Chris Decastro 〜プロデューサー/エンジニア/ビートメイカーなどさまざまな顔を持つアーティスト

Chris Decastro 〜プロデューサー/エンジニア/ビートメイカーなどさまざまな顔を持つアーティスト

自分を勇気づけてくれるコミュニティを見つけることが一番重要

世界の各都市で活躍するビートメイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回紹介するのは、プロデューサー/エンジニア/ビートメイカーなどさまざまな顔を持つブルックリンのアーティスト、クリス・ディカストロ。自身のソロ活動だけでなく、本連載(VOL.130)に登場したジェシー・ラクソンが参加したロード・ケイソのアルバム『MOOR CHORES』のエンジニアリングなど、幅広い活躍でめきめき頭角を現している。

キャリアのスタート

 高校の頃、友達にImage-Line Software FL Studioを紹介されたのがきっかけさ。その頃俺はアートに夢中で、よくAdobe Photoshopを使ったりして自己表現をしていたんだけど、FL Studioを知ったことでやりたいことが一つ増えたんだ。それからはFL Studioを触ることが増えて、気が付いたら音楽制作にすっかり心を奪われていた。

 話は変わって、当時AOL(米国の大手インターネットサービス会社)にはAOL Instant Messenger(以下AIM)っていうメッセージ/ファイル送信機能があった。AIMにはAOL Musicという独自の音楽プレイヤーが付いていて、郵便番号を入れるとその地域独自の音楽を流してくれるんだけど、アルゴリズムの問題からか地元ではやっている音楽が全く流れなかったんだ。でも、そこでUGKやリル・キキなど、ヒューストンのグループのことを知ることができた。それを機に、どんな音楽を作りたいかというインスピレーションが湧いて、その影響もあって音楽制作を極めたいと思ったんだ。

機材の変遷

 高校を卒業した後、音響工学の学校に通っていた頃はAKAI PROFESSIONAL MPC2000XLとレコードプレーヤーのNumark PT-01USBを使って、尊敬していたJ・ディラのスタイルを模倣していた。放課後は、毎日レコードショップに通って、サンプリング用のレコードを最低5ドルから50ドル分買って家に持ち帰っていた。金欠だったけどなんとか自己表現する手段を見つけ出そうと当時は必死だったんだ。

 今使っているレコードプレーヤーは、Audio-Technica AT-LP140XP。逆回転機能や、ダイレクトドライブ仕様が最高だね。ちなみに、初めて買ったマイクはAT2020で、ヘッドホンのATH-M50xはBluetooth版と合わせて2台所有している。Audio-Technicaはお気に入りのメーカーの一つだね。

ブルックリンにある3階建ての自宅の最上階に設けられたクリスの制作スタジオ

ブルックリンにある3階建ての自宅の最上階に設けられたクリスの制作スタジオ。天板が3段ある機能的なデスクが印象的だ。上段は、両端にモニタースピーカーのJBL PROFESSIONAL 3 Series MKII、中央にオーディオインターフェースのAUDIENT iD14、DVDプレーヤーのLG Electronics DP132が鎮座。中段は、中央に2台のApple MacBook ProとカセットデッキSONY TC-WE305をセットし、その周りには左からRoland SP-404SX、ByronStatics KCS-315、Stylophone GEN X-1、KORG nanoKONTROL2、Audio-Technica ATH-M50xなどの姿が見える。下段には左からSIMMONS SD7K、novation Launchkey Mini [MK3]、CASIO SK-5が並んでいる。メインデスク左奥の木製デスクにはAudio-Technica AT-LP140XP、Behringer EURORACK UB802などをセット。木製デスクの手前には左からYAMAHA PSR-12、SHURE SM7Bがそれぞれスタンバイ

欲しいと願っていたタイミングで、ちょうどブルックリンの道ばたで見つけて購入したという4トラックミキサー、Behringer EURORACK UB802

欲しいと願っていたタイミングで、ちょうどブルックリンの道ばたで見つけて購入したという4トラックミキサー、Behringer EURORACK UB802

ByronStaticsのポータブル・カセットプレーヤー、KCS-315

ByronStaticsのポータブル・カセットプレーヤー、KCS-315

お気に入りのプラグイン

 音の質感を表現する際、WAVESだとJ37 Tape、Kramer Master Tape、Abbey Road Vinylが俺のトップ3だ。それからSoundtoysのプラグインも全部大好きで、Decapitatorなどのサチュレーションが良いんだよね。例えば、アナログシンセのStylophone GEN X-1を録音した素材にRadiatorをかけると、原音の持ち味を引き出してくれるし、より成熟したサウンドになる。XLN Audio RC-20 Retro Colorも良いね!

質感がお気に入りというアナログシンセのStylophone GEN X-1

質感がお気に入りというアナログシンセのStylophone GEN X-1

スタジオ構築のポイント

 家族と同居している家の居間にスタジオがあって、ここでレコーディングも行っているよ。マイクはAT2020や、マイケル・ジャクソンも気に入っていたというSHURE SM7Bを使うことが多い。ボーカルブースがない代わりにAlctron PF8というポップガードを使っている。ウィンドスクリーンがブースのような役割を果たして、部屋のノイズや反響を減らしてくれるんだ。たまに、浴室でボーカル録りをすることもある。自然なコンプレッションとリバーブがかかるんだ。シャワーカーテンにサウンドが染み込んでいくんだよね(笑)。

読者へのメッセージ

 誰にでも話しかけていると、結局誰とも話していないのと同じ。あなたのことを好きな人もいれば、そうじゃない人もいるだろう。音楽を作る上で、あらゆる人の話を聞き入れていたら、身動きが取れなくなる。自分を勇気づけてくれるコミュニティを見つけること。それが一番重要だ。

SELECTED WORK

『MOOR CHORES』
ロード・ケイソ
(PTP)

 ケイソの作品は他にも制作してきたけど、エンジニア、ビートメイカー、プロデューサーとして、当時の最高の能力を発揮できたと自負しているよ。

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