NO PASSION, NO MUSIC〜Watusi (COLDFEET) 第7回 テクノロジー×音楽の未来

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 エンタメ部門もアジア屈指の貧国まっしぐらな我が国。原因はこれまでの国内だけを相手にしてきたドメスティックなビジネス構造にある。しかし国を挙げての政策にも逆境からの脱却を託せるような空気は見えてこない。この国のエンタメ界に未来志向の動きはあるのだろうか?

 

 僕が興味を持って追っている流れに“テクノロジー×音楽”がある。そもそもこの国にはSONY Walkman、TECHNICSのターンテーブル、ROLANDのリズム・マシンなど国産テクノロジーが世界の音楽や状況を激変させてきた誇らしい歴史が存在する。では、こんにちのテクノロジーはこの国の音楽をどう変えようとしているのか?

 

 よく知られた例として2007年に誕生した初音ミクをホログラム化(当初は3D的映像)し、バーチャル・シンガーとして立ち上げたコンサート・プロジェクトがある。現在は“マジカルミライ”と題された、ボーカロイドたちがステージで歌い踊るコンサートがスタートしたのは2013年。いまや大阪/東京の2会場で5万人を集めるイベントに成長した。海外版の“Hatsune Miku Expo”は、今年ロンドン、パリ、ベルリン、アムステルダム、バルセロナでの公演を終え、コロナ騒動で延期となった北米12都市でのツアーとともにコーチェラ*1の出演も予定していた。特筆すべきはスタート当初の3Dもどきの映像化から、透けることのないホログラフィ時代を経て、リアルタイム3DCGコントロール・システムを使用し、違和感なくリアルタイムに興奮し合えるまでに進化したライブ映像技術とスタッフのスキル、相互の発展/発達ぶり。音楽をも超えた日本が誇る創作エンタメ文化の発信の一つとして着実に歩みを進めている形だと思う。

*1 カリフォルニア州の砂漠地帯コーチェラ・バレーで行われる、1日平均10万人以上を集める世界屈指の音楽フェス

 

 テクノロジーと言ってしまうと、企業主体で、音楽家不在に感じる方もいるかと思う。音楽家個人を見てみると、渋谷慶一郎は同様に初音ミクを使い、2012年に世界初の映像とコンピューター音響による人間不在のボーカロイド・オペラ「THE END」を発表し、世界的な話題となった。翌2013年には東京だけでなくパリでも「THE END」を公演*2、いまやヨーロッパ全土でさまざまな公演を成功させている。以降、2018年にはAIを搭載した人型アンドロイドがオーケストラを指揮しながら歌うアンドロイド・オペラ『Scary Beauty』、続く2019年には仏教音楽の声明とエレクトロニクスによる新作「Heavy Requiem」など、一人の音楽家としてテクノロジー×音楽のハイブリッドな成功を世界レベルで着実につかみつつある。

*2 パリ・シャトレ座にて「THE END」パリ公演を開催。3公演のチケットが即時にソールドアウトするなど大きな話題となる

 

 こうしたジャンルから日本のエンタメが世界進出を果たしていく様子に僕は“世界ディスコ時代”の1970年代後半、アフリカン・アメリカンのミュージシャンに代表される優れたリズム感覚を持つ人材が不足していたドイツから、当時開発されたリズム・マシンとシーケンサーをグルービーに操り、ドナ・サマーから始まるジョルジオ・モロダーの築いた一大ミュンヘン・ディスコ時代を思い起こさずにいられない。今の日本は最も世界進出のハードルが高いシンガー自体をテクノロジーで生み出したのだ。

 

 テクノロジーを味方につけた音楽制作は、新しい世代へも受け継げられている。この国には放課後の時間すべてをトラック・メイクに費やす10代たちもあふれているのだ。例えば昨年9月に行われた通称イノフェス*3に登場した現在16歳のトラック・メイカーSASUKEは、2歳からダンス、5歳から音楽制作を行っていて作詞/作編曲/演奏/トラック・メイクから歌唱〜ダンスまでこなす*4。これまでに無い“新しいジャンルの音楽”を作りたいと言う彼の夢にこの国の未来をわずかな希望を僕は夢見る。

*3 昨年で4回目の開催となった日本最大級のデジタル・クリエイティブ・フェス『J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2019 supported by CHINTAI』

*4 10歳でNYアポロシアターでのアマチュア・ナイトで優勝した経験もある

 

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5歳からAPPLE GarageBandでの作曲を始めたというSASUKE。最新配信シングル「Part.2」を3月にリリース

 

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Watusi (COLDFEET)

Lori FineとのユニットCOLDFEETのプログラマー/ベーシスト/DJとして、国内のみならず欧米やアジア各国でも多くの作品をリリース。国内では中島美嘉、hiro、安室奈美恵、BoAなどの楽曲プロデュースを手掛け、アンダーグラウンドとメジャーとの接続を試みてきた。2015年には“21世紀の正しいディスコ”をキーワードにしたユニット、Tokyo Discotheque Orchestraをスタート。DUBFORCEや“いとうせいこう is the poet”のメンバーとしても活動している。TOKYO DANCE MUSIC WEEK発起人の一人。ライブ・すトリーミング・イベント、MUSIC DON'T LOCK DOWNにもかかわる