ニューヨークで活躍するYuka C. Honda/高知にやってきたシンジン&ゾラ【第34回】realize〜細井美裕の思考と創発の記録

ザ・ストーンでのライブで出会ってから7年。筆者作品のサンプリングを実現

 Eucademix a.k.a Yuka C. Hondaをご存じですか? 本当にかっこいいユカさん。私がユカさんを知ったのは、当時ハトリミホさんと組んでいたユニットCibo Mattoの「Suger Water」のPV(監督はミシェル・ゴンドリー)からでした。このベース・ラインもかっこいい。

 ユカさんはニューヨーク在住で、日本に帰ってきて余裕があるときに連絡をくれるのですが、昨年会ったときのことをやっと蔵出しです。ユカさんからメールが来るとめちゃくちゃうれしい。この記事が公開される頃には終わっているけれど、4月12日に代官山の晴れたら空に豆まいてで行われるユカさんとBuffalo Daughter大野由美子さんのライブに行く予定です。

 さかのぼって2015年、当時私が一緒に働いていて、ユカさんとも知り合いだった澤井妙治さんと浦川通さんが、ニューヨークでユカさんのライブにお誘いを受けて参加。私は大学3年生で時間があったので遊びに行くことにしました。

 会場はジョン・ゾーンがディレクションをしているライブ・ハウス“ザ・ストーン”。数年ぶりにWebサイトにアクセスしましたが、何も変わっていない! 次ニューヨークに行ったら絶対に行こう。そのWebサイトに“The Stone is a not-for-profit performance initiative dedicated to the EXPERIMENTAL and AVANT-GARDE”とあるように、東京で言うと六本木にあったSuperDeluxeのような雰囲気で、サイズは半分くらいかなあ。あとは西麻布BULLET'Sとか。どちらもなくなっちゃったけど、大学時代によく行っていました。

筆者がInstagramにアップしたザ・ストーン周辺の写真

筆者がInstagramにアップしたザ・ストーン周辺の写真

 私のInstagramの記録によると本番は2015年5月14日。ザ・ストーンのカレンダーにもあった! 2部あって前半と後半両方見に行ったんだ。午後8時からがOP-1 + Project:ショーン・レノン、マニー・マーク、Yuka C. Honda。午後10時からがBreath Grips:マーク・リボー(g)、ネルス・クライン (g)、ジョーディン・ブレイキー(ds)、Toru Urakawa(video)、Taeji Sawai、 Yuka Honda (electronics)だ……。スケジュールをよく見たら5月17日にローリー・アンダーソンとユカさんのライブが入ってる! 何で行かなかったの私⁉ ちなみにネルスはユカさんのパートナーで、ウィルコのギタリストです。2人で日本に来ていたとき、ネルスの衣装の採寸か何かで場所がなくてスタジオに来たのを思い出しました。

当時のザ・ストーンのスケジュール。今見るとめちゃくちゃ豪華だけど、当時は全然知らなかった

当時のザ・ストーンのスケジュール。今見るとめちゃくちゃ豪華だけど、当時は全然知らなかった

 その後2016年には、ニューヨークにできた非営利ライブ・ハウス、ナショナル・ソーダストのキュレーションをユカさんが担当することになって“ニューヨークにちゃんと静寂が作れてカルチャーが集まる場所ができたんだよ”とそこでの公演について教えてもらったり。ナショナル・ソーダストについては佐久間裕美子さんのWIREDの記事が分かりやすいので気になった方はチェックしてみてください。

 時がたって、昨年5月22日に神田スクエアホールで開催されたライブ『D-composition』に出演するからぜひ見に来て、とユカさんから連絡があり、その日、私は自分の意志でローディーをすることに。ザ・ストーンぶりにユカさんのライブを見たのですが、本当にかっこよくて、客席で一緒に見ていたユカさんの弟夫妻のチャキさん、アキさん(藤沢市鵠沼でYOGA STUDIO JYOTIをやっている)としびれました。映像がアップされていたので見てみてください。

 丸1日ユカさんと一緒にいたので久しぶりに長く2人で話す時間があり、私が2018年に富山県高岡市の職人の方たちと作った『Atonal Chimes』を次の来日のタイミングでサンプリングしたいと言ってくれて、やっと実現しました。せっかくなら整った環境がいいなと、奥田泰次さんに協力してもらいstudio MSRで収録。なんとも厳かな鐘の音なので、ユカさん一人で向き合える方が良いかと、セッティング後に録音ボタンを押して私と奥田さんは1時間ほど外に出ました。使用したマイクは奥田さんのT.H.E. AUDIO BS-3D。自分たちが作ったものをユカさんがずっと気にかけてくれていて、1時間も向き合ってもらえてうれしい。スタジオの小窓からのぞいたユカさんの背中、忘れない。またメールくださいね。いつかアメリカに作品を持って行けるように頑張ります。

ユカさんが『Atonal Chimes』をサンプリングする様子。『Atonal Chimes』は、筆者が手掛けた“素材の音を伝えるための楽器製作プロジェクト”だ

ユカさんが『Atonal Chimes』をサンプリングする様子。『Atonal Chimes』は、筆者が手掛けた“素材の音を伝えるための楽器製作プロジェクト”だ

レコーディングは、奥田泰次さん協力のもとstudio MSRで行われた。収音には球体のバイノーラル・マイクT.H.E. AUDIO BS-3D(写真右上)を使用

レコーディングは、奥田泰次さん協力のもとstudio MSRで行われた。収音には球体のバイノーラル・マイクT.H.E. AUDIO BS-3D(写真右上)を使用

高知に移住してきたシンジン&ゾラの制作環境やオープン・スペースが備わるスタジオ

 連載第29回で取り上げたシンジン・ホークとゾラ・ジョーンズが日本に移住したんです。渋谷と大阪にあるクラブCIRCUSのTOYOさんが2人をカナダから呼んでくれたおかげで出会ったのですが、移住したいというのは聞いていたけれど、こんなに早く実現するとは! しかも、急にゾラから“Kochiってどう?”って連絡があったけど、高知に移住するつもりだったのか! 移住先は高知県香美市で、県と市による移住サポートが後押ししているようです。

 彼らの高知のスタジオは2フロアがメインで、上が音楽/映像制作、下がギャラリーのようなオープンなスペース。ライブではVJのためにMICROSOFT Kinectを使っていた彼らですが、最近はNOITOM Perception Neuron(比較的安価なモーション・キャプチャー、慣性式なのでカメラ不要)も使いはじめ、データの取得には広いギャラリー・スペースを使い、彼らは映像にも長けているので、日本のVTuberとの開発も進めているんだとか。東京にいると情報に埋もれてしまうけど、高知の持つ土地や時間の余白が創作を刺激するようで、1日10時間スタジオに入ってしまうこともあるそう。真面目でパッションがあって実力もある2人が高知でサバイブしていく様子、とても楽しみです。きっと自治体の方々や地元の方々も刺激を受けているはず……。無理ない範囲で振り回されてほしいです!

シンジン&ゾラが高知に構えたスタジオ。1階はギャラリーのようなオープン・スペース

シンジン&ゾラが高知に構えたスタジオ。1階はギャラリーのようなオープン・スペース

スタジオ2階は音楽/映像制作を行う環境を整えている

スタジオ2階は音楽/映像制作を行う環境を整えている

スタジオ2階でモーション・キャプチャー作業を行うシンジン

スタジオ2階でモーション・キャプチャー作業を行うシンジン

 今後はギャラリーに常時見られるものを設置して一般開放できるように整えるようで、地元の方々とワークショップをしたり、オープン・スタジオみたいなものができたらいいなと話していました。高知にお住まいの方はぜひ。本当にラブリーな2人なので、迎え入れてもらえるとうれしいです。私も彼らとの曲を完成させに行けたらと思います。ではまた〜!


今月のひとこと:ミュージシャンが集まるヘア・サロンTETROの森田康平さんが、還元/循環を目指すプロジェクトHEVDS(ヘッズ)を始めたから応援したい!

細井美裕

細井美裕

【Profile】1993年生まれ、慶應義塾大学卒業。マルチチャンネル音響を用いた空間そのものを意識させるサウンド・インスタレーションや、舞台公演、自身の声の多重録音を特徴とした作品制作を行う。これまでにNTT ICC無響室、YCAM、札幌SCARTS、東京芸術劇場コンサートホール、愛知県芸術劇場、国際音響学会AES、羽田空港などで作品を発表してきた。

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