【第2回】871 DESIGN花井さんとスタジオ設計について話し合ったこと|本間昭光のスタジオ再構築レポ

 こんにちは本間昭光です。先月のこの連載では、新しいプライベート・スタジオについての構想や僕なりのスタジオ・イメージの全体像についてお伝えしました。“いかにお金をかけずに居心地の良い空間を作るかがテーマ”でしたね。もちろん新規のスタジオ造りですので、いろいろな部分でお金はかかるのですが、これまでの資産と知恵と人脈を頼りに、できるだけコスト・カットしながら、音と空間作りにこだわりたいと。スタジオ内のコントロール・ルーム、ブースのデザインや設計については、871 DESIGN代表、花井修平さんにお願いしました。花井さんとはマネージャーからの紹介で知り合いましたが、アーティストのプライベート・スタジオ造りや東京オリンピックのサラウンド・システムの構築に関わるなど、実績は十分で、安心してお任せできました。今回は、花井さんと、どのようなやり取りをしたかを振り返ってみました。

 今月の状況 

コントロール・ルームの床のヘリンボーンと、壁が組み上がった状態です。この記事を書いている時点では、暫定的にコンピューターやスピーカーのシステムを組んで、作業を行っています

コントロール・ルームの床のヘリンボーンと、壁が組み上がった状態です。この記事を書いている時点では、暫定的にコンピューターやスピーカーのシステムを組んで、作業を行っています

スタジオの設計とデザインはすべて花井さんにお任せ

本間 僕から花井さんへのリクエストは、“ロンドンっぽくしてほしい、床はヘリンボーンで”ということでしたね。図面製作から内装、防音や吸音など、すべてお任せでしたが、我々からのオーダーに対して花井さんの作業としては、どのように進めていったのですか?

花井 まずはメインのコントロール・ルームのプランから考えていきました。アーティストや作家さんだったら、その人がどんな音楽を作ったり演奏したりするのか?ということを把握して、浮き床の防振を湿式で造るのか、それとも乾式にするのかを最初に考えます。今回は、湿式を基本にして、乾式も混ぜる方法を採用しました。次に壁は、まず部屋に元々ある壁に触れないように角材を部屋の全周に立てていて、これを建物の躯体に見立てています。その角材に板を貼って躯体面としました。この躯体面は床とも接していません。

本間 つまり、このスタジオは本来の建物から切り離されている状態なんですよね? 浮いている形で。

花井 そうですね。できるだけ壁や床、天井も含めて接点を少なくしています。もちろん、最終的にくっついている部分はありますが。

本間 そういう造り方にすると部屋が狭くなる印象でしたが、天井が高く、圧迫感がなかったので、とても良かったです。作業していると、天井の高さは疲れに直結する部分と感じていたのですが、これだけ高いと全然疲れませんね。あと、この壁の色もロンドン系のファッション・ブランドの店に行ったりして、サンプルを探しながら決めましたよね。最初は茶色が良いんじゃないかとか。それで茶色のサンプルも見たんですが、ツヤがあり、それはイメージと合わなかったので、最終的には黒か濃紺かで迷って、濃紺に決めました。理由は格好良いからです(笑)。

花井 壁を額縁状のデザインにしたのは、本間さんがおっしゃっていた“ロンドンっぽく”をイメージしたものです。濃紺はつや消しなんですけど、メリットは奥行き感が出るところ。光を吸ってくれるので、ちょっと暗く感じると思うんです。

本間 僕が作業するときは、ランプシェードを点けるくらいの暗さが雰囲気が良いし、集中力も増します。本当に居心地の良い空間を作ってくれたと思っています。

今回は、871 DESIGNの花井修平さんにお越しいただき、お話を伺いました

今回は、871 DESIGNの花井修平さんにお越しいただき、お話を伺いました

スタジオ内の壁は、ヒノキの角材をぐるっと立てるところからスタートしました

スタジオ内の壁は、ヒノキの角材をぐるっと立てるところからスタートしました

音楽も建築も信頼できる人に任せたら口出ししないのが一番

本間 部屋が組み上がってから、僕も作業をしなくてはいけない関係で、暫定的にシステムを組んで、音も鳴らしてみたんですが、ビートの強い曲を大音量でかけても、ほとんどビビることがなかったのは驚きましたね。

花井 壁の裏側にはすべてグラスウールが入っていて吸音しつつ、額縁部分の板で反射させています。板の幅をもう少し取ったほうが反射と吸音のバランスが良くなるのですが、床や天井の反射で、うまくバランスが取れたのかなと思っています。僕が心配していたのは、低域が回り過ぎないかなという点でしたが、結果そんなこともなかったですね。

本間 ブースの方は、コントロール・ルームとは多少調音バランスを変えているんですよね?

花井 そうですね。ブースはそれほど広くないのと、壁とガラス面が近く反射も多いため、多めに吸音しています。

本間 あとスタジオの扉はオーダーメイドということで。

花井 はい。スタジオで一般的に使用される防音扉はコスト的にオーバーしてしまうので、木で製作しました。以前、防音扉をバラして構造を確認したところ、これなら木でも作れるなと思ったので。オシャレ度も高いですからね(笑)。

本間 そうなんです、オシャレ度重視でしたから(笑)。僕が特にこだわった床のヘリンボーンも、1枚1枚大工さんが丁寧につなぎ合わせてくれて、満足いく仕上がりになりました。音も部屋が完成した状態でかなり良くて、これから年月をかけて締まっていくと思うので、とても楽しみです。スタジオだからもちろん音は最優先ですが、それを理解してもらった上で、気軽に“ロンドンっぽくお願い”って言える、花井さんとの信頼関係でできたのは本当に良かったです。我々は部屋作りに関しては素人なので、自分のこだわりを伝えて、あとはお任せ。それが一番ですね。マンションの部屋でより良い空間を作りたいという人もいると思いますが、まずはその環境を理解してくれるプロに相談するところから始め、アイディアをもらった上で改造していくのが良いと思いますよ。

花井 僕もそういう意味ではお任せしてもらえたので、本当に楽しく作業できました。ありがとうございました。

本間 音楽も建築も任せたら口出ししないのが一番ですね(笑)。さて、次回もマニアックなお話ができたらと思いますので、お楽しみに。

特にこだわった床のヘリンボーン。通常のフローリングなら1日で終わるところを、こちらは7日間かけて、大工さんが1枚1枚組み合わせてくれました

特にこだわった床のヘリンボーン。通常のフローリングなら1日で終わるところを、こちらは7日間かけて、大工さんが1枚1枚組み合わせてくれました

スタジオの防音扉はオーダーメイドの木製の扉を採用しました。予算の都合もありましたが、機能面でも問題なく、何よりおしゃれです

スタジオの防音扉はオーダーメイドの木製の扉を採用しました。予算の都合もありましたが、機能面でも問題なく、何よりおしゃれです

 

本間昭光

本間昭光
1964年生まれ。作編曲家/キーボーディスト/プロデューサー。これまでにポルノグラフィティへの楽曲提供、広瀬香美、浜崎あゆみなどの編曲、槇原敬之のライブ·アレンジやバンド·マスターを担当。近年は鈴木雅之、いきものがかり、天童よしみ、木村カエラ、岡崎体育、Little Glee Monster、降幡愛、関ジャニ∞など、さまざまなジャンルのアーティストを手掛ける。また、音楽番組へのゲスト出演やミュージカルの音楽監督を務めるなど、幅広く活動している

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