DeMIX Pro「Panの概念で既存のソフトでできなかった分離が可能に」〜製品担当者インタビュー

既存の2ミックスをマルチトラックに分離することを可能にした音声分離ソフト=AUDIOSOURCERE DeMIX Proをご存じだろうか。2ミックスからボーカルを抜き出すためのVocals、ドラムを抜き出すDrums、そしてパンニング位置を指定して任意部分を抜き出せるPanという3種類のセパレーション・タイプを用意し、特にPanではこれまで難しいとされていた楽器単位での分離が可能になっているという。昨年、InterBEE 2018に向けて来日した同社のリック・シルヴァ(Rick Silva)氏にインタビューした模様をお届けしよう。

長年研究してきたNNMFのアルゴリズムが
高精度なボーカル・セパレーションを実現

●まずはあなたの経歴を教えてください。

シルヴァ氏 もともとオーディオ・エンジニアリングの学校で先生をしていた関係で、前職も音に関するソフト・メーカーに務めていました。その会社をいったん退いて初心に戻り、現在のAUDIOSOURCEREに来ました。DeMIX Proのベータ版を試してみて非常に可能性を感じ、このソフトを広めていきたいと思ったのです。

●DeMIXではソフトの内部にもかかわっているのですか?

シルヴァ氏 もちろんです。私はコーディングなどはしてませんが、ユーザーがどのように使いたいかという点はアドバイスできますので、ベータ版を元にマルチトラックへの分離などを私が付け加えています。

●このDeMIX Proにはどういったテクノロジーが使われているのですか?

シルヴァ氏 こうしたソフトにはマシン・ラーニングを土台にしたものはたくさんあるのですが、DeMIXはノンネガティブ・マトリクス・ファクトライぜーション(Non-negative Matrix Factorization=NNMF)を用いています。CTOであるDr. Derry FitzgeraldがこのNNMFを18年間研究しており、そのアルゴリズムを最適化してボーカル・セパレーションに使用しています。そのオプティマイズされたNNMFににスペクトラル・エディティングを追加し、マルチトラック処理を組み合わたのがDeMIXなのです。

●セパレーション処理はインターネットを通してAUDIOSOURCEREのサーバーで行われるそうですね?

シルヴァ氏 その通りです。アルゴリズム自体はサーバーにあります。一度セパレーションしてしまえば、いちいちサーバー処理をせずともスペクトラル・エディティングが手持ちのパソコンで可能です。

●サーバー処理はどのくらいかかるのですか?

シルヴァ氏 ボーカルのセパレーションだと実時間ほど、ドラムのセパレーションとパンニング・セパレーションは実時間の1~2倍ほどの時間がかかります。例えば3分くらいの曲で、すべてを分解するとなると15~20分ほどかかる計算になります。もちろん曲全体ではなく、自分がセパレーションしたい部分だけを処理することも可能です。

●セパレーションにはVocals/Drums/Panの3種類があるそうですが、それらは一気にセパレートされるのですか?

シルヴァ氏 1つずつセパレーションしていきます。まず2ミックスからボーカルとバッキング・トラックを抜き出し、そのバッキング・トラックからドラムを抜き出す……といった具合でセパレーションします。

●ピアノのような帯域の広いポリフォニック楽器も抜き出せるのですか?

シルヴァ氏 そういったパートは、Panで解析していくといいでしょう。ただ、ピアノの鍵盤がいろんな位置にパンニングされているようなミックスだと奇麗に分離できないかもしれません。

▲DeMIX Proのスペクトラルエディティング画面 ▲DeMIX Proのスペクトラルエディティング画面

●セパレート系ソフトはほかにありますが、その中でもDeMix Proの特長となる部分はどこですか?

シルヴァ氏 ほかのセパレーション・ソフトだと、ユーザーが何を取り出すか指定できないものが多いです。しかし、DeMix Proは前述したように3つのセパレーション・タイプを使い分けて、“ボーカルだけを取り出す”といった自由度があります。特に、パンニングでの分離はDeMIX Proでしか現状ではできません。そしてセパレート・トラックは無制限です。もちろんセパレートしたオーディオの書き出しも可能ですよ。また、DeMIX ProはMac/Windowsで動作します。シンプルですが大事な部分ですよね。

●DeMIX Proのユーザー・ターゲットはどの辺ですか?

シルヴァ氏 DJからオーディオ・エンジニアまで多くの方に使ってもらいたいですね。

●今後の計画を教えてください。オーディオの分離からオート・ミックスといった流れも想定していたりですのでしょうか?

シルヴァ氏 いえ、オート・ミックスはIZOTOPE Neutronがありますから。私たちはまずオーディオ分離にフォーカスをしていきたいと思います。

●最後に、日本のユーザーにメッセージを。

シルヴァ氏 DeMIX Proを手にしたら、きっとオーディオ・セパレーションのすごさに驚くことでしょう。Have fun!

いろいろと興味深い話が聞けたDeMIX Pro、まずは使ってみるのが早道だろう。デモ版のインストーラーはSONICWIREのWebサイトで入手可能。また、用途によってはボーカル/ドラム分離に特化した簡易版のDeMIX Essentials、パンニングによる分離に特化したRePANが手に入りやすい価格なので、これらをセレクトするのもいいだろう。

▲ボーカル/ドラム分離に特化した簡易版のDeMix Essentials ▲ボーカル/ドラム分離に特化した簡易版のDeMIX Essentials
▲ステレオ素材から任意パン位置の分離/調整が可能なRePan ▲ステレオ素材から任意パン位置の分離/調整が可能なRePAN