【第1回】AI技術をポジティブに捉えるプロ音楽家たちの勉強会=“ARS” 〜「AI」と「音楽クリエイター」は共存できるか?

ARS対談 Header

 ディープラーニングの進化で、音楽制作にも大きな影響を与えている人工知能(AI)。音楽シーンの第一線でサウンドプロデューサーとして活躍を続ける浅田祐介と、音楽×ITのエキスパートであり、スタートアップ育成も手掛ける山口哲一による緊急対談連載です。浅田はJSPA理事を、山口は内閣府知的財産戦略本部の委員を務めるなど、日本の音楽業界で存在感のある二人の注目の対談となります。

 “AIを恐れるのではなく、積極的に共鳴・共創すること”をテーマに、マインドセットの持ち方と同時に実用的なツール紹介も交えて、AIの可能性を提示していく本連載。第1回は、二人が共同代表として始めた“ARS”の活動を紹介していただきます。

浅田祐介(左)、山口哲一(右)

浅田祐介(左)、山口哲一(右)

浅田祐介

【Profile】音楽プロデューサー、コンポーザー、ミュージシャン。1991年にCharaのサウンド・プロデューサーとしてキャリアをスタートし、その後CHEMISTRY、Crystal Kay、キマグレンなどトップ・アーティストの作品を数多く手掛け、1995年にはシンガーとしてもデビュー。エニシング・ゴーズ代表。JSPA(日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ)理事

山口哲一

【Profile】音楽プロデューサー、エンターテックエバンジェリスト。起業家育成と新規事業創出を行うスタートアップスタジオ、StudioENTRE代表取締役。知的財産戦略本部コンテンツWG委員、iU超客員教授。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。Web3✕音楽の中心地「MID3M+」ファウンダー。『コーライティングの教科書』『音楽業界の動向とカラクリがわかる本』他著書多数。『AI時代の職業作曲家スタイル~逆張りのサバイバル戦略』6月12日発売予定。https://note.com/yamabug

理解できないものに恐怖心を抱いてしまうのが人間。だが……

山口 U-SKE(浅田)さんは常連だけど、僕はビジネスサイドの人間だから、サンレコに連載って場違いで緊張します(笑)。

浅田 今のように簡単に情報が得られる時代ではなかった僕の高校生時代に、貴重な情報を得られるサンレコは本当にお世話になりました。

山口 4カ月間にわたって、AI技術を活用した作曲について、話していきたいと思います。昨年は生成AIの話が吹き荒れた年でしたね。特に、画像、映像、音楽、小説など創作、クリエーションにかかわる分野での進化がすごくて、注目が集まっていた印象です。音楽家としてAIはどのように捉えていますか?

浅田 僕たちは、もう30年くらい音楽にかかわっていますが、アナログ→デジタル、ドラマー→リズム・マシン、演奏者→サンプリング、生演奏→打ち込みと、技術の進化で変化の機会がありました。その都度、抵抗しようとするミュージシャンはいたけれど、技術革新の波は抗えないもので、使わない人は音楽界からいなくなっていきましたよね。新しい技術をキャッチアップするクリエイターの解像度が求められていると思います。

現AVID Pro Toolsもスタジオでレコーダー/ミキサーとして定着するまでにそれなりの時間を要した。本誌2014年8月号「あの時、あの機材」より

現AVID Pro Toolsもスタジオでレコーダー/ミキサーとして定着するまでにそれなりの時間を要した。本誌2014年8月号「あの時、あの機材」より
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山口 全く同感です。産業革命時のイギリスで蒸気機関車が電気に変わるときに、雇用を守るために電車には必ず釜焚き手を載せるという法律があったそうです。冷静に考えると滑稽なそういう話が日本で起きないようにしたいですね。

 僕は、新しいテクノロジーに好奇心を持つことが年齢やキャリアに関係なく大切だと思うのです。トランジスターが無ければ、エレキギターはなく、ロックミュージックも無かったし、蓄音機ができて、ラジオが普及して、音楽産業が成長していったように、音楽の進化はテクノロジーとともにありました。今はそれが、人工知能とディープラーニングになっているのだと思います。

浅田 理解できないものには恐怖心を抱いてしまうのは人類の宿命かもしれませんね。単なるツールだと思うのですが。AIで面白い例を挙げると、noteなどでご自身の体験を発信している知人がいて、体調を崩した影響でメンタルヘルスを悪くしてしまったのですが、最近前向きになったと思ったらSuno AIを使って曲を書いていると言うんです。その日あったことをプロンプトに使い、曲を書かせ、それを聴くと心が安らぐんだそうです。僕らはよく“共感”してもらえる歌詞を書こうと努力するんですが、ユーザー側から共感のロジックや出来事、ワードを提供するというのは面白いな、と思いました。

山口 なるほど、すごい癒やし方です。さて、そんな注目のAI技術に関して、ポジティブに捉えるプロの音楽家たちで勉強会、“AI Resontate Society(ARS)”を作ったわけですが、既に面白いことが起きていますね。

Synthesizer Vのカンル氏も参加していたハッカソン

浅田 4月6日に行われる『ARS presents VX-β 作家ソン』の話をしましょうか? 先日プレスリリースを出しましたが、反響がありますね。

山口 作家×ハッカソンってなんだかよく分からないけれど(笑)、キャッチーだよね?

浅田 ですね(笑)。AIでの歌声生成はいろいろな意味でゲームチェンジャーだと思っていて、ずっとリサーチを続けていた折、YAMAHAのVX-β知り、人を通してR&Dチームとつなげていただき、ボイスライブラリー“L"を作らせていただいたり、話しているうちに何かやりましょう、と。AIをネガティブなものとして捉えず、新しい表現としてプロがどんな風に使うのを可視化したい思いです。

山口 こういう時代だからこそ、コミュニケーションを持つ場を作っていくコミュニティっぽい活動って大事だよね。ネーミングには、僕らがハッカソン好きっていうのはあります(笑)。海外だと音楽シーンと近いところでハッカソンが行われているのに、日本では全然接点が無い印象だったのが残念で、2014年からプロのミュージシャンが参加するハッカソン“ミュージシャンズハッカソン”をやりました。これもARSと同じで、僕たち二人で言い出して勝手連的に始めましたね。盛り上がって、ライブイベント“TECHS”まで発展してしまって、大変だったけど楽しかったね。

浅田 日本の音楽業界のDX化は諸外国に比べ遅れているねぇ、と山口さんたちとずっと話していて、だったらミュージシャンを入れて、こんなアプリやサービス作るハッカソンをやりましょうと。元JUDY AND MARYのTAKUYAや、FIELD OF VIEWの浅岡(雄也)君など来てもらって楽しかった。そしてその中に後々Synthesizer Vを開発する(フア)カンル君も来ていて、当時は日本語があまりしゃべれなかったので、英語ができる渡部高士君と江夏正晃さんとチームになってもらったら、開始30分で二人から“彼は天才ですごい”と。

山口 あのアメリカの大学生だった天才プログラマー少年が、日本で始めたのがSynthesizer Vというのは、感慨深いでよね。ゲームチェンジグなテクノロジーだなと思いました。僕らが聴いても、人が歌っているか区別が付かないって、すごいなと思います。歌声生成ツールは、何を変えていくと思いますか?

浅田 僕らはデモを作るときに仮歌を録音するんですが、途中でテンポやキー、歌詞が変わってきたりすることが多々ある。そのたびに毎回仮歌シンガーの手配が大変なんです。明日の昼までに提出しなきゃ、っていうときに真夜中に来てもらって歌い直しはなかなか負担が大きい。これがプログラムで歌が変更できるのはありがたい。もちろん生の歌唱の素晴らしさはありますが、バンドでも最初のデモは打ち込みのドラムだったりするように、個人的にこれからデモではAIは主流になっていくと思います。もう一点、日本のクリエイターが海外に曲をピッチするときの一番の障壁は、ネイティブのシンガーがいないこと。これがAI生成を使うことで、日本のクリエイターにとっての課題解決になると思います。

山口 AI活用で日本人クリエイターがグローバルに活躍しやすくなると、なるほど。歌声生成ツールの原点は、初音ミクを産んだボーカロイドだと思いますが、そのYAMAHAが、Synthesizer Vの対抗的な技術として準備しているのがVX-βですね。今回の『作家ソン』は、そのVX-β開発チームに協力してもらってやるわけですが、両方使ってみて、違いはどのように感じますか?

浅田 Synthesizer Vはオフラインでハイクオリティな音声を生成するのに対して、VX-βはライブも視野に入れていて、リアルタイムでの反応性が高いです。今回初めて使ってみたのですが、“Power”というパラメーターが面白く、ささやき声から力強く張った声までをシームレスにコントロールできるところが面白いです。

“人間にしかできないクリエイティブ”が突きつけられていく

山口 VX-βはまだ商品化前だし、Synthesizer Vもバージョンアップの期間が短くて、成長途上って感じですよね。どうなっていくのか楽しみです。僕らもかかわっていきたいですね。この連載で整理していきたいのは、音楽創作/音楽制作とAIの関係、音楽家にとってのAI活用法みたいなことになると思います。世間には不安を煽るような記事も多いですが、基本的に音楽家にとって、AIはプラスしかないと思っています。超便利なツールができたと捉えれば良いことかと。

 音楽に限らず、創作一般に言えることかと思うのですが、AIが突きつけているのは、“人にしかできないクリエイティブって何?”ということはないでしょうか? AIがすべてに優越して、人間でやれる事が無くなる、AGI(汎用AI)に支配されるんじゃないかと、恐怖を語る人もいるんだけれど、クリエイションのすべてのプロセスをAIが勝手に行うものだけになるというのは、少なくともあと50年くらい、僕たちが生きている間には、決して起きない種類のことだと思います。

 ただ、分かりやすく二つに分けて話をすると、“人間にしかできないことを創造性”、“AIの方が得意なことをスキル”と整理したときに、これまで創造性が必要と思っていたことでも実はスキルに過ぎず、AIの方が得意だったということが増えると思っています。昨年、ハリウッドで脚本家の組合がAIを使うなとストライキをしましたが、AI不使用については通りませんでした。シナリオライティングの作業の8割以上はAIの方が上手で、二流の脚本家は失業していくというのは近い将来に起きるのでしょう。一方で、スキルに関してはAIに任せて、人間はクリエイティブに集中すれば、クリエイションは進化できるから良いことだと思うんですよ。音楽家の実感としてはどうですか?

浅田 単純な作業や繰り返し作業はAIに任せて、真にオリジナリティやクリエイティブなことに集中できるようになればいいな、と期待しています。

山口 どんどん楽になった分、余ったエネルギーはどこに注ぎますか?

浅田 もっといろいろと学びに使いたいです。これから音楽家は陶芸家みたいになると僕は思っています。普段使いのリーズナブルな値段の食器と、気の置けない知り合いが来たときに使うような、名のある陶芸家が作った食器の違いは、作家性だと思います。恐らくこれからリアルタイム性の高い音楽……例えば状況が刻一刻と変わるゲームのBGMや、心拍数を反映させてテンポに反映させるワークアウトのBGMのようなものはAIが生成すると思います。その中で“誰が・なぜ・いつ”が伝わる作品が大事になってくる気がしています。

音楽家はこれから陶芸家のように作家性が必要になっていくのかもしれない。なおこのイラストはcanva(https://www.canva.com/)の画像生成AI機能で作ってみたもの

将来、音楽家は陶芸家のように“作家性”が今まで以上に重視されていくのかもしれない。なおこのイラストはCanvaの画像生成AI機能で作ってみたもの

山口 陶芸家という喩えは面白いですね。山奥にこもりますか?(笑)。背景の物語とか、作品を生み出した必然性みたいなものも含めて、ユーザーに提示するということは、アート的な文脈ですね。ポップスとアートの二元論に分けるのは陳腐過ぎるけれど、アート作品も作るという話だなと思いました。

浅田 もちろんポップスも好きなので作り続けますけど。使い古されたクリシェだと思いますが、アートとテクノロジーの語源は一緒なので、自然な流れかと思います。新しい表現が当初はアートのくくりで語られ、ポップスがそれを吸収して進んでいく。

山口 あと、消費者は人間だし、今の法制度では、著作権は人間しか持てないので、どんな楽曲にするかという世界観、アイディア出しと、これで確定させるという意思決定。最初のグーと最後のデシジョンは人間にしかできないです。作品に対して責任を持ち、著作権料を受け取ることは脅かされてないですね。

浅田 好奇心を持って、楽しんで使ってみることが一番だと思うので、興味持った人は、楽曲を聴いたり『作家ソン』のオンライン配信に参加してもらいたいですね。

山口 ぜひ、のぞきに来てください。次回は具体的にAIツールの紹介を実践的な目線でやりましょう!

 

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