CreativeDrugStore インタビュー【前編】〜四者四様のラップで築き上げる『Wisteria』

CreativeDrugStore インタビュー 〜四者四様のラップで築き上げる『Wisteria』、週2で集結したBIMのスタジオ初公開!

このアルバムは10年かかっちゃったという感覚よりも、30歳にならないとできなかったよなって思いますね

CreativeDrugStoreの音楽活動がついに本格始動した。メンバーは、ラッパーのBIM(写真左から2番目)、in-d(同左端)、VaVa(同右から2番目)、JUBEE(同右)とdoooo(DJ)、Heiyuu(Camera)。2012年の発足以降、個々の活動で着実にスキルや経験を積み上げ、結成11年目となる2023年12月に初のアルバム『Wisteria』をリリースした。その制作拠点となったBIMのプライベートスタジオに4MCが集結! アルバムの制作過程やBIMのスタジオ紹介、D.O.I.によるミックス解説をお届けしよう。インタビュー前編では、『Wisteria』制作がどのように進められたかを順を追って紹介。ビートの採用基準やソロとグループ活動の違いについても語られた。

大喜利みたいに別のベクトルでその曲に向き合う

──結成11年目で初のアルバム『Wisteria』がついに発売されましたね。CreativeDrugStoreの制作風景と言えば、BIMさん、VaVaさん、Heiyuuさんが出演された映画『THE COCKPIT』(2014年)が思い出されます。

BIM あの部屋の名前が“Wisteria”なんです。

──そうなんですか! CreativeDrugStoreはそもそも曲を作るために結成したわけではないそうですね。

BIM そうです。ビートメーカーやDJ、映像関係の友達とかを総称したポッセみたいなもので、その中の音楽担当がTHE OTOGIBANASHI’S(BIM、in-d、PalBedStock)とJUBEEとVaVa君ってイメージでした。

JUBEE みんなソロで頑張って、自分のやりたい活動がだんだん見えたときに、CreativeDrugStoreが結成10周年を迎えたことがきっかけで作りはじめたところがあります。

in-d アルバムの制作は2020年ぐらいから動いてたんですけど、2021年に「共に行こう CDS Version Pure 2021 Feat. VaVa, JUBEE, BIM, in-d」(編注:SHAKKAZOMBIE BIG-OのトリビュートEP『BIG-O DA ULTIMATE』に収録)を4人で作らせてもらったのはいいきっかけになったかもしれません。それまではライブでもみんな自分のソロ曲をやっていたので、初めて4人でやる体感があって。そこから割とスムーズに作れた感じはあります。

──実際の制作はどのように進めましたか?

VaVa 3カ月くらいBIMのスタジオに週2日集まってみんなで2~3曲ずつ作るルーティンでした。実はその前に十数曲できてたんですけど、曲としてまとまりが出てない気がするとスタッフからも言われたので、集まって作ってみますかって。ビートを探したり作ったりして、何曲か集まったらどのビートにラップを乗せるか決めて、どういうことを書くとか全員のベクトルが同じ方向を向きはじめたら歌詞を書きはじめます。出来上がった順にレコーディングをして、終わったら別の部屋にいるみんなに“できたよー”って声をかけると、ゾロゾロ部屋に入ってくるので、みんなでそれを聴くんですよ。

BIM 4人のラッパーがいて4バースあると、誰々がこう乗るなら俺はこう乗る、って感じで大喜利みたいに別のベクトルでその曲に向き合うので、ソロ活動では聴いたことないようなフロウやバースの幅が出ます。今回、アルバムの大半のビートはドイツのビートメーカーのRascalが作ってくれたもので、彼が100個ぐらい送ってくれた中から選定して、4MC用に構成を組み替えたりもしました。

──RascalさんはこれまでもSUMMIT関連の作品を多く手掛けていますが、どんなトラックメイカーなのでしょう?

BIM ビートがめっちゃシンプルなんですよね。サンプリングで作っていても彼にしか出せないドラムの鳴りがあって、デモで既に鳴りが仕上がってます。クラブとかフェスでの鳴りはスタッフを含めて自分たちが大事にしているところで、彼のビートの強度にやられてますね。

──使うトラックはどうやって決めるんですか?

JUBEE ピンと来るのがあるんです。例えば「Taste Test」を初めて聴いたときはみんながピンと来た感じがして。

VaVa 「6ix Pack」も流してて“めっちゃヤバいな、このビート”ってなったよね。

JUBEE 「Yo, My Ladies」は1年前にビートを聴いたときはピンと来なかったけど、制作期間中に思い出して聴いてみたら“めっちゃいいじゃん”ってなってやることになりました。

BIM ラップを乗せたりほかの曲ができて分かることもあるし、自分にハマってなくてもみんながいいならやってみるかみたいな、いい意味で他人まかせ的な部分もありましたね。

in-d 「Go Ahead」は普段ならあまり乗せようと思わない派手なビートなんですけど、BIMが録って投げたのが良くて作ることになりました。

BIM ソロだったら自分でビジョンが見えてれば進められるけど、みんなに伝えるにはバースやサビを乗せて聴いてもらった方がスムーズなので、このビートでやろうって提案する前にラップを乗せてみんなに送りました。

VaVa グループでの制作はソロのときのマインドと違いすぎるから、歌詞を書くのもめっちゃ楽しいです。

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真面目すぎると思って固有名詞を増やしたりしました

──ソロとグループではやはり違いがあるのですね。

VaVa 全然違いますね。同じテーマでもなんでそんなワードが出てくるんだみたいな。例えばBIMの「JENGA」のバースは“こいつめちゃくちゃ変わってるな”って思えてすごく好きです。曲を作る過程でいろいろ発見があって新鮮でした。

JUBEE ラップは10年以上やってるけど、みんなで作ってみて“これだけやっていいんだ”みたいな。自分のソロだと言わないこともBIMとかがぶち抜いて突破してたから“こういう表現ありなんだ”って発見できたし、CreativeDrugStoreじゃないとできない表現でしたね。

BIM 俺はグループからソロになってまたグループで活動していますけど、THE OTOGIBANASHI'Sではメッセージ性を持たせないことが俺のスタンスだったんです。だけどソロになったときに“俺が意味のないことをソロで言っても聴く意味がない”って思ってメッセージ性について考えるようになって。久しぶりにグループでの活動に戻ってきて、グループならではの、本人たちは分かってるけど聴いている人にとっては何について話しているか分からないようなわちゃわちゃした曲をやりたくて。両方好きですけど、グループだと楽しいことに特化できるから全然ストレスがなかったです。

in-d 僕はソロだと歌詞に重きを置く曲が好きなので、CreativeDrugStoreでもテーマに対して結構真面目に書くことが多かったんですけど、みんなでやるとVaVa君とBIMは少しクスッとするようなワードが多いし、ジュベちゃん(JUBEE)はラップスキルでガーッと行くから、ちょっと真面目すぎるなと思って固有名詞を増やしたりしました。本当に今までにない作り方だったんで、週2回の制作の帰りに“あんなこと書いたけど、あれでいいんだ”とか毎週わくわくしてましたね。新しい化学反応が生まれる感じで、作り方が進歩しました。

VaVa レコーディングが終わってみんなで聴く瞬間はちょっと緊張するんですけど、そこで笑ってくれたり、“めっちゃいい”とか言ってくれたらすごくうれしくて。ソロだと自分との対話だからいいかどうかも自分で決めますけど、逆に“これをいいと思うんだ”とか、あらためて他人の目線を感じることができました。みんながソロで活動して余裕を持ってからの制作だったので、流行は気にしないで、かっこいいことと自分たちが楽しいことだけ探求してたかもしれないです。

──アルバム全体で目指したサウンドはありましたか?

JUBEE 自分らは10年やってるグループで年齢も30代だし、ほかにかっこよくてフレッシュなラッパーがいっぱいいるからこそ、そっちに寄せた音楽はしなくていいかなというのは意識してて。

BIM 30歳になって“おっしゃ、日本語ラップの新譜が出たぜ!”って気持ちには正直ならないんですよ。だから本当に自分たちが好きなものを作ることだけに集中したらこんな奇妙な感じになりました。元々THE OTOGIBANASHI'Sをやってたくらいだから、奇妙なものが結構好きなんですよ。

──皆さんはヒップホップの中でのご自身の立ち位置ってどう捉えていますか? 『Wisteria』はヒップホップの中でどこかに分類できるような作品ではないように感じて。

VaVa それはめちゃめちゃうれしいです。

BIM 俺は、もし自分が今10代のヘッズとして『Wisteria』を聴いたら、日本で一番このグループに憧れるかもって思ったんです。そのぐらい自分の中でも好きなアルバムですね。分類できないって部分では、THE OTOGIBANASHI'Sを始めた頃も俺はヒップホップから離れてヨーロッパのエレクトロのミックスとかチルウェーブとかを聴いてたので、根本的に真芯に当てていくことはあまり好きじゃないし得意じゃないのかなと思います。

in-d JUBEEはバンドが好きだったり、VaVa君はゲームの音楽聴いたりとか、BIMと俺も共通する部分はあるけど細かくは違ったりするし、俺らは音楽以外の趣味とかも結構バラバラなんです。その中でベン図みたいに重なる部分で、ビートは基本的に全員がOKを出したものしか使っていなくて、4人がいいと思って抽出した14曲なので、いい意味でまとまりがないのかなという感じではあります。

BIM このアルバムは10年かかっちゃったという感覚よりも、30歳にならないとできなかったよなって思いますね。

JUBEE 若いときは周りのほかのラッパーのことを気にしたけど、さまざまな経験をしてきて30歳になって、みんな自分に自信が付いて、ある程度お金もあって飯も食えるみたいな状態で楽しんでやってるのが出てる感じがしますね。

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◎続いては…CreativeDrugStore インタビュー【後編】〜週2で集結したBIMのスタジオ初公開!

Release

『Wisteria』
CreativeDrugStore
SUMMIT:SMMT-225

Musician:BIM(rap)、in-d(rap)、VaVa(rap)、JUBEE(rap)、doooo(DJ)
Producer:Rascal、DJ MAYAKU、VaVa、JUBEE、doooo、Lou Xtwo
Engineer:D.O.I.
Studio:プライベート、Daimonion

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