君の音楽が1回でもプレイされたら、君は既に成功を収めている
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回紹介するのは、ブロンクスを拠点に活動するビート・メイカーのジェシー・ラクソンだ。ROLAND SP-404SXを中心とした制作スタイルで、絶妙なヨレが心地良いビートを展開。2019年末からBandcamp上で精力的なリリースを続け、8月4日には最新作『4watizworth』をリリースした。
キャリアのスタート
母がソウル・ミュージックのレコードを大量に持っていて、音楽に囲まれた環境で育ったんだ。12才の頃になるとSONY CD Walkmanを持っていたから、FYEレコードでCDを買うようになり、DJも始めるようになった。家にソウルのレコードはあったから、俺はDJプレミアやギャング・スターなんかのヒップホップを買っていた。10年間DJをやった後に、テーラヴァーダというアーティストの影響で、ビート・メイキングを始めた。彼はリサイクル・ショップを経営していて、そこで彼は服を売りながらROLAND SP-404SXでビート・メイキングをしていた。“この音が出る箱は何?”と声を掛けたのをきっかけに、彼との交流が始まった。ある日、彼に“音楽が好きで知識もあるんだから、ビートを作ってみないか? この箱を買ったら使い方を教えてやる”って言われたんだ。すぐにeBayで注文して、届いてすぐSP-404SXを持って店に行った。すると彼はすぐにセッティングをしてくれて、基礎を教えてくれたんだ。その日からずっとSP-404SXを使っているよ。
制作機材の変遷
SP-404SXの次に手に入れたのが、AKAI PROFESSIONAL MPC Live IIだ。SP-404SXは当初、使い方が難しかったんだけど、MPC Live IIはより使いやすくて、一貫性があった。パッドがソフトで強くたたいても壊れないようにできているから、サンプルをチョップしやすいんだ。最初の2年はこの2台を使っていて、3年目にBOSS SP-303を手に入れた。マッドリブが『Madvillainy』を作ったことで有名なやつで、自分はコンプレッションに使用している。分厚く、ふわっとしたサウンドにしてくれるんだよ。
ビート・メイキングの手順
まずは曲を聴いて好きなパーツを見つけたら、少なくとも2分間をMPC Live IIにサンプリングして、ドラム部分をランダムに流す。キックがボーカルの上に重なったらどんなふうに聴こえるかなとか、いろいろ試してみるんだ。ドラムが気に入れば方向性がつかめてくるから、ビートもMPC Live IIに入れ込む。サンプルとドラムを入れたら、MPC Live IIでそのビートをループさせて流していく。流し続けているドラムを利用しつつ、チョップしたサンプルをパズルのピースのように組み立てていく。それが俺のやり方さ。
自身の最新作について
普段俺は小学校の教師をしているんだけど、パンデミック中は誰も学校に行けないから職を失った。その休職期間を音楽制作に費やしたから、この3年間は音楽で生計を立ててきた。教師としての学位を利用したかったから、また教職に応募したんだけど、それが思ったより難航してね。必死に頑張ってやっと教職免許を取り戻すことができて、今また教壇に立っている。だからこの作品のビートとサウンドは、この期間に経験した苦労を通して生まれた自分の感情を表現している。そんなナーバスな感情を聴き手にかき立てることができたらと願っている。俺にとって重要な作品なんだ。
ビート・メイカーを目指す読者へのアドバイス
これはすごく大事なことなんだけど、君の音楽が1回でもプレイされたり、1ドルでも買ってもらえたら、君は既に成功を収めている。これだけいろいろなものに囲まれている世の中で君のアートにお金を出したっていうことは、君のアートには価値があり、君自身に価値があるってことだからね。
SELECTED WORK
『THNGSFALLAPRT』
Jesse Rack$on
(OFF THE SCENE Records)
初めてカセット契約を手に入れた作品。制作面については、ノレッジの『Hud Dreems』と同じコンセプトでビートをキュレートしたアルバムなんだ。