第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、ファイヴィオ・フォーリン『City of Gods』、ヤング・カヨ『DFTK』です。
ドリル・ミュージックの中で光る個性
ヒップホップのサブジャンル内でもかなり盛り上がっているドリル・ミュージックですが、暴力性も付随するジャンルであることからニューヨーク市長がビデオの放送を禁止にしようとする流れがあったりなど、お騒がせ感すらあります。ドリルの代表であったポップ・スモーク亡き後、シーンの盛り上げに貢献しているファイヴィオ・フォーリンがカニエ・ウェスト、アリシア・キーズをフィーチャーしたシングル「City Of Gods」をリリースしました。プロデュースはカニエの『ドンダ』でも良い仕事をしたAyoAA。ドリルの特徴であるグラインドするベースをメロディアスにした変化球で、ドリルでありながら独自の個性を放った楽曲に仕上がっています。“ニューヨーク”というワードを使った歌詞といえばアリシア・キーズですが、今回も非常に良いハマり方でさすがでした。
今の音楽らしいひずみとローファイ感
ドリル・ミュージックと同じくらいリリースが目立つものとして、Rage Beatsがあります。ヤング・カヨの『DFTK』もまさにその集大成的な作品。このビートは基本的にROLAND TR-808はもとよりシンセも何もかもがひずんでいるという特徴があります。最初は聴きづらいと思っていたのですが、慣れというのは恐ろしいもの。最近はこのひずみとローファイ感が無いと今の音楽っぽくない感じがします。音楽制作の音源が非常にクリアになり簡単にハイファイな楽曲が作れるようになった反動として、こういったグランジ感あふれる、音を汚す方向性が求められるようになったのは面白いです。
D.O.I.
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している