ロック・サウンド構築の手引き:Part 1〜Cubaseでドラム&ベース&キーボードの音作り|解説:長谷川大介

ロック・サウンド構築の手引き:Part 1〜Cubaseでドラム&ベース&キーボードの音作り|解説:長谷川大介

 こんにちは。作編曲家/ギタリストの長谷川大介です。連載3回目ということで、今回から2回にわたり“ロック・サウンドの構築”について、私なりの考え方や実践方法などを解説していきます。DTMの中でも音作りや作曲手法を含め、ロック系は少しコツが要ると思います。私もバンド時代にかなりのデモを作成しましたので、その経験もふまえて、STEINBERG Cubase上でのやり方を書いていきます。

まずは目的にあったドラム・サウンドを作る

 ロック・サウンドの土台としての要は、なんと言ってもドラムの音色でしょう。ギター・サウンドも重要ですが、ドラムも同じくらい比重としては大きいので、ロックに合った音色を選んで、さらに調整をしていく必要があります。

 しかし、一言で“ロック”と言っても、いろいろなジャンルがあります。例えばモダンなロックの場合、キックやスネアは、かなりパンチのある音色だったりします。そういったサウンドにしたい場合は、まず輪郭がくっきりとした素材を選択しましょう。逆にバンド演奏をそのままレコーディングしたような王道ロックの場合は、ドラム・キット全体で良いバランスになるような素材を選ぶことが多いです。

 また、ロックというジャンルは全般的に、キックやスネアに生音系の音をそのまま使うとギターと重なってしまい、埋もれがちです。そこで、音をしっかりと聴かせるために、Spliceなどから適切なサンプルを拾って使うこともあります。

 さらに、ドラムには“アンビエンス・マイク”というエアー感を収録しているマイクがありますので、モダンなサウンドにしたい場合は少なめに、生バンド感のあるサウンドにしたい場合は多めにミックスします。アンビエンスの調整ができるドラム・ソフトを使う場合は個別での調整が可能です。Cubase付属のドラム音源Groove Agent SE 5にはありませんので、リバーブで作ることになります。

TOONTRACK Superior Drummerは赤枠のようにアンビエンス・マイク単体を調整できるようになっている。Cubase付属のドラム音源Groove Agent SE 5を使用する場合は、リバーブをインサートして調整すればよい

TOONTRACK Superior Drummerは赤枠のようにアンビエンス・マイク単体を調整できるようになっている。Cubase付属のドラム音源Groove Agent SE 5を使用する場合は、リバーブをインサートして調整すればよい

 スネアのリリースの長さも、出したい音のイメージに合わせてコンプで調整しましょう。Groove Agent SE 5の場合は、MIXERタブでスネアに対してのみのコンプ調整が可能です。個別にパラアウトして、プラグインでコンプをかけてもよいでしょう。

Cubase付属のドラム音源Groove Agent SE 5の画面。ここでは、キックとスネアの音色にパンチがあるドラム・キット“29 Min Jupiter”を選択している。赤矢印の“MIXER”を選択すると、赤枠のようにキック、スネア、ハイハット、タムなどの音色を個別に調整できるようになる。ここではスネアのリリースの長さを、Vintage Compressor(黄枠)で調整しているのが分かる

Cubase付属のドラム音源Groove Agent SE 5の画面。ここでは、キックとスネアの音色にパンチがあるドラム・キット“29 Min Jupiter”を選択している。赤矢印の“MIXER”を選択すると、赤枠のようにキック、スネア、ハイハット、タムなどの音色を個別に調整できるようになる。ここではスネアのリリースの長さを、Vintage Compressor(黄枠)で調整しているのが分かる

ベースの形状/奏法を選択して曲調に合わせてひずませる

 続いてはベースについて。ベースには、形状のタイプや奏法、またジャンルによるリズムやフレーズの違いなど、さまざまな要素があります。自分の理想としているサウンドに近づくように、音色や打ち込み方法を考えていきましょう。

 まず、ベースの種類は、主にFENDER Precision Bass系とJazz Bass系があり、音色が異なります。ゴリゴリのロック系で、ミッドが強めの音ならPrecision Bass系、万能で奇麗なサウンドを目指すなら、Jazz Bass系を選択するとよいでしょう。奏法としては、いわゆる指弾きの“フィンガー奏法”と、ピックを使う“ピック奏法”があります。ニュアンスや滑らかさを出したいときはフィンガー奏法を、アタック感や疾走感を強調したいときは、ピック奏法を選ぶことが多いです。また、ベース音源には“キー・スイッチ”という奏法を切り替えるスイッチがアサインされているものがあります。例えばピックアップの切り替えや、指弾きとスラップ奏法の切り替え、スライド奏法での打ち込みなどが、キー・スイッチを使うと可能になります(CubaseのHALion Sonic SE 3にも、キー・スイッチが用意されています)。

Cubaseに付属するソフト音源HALion Sonic SE 3をベース音源として使用。画面で選択されている音色、Tube Drive Finger Bassの場合、スライド奏法に切り替えるキー・スイッチなどが、鍵盤の左側に用意されているのが分かる

Cubaseに付属するソフト音源HALion Sonic SE 3をベース音源として使用。画面で選択されている音色、Tube Drive Finger Bassの場合、スライド奏法に切り替えるキー・スイッチなどが、鍵盤の左側に用意されているのが分かる

 さらにロック系のベースの場合は、ライブなどではアンプの音がひずんでいることが多いので、打ち込みのベースにもアンプ・シミュレーターをインサートし、軽くドライブさせたサウンド作ります。Cubase付属のAmpsimulatorにベース・アンプがありますので、そちらをインサートして音色を作っていきましょう。ひずませ具合は曲調に合わせて、適度に調整します。

Cubaseに付属するアンプ・シミュレーター、Ampsimulatorの画面。ベース・アンプ“Bassamp Vintage”を選択している

Cubaseに付属するアンプ・シミュレーター、Ampsimulatorの画面。ベース・アンプ“Bassamp Vintage”を選択している

キーボードはギターとのすみ分けが重要

 ここからはキーボードについて、楽曲におけるアプローチの方法やその考え方、処理のポイントを紹介します。

 ロック系の楽曲はギターがメインですが、キーボードも入っていることが多く、ギターとの兼ね合いを考えながら音色や調整をする必要があります。ギターとキーボードは、いわゆる“上モノ楽器”と呼ばれ、お互い音が同じ周波数帯域に存在しやすいです。したがって、ギターとキーボードの帯域のすみ分けを考えて、音色やフレーズを決めていく必要があります。

 例えば、ギターの重心を低くして、キーボード類の重心を高めにすると、ギターの重圧が強調された重心の低いロックとなり、逆にギターを高く、キーボード類をギターより下に配置すると、割と重心高めで軽快な曲調に聴こえます。

 Cubase付属のEQ、Studio EQをギターとキーボード両方にインサートし、現状どの辺りの帯域が出ているのかをグラフィックで確認して調整しましょう。キーボードはあくまでもフレーズの見えやすさを重視して、ギターとぶつからないように、基本ローカットで調整していくとよいです。きらびやかさを出したい場合は、2kHzより高域を持ち上げると、明るい響きにすることができます。

キーボードにインサートしたCubase付属のEQ、Studio EQ。SPECTRUMボタンをONにすると、リアルタイムで周波数が表示される

キーボードにインサートしたCubase付属のEQ、Studio EQ。SPECTRUMボタンをONにすると、リアルタイムで周波数が表示される

 また、最近のロック系の楽曲には、ピアノが入っているものが多くなっています。ロック向けのピアノ処理としては、コンプによるアタック感の強調と、ローエンドのカットが有効です。コンプは、アタック感を強調するセッティングにすることで、激しいドラムやギターの中でも埋もれず聴こえやすくなります。ただし強めにかけすぎると、音が潰れたりニュアンスがなくなりすぎたりするので、スレッショルドとレシオを少しずつ上げて調整するとよいです。

ピアノにインサートしたCubase付属のコンプレッサー、Compressor。アタック感を強調するセッティングにするのがお勧め

ピアノにインサートしたCubase付属のコンプレッサー、Compressor。アタック感を強調するセッティングにするのがお勧め

 また、ピアノの左手部分はかなりの低域まで発音されます。楽曲の低域は基本ベースが担っているので、ベースと左手の帯域がぶつからないよう、奏法やEQで調整します。

 いかがでしたでしょうか? ロック・サウンドは基本的に、フレーズや音色の選択、帯域の整理が重要です。ロックな楽曲を作曲する際に、ぜひ参考にしてください! 次回はボーカルやギターについて解説します。

 

長谷川大介
【Profile】SUPA LOVE所属のギタリスト/作編曲家。Aqua Timezのギタリストとしてメジャー・デビュー。バンド解散後は、ギタリストとしてだけでなく、作曲家、編曲家としての活動を始める。ギタリストとしてはBang Dream!(バンドリ!)内のバンド“MyGO!!!!!”のギターを担当。作家としては、ケツメイシ『サンシャインガール』、高野洸『In the shade』の作編曲を担当するなど、ロック、ポップスのみならず、エレクトロやラップ系の楽曲まで、幅広く制作している。

【Recent work】

『Alea jacta est』
Ave Mujica
(ブシロードミュージック)
※「ふたつの月 ~Deep Into The Forest~」の作編曲で参加

 

 

 

STEINBERG Cubase

LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 13:13,200円前後|Cubase Artist 13:39,600円前後|Cubase Pro 13:69,300円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 11以降
▪Windows:Windows 10 Ver.21H2以降(64ビット)
▪共通:INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサーやApple Silicon、8GBのRAM、1,440×900以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080を推奨)、インターネット接続環境(インストール時)

製品情報

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