Tony Seltzer 〜「制作をはじめるきっかけはJ・ディラ」と語るブルックリンのビート・メイカー

Tony Seltzer 〜「制作をはじめるきっかけはJ・ディラ」と語るブルックリンのビートメイカー

部屋にこもらず外に出て人々と出会いキャリアを進歩させていく

世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回登場するのは、ブルックリンを拠点に活動するプロデューサー/ビート・メイカーのトニー・セルツァーだ。ニューヨークのアンダーグラウンド・ラップ・シーンで独自の地位を確立。2021年にはさまざまなラッパーを集めた、自身にとって初となるコンピレーション・アルバムを出すなど、精力的に活動している。

キャリアのスタート

 僕がビートで最初に影響を受けたのはJ・ディラだった。制作面にも興味を持つようになって、父親のコンピューターにMAGIX SOUND FORGE Audio Studioっていうプログラムがあったから、それを使って15歳の頃にビートを作りはじめた。ラジオでDJをやっていた父が大量のソウルのレコードを持っていたから、サンプリング/チョップしながらビートの作り方を見つけ出していったんだ。初めて作った10個のビートは、同じドラムをひたすら使い回していたよ。

セルツァーのメイン・スタジオ

セルツァーのメイン・スタジオ。ディスプレイにはABLETON Liveが立ち上がっている。モニター・スピーカーはFOCAL Alpha 80を使用。その内側にあるM-AUDIO Studiophile BX5A Deluxeは、最初に手に入れたモニター・スピーカーで、参考として聴くために今でも常に置いてあるそう。写真左のキーボード・スタンド下段にはM-AUDIO Keystation 61 MK3、上段には、制作より自由時間で使うことが多いALESIS Ionをセット。壁にはROLAND Juno-106が立てかけられている。デスクの右端にはモニター・ヘッドフォンのAUDIO-TECHINCA ATH-M50Xの姿が見え、その左にはPRESONUS Monitor Station V2がスタンバイ

ビート・メイキング・ツール

 音楽制作を学べるNYの大学に入学して、すぐにAce(現:AceMo)っていう友達ができたんだけど、彼にはABLETON Liveを教えてもらったんだ。気に入っているプラグインはSOUNDTOYS Little AlterBoyやDecapitatorで、ボーカルによく使っているよ。マスター・トラックにディストーションをかけることもある。僕はデス・メタル出身だから、ラウドで攻撃的なサウンドが好きなんだ。

ボーカル・ブースにはコンデンサー・マイクのSHURE KSM42をセット。KAOTICA Eyeballを装着したことで、部屋鳴りの影響などを避けられるという、セルツァーこだわりのセッティング

ボーカル・ブースにはコンデンサー・マイクのSHURE KSM42をセット。KAOTICA Eyeballを装着したことで、部屋鳴りの影響などを避けられるという、セルツァーこだわりのセッティング

ビート・メイキングの手順

 まずシンセサイザーを即興演奏している人のビデオを見つけて、それをサンプリングして、リバースしたり、ピッチを変えたりするんだ。そこにVSTプラグインを加えて、メロディを作り出す。次はドラムで、作りながらミキシングもしていくんだ。例えば、ハイハットがうるさすぎたりすると、そのビートをもう受け入れられないからね。最後に追加する要素がベース、またはサブベースやキックだ。僕の哲学は、ビートを作りながらミックスも完成させていくこと。全て終わったら、最後に自分のネーム・タグを入れて、完成させる。世界一のビートじゃないかもしれないけど、誰がそれを好きになるか分からないからね。比較的成功を収めた僕の曲の中には、自分では特に好きなビートじゃなかったけど、アーティストは気に入ってくれたものがある。それが重要なんだ。

サウンドがクリーンすぎるときに使用するというTASCAM PortaStudio 424 MKII。ヒス・ノイズを入れたり、ピッチの調整をすることで、デジタルなサウンドにリアルな感触を付加することができるとのこと

サウンドがクリーンすぎるときに使用するというTASCAM PortaStudio 424 MKII。ヒス・ノイズを入れたり、ピッチの調整をすることで、デジタルなサウンドにリアルな感触を付加することができるとのこと

ビート・メイクの醍醐味

 結局のところ、プロセスそのものが楽しいし、自分が作った音楽を楽しみながら聴き返している。もちろん他の人に僕の音楽を気に入ってもらえるのはうれしいし、他の人たちからポジティブな反応をもらえるのもありがたいんだけど、自分が自分の音楽を大好きになれることがうれしいんだ。自分がスタジオで作ったばかりの音楽を翌日ヘッドフォンで聴いて、“うわー、これ僕が作ったんだ! すごくいいな!”って思えるのって、いい気分だよ。

オーディオI/OはUNIVERSAL AUDIO Apollo X6

オーディオI/OはUNIVERSAL AUDIO Apollo X6

読者へのメッセージ

 自分の部屋にこもって努力をするのも必要だけど、プロデューサーとして精彩を放つには、外に出て、人々と出会い、スタジオに入って、単に曲を作るよりもさらに踏み込んでいく必要がある。そうやってキャリアを進歩させていくんだ。地元のアーティストと出会って友達になり、彼らのためにビートを作れば、気づいてくれる人が出てくるし、他のアーティストも認識してくれる。そこから彼らとビートを作りはじめれば、また他の人が気づいてくれる。実際、そうやって僕はキャリアを築いてきた。僕はネット上で人と出会ったり、人にビートを送るのは得意じゃなかったんだ。直接会いたいタイプの人間だからね。人と実際に会って、スタジオで一緒に仕事をすることが重要なんだ。多くの人たちが、それこそが最高の結果を生み出す方法だってうなずいてくれるんじゃないかな。

SELECTED WORK

『The Alpha Jerk』
KEY! & Tony Seltzer
(Elloh Worldwide/Blak Cat Music Group)

 最近の中でも気に入っているのがKEY!との作品。M⑥「No Sirski (feat. Lil Yachty)」は僕が制作した中で一番気に入っている曲の1つだよ。

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