Berlin Calling〜第106回 HörとBerghainの検閲問題と続く“Strike Germany”キャンペーン

緊張と分断が続くベルリンの音楽やカルチャーの現場

 先月の本コラムで、ドイツ国内の文化芸術(および学術)分野でパレスチナ人やパレスチナに連帯する団体や個人が弾圧されている現状、そしてそれに抗議するストライキキャンペーンが始まったことを紹介した。その後、ベルリン市の公的財政支援授与の条件に“反ユダヤ主義”をめぐる条項に合意しなければならないという問題となっていた措置は撤回された。しかし、パレスチナ支援やイスラエル批判を理由に公演や展示が中止されるケースが後を絶たない。こうした事例を記録している「Archive of Silence(沈黙のアーカイブ)」https://www.instagram.com/archive_of_silence/という取り組みがあるので見てみてほしい。プロフィールのリンクから閲覧可能な全リストは衝撃の数だ。

ベルリン市文化担当参事抗議デモでの筆者(写真:Hanif Hoaei)
ベルリン市文化担当参事が導入した市の公的財政支援の授与に付随した“反ユダヤ主義”条項に抗議するデモやストライキの成果で、条項は撤回された

ベルリン市文化担当参事抗議デモでの筆者(写真:Hanif Hoaei)
ベルリン市文化担当参事が導入した市の公的財政支援の授与に付随した“反ユダヤ主義”条項に抗議するデモやストライキの成果で、条項は撤回された

 そんな中、クラブシーンに大きな亀裂を生じさせているのが、人気映像ストリーミングプラットフォームのHörhttps://hoer.live/と、市内トップクラブのBerghainだ。Hörでは、昨年の10月末に、パレスチナの地図がプリントされた、パレスチナ解放を求めるメッセージの服を着たDJが番組途中で配信を止められるという事件が起こった。この事件をきっかけにして、抗議する多数のアーティストたちが、自分たちのコンテンツを引き上げるという事態となった。現在は配信を再開しているが、ベルリンではかなり批判的に見られているのが現状だ。次に話題となった事件は、Berghainが、1月に出演予定だったアラビアン・パンサーというアーティストの出演だけでなく、イベントそのものを彼の政治的スタンスを理由にキャンセルしたあげく、“改装工事のため”と偽りの発表を行ったというもの。アーティスト本人の告発により明らかとなったが、クラブ側は一切の説明や声明を示しておらず、その対応にも批判が集まっている。これに抗議し、Berghain/Panorama Barへの出演をキャンセルするアーティストも相次いでいる。

 Ravers For Palestinehttps://www.instagram.com/raversforpalestine/という組織では、こうしたボイコットやストライキに参加するアーティストを財政面から支援するために、“ストライキ基金”を立ち上げると発表。その分、ドイツの公的文化施設や、検閲を行っている文化施設などを引き続きボイコット(ストライキ)するよう呼びかけている。まだ停戦の糸口が見えない執筆時現在、ベルリンの音楽やカルチャーの現場では緊張と分断が続いている。

Ravers For Palestineという組織が立ち上げた、クラウドファンディングによるストライキ支援基金“Strike Fund”

Ravers For Palestineという組織が立ち上げた、クラウドファンディングによるストライキ支援基金“Strike Fund”

 

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浅沼優子/Yuko Asanuma

【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている

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