Berlin Calling〜第103回 老舗レコードショップHardwaxが27年構えた店舗から移転

テクノや電子音楽好きにとっての“巡礼地”の一つ

 筆者が2007年に初めてベルリンを訪れた際、真っ先に向かった場所がHardwaxだった。ここは、いわゆる“テクノツーリスト”、テクノや電子音楽が好きでベルリンを訪れる人にとっての“巡礼地”の一つ。雑多な雰囲気のクロイツベルク地区にあり、アナログレコードの専門店で、主に新譜を扱っている。

 1989年にオープンしたこの店は、もともとはレゲエのコレクターであったマーク・エルネストゥスによってブラックミュージックの輸入盤専門店として始まった。その頃、新たなブラックミュージックとして届いたシカゴやデトロイトのダンスミュージックを扱うようになったことから、レゲエとテクノを中心とした品揃えになったという。1996年に一度目の店舗移転があり、そこにはレーベルBasic Channelの事務所や、ディストリビューションの事務所、そして、マスタリングスタジオのDubplates & Masteringも併設された。

 今思えば、私が初めて足を踏み入れたときは既にそこに10年以上あったことになるが、私も長らくクロイツベルク地区およびその近くに住んでいたこともあり、移住してからは定期的に通うようになった。

その長い歴史を感じる、さまざまなレーベルなどのステッカーが貼られた旧店舗のドア。10月28日(土)の営業を最後に閉じられた

その長い歴史を感じる、さまざまなレーベルなどのステッカーが貼られた旧店舗のドア。10月28日(土)の営業を最後に閉じられた

 実を言えば、2018年〜昨年末までは店舗の上の階の事務所をBasic Channelと共有し、ほぼ毎日ここに出勤していた(昨年11月に暖房システムが完全に壊れてしまったため転出)。2020年にパンデミック中で家探しが難航した際は、この事務所に2ヶ月半ほど住み込まさせてもらったりもした……という個人的にも思い出深い場所だ。

 しかし、ベルリンのジェントリフィケーション(都市の富裕化)の波から逃れることができず、この区画一帯の複合ビルが買収されてしまい、転出を余儀なくされてしまった。

 しばらく新店舗の移転先探しが行われていたが、結果的にベルリンのもう一つのテクノ巡礼地であるクラブTresorの入っているKraftwerkに決まり、10月30日(月)から営業が開始された。以前は+4 Barという名称で、Tresorのフロアの一つとしてときどき使われていたスペースを改装している。早速訪れてみたところ、自然光が入る大きな窓が作られており、木製の床が落ち着く雰囲気だ。面積も広く、ゆったりとレコード選びができそうである。ベルリン訪問の際はぜひ立ち寄ってみてほしい(※1)

※1 新住所は、Köpenicker Str. 70, 10179 Berlin Mitte。現在の営業時間は月〜土曜日の15:00〜20:00

新店舗の外観。Hardwaxとほぼ同時期にオープンした老舗テクノクラブTresorの隣に入り口がある。Berlin Atonalが開催される会場として知られる元発電所のKraftwerkビル内だ

新店舗の外観。Hardwaxとほぼ同時期にオープンした老舗テクノクラブTresorの隣に入り口がある。Berlin Atonalが開催される会場として知られる元発電所のKraftwerkビル内だ

 

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浅沼優子/Yuko Asanuma

【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている

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