The Koreatown Oddity 〜Stones ThrowからのリリースやMndsgnとのコラボでも知られるLAのMC/ビート・メイカー

The Koreatown Oddity 〜Stones ThrowからのリリースやMndsgnとのコラボでも知られるLAのMC/ビート・メイカー

自分の身近にあるものを使って、音楽を作ることが大事だと思う

世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回紹介するのは、LAを拠点に活動するMC/ビート・メイカーのコリアタウン・オディティーだ。故Ras GやMndsgnとのコラボ作をはじめ、レーベルStones Throwなどからもリリースを重ねている。昨年発表した『ISTHISFORREAL?』は、濃密で野心的かつユーモラスなビート群が新鮮な一作。インタビューと共に、ぜひチェックしてみてほしい。

キャリアのスタート

 俺はLAのコリアタウンで生まれ育ったんだ。1992年のロサンゼルス暴動も子供の頃に経験したよ。母親は、グランドマスター・カズなどにリリックを提供したり、トラック・メイクをしていた。当時のコリアタウンは、ヒップホップのクラブがあったりして、面白いエリアだったんだ。中学の頃には、家にあったキーボードで作った曲をカセットに録音するようになった。高校生の頃は、ビート作りよりラップに集中していて、AKAI PROFESSIONAL MPCシリーズを持ってる友達と一緒に曲を作るようになったんだ。俺はフェアファックス高校に通っていて、近くのメルローズ通りにはラッパー、役者、モデル、スポーツ選手などが集まっていて、放課後にそこでツルんでいた。1990年代後半〜2000年代前半の話だよ。

制作機材の変遷

 高校生の頃、友達の家でMPCの使い方を学んで、いざ自分も買おうと思ったとき、ちょうど黒いMPC1000が発表されて購入した。一度MPCを盗まれたことがあって、そのときはRas GがBOSS SP-202を貸してくれて、しばらく使っていた。最近、Poo Bah Recordsで開催されたイベントに出演して、ROLAND SP-404MKIIをもらえたんだけど、いろいろなソースからネタを録音しやすくて気に入っているよ。

LAのシルバーレイクに構えるコリアタウンの制作スタジオ

LAのシルバーレイクに構えるコリアタウンの制作スタジオ。大きなシルバーのデスクに制作用の機材がまとまっている。中央にDJミキサーのNUMARK M6 USB、その左右にターンテーブルのAUDIO-TECHNICA AT-LP120XBT-USBとSTANTON T.92 M2 USBをセットし、マイクはSENNHEISER E 835を用意。手前の引き出しの上にはAKAI PROFESSIONAL MPC1000が置いてあり、ヘッドフォンのAUDIO-TECHNICA ATH-M20Xが接続されている。DJミキサーの奥にはカセット・デッキのJVC TD-W501が鎮座。その上にはミキサーのBEHRINGER 802 Xenyx、サンプラーのROLAND SP-404MKIIをセット。カセット・デッキの左右にあるモニター・スピーカーM-AUDIO BX5A Deluxeの上にはカニを模したおもちゃなどが置いてあり、彼のユニークな世界観が垣間見える

コリアタウンが最も使い慣れているという制作用の機材、AKAI PROFESSIONAL MPC1000

コリアタウンが最も使い慣れているという制作用の機材、AKAI PROFESSIONAL MPC1000

左からミキサーのBEHRINGER 802 Xenyx、サンプラーのROLAND SP-404MKII

左からミキサーのBEHRINGER 802 Xenyx、サンプラーのROLAND SP-404MKII。SP-404MKIIの外装の特殊デザインはLAのプロデューサーのティーブスが手掛けている

制作の手順

 ラップについては、俺は紙とか携帯にリリックを書くことはない。幾つかのフレーズのアイディアが降りてきたら、それを頭の隅っこに保存しておくんだ。レコードを聴いて、面白いネタを見つけたら、以前思いついたリリックに合わせてトラックを作っていく。トラックを作るときの決まりは特になくて、レコードから良いフレーズだけをループして、ドラムを入れない場合だってある。頭の中でリリックが決まってきたら、ビートを流しながら、言葉の配置を考えていく。ラップを録るときは、紙や画面は見ない。ステージで演技をするときに、台本を読みながら演技をしないのと同じだよ。リリックを記憶しておけば、感情を入れてレコーディングできるんだ。

自身の最新作について

 「HISTORY TENSION」はタズ・アーノルド(ケンドリック・ラマーなどの作品に参加)がプロデュースしたんだ。いろいろなトラックの中で“これだ”と思って選んだビートが、なんと自分の声を彼がサンプリングして制作したものだった。つまり、自分の昔のボーカルのサンプルが入ったトラックの上でラップしたんだ。後で気付いて二人で笑ったよ。そのほかの曲のビートは自分で作ったんだけど「MISOPHONIA LOVE」という曲は、半分寝ている状態でできた。夢を見ているかと思ったんだけど、目覚めたら曲が完成していたんだ(笑)。

ビート・メイカーを目指す読者へのアドバイス

 有名になりたいとかじゃなく、とにかくドープな音楽を作りたいっていう願望が大事。あとは、自分の独自の方法でやるべき。ネット上の音源だけをサンプリングする人もいるけど、別にそれでもいいと思うんだ。ヒップホップというのは、自分の身近にあるものを使って、音楽を作ることが大事だからね。それに、いろいろな音楽を聴いて勉強することが大切。俺が見つけたネタが、長年レコードを買っている人でも分からないということは、たくさんの未知の音楽が世の中にあるということなんだ。だから、常にあらゆるタイプの音楽を聴いて、過去のヒップホップもチェックしてみてほしい。

SELECTED WORK

『ISTHISFORREAL?』
The Koreatown Oddity
(Stones Throw)

 実験的でありながらもポップなアルバム。それぞれの楽曲がTVシリーズの1エピソードのようなアプローチで作ったんだ。

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