新しい音楽に出会ったときの感動が音楽制作のモチベーションに直結しているように思います
今回登場するのは、EXILEをはじめとするさまざまなアーティストに楽曲提供を行う作編曲家/ビートメイカー/DJのDJ KIRA。ヒップホップやダンスミュージックを軸に、三代目 J SOUL BROTHERSやGENERATIONSのライブパフォーマンス曲、舞台/映画音楽など幅広く手掛けている。今回はそんなDJ KIRAのプライベートスタジオを訪れ、彼の音楽制作におけるこだわりや使用ツールなど伺った。
【Profile】ダンスに魅了されてEXILE HIROに師事。その後DJとしての経験を経て、現在は作編曲家/ビートメイカーとしてダンスミュージックを中心に制作。CM/舞台/映画音楽のほか、EXILEなどのアーティストへ楽曲提供を行う。DJ MAKIDAIとのユニット、Sound Goes Aroundとしても活動している
Release
『BANG OUT』
RAG POUND
(LDH Records)
Marshall Legends Bundleを使いたかった
■プライベートスタジオ
このスタジオを造ったのは2019年ごろです。サブウーファーを使用するため、そして気兼ねなく音を出せる環境が必要だったので、現在の一軒家に引っ越しました。スタジオの面積は12畳程度で、特に低音が溜まりやすいため、VICOUSTICの拡散パネルや吸音材などを天井や壁に貼って音響調整しています。内装にもこだわりがあり、サボテンの装飾など、メキシコから輸入したアイテムも使用していますね。このスタジオでは主にビートメイキングや作曲、編曲を行っており、DJの練習にも利用しています。
■コンピューターとDAW
長年、BTO(Built-To-Order)パソコンを使っていて、メモリーなどを自由に拡張できるところが気に入っています。OSはWindowsで、DAWはsteinberg CubaseとAbleton Liveをインストール。現在はCubaseがメインです。Cubaseの前はemagic Logicを使用していましたが、2002年にAppleがemagicを買収したあとLogicはMac専用ソフトになったため、そのタイミングでWindowsでも動作するCubaseに移行したんです。ちなみに、Logicの前はサンプラーのAKAI professional MPC3000で音楽を作っていました。
■オーディオインターフェース
steinberg UR824で、これも長期間使用しています。DAWと同じブランドで統一した方が相性がいいだろうと考えた結果、当時このモデルを選びました。これまで何度か買い換えも検討したのですが全く不備なく作業に支障が出ないため、現在に至るまで愛用しています。
■モニター環境
メインスピーカーはGENELEC 8030C RAW。このモデルを選んだ理由は、バランスの良さと低域の再現力に優れているからです。自分は主にダンスミュージックを制作するので、迫力のあるサウンドと正確性を兼ね備えているところが決め手でした。もう一つの理由としてはスピーカーのサイズ感が挙げられ、現在のホームスタジオの広さにちょうどよい大きさだと思っています。またサブウーファーのGENELEC 7040Aと併用しており、これがあるとないではローエンドのモニタリングに大きな影響が出ます。以前使用していたサブウーファーと比べても、より明確にジャッジすることができるようになりました。ちなみにデスク上に置いたモニターコントローラーのMACKIE. BIG KNOB PASSIVEは、スピーカーの音量調整に使っています。
各楽曲の面白い要素同士を組み合わせる
■リファレンスと新譜チェックの方法
曲作りする際はリファレンスを重要視しており、多いときには月に1万曲近くの楽曲をチェックすることがあります。新譜チェックにはApple MusicやSpotifyといったサブスク型の音楽サービスを活用し、週一回は必ず世界中のヒットチャートを深く掘り下げているんです。たまにアフリカやブラジル、タイなどのチャートから興味深い曲を見つけるのが楽しく、この作業を行っているときが最も楽しい時間かもしれません。SoundCloudも利用していて、気になるキーワードを検索し、そこから新しい楽曲を発見する方法も好きです。とにかく、新しい音楽に出会ったときの感動が忘れられなくて……。もちろんそれが毎週起こるわけではないのですが、何かしら新しい発見が必ずあるのでやめられませんね(笑)。このときの感動が、自分の音楽制作のモチベーションに直結しているように思います。
■曲作りのインスピレーション
リファレンスと言っても、1曲まるごと参考にするというわけではありません。先ほどの方法で集めた楽曲群の中から5〜6曲、曲のテーマに合うものをピックアップし、それぞれの面白い要素を組み合わせるといったニュアンスです。リファレンスは曲作りのトリガーとして用いることが多く、その後はオリジナリティを加えるようにアレンジしていきます。
■お気に入りのプラグインエフェクト/インストゥルメント
ソフトシンセのreFX Nexus 4を頻繁に使用しています。Expansionsという専用音源ライブラリーを別途購入することで、目的の音楽ジャンルに合った音色プリセットを効率的に手に入れられる点が気に入っています。シンセベースでお気に入りなのはNexus 4やVengeance Sound AVENGER、SubLab XL辺り。幅広い音楽ジャンルに対応できるように、ソフト音源はほかにも多数バリエーション豊かに取り入れています。また、プラグインエフェクトでマストなのはEQのfabfilter Pro-Q 3です。使い勝手が良いのはもちろん、アナライザー機能で各トラックとの帯域カブリを視覚的に確認できるため、非常に重宝しています。
■RAG POUND『BANG OUT』の制作について
“世界一激しいパフォーマンス集団”というキャッチコピーを掲げるLDH所属のダンスグループ=RAG POUNDのデビューシングルを手掛けたのですが、彼らは“クランプ”というダンスを踊るチームなので、それを意識したトラックを制作しました。具体的にはドラムのヨレ具合やスネアの音色などです。トップラインにおいてはDOBERMAN INFINITYのSWAYとP-CHOが制作に携わっています。2月2日にデジタル配信リリースされるので、ぜひ聴いてほしいですね!
■今後の展望
これまで歌モノの曲を積極的には作らずにきたので、今後はこういった曲にもフォーカスをしようと考えています。これまでにない、新しい音楽を生み出していきたいですね。
DJ KIRAを形成する3枚
「プリエンプティブ・ストライク」
DJシャドウ
(トイズファクトリー)
「メロウなヒップホップからブレイクビーツ、アブストラクトにいたるまで幅広いスタイルをカバーした作品。サンプリングの拾い方、打ち込みの展開など完ぺきです」
「ブロック・ロッキン・ビーツ」
ケミカル・ブラザーズ
(Astralwerks)
「ロックとヒップホップの新しい融合形を確立した名盤。カップリング曲「Morning Lemon」における、音ハメの要素が混ざり合う構成が非常に熱く、今でも参考にします」
「TAKEHANA & tg.electronic All★STARS」
TAKEHANA & tg.electronic All★STARS
(tg-electro)
「ジャパニーズクロスオーバージャズの名盤。当時は毎日聴いていました。特に「"B"Nova Express」は、哀愁がありながら勢いもある曲で大きな影響を受けています」