イベントの安全性に配慮した情報共有方法
突然だが、Telegram(https://telegram.org/)というアプリをご存じだろうか。主にスマートフォンで使用されているLINEやWhatsAppのようなコミュニケーションアプリだ。メッセージが暗号化されているので、秘匿性が高く、プライバシーが保護されるということで、近年利用者が増えている。個人情報の扱いに敏感な人が多いベルリンでは、すでに定着していると言っていい。筆者も数年前から使用しているが、最近気づいたことがある。音楽イベントの情報をTelegramを介して知ることが多くなったということだ。
かつてはResident Advisorのようなイベント情報サイトに、よほどアンダーグラウンドなものでない限りは一通りリストアップされていた。しかし、最近ではこうした一般向けの音楽情報サイトは商業的なものが中心で、小規模なローカルイベントは主催者があまり掲載しなくなったということだ。その理由の一つには、ベルリンの観光化が進むにつれ、客層が変わってきたことがあるように思う。以前であれば、“暗黙の了解”だったさまざまなマナーや決まりを、全く共有していない人たちも来るようになった。特に、小〜中規模の、例えばクィアパーティーや、現在弾圧されているパレスチナ連帯イベントなど、コミュニティに根差したものや来場者の安全確保が優先されなければならない場合、限られた登録者向けにだけ情報を発信するという方法が有効になる。いわゆる“セーフスペース”を実現するためには、来場者にあらかじめルールに合意してもらい、さらに規模が大きくなるほど、問題が生じたときに対応する人材が必要になる。大きなフェスなどではこうした安全性の問題に対応する“アウェアネスチーム”が研修を行ったり、当日会場に配備されたりするが、小規模なDIYイベントではそこまで手が回らないことも多い。そうなると、あらかじめルールに合意した限られた人にのみイベント情報を流す方が効率的だ。
今では、非常に多くのイベントやレーベル、アーティスト個人などが独自のTelegramチャンネルを持っており、イベント情報だけでなく、リリース情報やその他のニュースを配信している。文字だけでなく画像や映像、音声も共有できる。近年希薄になってしまっている音楽を通した“コミュニティ”を形成する一つのツールとして、今後しばらく活用されそうだ。好きなレーベルやアーティストのチャンネルがないか、探してみては?
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている