歌謡曲や1980~1990年代のジャパニーズ・ポップスに通暁し、そのエッセンスを自らの作品に昇華するプロデューサー/DJのNight Tempoさん。今月からスタートする本連載では彼のプロダクションについて、インスピレーション源になった音楽を交えながらざっくばらんに語っていただきます。初回のテーマはFANCYLABO「Flash Light」の制作。それ何?って人は、すぐにでも読んでみて!
アイドルにも歌唱力を求めます
はじめまして、Night Tempoです。僕は今、FANCYLABO(ファンシーラボ)というプロジェクトをやっていて、メンバーとして参加しつつも2人の女性シンガーのクリエイションを一手に担うような立場にいます。
その2人とは、元Maison book girlの矢川葵さんと元AKB48/NMB48の市川美織さん。プロジェクトの発想源として大きいのは、アイドル・デュオのWinkさんです。“笑わないアイドル”というスタイルは引用していませんが、2人の女の子がクールな曲を歌うのは、FANCYLABOの出発点となりました。音楽的には、歌謡曲や80's~90'sポップスの空気感をまねして作る、というのを考えています。当時っぽいけど架空の時代というか。4月26日に初めてのシングル曲「Flash Light」をリリースするので、それについてお話ししましょう。
まず僕は、アイドルであってもシンガーの方には歌唱力を求めます。“歌がへた”っていうのは、アイドルとして応援したくなる要素かもしれませんが、自分が作りたいのはただ“応援をもらいたいもの”ではないんです。リスナーの方に曲を聴いてもらって、音楽として好きになってもらいたいと思うのです。
FANCYLABOの目標は、音楽という以上にファッションとして認められることです。聴いたそばから直感的に“おしゃれだ”と分かるようなもの。だからグループ名も、FANCYLABO=おしゃれ研究所なんです。
おしゃれな音楽と言えば、例えば1990年代の渋谷系。とても良いと思うんですが、おとなしくてクールでしょ、みたいな音楽が多くて、もっとバラエティ感があるといいのになと思います。だから僕は、クールでありつつも、派手な要素を盛り込みたい。 「Flash Light」に強めのブラス隊を入れているのは、そういう意図もあってのことです。
自分の主観で作るのが大事
そのブラス隊は、REFXのシンセNexusを使った打ち込みです。Winkさんに「Sexy Music」(1990年)という曲がありますよね。あの曲にしても、当時は生楽器よりシンセの音がメインでした。予算の問題なのか、かっこいいからそうしていたのかは分かりませんが、僕はブラスのような生楽器の音もシンセで作るところが興味深いと思っていて。聴く人によってはチープに感じられるかもしれないけど、チープな音をたくさん使いながら、全体として面白く聴こえるように組み立てれば成立すると考えています。いろんな要素を入れすぎてアンサンブルがちぐはぐになったり、耳に痛い音に聴こえたりしたら、それは単にチープなもの。B級映画だって、ただのB級映画から芸術的価値の高いものまでありますよね。僕は自分の音楽を、その芸術側に持っていきたいと思っているんです。
打ち込みで作る理由はほかにもあって、自分の主観が大事だからです。「Flash Light」にはディストーションのギターが入っていますが、あれは友達の演奏をABLETON LiveのSamplerに取り込んで新たなフレーズとして打ち込んだものです。セッション・ギタリストに弾いてもらったら弾く人の主観が入ってしまうし、それは個人的に面白くないから、あらゆる工程を自分でこなしたい。ドラムも無論、打ち込みで、BOSSとかのリズム・マシンの音と生楽器の録り音をレイヤーして作った、自前のサンプル集で構成しています。これは角松敏生さんに倣ったやり方ですね。
早くも誌面が尽きてしまいました。次回も引き続き気の向くままに書こうと思いますので、よろしくお願いします。
Night Tempo
80’sの日本のポップスをダンス・ミュージックに再構築した“フューチャー・ファンク”のシーンから登場した韓国人プロデューサー/DJ。アメリカと日本を中心に活動する。昭和ポップスを現代的にアップデートする『昭和グルーヴ』シリーズを2019年に始動。Wink、杏里、松原みき、秋元薫らの楽曲を素材にこれまで17タイトルを発表し、最新作は泰葉。2021年にはオリジナル曲を収録したアルバム『Ladies In The City』をメジャー・リリースした。