こんにちは。サウンド/GUIデザイナーの吉松悠太です。私の連載最後となる今回は、音楽理論サイトを運営している身として、せっかくなので少し理論的視点から、BITWIG Bitwig Studioを活用していきます。
Multi-noteで単音を和音に変える
まずは付属のシンセサイザーPolymer用のプリセット集であるPolymericsから、Biopolymerというプリセットを読み込みます。すると、Polymerが立ち上がるのですが、ここにはシンセ音と自動ループのキック音がセットになった変わり種の音色が用意されています。今回はこれをさらに改造して、鍵盤を1つ押すだけで多彩なハーモニーのシーケンスを演奏するようにしたいと思います。その下準備として、リズムの歯切れをよくするために、PolymerのADSRのS(サステイン)を38%にまで下げます。
次に、Polymerの手前にShifting EuclidsというNote FXを追加します。これはNote Repeatというデバイスのプリセットで、シーケンサーの機能のうちノート連打の部分だけを切り取ったような装置です。この時点でノートが自動で連打されるようになりました。
さらに、ハーモニーを構築するために、Note RepeatとPolymerの間にTraveler's Progressionというプリセットを追加。
これはMulti-noteというデバイスにより、単音の入力を和音に変えることができる代物。最大8音まで重ねられるのですが、このプリセットは面白く、Note Counterというモジュレーターを使って、再生音を4音ずつの2グループに分割しています。再生音が毎回同じではつまらないので変化が出るようにしているんですね。
このデバイスをさらに編集していきます。まずPitch欄の値を上から順に0、+4、+7、+11、−12、+6、+14、−3とします。これは音名に直すと、もしドの鍵盤を押さえたらド・ミ・ソ・シ・ド・ファ♯・レ・ラが鳴るという状態です。数値をばらけさせることでピッチのバリエーションを増やすのがポイントです。また奇麗なハーモニーを作りやすい音とそうでない音があるので、それも踏まえつつ調整をしています。
さらにChance欄の値を2〜7番目の音は75%、8番目の音は50%に変更します。
ChanceはBitwig Studioの各所に採用されているある種おなじみのパラメーターで、音が鳴るかどうかを確率で調節できるもの。発音にランダム要素が盛り込まれることで発音が分散し、あたかもアルペジエイターをかけたような動きが生まれました。
さて、音響自体は複雑になってきましたが、単純に数字でピッチを操作しているので通常の楽曲に必要なキーの感覚が全くなく、やや実用性に欠ける状態です。そこでTraveler's Progressionの後に、Transpose MapというNote FXのデバイスを追加します。これはノートの各ピッチを強制的に任意のピッチに変更するもの。マスが並んだ難解な見た目をしていますが、こういう場合は一旦極端な設定にすると挙動が分かりやすいです。では、試しに最上段のマスをすべてクリックしてオレンジ部分を最上段に寄せてみましょう。すると、どの鍵盤を押さえてもC(ド)の音しか鳴らなくなります。
つまり、最上部に横並びになった“C♯2♯……”という記号は、それぞれ入力がド・ド♯・レ……のどれなのかを表し、左側に縦で連なった記号の方は、入力をどの音に変えて出力するかを表しているわけです。それゆえすべて最上段を選択していると、何の音が入ってこようとドの音に変換されていたのです。
では本題に戻るため、Transpose Mapを初期状態に戻してください。今回はピアノでいう白鍵のみで演奏される“Cメジャーキー”で音を鳴らすことにします。したがって鳴らす必要があるのは白鍵の音のみ。Transpose Mapで言うと“♯”のマスのみを隣にずらすことで白鍵の音に置き替えます。しかし、この際にド♯の音をドにずらすかレにずらすかといった選択肢があり、各音をどうずらすかでハーモニーが微妙に変わってきます。今回は、ド♯・レ♯・ラ♯は上のマスへ、ファ♯・ソ♯は下のマスにずらします。
これでどの鍵盤を押してもキーに沿ったピッチを生成してくれるようになり、実戦投入できる形に仕上がってきました。ここからさらにディテールを作り込んでいきます。
Transpose Mapをモジュレートして有機的な演奏のシーケンサーに
まず、現状ではランダム要素がChance部分のみのため、ずっと鍵盤を押していると同じことを繰り返しているのが何となくわかってしまって面白くありません。そこでMulti-noteにRandomモジュレーターを追加します。今回、TIMEBASEはDotted 8th note、TRIGGER MODEはSyncに設定。
これをNote CounterのIncrementに[+1.750]ほどマッピングします。
これで発音にさらなるランダム性が生まれ、特にNote Counterで同じ数字が連続したときはフレーズも同音の連打になるなど、少し個性が出てきました。
もう一つ、また理論的な観点から加工を施します。西洋音楽のスキームでは、シがドへ進むメロディは表現として重要で、それを模倣することでシーケンスにも有機的な表情を与えられます。幸い、Bitwig StudioではTranspose Mapのマス目すらモジュレーションが可能なので、ここにMSEGの一つであるエンベロープモジュレーターのCurvesを追加し、RATEを3、TIMEBASEはbar、SMOOTHING TIMEは最小の0.01ms、Bipolar(±)はオフ、Trigger ModeはGrvに設定。そして、フォルダアイコンからPulse Groove 1というプリセット波形をロードしたら、マス目の7の列に[−11.00]だけマッピングします。
マス目の7は現在シの音に相当するので、これによってシが時折ドに置き換わることになり、結果としてシ・ド間を動くフレーズが自動発生します。この違いは微細なものですが、例えば、ドの鍵盤を押しっぱなしにするだけの表現力などは、かなり豊かになりました。
以上で、たった1音押さえるだけで美しいハーモニーを生み出すシーケンサーの完成です!
さて、4回にわたってBitwig Studioを紹介してきました。読者の皆様がBITWIGのことをより一層好きになっていただけたらば幸いです。それでは、またどこかでお会いしましょう。
吉松悠太(SoundQuest)
【Profile】音楽理論学習サイトSoundQuestの制作/管理者。またPlugmon名義でサウンド/GUIデザイナー、プログラマー、ピクセルアーティストとして活動している。UHMスクリプトから生成した独自波形を用いた「Anthem」シリーズをはじめ、主にu-he製シンセのプリセット集やカスタムスキンを多数リリースしており、同社のHIVE2においては公式にスキンやウェーブテーブルの提供も行なっている。
【Recent work】
『Analog Anthem』
XFER RECORDS Serum用のプリセット集。227個のプリセットのほか、30個のウェーブテーブル、3個のノイズ・ファイル、1個のスキンを収録
BITWIG Bitwig Studio
LINE UP
Bitwig Studio
フル・バージョン:69,300円|エデュケーション版:47,300円|12カ月アップグレード版:29,700円
Bitwig Studio Producer:34,100円
Bitwig Studio Essentials:17,600円
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REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降、macOS 12、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
▪Windows:Windows 7(64ビット)、Windows 8(64ビット)、Windows 10(64ビット)、Windows11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
▪Linux:Ubuntu 18.04以降、64ビットDual-Core CPUまたはBetter ×86 CPU(SSE4.1対応)
▪共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インターネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)