CreativeDrugStoreのラッパーBIM、in-d、VaVa、JUBEEによるアルバム『Wisteria』インタビュー。後編となる今回は、制作に使われた機材や四者四様のラップスタイルの分析、各曲のテーマ設定について4MCが語る。そして制作拠点となったBIMのプライベートスタジオの全貌も初公開!さらに記事後半では、収録曲「Retire」のDAWプロジェクト画面とともに、ラップのレイヤー方法や声色の使い分けを分析する。『Wisteria』の音作りをじっくりとひもといていこう。
◎CreativeDrugStore インタビュー【前編】〜四者四様のラップで築き上げる『Wisteria』
NEUMANN TLM 102を手持ちしてホテルで録音
──DAWソフトは何を使っていますか?
VaVa 全員Ableton Liveです。Wisteriaで共同生活してたときは自分がマニピュレーターみたいな役割で、Liveを使ってみんなのレコーディングからミックスまでをやってたんです。自分がちょっと仲悪くなっちゃって共同生活をやめちゃったんですけど、それまでにLiveはみんなも見ていたDAWだし、共同生活中にみんなに簡単なレコーディングのやり方だけ教えていたので、あとはおのおので使ってきました。
JUBEE 僕は、Liveはレコーディングだけで使っていて、ビートはNATIVE INSTRUMENTS Maschine MK2で作っています。今回「Boomerang」で初めての共作もして、僕がSpliceのサンプルとかを使ってMaschineで原型を作って、VaVa君がLiveでエディットしました。
VaVa 自分は基本的にLiveで完結していて、オーディオインターフェースはRME Babyface Pro FSです。moogのシンセも持ってるんですけど、ベースを少し弾くくらいですね。コードから作るよりサンプリングが好きで、「180」も元々自分のソロ用にサンプリングで作ったビートでした。でも、昔からソロ用に作ってたビートを人に渡すと良いことが起きて、「180」もBIMの「Bonita」とかKID FRESINOの「Retarded」みたいに俺がソロでやるより曲が有名になるだろうなと。アルバムを通して聴くと、Rascalのビートはしっかりしていて圧もすごいから、俺やdoooo君のビートでいびつ感を出すことで一気に俺らのカラーになる感じがありましたね。
BIM メロディを考えるとき、マイク立てるのも面倒だと、ヘッドホンをしながらApple iPhoneのボイスメモでアカペラを録って、良かったらそのままAirDropで送ってAntares AUTO-TUNEやceremony melodyneでピッチ修正します。「Go Ahead」のサビはビートを聴いて机に向かって最初に出たのがあのメロディで、一発目のデモでそのまま行きました。
──レコーディングはすべてBIMさんのスタジオで?
VaVa 基本的にはBIMのスタジオでUNIVERSAL AUDIO apollo twinとモデリングマイクのTownsend Labs Sphere L22で録りました。でも俺が「6ix Pack」のサビを自分のスタジオで録音したりとか、曲によってはバラバラに録っていて、全員が書き出したデータを俺がまとめました。
BIM JUBEEは「JENGA」をホテルで録ったんですよ。
JUBEE 制作の佳境で別のバンドのツアーが入っちゃったので、最初は「JENGA」に入るのやめるって言ったんです。でも一応ツアーにNEUMANN TLM 102とUNIVERSAL AUDIO apolloとパソコンを持っていったので、休日にやってみようと思って、東横インで掃除のおばちゃんの声とか聴こえる中でTLM 102を手持ちして、あまり大きい声も出せないのでボソボソ録音して、何とか滑り込みで入れました。
──皆さんのマイクについてもう少し詳しく教えてください。
BIM Sphere L22で録るときは、NEUMANN系のマイクモデルのLD-47Kを使っています。
VaVa 自分のスタジオでは、NEUMANN TLM 103を使っています。あとBIMのスタジオに置いてあるMXL V67GはBIMの『The Beam』とか俺の『VVORLD』を録ったコンデンサーマイクで、思い入れがあります。1万円台なんですけど、加工がいい感じでめちゃくちゃ音が良いんですよ。NEUMANNはクリアで服着てない裸そのままって感じだけど、V67Gは無地Tを着た状態で音が出てくるみたいな感じですね。
in-d V67Gは僕も自分の家で今使ってます。
先にフロウを作って踊りながら歌詞を作る
──皆さんのラップは歌詞としてストーリーも面白いですし、文字の繰り返しなどがリズムとして気持ち良く、音楽的だと感じますが、ラップはどのように組み立てていくのですか?
VaVa それは全員違いますね。
BIM 俺はフロウ先行です。久しぶりに人がいる場所でリリック書いたから、ずっとビートを聴きながら、1小節書けたらまた頭から聴いて、2小節目できて、ってやってたんですけど、普段1人で制作するときはデスク前にマイクをセットして、フロウを先にバーッと作ってからリリックを入れることも結構あります。素で歌詞を書いてからラップするよりも、先にフロウを作って踊りながら歌詞を作る感じの方がいいラップができるんです。例えば「180」だと“パピコ”“サチコ”に続く“武蔵小杉”って単語を“ム”と“スギ”を抜いて“サシコ”って発音してるんですけど、“武蔵小杉”ってはっきり言わなくてもフェードイン、フェードアウトすればそう聴こえる。
in-d 僕はCreativeDrugStoreでやるときは面白い単語を入れたいと思っていたので、最初に使いたい用語を洗い出しておいて、そこからフロウを考えるときに、宇宙語じゃなく具体的な言葉と一緒に作ります。例えば「Ceremony」だと、韻を踏むときに、小節の終わりで“シュウ”って踏んで、次も“シュウ”で踏みたいところを最“終”回って間に持っていくとか、リリックと一緒に作るとそういうことができるので、その方が面白い言葉を使いやすいです。だからBIMのスタジオでリリックを考えているときも、イヤホンでずっとビートをしながら書く間にフロウは全然考えないで進めました。
JUBEE 俺も完全にフロウから作るんですけど、BIMの言うようなのはテクニック的にできなくて、自分はもうケツでちゃんと踏んで奇麗な形でやるタイプなんです。
BIM JUBEEはリズム型だと思う。グリッドがちゃんとしてる感じ。
JUBEE あ、それだ! めっちゃ腑に落ちた! ラップのクオンタイズをしっかりしたいタイプで、BIMみたいに崩すのはできないんですよ。だからBIMのスタジオでの制作前に家でフロウの原型を作ってきてから録ってました。
VaVa 俺はフロウ型ではあるんですけど、メロディを考えるんですよ。例えば、BIMのバースの後に書くならどういう入りが良いかを考えて、メロディを作ってから、このメロディでこんな意味が分からないこと言ったら面白いかなとか考えていきました。ソロのときは宇宙語で全部曲ごとレコーディングしてから歌詞に起こすみたいなこともしたんですけど、今回の制作で、メロディと一緒に頭の中の空想を歌詞に落とし込んで書く方が合ってるなって実感しました。今回の制作で歌詞の書き方がより自分の中で分かりましたね。
10年以上やって今も熱くなれる日がある
──各曲のテーマ設定についてはどのようにしましたか?
BIM 「Ceremony」はA&Rが“このアルバムが最後になるなら”ってテーマを提案してくれて、始まりなのに終わることを言ういびつさを出しました。「Taste Test」はサビを作る中で“テステステス”って言ったところから「Taste Test」=“味見”って良いかもと思って。「Hi」とかもだけど、最初の方に作った曲は尖ったこと言ってる印象かもしれません。
VaVa 「6ix Pack」は、俺らみんなワンパックだけど、6人集まったらムキムキだって思って。俺はサビだけでバースはやってないので、今回唯一全員のバースがない曲です。
BIM 「Yo, My Ladies」は女性に向けて、「180」は逆視点をテーマに書きました。「Boomerang」は原っぱで遊ぶ感覚で“原っぱでブーメラン談合”って言ってます。 in-d 「JENGA」はキャパオーバーみたいなテーマでした。VaVa君のビートもコミカルで、結構耳に残ります。
VaVa 「Nah」は久しぶりに俺らがオラついてみた曲です。「あながち」は……意味ないですね。
BIM doooo君が作ったビートで、俺がサビで“I Gotcha”みたいな感じで“あながち、あながち”って言いました。
VaVa 「Menthol」はタバコの煙を口から吸って吐くように、音楽は鼓膜に対してのメンソール”で、俺らの音楽があなたの鼓膜を洗浄するみたいなイメージでした。
BIM 「Retire」はここまできてやめられない理由を話してるし、これができてアルバム行けるかもって思った曲でした。
VaVa イントロのそれぞれの声は過去のインタビューとかボイスメモから使ってます。
BIM 「Go Ahead」はみんなで山形の俺のばあちゃんちに行ったときに、熱くなってメンバー間でいろいろ悩みとかルーツとかを話して、10年以上やって今も熱くなれる日があるのはいいなと思ってその日のことを書いてます。
VaVa 「Wisteria」は俺とin-d、BIMとJUBEEで対話みたいにしたらほかの曲と違っていいかもって話になって。
JUBEE これだけ曲作ると、8小節ラップしてサビでまた8小節ラップって流れに飽きてくるんです。だから2組で分かれてラップの小節数も2、4、8みたいにバラバラにしました。
「Retire」Ableton Live Project
BIMバース メインボーカル
BIMバース ボーカルダブル
何回も聴く中で日に日に好きな曲が変わる
──『Wisteria』の収録曲は今後さまざまな形で聴かれていきますが、作品としてどのように育っていくと考えますか?
JUBEE 個人的には渋いアルバムができたと思ってるんですけど、だからこそ刺さる人には深く刺さると思います。“日に日に好きな曲が変わる”って感想が多くて、何回も聴いてくれる中で既にお客さんの中で育ってるなと思っています。
BIM 俺はBIMとしての活動で“BIM”と“高木”(BIMの本名)がなるべく同一人物であることが理想なんですけど、CreativeDrugStoreでの俺以外の3人が普段よりそうなってると思ったんです。だから俺もそうなれてるかもしれない。俺らができるのはライブで作品を育てていくことだと思っていて、その時々で書いた意味がないような歌詞も、ステージ上で普段の野村(JUBEE)、馬場(VaVa)、水野(in-d)、高木のいいところも嫌なところもどんどん出して人柄を知ってもらうことで、俺らが思っている面白さがもっと伝わると思うんです。だから、それが伝わるようなライブをして『Wisteria』の聴き方がもっと鮮明になってもらえたらなと思います。
VaVa レコーディングとか制作の本当に楽しかった感じがステージでも出せたら『Wisteria』って作品の一環になると思うので、これからはもっとCreativeDrugStoreを楽しむことが大事だと思っています。俺らがもっと楽しめば俺らのことを知ってる人も知らない人もこいつらおもろいなって思ってもらえるかもしれない。そこをずっと大事にしたいです。
in-d この11年目に出した『Wisteria』はこれからさらに育っていくと思うし、僕らにもお客さんにも人生がある中で、同じようにフィールしてくれる人がいたらうれしいです。僕らは僕らで変わっていくと思うので、作品も一緒に成長していけたらいいなと思います。
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Release
『Wisteria』
CreativeDrugStore
SUMMIT:SMMT-225
Musician:BIM(rap)、in-d(rap)、VaVa(rap)、JUBEE(rap)、doooo(DJ)
Producer:Rascal、DJ MAYAKU、VaVa、JUBEE、doooo、Lou Xtwo
Engineer:D.O.I.
Studio:プライベート、Daimonion