オフィスオーガスタが360 Reality Audioに取り組む理由とは?

オフィスオーガスが360 Reality Audioに取り組む理由とは?

360 Reality Audioはコミュニケーション可能なコンテンツ

スキマスイッチやさかいゆうが360 Reality Audioに取り組む背景には、オフィスオーガスタでディレクターを務める森本知之(写真中央)の綿密な計画と積極的なアプローチがある。360 Reality Audioのコンテンツ開発に尽力するソニー株式会社の鹿田英一(同右)、渡辺忠敏(同左)との座談会を通し、その軌跡をたどる。

Photo:Hiroki Obara(※ステージ風景を除く)

ロンドンの教会で響きを最大限生かす

──まずは森本さんの担当業務について教えてください。

森本 僕は正確に言うと“原盤ディレクター”という原盤(音源)制作の責任者で、アーティストが生み出した楽曲を、一定の予算内で、ベストな音源に仕上げて世に送り出すのが基本的な仕事です。

──360 Reality Audioの施策を始めたのはなぜですか?

森本 2021年頃にイマーシブをやりたいと思って、ロンドンのメトロポリス・スタジオの吉岡仁さんに相談したら、鹿田さんを紹介してもらったんです。その後スタジオで360 Reality Audioのライブコンテンツを聴かせてもらったら“ここがライブ会場だ”と思うくらい迫力があって、すごく魅力があるしビジネスチャンスも感じたので、やってみたいと思いました。

鹿田 僕らも360 Reality Audioに合うコンテンツを考える中で、ライブコンテンツはあるだろうなと。でも自分たちで興行するための情報がなかったので、いろいろなライブビジネスを行っているオフィスオーガスタの森本さんに相談したんです。そこでうまく360 Reality Audioを混ぜればお互いに新しいコンテンツを作れるんじゃないかということで、2022年8月にさかいゆうさんの凱旋ライブで面白いものを作りたいと提案いただいたのが始まりですね。

森本 高知県土佐清水市でさかいが3年越しに行った凱旋ライブで、放送や特典映像としての二次利用なども視野に入れて映像収録やミックスもしっかり行いたかったので、360 Reality Audioを絡めたらもっといいコンテンツが作れるかもと思ったんです。マイキングはSCIの日高智将さん、監修はソニー・ミュージックスタジオの米山雄大さんにお願いして、360 Reality Audioの映像コンテンツを作りました。そして11月に、LIFORK原宿でその試聴会を行ったんです。高知の酔鯨酒造さんが地酒を振る舞ってくれて、ライブコンテンツを見て聴いて、高知を感じてもらうイベントにしました。

鹿田 土佐清水のライブと東京の試聴会の両方に来てくれた方もいましたし、試聴会で泣いてくれた方もいて。ファンの人たちに喜んでもらえる体験を一歩一歩作るのは大事だし、この取り組みをどんどん広げていきたいと思いましたね。

──その後の展開はどのように?

森本 スキマスイッチのベスト盤『POPMAN’S WORLD -Second-』の収録用に「ボクノート」を新録することになっていて、僕は360 Reality Audioには生楽器のアンサンブルが合うと思っていたので、フルオーケストラの「ボクノート」を360 Reality Audioでもレコーディングして、さらに試聴会もしたらアップデートできると思ってご相談しました。

鹿田 アーティストのためにも良いものを作りたいし、360 Reality Audioのポテンシャルを最大限発揮できるものが作れるなら一緒にやらせてくださいということで、2022年12月にAvacoスタジオで録っていただきました。

森本 そのベスト盤についてメンバーから“マスタリングをメトロポリスのジョン・デイビスに頼みたい”と言われたんです。そこで何か企画を合わせて良いコンテンツを作ろうと思って。360 Reality Audioだったら次に何ができるか、を考えたときに、ロンドンの教会で、グランドピアノと歌で響きを最大限生かしたコンテンツを録ったら素敵じゃないかと。

鹿田 360 Reality Audioにはいろいろなパターンがあった方がいいと思いますし、教会で録るとどうなるかを知りたいと思ったので、このチャンスをいただけて良かったです。

森本 その後が原宿での「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」の試聴会です。360 Reality AudioのMVだけではなく、ステレオとの比較を映像中で体験してもらったり、制作ドキュメントも入れて、よりアップデートした形で提供できたのは良かったと思います。

渡辺 さかいさんの試聴会と同じLIFORK原宿でしたが、より多くの方に体験していただくために、リスニングスペースの半径を広げて、スピーカーをMUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL906からGENELEC 8341Aに変えることで出力を大きくして、音量を担保しました。さらに8月には、大阪のソニーストアで同じコンテンツでの試聴会をしました。

“点”が今やっている企画の先で“線”になる

──確実に取り組みの規模が大きくなっていますね。

森本 8月はさかいゆうも動きがありました。朝ドラ『ブギウギ』で主題歌「ハッピー☆ブギ」の歌唱に参加することが決まって、社内でも盛り上げていこうとなり、これはビッグバンドを録るチャンスだと思って鹿田さんに相談したら“だったらニューヨーク行きませんか?”と提案いただいたんです。

鹿田 スキマスイッチさんの体験もありましたし、いいものを作りたいなら、アイコニックな場所でやるのがいいと思って。

森本 ジャズでアイコニックな聖地のスタジオと言えば、パワー・ステーションだと。さかいは2018年にもパワー・ステーションでレコーディングをしていて、当時出会ったエンジニアのAkihiro Nishimuraさんに協力してもらいました。

渡辺 Akiさんも360 Reality Audio制作は初めてだったので、手探りな部分がありながらも、ソニーで用意できるマイクはお渡ししつつ、ホーンやクワイアの収録ではパワー・ステーションにあるヴィンテージマイクやデッカツリーも活用して、凝ったマイキングをされていました。

森本 その後、同じくパワー・ステーションでさかいがデビュー15周年イヤーに突入する10月7日に配信ライブをやりました。さかいのピアノのほか、ドラム、ベース、ギター、キーボード、サックス、トランペット×2人、トロンボーン、クワイア×4人という13人編成のバンドです。この360 Reality Audio版は毎週1曲ずつYouTubeで公開していきました。

──そして9月には360 Reality Audioが冠協賛となった『Augusta Camp 2023』が開催されましたね。

森本 協賛メリットとして、場外ブースのテント内にスピーカーを組んで『Augusta Camp 2022』の360 Reality Audioコンテンツをお客さんに体験してもらうことと、ヘッドホンブースで360 Reality Audioを体験してもらうこと、それから、この日の音声と映像を360 Reality Audio用に収録して、2024年にそのコンテンツの試聴会ツアーとなる『フィルムコンサート』をやることを提案させていただきました。

鹿田 森本さんのすごいところが、こう話すと全部“点”なんですけど、実は今やっている企画の先でちゃんと“線”になってる状態なんです。一個一個の企画に対してそういう仕掛けを持ってお話ししてくれるところがうれしいですし、こちらも一緒に良いものを作りたい気持ちは同じなので、協賛させていただきました。試聴会としても、ここまでコンセプトをきちんと作り込んだのは恐らく初めてでしたね。『Augusta Camp』に出展して、それに合わせて前年の『Augusta Camp』の360 Reality Audioコンテンツを用意して、それを1000人規模の方に体験していただくことができました。

──森本さんが思う360 Reality Audioの魅力とは?

森本 僕は音楽を伝えることはコミュニケーションの手段だと思ってるんですけど、最初に360 Reality Audioでライブコンテンツを見たときに“ライブ”を感じたのは、つまり“コミュニケーション”を感じたのだと分析していて。例えば、マイルス・デイヴィスのレコードを聴くとそこにマイルスを感じるように、360 Reality Audioでライブコンテンツを聴くと、そこにアーティストを感じるし、周りにお客さんを感じるし、360 Reality Audioはコミュニケーション可能なコンテンツだなと。それに衝撃を受けたし、僕の携わるアーティストが人の心を動かせるコンテンツを作れたら本望です。まずは、2024年の『Augusta Camp 2023 Film Concert ~powered by 360 Reality Audio~ 』でぜひ皆さんに聴いていただきたいです。

あの感動を360 Reality Audioで体感!
『Augusta Camp 2023 Film Concert ~powered by 360 Reality Audio~』開催決定!

Augusta Camp 2023

Photo : ASTUKI IWASA

2023年9月23日に横浜赤レンガパークで開催されたAugusta Camp 2023の感動が、全国6カ所のライブハウスを回る“フィルムコンサート”として帰ってくる! 360 Reality Audio&ライブ映像で楽しむ新感覚の体験型イベントとなっているので、ぜひ足を運んでほしい。

開催概要

◎日時/場所:

  • 1月12日(金)、1月13日(土)札幌 cube garden
  • 1月21日(日)仙台 MACANA
  • 2月4日(日)、2月5日(月)大阪 Hep Hall
  • 2月16日(金)〜2月18日 (日)名古屋 SPADEBOX
  • 2月23日(金)、2月24日(土)福岡 UNITED LAB
  • 3月2日(土)、3月3日(日)東京  WITH HARAJUKU HALL

◎価格:1,360円
◎チケット購入:イープラス
◎チケット販売開始日:2023年12月18日(月)
◎詳細/問い合わせ先:Augusta Camp Webサイト

山崎まさよし、スキマスイッチ、さかいゆうからのメッセージ動画はこちら!

Artist Comment|山崎まさよし

山崎まさよし

Photo : TSUNEO KOGA

オーディエンスが“味わう”ことに特化

 360 Reality Audioは、感じるだけでなくオーディエンスが“味わう”ことに特化していますね。僕もスタジオで『Augusta Camp』のコンテンツを360 Reality Audioで試聴したところ、定位がしっかりしている上に、360°にパンニングできるので、“ベースがあそこにいるな”とか“ギターこっちだな”とか“横並びで歌っているな”とか、ステージ上のメンバーの場所がはっきり分かって、当日の雰囲気を思い出しました。

 僕が始めた頃のAugusta Campは全国5カ所のツアー開催でした。今回のフィルムコンサートは、その頃のように『Augusta Camp』が360 Reality Audioと一緒にいろいろな場所を回るということで、Augusta Campに来られなかった人にとっても画期的な企画だと思いますので、ぜひ足を運んでほしいです。

360 Reality Audio 公式Webサイト

ソニー製品情報

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