【第1回】新プライベート・スタジオを作るにあたって考えたこと|本間昭光のスタジオ再構築レポ

 こんにちは本間昭光です。この度、今までの作業部屋スタジオから引っ越しをして、新しくプライベート・スタジオを造ることになりました。新スタジオ造りにあたっては、設計から空間作り、機材まで、僕なりにテーマを考え、いろいろな人の協力を得て建築を進めています。今月号から始まるこの連載では、サンレコ読者が実際にスタジオ造りをする際のヒントになるような話を、僕のスタジオ造りを通して伝えていけたらと思います。

 今月の状況 

今回借りた物件の工事前の全景です。借りたときは写真のように白を基調としたスペースでしたが、ここからスタジオ造りが始まります。どのように変化していくのか楽しみです

今回借りた物件の工事前の全景です。借りたときは写真のように白を基調としたスペースでしたが、ここからスタジオ造りが始まります。どのように変化していくのか楽しみです

いかにお金をかけずに居心地の良い空間を作るかがテーマ

 僕は東京に出てきてからずっと、マンションや居抜きで借りたスタジオを作業場にして、主に作曲やアレンジの仕事を行ってきましたが、自分だけのスタジオを造ったことはありませんでした。というのは、踏み入れてはいけない領域だと思っていたからです。“アレンジャーはエンジニアリングの世界に行くべきではない、譜面で勝負だ”みたいな古い体質があったんですね。しかしながら昨今のコロナの影響で大きなスタジオになかなか集まれなくなったり、顕著に制作のバジェットが少なくなってきたこと、それから自分がレーベルを始めたということも相まって、今回、自分自身のプライベート・スタジオを設立しようという考えに至りました。

 そしてひとつだけ、スタジオ造りにあたってテーマに掲げたことがあります。それは“いかにお金をかけずに手持ちの機材を使いつつ、居心地の良い作業空間を作れるか?”です。外部の人もいっぱい来てもらって、“居心地の良い雰囲気だなぁ”と感じてもらえたら最高だと思っています。居心地の良さの理想はヨーロッパ、特にイギリスのスタジオですね。ちょっと地味で殺風景なんだけど、床はヘリンボーンで(笑)。

 音は当然プロフェッショナルな仕事に対応するため、電源部分からしっかり整えようと思っています。僕自身、商業スタジオはもちろん、先輩や後輩のプライベート・スタジオを幾つも見てきているので、部屋の吸音、拡散、防音、そしてどんな機材を導入するか?という点において理想を言い出せばキリがないことはよく分かっていますし、もちろんお金も幾らあっても足りないですよね。幸いにも、長年この仕事をしているので、コツコツと買いためた手持ちの機材は豊富にありますので、できるだけそれらを使うことで初期コストを下げることが可能でした。読者の皆さんが僕と同じ条件ではないことは分かっていますが、僕の考え方や工夫やアイディアが、皆さんのスタジオ造りに一つにでも参考になればと思っていますので、実際にこれからどのような工程を経てスタジオがプロ仕様に出来上がっていくのか、一緒に見ていってもらえたらうれしいです。スタジオはゆっくりと育てていくものですしね。

 この原稿を書いている時点では、まだ着工したばかりですので、最終的にどのようなスタジオになるのか?どうぞお楽しみに。

1ボーカル・ブースと1コントロール・ルームを用意

 さて、今回のスタジオ造りに当たっては、まず物件探しからスタートしました。スタジオのスペース以外に、これまでスタジオとは別に借りていた倉庫の機材を収納できる場所と、事務作業ができるエリアも確保したかったので、それなりの広さの物件が必要になりました。幸い、知り合いの協力もあり都内のオフィス・ビルの地下一階というベストな物件が見つかりました。

 物件が決まれば、次は肝心なスタジオの設計です。僕はボーカリストがいるセッションを中心にプロデュース/楽曲制作をしているので、ボーカル・ブースは必須でした。

 そしてコントロール・ルームには、制作作業を行えるスペースとミックス作業が可能なスペースの2カ所を用意しようと決めました。もちろんこの機会にいろいろ断捨離です。

 今回は居抜きではなくイチからスタジオを作ることになったので、当然先行投資としての予算はかかりましたが、“できるだけお金をかけずに”というのが一つのテーマでしたので、スタジオの設計と工事は、マネージャーの紹介で871 DESIGNの花井(修平)さんにお願いすることになりました。花井さんは、ハナレグミのプライベート・スタジオを手掛けていたり、オリンピックの東京2020大会でもサラウンド・システムの構築に携わるなど実績も十分でしたので安心してお任せできると考えました。

 今回のような規模のスタジオ造りですと、かなり多くの金額がかかると容易に予想されます。しかし、花井さんと相談していろんな部分を精査した結果、とても良心的な金額でスタジオ計画を進めることが可能になりました。こういうときに持つべきものは人のつながりだなと実感しますね。

スタジオ造りに当たっては、いろいろな協力者の力を借りながらスタートしました。左からエンジニアの伊東俊郎さん、871DESIGNの花井さん、マネージャーの箭本。音響周りに関しては、伊東さんのアドバイスをたくさん伺う予定です

スタジオ造りに当たっては、いろいろな協力者の力を借りながらスタートしました。左からエンジニアの伊東俊郎さん、871DESIGNの花井さん、マネージャーの箭本。音響周りに関しては、伊東さんのアドバイスをたくさん伺う予定です

 花井さんには、物件のサイズに合わせて、1ブース、1コントロール・ルームでの設計図を起こしてもらったのですが、僕からの希望は“居心地の良い空間を作ってください”と伝えただけです。細かい内装については今後の連載で紹介していきますね。

スタジオの全体図とコントロール・ルーム、ブースの設計図。花井さんに図面を起こしていただきチェックをしましたが、基本的に問題なく、工事を開始してもらいました。テーマはいかに居心地の良い空間を作るか、です!

スタジオの全体図とコントロール・ルーム、ブースの設計図。花井さんに図面を起こしていただきチェックをしましたが、基本的に問題なく、工事を開始してもらいました。テーマはいかに居心地の良い空間を作るか、です!

 最後にサンレコ読者で、マンションなどで作業している方もいるかと思いますが、そんな部屋でマイクを使って歌録りなどをする際には、遮音、吸音、拡散の3つをうまく組み合わせる録音方法が功を奏する場合が多いです。マイク自体の性能を上げるより、マイクの周りの雑音をいかに遮断、拡散するかが大事なので、ぜひ試してみてください。

 次回は、実際に新スタジオで具体的に行った工夫やアイディアを話していこうと思います。

床のカーペットを剥がした状態です。すべて1から作っていきますので、仕上がりが楽しみですね

床のカーペットを剥がした状態です。すべて1から作っていきますので、仕上がりが楽しみですね

僕も少しスタジオの解体を手伝いました

僕も少しスタジオの解体を手伝いました

 

本間昭光

本間昭光
1964年生まれ。作編曲家/キーボーディスト/プロデューサー。これまでにポルノグラフィティへの楽曲提供、広瀬香美、浜崎あゆみなどの編曲、槇原敬之のライブ·アレンジやバンド·マスターを担当。近年は鈴木雅之、いきものがかり、天童よしみ、木村カエラ、岡崎体育、Little Glee Monster、降幡愛、関ジャニ∞など、様々なジャンルのアーティストを手掛ける。また、音楽番組へのゲスト出演やミュージカルの音楽監督を務めるなど、幅広く活動している

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