今回はプロデューサー/作曲家/トラック・メイカー/DJ/MC/マシンライブ・アーティストのNISI-Pが登場。レゲエ・クラブの老舗Club Jamaicaの移動型サウンド・システム=X-Stasyのクルーや、小室哲哉プロデュースのユニットH.A.N.D.のリーダー兼ボーカルとしての活動のほか、正体を明かさずにボカロPとして楽曲を投稿するなど、多彩な経歴を持っている。2010年代からはUKでの活動を開始し、コロナ禍以降はMINMIやJP THE WAVYなど国内アーティストを中心にプロデュースを手掛ける彼に、プライベート・スタジオや使用機材、曲作りのこだわりについて伺った。
Interview:Susumu Nakagawa Text:Yuki Komukai Photo:AmonRyu
【Profile】プロデューサー/作曲家/トラック・メイカー/DJ/MC/マシンライブ・アーティスト。Club Jamaicaのサウンド・システム"X-Stasy"のクルーや、小室ファミリー、ボカロPなど、多彩な経歴を持つ。2010年代にUKでの活動を開始。最近は国内アーティストを中心にプロデュース活動を行う
Release
『KILLA WI KILLA』
MIMIQ -NISI-P & DJ MAAR-
(DOGTRAX)
クラフトワークの影響でボコーダーやトークボックスへの興味が高まった
プライベート・スタジオ
まだ完成してはいないのですが“作りたいものをパッと作れる自分の工房”というイメージで組んでいきたくて。スタジオに入ったときに自分のモチベーションが上がることを重要視しました。吸音材についても、正直一番意識したのは見栄えですね。入ってきてガッとモチベーションが上がる、コックピットみたいなスペースにしたかったんです。防音シートの上にさらに吸音材を張って、防音とデッドニングをしました。
DAW
メインはABLETON Liveですが、ミックスをする際にはPRESONUS Studio Oneを使うこともあります。元々WindowsのコンピューターでSONY Acid Music Studioを使用していたのですが、共同で作業するときのファイルの受け渡しの都合などを考えてAPPLE Mac miniに変えました。Acid Music Studioに一番近い操作性だったのでLiveを使い始めて、現在までずっと使い続けています。
オーディオ・インターフェースとマイク
オーディオ・インターフェースはレコーディングにRME Babyfaceを、配信にSOLID STATE LOGIC SSL 2+を使っています。Babyfaceは、スタジオをシェアしていたプロデューサーのXLIIに薦められて試したら音がクリアで、5年ほど使っていますね。マイクは真空管が入った色が出るものが良くて、最近LEWITT LCT 840を購入しました。“このスタジオで録るとこういう音になるよね”みたいな、独特な音になったらうれしいです。自分の声は高域と低域どちらにも山があるのが特徴で、マイク選びがすごく難しくて。まだこれだっていうマイクに出会えていないので、試すのが楽しみです。
モニター環境
モニター・スピーカーはADAM AUDIO A7で、これもXLIIに薦められたものなんです(笑)。分離と広がりが良くて、明瞭なサウンドで初めて聴いたときは感動しました。サブウーファーはFOSTEX PM-Sub8を使っています。ベース・ミュージックなどを作るので、サブウーファーが無いと雰囲気がつかめないんです。ヘッドフォンはAUDIO TECHNICA ATH-M50X。海外の友人がやたらと使っていて、試してみたらとてもしっくりきました。
シンセ
YMOがタンス(MOOG Synthesizer IIIC)を並べて演奏している姿が衝撃的で、シンセには幼い頃から興味がありました。飛び道具が好きで、NOVATION MiniNova、ROLAND JD-XI、VP-7などのボコーダー系を多く持っています。昔ボーカルを担当していた頃、“ボーカルって大変だけどインストだとパンチが弱いよな”というジレンマを抱えていたのですが、それをすべて解決してくれたのがクラフトワークでした。クラフトワークの曲はインストとしても聴けるし、ボーカル曲とも勝負できる。彼らの影響でボコーダーやトークボックスへの興味が高まりました。
エフェクター
ROGER MAYER Classic Fuzzは発売当時から気に入っていて30年以上使い続けているファズです。裏にロジャー・メイヤーのものと思われるサインが入っているんですよ。KORG Nu:tekt Power Tube Reactorはトランジスター・アンプを真空管アンプのような音にできるもので、低ノイズなのにすごく雰囲気が出るのでお気に入りです。ギターだけでなくシンセにも使えて、耳に痛い音も使いやすくなるんですよ。
ビートのパンチとベースの鳴りを重要視する
トラック・メイクの手法とこだわり
キャッチーなフレーズとループ感を大事にしています。思いついたフレーズをストックしていて、それに合うブレイクビーツ的なドラム・パターンを作って展開させていくという手法です。新しいプロジェクトを開くと、そこでまた新しいアイディアが降りてくることもあるので、ストックしたものは結局使わないということも多いですけどね。
ドラム&ベース
ビートのパンチ力とベースの鳴りは重要視しています。ベース・ミュージックだからそうしているというより、ベースとドラムにパンチ力がある音楽が自分の好みなんですよ。だから、どんなジャンルの音楽を作るときでも、タイトでパンチ力のあるドラムと気持ち良くバーンと鳴るベースは大事にしています。音源は楽曲によって変えていますが、ここ数年ドラムは80’s感のある音色を自分の色として使っていました。サブベースはサンプルよりソフト・シンセを使うことが多くて、FUTURE AUDIO WORKSHOP SubLabや、INITIAL 808 Studioをよく使っています。
上モノとプラグイン・エフェクト
VENGEANCE SOUNDのAvengerというソフト・シンセは分離が良くてすごく好きです。TONE2 ElectraXも、音がパキッとしていて太くて好きですね。プラグインはあれこれ使いましたが、結局WAVESに落ち着きました。特にAPI EQ 550Bはからっとした質感が好きで、どの曲でもマスター・チャンネルに使っています。あとは、SOUNDSPOTのHikuというサチュレーション/リミッターのようなプラグインが良くて、これもマスターに挿して最後の調整に使います。ノブをひねるだけで良い感じの音像になるんですよ。
今後の展望
今年は自分の立ち位置などを考えずにやりたいことを全部やりたいですね。受取手が“この人何がしたいんだろう”って思わないような奇麗な出し方を考えたいです。また、プロデュースよりも自分のアーティスト活動の方に重きを置こうかと思っています。キャリアが長くなってくると“次の世代のため”って言う人が多いのですが、僕は何歳になっても積み上げてきたものをすべて捨てて、新しいことにチャレンジできるアーティストでいたいなと思っているんです。
NISI-Pを形成する3枚
『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』
YMO
(Sony Music Labels Inc.)
「年の離れた兄弟のおかげで物心ついた頃からいろいろな音楽を聴けた中、幼いながらに強い衝撃を受けた作品。今だに自分の音楽性に影響を与えていると思う」
『THE MIX』
クラフトワーク
(ワーナーミュージック・ジャパン)
「自身の代表曲を時流に合ったアレンジにリミックスしてリリースするという手法が目からウロコだった。自分が理想とするパフォーマンス形態に最も近いアーティスト」
『Marka』
Dub Phizix and Skeptical ft. Strategy
(Exit)
「友人Dub Phizixと Strategyの代表作。自分がモダン・ダンスホールやデジタル・ダンスホールから、ベース・ミュージックにマーケットを広げるきっかけとなった作品」