行き詰まったコード進行の作成を強力にサポートするCubaseの機能たち|解説:JUVENILE

行き詰まったコード進行の作成を強力にサポートするCubaseの機能たち|解説:JUVENILE

 こんにちは、JUVENILEです。サンレコさんでsteinberg Cubaseの使い方を解説してきましたが、今回が4回目にして私の担当の最終回になります。初回の挨拶でも触れたのですが、このコーナーは、それまでうまく使えていなかったさまざまな便利機能や役立つTipsを紹介し続けてくださっていて、私自身もずっと参考にさせていただいていました。そんなこのコーナーに自分が記事を書かせていただける立場になれて光栄です。最終回は、Cubaseの代表的な便利機能の一つであるコードトラックを、概要を踏まえつつ私なりの使い方と一緒にご紹介できたらと思います。

つながりのよいコードを提案する“Chord Assistant”

 ビートメイクや作曲を始めたいけど、コード理論につまずいている、という方は多いと思います。私の周りでも“ドラムなどのビートパターンまでは見よう見まねで作れたけど、コードはまだよく分からない”という話をよく聞きます。Cubaseには、そんな悩みを解決する便利な機能“コードトラック”が何年も前から搭載されており、私は普段のプロジェクトのほとんどで活用しています。

 コードトラックは、オーディオトラックやインストゥルメントトラック、サンプラートラックなどと同じように立ち上げることが可能です。私はプロジェクトのテンプレートとして、初めからコードトラックなどを立ち上げた状態を作っておくことで、作業の効率化を図っています。コードトラックと一緒に、作成したコードを鳴らすためのインストゥルメントも立ち上げておくとよいでしょう。私はCubase付属のソフトシンセHALion SonicのYAMAHA S90ES Pianoというピアノ音色を好んで設定しています。このプリセットはかなり前のバージョンからずっと収録されているもので、いわゆる最新のサウンドというわけではないのですが、それがかえってコードを考えるのにちょうどいいと感じて使っています。コードトラックの“モニターしているトラックを使用”から、作成したインストゥルメントトラック(ここではHALion Sonic)を選択することによって、コードを鳴らすことが可能です。

赤枠がコードトラック。画面上部のメニューバーから“プロジェクト→トラックを追加→コード”を選択して立ち上げ可能。このままだとコードの音を鳴らすことはできないので、インストゥルメントトラック(青枠)を立ち上げて、赤矢印の部分(デフォルトでは“モニターしているトラックを使用”と記載されている)から、作成したインストゥルメントトラックを選択しておく必要がある。メニューバーから“ファイル→テンプレートとして保存...”(黄矢印)を選択すれば、現状のプロジェクトをテンプレートとして保存することが可能

赤枠がコードトラック。画面上部のメニューバーから“プロジェクト→トラックを追加→コード”を選択して立ち上げ可能。このままだとコードの音を鳴らすことはできないので、インストゥルメントトラック(青枠)を立ち上げて、赤矢印の部分(デフォルトでは“モニターしているトラックを使用”と記載されている)から、作成したインストゥルメントトラックを選択しておく必要がある。メニューバーから“ファイル→テンプレートとして保存...”(黄矢印)を選択すれば、現状のプロジェクトをテンプレートとして保存することが可能

 それではコードトラック上に鉛筆ツールを使ってコードを打ち込んでいきましょう。“X”と書かれた長方形が表示されるので、これをダブルクリックしてエディターを表示し、任意のコードを割り当てていきます。今回は4拍ごとにチェンジしていく4小節ループのコード進行を作成。途中で“2つ目のEm7はE7の方が響きがいいな”と思ったときも、エディターですぐに変更できます。

コードトラックのエディター画面(赤枠)。ルートノート、コードタイプ、テンション、ベースノートを組み合わせて任意のコードを割り当てられる

コードトラックのエディター画面(赤枠)。ルートノート、コードタイプ、テンション、ベースノートを組み合わせて任意のコードを割り当てられる

 ここで、4小節目だけもう一つコードをはさんで、2拍ごとにチェンジする進行にしたいと思ったとしましょう。そんなときに便利な機能をご紹介します。まずは、元々想定していたコードを3拍目に移動させて、1拍目に新しくコードを追加します。その後エディターの右横のタブ“Chord Assistant”を選択すると、前後とつながりのよい自然なコードから、アグレッシブに攻めたコードまで、ズラっとCubaseが提案してくれます。ここではGm7を選択しました。

まず4拍ごとにチェンジしていく4小節ループのコード進行を作成したが、4小節目だけもう一つコードをはさんで、2拍ごとにチェンジする進行にしてみよう。まずは、元々想定していたコードC7を3拍目に移動させて(赤矢印)、1拍目に鉛筆ツールで新しくコードを追加(黄矢印)。その後エディターの右横のタブを選択して“Chord Assistant”(赤枠)を表示させると、前後とつながりのよい自然なコードから、アグレッシブに攻めたコードまで、Cubaseが提案してくれる。表示形式は、“リスト”“近接”“五度圏”の3つから選ぶことが可能(画像はリスト)。ここではGm7を割り当てた

まず4拍ごとにチェンジしていく4小節ループのコード進行を作成したが、4小節目だけもう一つコードをはさんで、2拍ごとにチェンジする進行にしてみよう。まずは、元々想定していたコードC7を3拍目に移動させて(赤矢印)、1拍目に鉛筆ツールで新しくコードを追加(黄矢印)。その後エディターの右横のタブを選択して“Chord Assistant”(赤枠)を表示させると、前後とつながりのよい自然なコードから、アグレッシブに攻めたコードまで、Cubaseが提案してくれる。表示形式は、“リスト”“近接”“五度圏”の3つから選ぶことが可能(画像はリスト)。ここではGm7を割り当てた

 表示形式は、最初に表示される“リスト”と“近接”“五度圏”の3つから選ぶことができ、視覚的に分かりやすく表示されているので、この中から気に入ったコードを選ぶだけでコード進行が作成できます。

Chord Assistant”で表示形式を“近接”にした状態の画面

Chord Assistant”で表示形式を“近接”にした状態の画面

Chord Assistant”で表示形式を“五度圏”にした状態の画面

Chord Assistant”で表示形式を“五度圏”にした状態の画面

 完成したコード進行をループしていくうちに別のキーに移調したいと思った場合は、コードをすべて選択した状態で、上部の“ルートノート”を変更することで簡単に移調が行えます。

コードをすべて選択した状態で、ルートノート(赤矢印)を変更すれば簡単に移調が行える

コードをすべて選択した状態で、ルートノート(赤矢印)を変更すれば簡単に移調が行える

 またChord Assistantの表示モード“五度圏”は、転調をする際にもなかなか使えるツールです。五度圏とは、コード理論を学ぶとその魔法のような便利さに驚いてしまうほどよくできた英知の結晶のようなチャートなのですが、Cubaseではそれがより使いやすいように工夫された形で表示されます。調同士の距離感を簡単に目で見て理解することができるので、自然な転調をしたいときや、その逆で攻めた転調をしてみたいときのアシストになるでしょう。

 さらに、コードトラック上のコードをインストゥルメントトラックやMIDIトラックにドラッグ&ドロップすると、和音が打ち込まれた状態のMIDIノートが作成されます。

コードトラックのコードをインストゥルメントトラックやMIDIトラックにドラッグ&ドロップすれば和音が打ち込まれた状態のMIDIノートが作成される

コードトラックのコードをインストゥルメントトラックやMIDIトラックにドラッグ&ドロップすれば和音が打ち込まれた状態のMIDIノートが作成される

 キーエディターで各ノートをオクターブ単位で変更すればコードのボイシングを変更することができますし、全音符のいわゆる白玉状態のノートからエディットしていくことができるので、鍵盤を演奏できなくてもコードのバッキングフレーズを作ることが可能です。

 また白玉のコードが簡単に作れることを考えると、Cubase 13から搭載されたプラグインVocoderとの相性も良いでしょう。コードトラックに作成したコードをMIDIトラックにドラッグ&ドロップし、その出力先をVocoderをインサートしたオーディオトラックにすれば、簡単にボコーダーサウンドを作ることができます。ほかにも、ワブルベースやグロウルベースのトラックに流し込めば、最近はやっているカラーベース・サウンドを作ることもできるでしょう。

コードトラックに作成したコードをMIDIトラックにドラッグ&ドロップしてMIDIノート化し、そのトラックの出力先をVocoderをインサートしたオーディオトラックにすれば、簡単にボコーダーサウンドを作ることができる

コードトラックに作成したコードをMIDIトラックにドラッグ&ドロップしてMIDIノート化し、そのトラックの出力先をVocoderをインサートしたオーディオトラックにすれば、簡単にボコーダーサウンドを作ることができる

指一本でコードを演奏できる“コードパッド”

 コード進行を考えたり打ち込んだりするのを強力にサポートしてくれるもう一つの便利ツールとして、コードパッド機能があります。プロジェクトウィンドウの下ゾーンから“コードパッド”を選択しましょう。

コードパッドの画面。プロジェクトウィンドウの下ゾーンのタブから選択して表示でき、鍵盤のC1からD♯2までの範囲に好きなコードを割り当てて、指一本でコードを弾くことができる。プリセットも用意されている

コードパッドの画面。プロジェクトウィンドウの下ゾーンのタブから選択して表示でき、鍵盤のC1からD♯2までの範囲に好きなコードを割り当てて、指一本でコードを弾くことができる。プリセットも用意されている

 鍵盤のC1からD♯2までの範囲に好きなコードを割り当てることによって、指一本でコードを弾くことができます。さらに自分でコードを割り当てるという使い方以外にも、プリセットが用意されているので、気に入ったものを選んで適当に各ノートを押さえていくだけで、それっぽい進行を簡単に作ることが可能です。コード進行にあまり明るくない人にはもちろん、ある程度知識はあるけれど良いアイディアが出ず行き詰まっているという方にもお勧め。ぜひ活用してみてください。

 Chord Assistantのように“ソフト側がアイディアを提案してくれる”と聞くと、昨今流行っているAIのようなイメージもありますが、結局どんな便利な機能でも、それを使いこなしてまだ世に出ぬ新しいサウンドを作り出していくのは我々人間であり、あくまでこれらは道具に過ぎません。使える優れた道具はどんどん積極的に活用して、我々は新たなクリエイティブに今日も集中していきましょう!

 

JUVENILE
【Profile】独自のCity musicを発信するアーティスト/音楽プロデューサー/トークボックスプレイヤー。2020年より“愛”をテーマにアルバム『INTERWEAVE』プロジェクトを始動。2023年11月29日に日中韓のアーティストをフィーチャリングした第3弾『INTERWEAVE 03』を配信。RADIO FISH「PERFECT HUMAN」の作編曲、舞台『ヒプノシスマイク』の楽曲を担当、活動の方面は多岐にわたる。トークボックスプレイヤーとしても『INTERMISSION』をリリース、精力的に活動している。映画『バックトゥザフューチャー』をこよなく愛す。

【Recent work】

『INTERWEAVE 03』
JUVENILE

 

 

 

steinberg Cubase

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LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 13:13,200円前後|Cubase Artist 13:39,600円前後|Cubase Pro 13:69,300円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 11以降
▪Windows:Windows 10 Ver.21H2以降(64ビット)
▪共通:Intel Core i5以上またはAMDのマルチコアプロセッサーやApple Silicon、8GBのRAM、1,440×900以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080を推奨)、インターネット接続環境(インストール時)

製品情報

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