林 和希 〜DOBERMAN INFINITYのボーカル、KAZUKIのプライベートスタジオを公開

林 和希 〜DOBERMAN INFINITYのボーカル、KAZUKIのプライベートスタジオを公開

英語のニュアンスを取り入れつつ日本語で表現する。そんなバランスを大切にしながらトップラインを作っています

今回登場するのはDOBERMAN INFINITYのボーカルKAZUKIあらため、林 和希だ。作詞作曲からビートメイキングまでを一人でこなし、2023年からはソロプロジェクトを本格的に始動。今年の2月21日には1stシングル『東京』を発売し、1990〜2000年代のR&Bに音楽的ルーツを持つ自身のセンスを存分に発揮している。今回は彼のプライベートスタジオに足を運び、制作機材や音楽を作る上で大切にしていることなどを伺った。

【Profile】シンガー/作詞作曲家/ビートメイカー。ヒップホップグループDOBERMAN INFINITYのボーカル、KAZUKIとしても活動する。2023年に林 和希名義でソロ活動を開始し、ソロデビューアルバム『I』を同年5月31日にリリース。R&Bを軸にした音楽性を特徴としている。

 Release 

『東京』
林 和希
(LDH Records)

NEUMANNのマイクサウンドが好き

■プライベートスタジオ

 このスタジオでは作曲やビートメイキング、歌録りを行っています。スタジオは使いはじめてから2年くらいになりますね。前の場所から引っ越したのは、音に関する苦情があったから。最上階に住んでいたんですが、重低音が下の階に響いてしまっていたんです。だから今は地下の物件にスタジオを移して、大きな音を出せるようにしました。スタジオの広さは11畳くらいです。以前は吸音パネルや拡散材を壁や天井にたくさん貼っていたのですが、それだと窮屈な印象になってしまうので、今は必要なポイントにだけ貼るようにしています。特に天井や部屋のコーナー、スピーカーの反対側の壁などに注力していますね。反響は少し増えましたが、良いバイブスで制作できているので満足です。

コーナーに貼った拡散材の一部

コーナーに貼った拡散材の一部

■DAW/オーディオインターフェース

 steinberg Cubaseを18歳のときから使用しています。ビートメイキング時はドラムのサンプルを用いますが、これらはCubase付属のドラム音源Groove Agentに読み込ませて打ち込んでいるんです。オーディオインターフェースはRME MADIface Proで、楽器店の方にお薦めされて購入しました。もう5〜6年は使っています。機材を本格的に導入しようと思ったのは、DOBERMAN INFINITYにトラックを提供するなど、音楽制作を仕事として取り組みはじめたのがきっかけです。

デスク周り

デスク周り。メインマシンはApple MacBook Proで、DAWはsteinberg Cubaseを使用する。Cubase付属のソフト音源やエフェクトに関しては、HALion SonicやFlangerがお気に入りだそう。またサードパーティ製プラグインとしては、サブスク型WebサービスRoland Cloudのソフト音源が好みだと話す。写真中央には、MIDIキーボードのM-AUDIO KEYSTATION 61 MK3をセット。メインとして使用しているモニタースピーカーはYAMAHA HS7だ

オーディオインターフェースはRME MADIface Pro

オーディオインターフェースはRME MADIface Pro

デスク上にはコンプレッサーのdbx 266XS(上段)と、マイクプリのWARM AUDIO WA273(下段)を設置。ボーカル録りに使用する

デスク上にはコンプレッサーのdbx 266XS(上段)と、マイクプリのWARM AUDIO WA273(下段)を設置。ボーカル録りに使用する

■モニター環境

 スピーカーにはYAMAHA HS7とEVE Audio SC203を使用しています。メインはHS7で、もう10年ほど使っているんです。長年愛用しているうちに自分の耳になじんできて、今では音作りやミックス時の基準として欠かせない存在となっています。ちなみにSC203はNAO(NAO the LAIZA)さんから“これで良い音が鳴らせたらミックスはバッチリだよ”と言われて導入を決めました。NAOさんには機材選びからEQの使い方まで、いろいろと相談しているんです。SENNHEISERのヘッドホンHD 650も、彼のお薦めで購入しましたね。

サブで使っているモニタースピーカー、EVE Audio SC203

サブで使っているモニタースピーカー、EVE Audio SC203

モニターヘッドホンはSENNHEISER HD 650を備える

モニターヘッドホンはSENNHEISER HD 650を備える

■マイクのこだわり

 今のメインマイクはNEUMANN TLM 103。以前はsE Electronics sE2300をメインに使っていましたが、それはどちらかというとシャキッとした音で録れます。一方のTLM 103は、まろやかで温かみのある声になるので好きです。ついでに言うと、外のスタジオでレコーディングするときに使っているのはNEUMANN M 149 TubeやU 87 Aiです。なので、自分はNEUMANNのマイクサウンドが本当に好きなんだと思います。「東京」でもU 87 Aiを用いました。自分以外のDOBERMAN INFINITYのメンバーはSONY C-800Gを使っていますが、自分は毎回NEUMANNのマイクに変えてもらっています。マイクで音がだいぶ変わるので、マイク選びは重要ですね。

お気に入りのコンデンサーマイクNEUMANN TLM 103

お気に入りのコンデンサーマイクNEUMANN TLM 103

sE Electronics sE2300。林は“クリアな音で録れます”と言う

sE Electronics sE2300。林は“クリアな音で録れます”と言う

国内のR&Bシーンをもっと盛り上げたい

■トップラインにおける挑戦

 普段の曲作りは、まずテンポを決めてビートを作り、コードを決定したあと、トップラインとハーモニーを宇宙語で乗せるのが基本的な流れです。ここまでは割とすぐにできるんですが、歌詞を付けていく作業には本当に時間をかけています。というのも、仮録りした宇宙語の響きを大切にしながら、それに合う日本語の歌詞を一つ一つはめ込む作業をしているからです。自分が宇宙語で作ったトップラインは英語に近い言葉なので、小さい“S”や“N”、“H”といった音をたくさん含んでいます。そのため、これらを日本語にうまく当てはめていくのが難しいんです。例えば“真っ白な肌が”という歌詞がある場合、“真っ白な素肌が”と言葉を足して、本来の宇宙語が持っていた英語風のニュアンスを保つようにしているんです。極端な話、宇宙語で作ったデモが一番かっこいいんですよ(笑)。その魅力をなるべく損なわずに日本語で表現することはとても大変ですが、それが制作の中での大きな挑戦となっています。この辺りのバランスを大切にしながら、いつも作業をしていますね。

■ハーモニーのこだわり

 リードボーカルに付けるハーモニーに関しては、あえて音をぶつけることも多いです。上下に2〜3トラックずつ重ねて、さらにエッセンスとしての音も足すので、合計で8〜9トラックを使うこともあります。1stソロアルバム『I』に収録の「Wow」では10トラック以上重ねていますね。最終的には、気持ちよく聴こえるかどうかで決めているんです。

■コード進行について

 よく4度か6度のコードから始まる進行を使います。たまに1度から降りてくるパターンも試しますね。「東京」では珍しく3度のマイナーセブンスから始めてみたんですが、これが意外と新鮮でした。こだわりとしては、基本的にはセブンスコードを使うということ。その響きがR&Bというジャンルにも合っていて、どうしても欲しくなるんですよ。コードの展開については、できればBメロなどでもワンループで完結させるのが理想です。

■今欲しい音楽制作ツール

 このスタジオにボーカルブースが欲しいです。ブースがあれば、より良い環境で録れますし、スタジオのあらゆるところに貼った吸音パネルや拡散材も不要になるので。あとはやっぱりU 87 Aiも欲しいですね。

■今後の展望

 国内のR&Bシーンをもっと盛り上げたいと思っています。特に1990〜2000年代のR&Bに影響を受けた若いビートメイカーやアーティストと出会い、一緒に良い作品を作りたいですね。2ndソロアルバムも楽しみにしていてください!

林 和希を形成する3枚

「Aijuswanaseing (Special Edition)」
ミュージック・ソウルチャイルド
(Def Jam)

「自分が作るトップラインやフロウは、完全に彼から影響を受けています。自分の歌において“走る”という概念がないのは、彼の音楽を愛し、常に聴いているからです」

 

「オール・ザット・アイ・アム」
ジョー
(Jive)

「特に収録曲「Good Girls」が大好きで、オクターブ奏法のエレキがたまりません。自分の曲でも、気付けばギタリストにオクターブ奏法をオーダーしています」

 

「ダイアリー・オブ・ア・マッド・バンド」
ジョデシィ
(ユニバーサル)

「男らしいルックスと甘いメロディのギャップ、そして彼らの歌声に一生憧れます。コーラスワークについても、彼らから学ぶことが多いですね」

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