Foux 〜FLOW GLOW/BAD HOP/OZworld/LEXなどの楽曲を手掛ける音楽プロデューサー

曲のクオリティのうち、ミキシングが占める割合は約10%各パートの音色選びが約90%を占めていると思う

今回登場するのは、ポーランド出身の音楽プロデューサーFouxだ。母国ではTYMEKやQuebonafideをプロデュースした楽曲がヒットし、それぞれゴールドディスクやプラチナディスクを獲得。23歳のときに拠点を日本に移し、最近ではBADHOPの解散ライブに先駆けてリリースされた「TOKYO DOME CYPHER」を手掛けたことで話題を呼んでいる。今回はFouxのスタジオを訪れ、音作りのこだわりを聞いた。

【Profile】1994年生まれ、ポーランド出身の音楽プロデューサー。2020年から東京を拠点に活動を始め、FLOW GLOW、BAD HOP、OZworld、LEXといったアーティストの楽曲を手掛けている。またアーティストのライブに出演し、ピアノやギターを演奏することもある。さまざまな音楽を独自のセンスで昇華するのが得意。

 Release 

「TOKYO DOME CYPHER」
(『BAD HOP(Deluxe Edition)』収録)
BAD HOP
(BAD HOP)

子供の頃からピアノで久石譲の曲を演奏生

■ビートメイキングを始めたきっかけとDAW

 ポーランドでは3〜4歳のころから音楽学校に通っていて、実際にビートを作りはじめたのは16〜17歳のとき。友人がPreSonus Studio Oneを教えてくれたことがきっかけでした。そのときのStudio Oneはバージョン1だったので、自分がDTMを始めた時期とStudio Oneの登場が同じタイミングだったのを覚えていますね。それ以来、ずっとStudio Oneを使いつづけています。自分はビートメイキングとミキシングの両方を行っているのですが、Studio Oneはその両方に最適です。操作に慣れているので、ボーカルエディットなども含めてアイディアを音にするまで作業がスムーズに進められます。

Fouxの音楽制作環境。BTO(Build-To-Order)パソコンを使用し、音楽制作用途に最適化しているそう。DAWはPreSonus Studio One。デスク左奥に見えるのはNINTENDO SWITCHで、Fouxは「意外かもしれませんが、SWITCHはこのスタジオにとって欠かせない存在です。ラッパーとのレコーディングやセッションの合間によくみんなで遊んでいます。音楽制作は集中力を要する作業の連続なので、適度にリフレッシュすることが大切です。この点において、SWITCHはストレス発散とリラックスに最適なアイテムだと言えます」と話している。MIDIキーボードはM-AUDIO KEYSTATION61 MK3

オーディオインターフェースのUNIVERSAL AUDIO apollo twin MK2(写真左)と、Studio One専用コントローラーのPreSonus FADERPORT(同右)

■日本滞在の背景

 子供の頃から久石譲さんの曲をピアノで弾いていて、次第に日本という国に興味を持つようになりました。初めて日本に来たのは20歳のとき。2週間ほどの滞在期間でしたが、自分は日本になじめそうだと感じ、機会があれば住んでみたいと思うようになったんです。そのとき、当時通っていた音楽学校を卒業したら日本に引っ越すことを決意しました。

■国内での活動

 日本に移住したのは23歳のとき。最初の1年間は日本語が全然しゃべれない状態だったので、さまざまな場所を転々としながら日本語を学んでいました。そして東京に拠点を構え、本格的に音楽活動を始めたんです。日本では、まずセレイナ・アンというシンガーをプロデュースしました。その後、Tokyo Young VisionのDALU(元Young Dalu)の紹介でBAD HOPのVingoと知り合い、Vingoとともに楽曲制作を行ううちにBAD HOPのアルバムにも楽曲を提供することになったんです。

サーフボードにはKOHHやLEX、OZworld、Vingo、DALU、Hideyoshiといったアーティストのサインが書かれているそう

■プライベートスタジオ

 このスタジオは2年ほど使っています。普通のマンションですが、オーナーはDIYが好きで音楽制作にも理解があるため防音工事を許可してくださってます。ちなみにこの2年間、近隣からの苦情はありませんでしたが、音量をより自由にコントロールしたいという思いから、防音工事を行う予定です。このスタジオではビートメイキングやミキシング、レコーディングを行っています。ボーカルのみならず、ギターやチェロ、バイオリンなどの録音も行ったことがあります。

モニタースピーカーはYAMAHA HS7。Fouxは「周波数特性がフラットに近いため、ミックスにも使えます」と語る

愛用するPRSのエレキギター

ボーカルには2種類のコンプを使い分け

■ボーカルに用いるアウトボード

 ボーカル録音時は、WARM AUDIO WA-8000というマイクを使用しています。このマイクで録ったラッパーの方たちは、みんな口をそろえて“音がとても良い”と言いますが、それは恐らくこの後に続くチェインも関係しているのだと思うんです。マイクの後には、まずプリアンプのRupert Neve Designs 511、そしてコンプのbuzzaudio ESSENCEやRupert Neve Designs 535が並んでいます。ボーカル録音では511を使いますが、ミックス時はボーカルの味付け役として535をパラレル処理で用いているんです。これらの機材を組み合わせていることで、ボーカルをより印象的なサウンドにできているのかもしれません。

マイクスタンドにはWARM AUDIO WA- 8000をセット

api 500互換モジュールは、主にボーカルに用いるという。左からプリアンプのRupert Neve Designs 511、コンプのbuzzaudio ESSEN CE、Rupert Neve Designs 535。これらを格納するラックの上には、ヘッドホンのbeyerdynamic DT 770 PRO 80OHMが置かれている

■ビートメイキングのこだわり

 冒頭でもお話ししましたが、自分はビートメイキングとミキシングをほぼ同時に行っているため、ビートメイキングの段階から曲全体のミックスバランスを意識しながら作業を進めているんです。そのためサンプルやソフト音源の音色選びにはこだわりがあります。特にドラムやシンセの音色に関しては、かなりの時間をかけて探していますね。この理由は、曲全体のクオリティのうち、ミキシングが占める割合は約10%で、楽器そのものの音色選びが約90%を占めていると思うからです。つまり音色選びを間違えなければ、ミキシングの必要性を大幅に減らせると考えています。そのため、良質なサンプルやソフト音源を選ぶことに多くの時間を投じているんです。

■音源について

 ドラムやキックベースに関しては、主にサンプルを使用しており、Cymatics.fmやspliceからダウンロードしたサンプルパックを使ったりすることが多いです。サブベースやシンセについては、ほとんどの場合xfer records SERUMを用いています。SERUMは操作性が高く、多様な音色を生み出すことができるため、自分の音楽制作には欠かせません。また、レトロなシンセサウンドを求める際は、サブスク型WebサービスのRoland Cloudを利用しています。特にJUNO-106などクラシックなシンセをエミュレーションしたものは、その温かみのある音質が楽曲に深みを加えてくれます。

■日本の音楽シーンについて

 ポーランドの音楽シーンとの大きな違いは、リスナーの嗜好です。日本ではJポップやJロック、アイドルといった音楽がメインストリームですが、ポーランドではヒップホップがメインストリームになっています。実際にポーランドのヒットチャートは9割がラップソングで占められていますが、日本ではそのようなことはありません。日本は独特なカルチャーがあって良いなと思いますね。ちなみに最近のポップスでは藤井風やRADWIMPS、YOASOBIなどが好みですね。

■今後の展望

 これからも日本での音楽活動を続けていきたいです。また、今後はさまざまなアーティストをゲストに迎えた、Foux名義の作品も作っていきたいと思っていますね。

Fouxを形成する3枚

『もののけ姫 サウンドトラック』
久石譲
(STUDIO GHIBLI RECORDS)

「子どもの頃から久石譲さんの音楽が大好きで、ピアノでずっと弾いてきました。今でも楽曲の中に、ピアノや和の要素などをよく取り入れています」

 

『Come Over When You're Sober, Pt. 1』
リル・ピープ
(AWAL Recordings America)

「20歳のときにリル・ピープの曲を聴きまくっていて、今ではトラップのビートにギターやロックのテイストを混ぜることが、自分の音楽スタイルの一つとなりました」

 

『アストロワールド』
トラヴィス・スコット
(ソニー)

「トラヴィスの曲を手掛けるプロデューサー、マイク・ディーンから制作に関して強く影響を受けています。自分も彼のように作曲とミキシングの両方を行うからです」

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