第1期とでも呼んでおきたい非常事態宣言は明け、新たな暮らし方どころか何も無かったかのようなにぎわいが続く都内の週末。だが、ライブ・ハウスやクラブは簡単に日常には戻れない。ただでさえライブと握手券に頼りっぱなしだったところに、今回はその状況に追い討ちどころかトドメを刺すかのような報じられ方もされている。
コロナ禍は当然歌謡界をも直撃し、演歌系大物からアリーナ公演を行うアーティストも等しく、コンサートは延期/中止に。来日勢もボブ・ディランは全15公演が中止となった。この数年ライブ・エンターテインメント市場は成長産業で、2019年は6千億円弱の市場だったので、ひと月あたりは500億円弱。音制連/音事協/ACPC*1の調べでは、3月時点で既に450億円の売り上げ損失だという。
1 一般社団法人コンサートプロモーターズ協会。音楽を中心としたライブ・エンタテインメントを主催する全国のプロモーターで構成される一般社団法人
もちろんそうした状況下ですぐ動いた関係者も多く、オンライン・ゲーム『フォートナイト』*2 内でトラヴィス・スコットがコンサートを開催し1,230万人が視聴した。また4人組のゲーム実況&音楽ユニット、M.S.S Projectが無観客ライブをYouTubeで配信し1億円超をスーパーチャットで集める事件的大掛かりのものから、Zoom演劇や星野源「うちで踊ろう」のアクションに代表される“リモート・エンタメ”とでも呼ぶべき新しい創作の流れも生まれた。それでも6月に入り制作解禁となった大手メジャー・レーベルは、リスケしたリリースが集中する今年秋口からのプロモーションのアイディアに頭を悩ませ続けている。
2 米EPIC GAMESが配信するオンライン・ゲーム。2019 年2月にはマシュメロとのコラボ・イベントも開催し、1,000 万人以上が同時接続したという実績がある
Travis Scott and Fortnite Present: Astronomical (Full Event Video)。『フォートナイト』の世界に登場したステージを、空中から登場する巨大なスコットのアバターが踏み潰す。10 分×5回の新曲ショウを1,200 万人が楽しんだ
そんな中、音楽ストリーミングを収入源の主軸とする海外大手レコード会社は、少なくとも3月のロック・ダウン/外出制限では、音楽ストリーミングに関してはダメージを受けていなかったことを発表した。ユニバーサル・ミュージック・グループの2020年Q1(1〜3月期)の業績は、前年同期比12.7%増で17億6900万ユーロ(約2,076億円)の売り上げ。音楽事業の売上高は、13.15%増で14億3200万ユーロ(約1,680億円)となり、3月のコロナ危機を経ても好調な伸びを達成している。日本もついに主軸収益源を音楽サブスクリプション/ストリーミングに転換しないことには、コロナ禍をサバイブするのは到底不可能なことは明白だ。ツアーや握手券とCD販売がセットのこの国の市場は、さまざまな領域で成長に歯止めをかけているのだと思い直すしかない。そんなシフトがメジャー・レーベルに本当に可能なのかどうかこそが、日本のエンタメの今後50年、いや200年先の未来の鍵を握っていると思っている。
一般社団法人日本レコード協会が発表した2019年の国内音楽ソフト生産金額と音楽配信売上金額の合計は、前年比98%の2,998億円。うち音楽配信売上の合計は706億円(前年比110%)だ。IFPI*3 発表によるグローバルの音楽市場の売上は202億USドル(前年比108%)と、国内外でデジタル音楽配信市場は好調。国内外でのストリーミング配信も増加傾向で、世界の課金利用者は3億4,100万人に到達し、国内は465億円(前年比133%)114億USドル(前年比123%)と躍進した。TuneCoreJapanの利用アーティストだけでも、2019年度のストリーミング収益は約31億円(前年比188%!!)だという。同社は新たな配信先としてTikTokや店舗BGM向けサービスPlayNetworkなどを追加した。同社のビデオ配信サービスVideo Kicksにおいても配信先を追加しており、動画/ビデオ共にアーティストたちは多くのリスナーに音楽を届けることが(形の上では)可能になってきている。音楽産業を伸ばす下準備は実はとっくにできている。さて、鎖国の国ニッポンにもついに風は……吹くのだろうか?
3 International Federation of Phonogram and VideogramProducers。国際的な音楽業界団体で、“ 国際レコード・ビデオ製作者連盟”などと訳される。日本からは各メジャー・レーベルが加盟
Watusi (COLDFEET)
【Profile】Lori FineとのユニットCOLDFEETのプログラマー/ベーシスト/DJとして、国内のみならず欧米やアジア各国でも多くの作品をリリース。国内では中島美嘉、hiro、安室奈美恵、BoAなどの楽曲プロデュースを手掛け、アンダーグラウンドとメジャーとの接続を試みてきた。2015年には“21世紀の正しいディスコ”をキーワードにしたユニット、Tokyo Discotheque Orchestraをスタート。DUBFORCEや“いとうせいこう is the poet”のメンバーとしても活動している。TOKYO DANCE MUSIC WEEK発起人の一人。ライブ・ストリーミング・イベント、MUSIC DON'T LOCK DOWNにもかかわる
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