MIDOが使う「Pro Tools」第2回

打ち込んだドラムをパーツごとに分割してオーディオ化

 こんにちは、MIDOです。前回に続き、AVID Pro Toolsでのビート・メイクについて解説していきます。今回は、打ち込んだドラムのパラ出しについて。前回、上ネタの解説〜ミックスについても予告していたのですが、説明することや紹介したいショートカットが多くなってしまいましたので、こちらは次回にしたいと思います。

MIDIノート・ナンバーごとの分割は
イベント操作を使って一瞬で行える

 前回NATIVE INSTRUMENTS Batteryを使って打ち込んだドラムのMIDIデータは、1つのトラックになっているため、キック/スネア(クラップ)/ハイハットの音量を個別に調整する場合、Battery上から操作する必要があります。ですが、それだと作業効率が悪いのでPro Toolsのフェーダーで音量調整ができるよう、オーディオにします。今回は作業効率を優先し、筆者が確実だと思う手順で解説していきます。

 まずは打ち込んだMIDIクリップを選択して、前回も紹介したoption+0で“イベント操作ウィンドウ”を開きます。そこで、“ノート選択/分割”を選択。ピッチ条件を“すべてのノート”、アクションを“ノート分割”、“コピー”して“音程ごとに新規トラック”を選び、実行します。

打ち込んだドラムのデータをMIDIノート・ナンバー=ドラム・パーツごとにトラック分けするイベント操作設定 打ち込んだドラムのデータをMIDIノート・ナンバー=ドラム・パーツごとにトラック分けするイベント操作設定

 すると、打ち込んだドラムの、使用した音階(MIDIノート・ナンバー)の数だけインストゥルメント・トラックが作成されます。今回はキックとスネア、ハイハットで3つの音階を使用したので、3本のインストゥルメント・トラックが作成されました。この段階で、元のインストゥルメント・トラック(Batteryがインサートされたもの)はミュートしておきます。

 次に、1つ下のインストゥルメント・トラックのインサート・スロットに、元のトラックのBatteryを、optionキーを押しながらドラッグ&ドロップします。元のドラムのトラックと同じ設定のBatteryが複製されます。3つのうち一番上はハイハットを打ち込んだトラックですので、試しに再生してみるとハイハットだけが流れます。

 ここで、イベント操作で作成した3つのインストゥルメント・トラック(ハイハット/スネア/キック)を選択します。次に、shift+optionを押しながら、トラックの出力を任意のバスにします(以下ショートカットはMac用です)。仮に1-2としておきましょう。そうすると、3つのトラックすべての出力がBus 1-2となります。shift+optionを押しながらトラックの入出力を変更すると、選択したトラックの入出力を一括で変更することができます。オーディオ・トラックでも使える技ですし、便利ですので覚えておきましょう。

複数のトラックを選択し、shift+optionを押しながらどれか一つの入出力を変更すると、選択したトラックすべてが同一の設定となる。これに⌘を加えると、Bus 1-2、3-4、5-6……のように昇順になる 複数のトラックを選択し、shift+optionを押しながらどれか一つの入出力を変更すると、選択したトラックすべてが同一の設定となる。これに⌘を加えると、Bus 1-2、3-4、5-6……のように昇順になる

 続いて、モノラルのオーディオ・トラックを用意します。私の場合は、テンプレートのセッション・ファイルに、あらかじめ録音用のモノラルのオーディオ・トラックを用意しています。このトラックのインプットをBus 1にし、録音待機にして、実際に録音してみます。この段階で、メーターが振り切れている場合や音量が小さ過ぎる場合は、再生しているインストゥルメント・トラックのフェーダー、またはBattery内の該当セルの音量フェーダーで適切な音量に調整します。

 今回は4小節ループのドラム・パターンをオーディオ化しています。ですので、曲の頭から最後までを録音する必要はありません。4小節過ぎたくらいまで録音したらストップして、スネア→キックを順に同じ手順でオーディオ化します。録音したデータは、後に解説しますが、クリップの頭とお尻を調整してリピートします。

ハイハット、スネア、キックをオーディオ化した状態(青いオーディオ・トラックはキック、クラップ=スネア、ハイハットの順に並び替え済み)。同じことを行う方法はほかにもあるが、筆者は作業の確実性とスピードを考えて本稿のような手順を採用している ハイハット、スネア、キックをオーディオ化した状態(青いオーディオ・トラックはキック、クラップ=スネア、ハイハットの順に並び替え済み)。同じことを行う方法はほかにもあるが、筆者は作業の確実性とスピードを考えて本稿のような手順を採用している

 この後は、ハイハットのMIDIトラックで使用したBatteryをそのまま次のインストゥルメント・トラック(スネア→キック)へ、順にドラッグ&ドロップします。これを繰り返して、使用したドラムのパーツ数分の短いオーディオ・クリップを作ります。

オーディオ編集を高速化する
ショートカットを活用せよ

 次に、録音したオーディオ波形の縦幅と横幅を最大まで拡大します。まず、コマンドフォーカスがオンになっていることを確認しましょう。

編集ウィンドウ右上のコマンドフォーカス・ボタン。これをオンにしておくと、例えば通常⌘+X/C/Vのカット/コピー/ペーストがX/C/Vだけで行えるようになる 編集ウィンドウ右上のコマンドフォーカス・ボタン。これをオンにしておくと、例えば通常⌘+X/C/Vのカット/コピー/ペーストがX/C/Vだけで行えるようになる

 そして、波形表示の縦幅と横幅を最大まで拡大します。縦幅は⌘+option+@/[(日本語キーボードの場合)で縮小/拡大、横幅はRキーで縮小、Tキーで拡大です。波形の頭が小節の頭からわずかにズレていることが多いので、その補正をしていきます。前回も書きましたが、私は完全に正確で機械的なドラム・パターンを好むので、オーディオ・クリップの頭に少しでも余白がある場合はカットします。

 続いて編集モードをSLIPにして、カットしたい部分をクリックし、キーボードのAを押します。そうすると、クリップの指定した部分より前の部分が削除されます。ちなみに、指定した部分より後ろを削除したい場合はSを押します。

コマンドフォーカスをオンにした状態でAを押すと、クリップの選択位置より前がトリミングされる。コマンドフォーカスを使用していない場合はcontrol+Aで同じことが行える コマンドフォーカスをオンにした状態でAを押すと、クリップの選択位置より前がトリミングされる。コマンドフォーカスを使用していない場合はcontrol+Aで同じことが行える

 これで、クリップのスタート位置が完全にドラムの発音位置になりました。Pro Toolsの左上のモードをGRID(絶対グリッド)にして、小節の頭にクリップを合わせます。

 次に、4小節ピッタリになるようにマウスで選択し、shift+option+3を押します。すると、クリップが統合されて4小節ピッタリのクリップが作成されます。このクリップをoption+Rを押して、指定した数だけクリップをリピートすることができます。

option+Rで開くリピートのダイアログ。選択範囲をリピートするので、編集モードをGRIDモードにして、きっちり4小節分選択するのが大事 option+Rで開くリピートのダイアログ。選択範囲をリピートするので、編集モードをGRIDモードにして、きっちり4小節分選択するのが大事

 私の場合、曲の構成としてイントロ×8小節→バース×12小節+フック8小節を3回→アウトロという構成が多いのですが1曲辺り100小節前後になります。ですので、4小節ループを30回ほどリピートします。少し多いですが、要らない部分は後から削除します。

4小節のビートをリピートした結果。4小節×30=120小節なので少し長め 4小節のビートをリピートした結果。4小節×30=120小節なので少し長め

 これで曲全体のドラムの配置が、ひとまず終わりました。私の場合、後からパターンを変更したい場合や4小節おきにフィル・インを設ける場合、またMIDIからやり直すのではなく、オーディオ化したものの波形を切り取って、グリッドに沿って張っていきます。Pro Toolsのグリッド単位は、画面上部のグリッド項目でも変更できますが、option+controlに+/−キーで増減できます 。このショートカットも覚えておくと、マウスでの操作が減り、作業効率が上がります。

グリッド単位はoption+controlと+/−キーで増減が可能となっている。こちらはグリッド単位=4分音符 グリッド単位はoption+controlと+/−キーで増減が可能となっている。こちらはグリッド単位=4分音符
グリッド単位=16分音符の状態。編集ウィンドウ上のグリッド・ガイドが変わっていく グリッド単位=16分音符の状態。編集ウィンドウ上のグリッド・ガイドが変わっていく

 いかがでしょうか。今回は、前回より多いショートカット・キーを数多く紹介しましたが、どれも作業効率をアップする上で大切なものです。もし知らないショートカットがありましたら、ぜひ覚えてみてください。しばらく使っていると、手が覚えてきますので非常に便利です。それでは、次回をお楽しみに!

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*AVID Pro Toolsの詳細は→http://www.avid.com/ja

MIDO

1990年生まれ。ミキシング・エンジニアとしての活動と並行して、TENZANやL-VOKAL、Zeebraのプロデュースでも注目を集める。以降も掌幻、CHICO CARLITO&焚幕、PKCZ(R)、EGOなどに、シンセを多用した迫力満点のビートを数多く提供している。

2019年3月号サウンド&レコーディング・マガジン2019年3月号より転載