は昨年のソロアルバムの制作まで、高校1年の頃に買ったYAMAHAのハードウェアシンセEX5をCUBASEに録って曲作りしていて、ソフトシンセを使ったことがなかったんです。でも長岡さんのサポートをしたとき、STUTSさんがパソコンから目的の音を素早く見つけていて、なおかつ音もすごく良かったのが衝撃的で……それで自分もソフトシンセを使ってみたら、“今はプリセットを加工しなくてもこのクオリティなの?”って気づいて。みんなと同じシンセやプリセットを使っていても自らのフィルターを通して選んでいるわけだし、それを“自分の音”にできたらオリジナルだと思うんです。

——さまざまな発見があった作品制作だったのですね。

aus 長岡さんって、一曲の歌メロや詞をたった数分で作られたりするんです。その速さや瞬発力、計り知れない奥行きにしびれるばかりでした。あらためて勉強になりました。

長岡 いや、まだまだですよ。僕のほうこそ、各パートをソロで聴いてみたときに“こんなのが入っていたんだ”という音があって、優れたシェフの味の作り方みたいだと感心しました。楽器弾きの自分からすると、ausさんのトラックではスゴいことが起こっていると思う場面が何度もありました。

 

Ryosuke Nagaoka & aus

Release

『LAYLAND』
Ryosuke Nagaoka & aus
ENNDISC/FLAU:FLENN-01

Musician:Ryosuke Nagaoka(vo、cho、g)、aus(prog、syn)、Kumi Takahara(vln)
Producer:aus
Engineer:aus、Keiichi Morinaga
Studio:8F

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