Bitwig StudioのFrequency Splitで作るASMR系ウォーター・パッド・サウンド|解説:LOBOTIX

Bitwig StudioのFrequency Splitで作るASMR系ウォーター・パッド・サウンド|解説:LOBOTIX

 こんにちは!LOBOTIXです。もう季節は夏ですね。暑くなってまいりました。そこで今回お届けするのは、年中お部屋にこもり、DTMにいそしむ私たちでも手軽に涼しくなれる、まるでASMRのようなウォーター・パッド・サウンド!

LFOでノイジーなサウンドを作りFrequency Splitで水の音へ

 この音色はダブステップのサブジャンル、カラーベース(Colour Bass)のアーティストであるSharksにインスパイアされてできたパッチです。カラーベースとは、ノイジーなベースとコード・サウンドが合体したようなサウンド・デザインを軸とした、きらびやかなダブステップ。Sharksはそれに加え、水中を思わせるASMRのような心地良いテクスチャーを駆使して独自の世界を作り出しているアーティストです。テクニック的には、“ザー!”というノイズ成分を利用し、レゾネーターやボコーダーなどでコード・サウンドを生成していきます。

 今回はBITWIG Bitwig Studioでまずノイズ成分を作り、それをFrequency Splitデバイスで水のようなサウンドに変化させます。最後に、Vocoderデバイスでカラーベース的なきらびやかなコード・サウンドをミックスしていきましょう。

 音源にはPolysynthを使います。デフォルトはノコギリ波のサウンドですが、音色の設定はいじりません。Polysynthを読み込んだら、次にLFOモジュレーターを追加してください。これをPolysynthの一番右にあるスピーカー・アイコンが付いたVoice Gainにアサインします。最初にVoice Gainをゼロまで下げて、それからLFOの矢印をクリック。この状態でVoice Gainをドラッグして最大の+1.0まで上げればアサイン完了です。PolysynthをMIDIキーボードなどで鳴らしてみると、LFOの波に合わせて“ふわーんふわーん”と音量変化しているのが分かると思います。

オーソドックスな付属シンセです、という見た目だけど実は奥が深いPolysynth。さまざまなモジュレーターを加えることでかなりアグレッシブに音作りができる。今回はシンプルにVoice Gain(赤枠)にLFO(黄枠)をアサイン

オーソドックスな付属シンセです、という見た目だけど実は奥が深いPolysynth。さまざまなモジュレーターを加えることでかなりアグレッシブに音作りができる。今回はシンプルにVoice Gain(赤枠)にLFO(黄枠)をアサイン

 次にLFOをクリックして編集画面を表示し、上から2番目のTiltを右いっぱいまで上げるとアタック感が出てプラック・シンセのような鳴り方になります。そして一番上のRateを上げていきましょう。このツマミの右側に単位を設定するメニューがあるのでHzにして、27辺りまで上げてください。すると“ドゥルルルル!”とマシンガン的な音に。上から3番目のCurveをいじるとさらに鳴り方が変わるので、−50%辺りにしてよりピッチ感をなくします。

サイコロ・アイコンのRandomモジュレーター(赤枠)をLFOのRate(黄枠)にアサインしている様子。有機的なサウンドを作っていくのに欠かせないモジュレーターをモジュレーションする工程。複雑になりがちなルーティングも視認性の高いインターフェースで気軽に行える

サイコロ・アイコンのRandomモジュレーター(赤枠)をLFOのRate(黄枠)にアサインしている様子。有機的なサウンドを作っていくのに欠かせないモジュレーターをモジュレーションする工程。複雑になりがちなルーティングも視認性の高いインターフェースで気軽に行える

 さらにRandomモジュレーターを使って、LFOのRateに不規則さを加えていきます。Randomモジュレーターを立ち上げクリックし、編集画面を開いてください。単位をHzにしてRateを8辺りに設定しましょう。そして、Randomの緑の矢印をクリックしてLFOのRateにアサインします。マイナス方向に2.5くらいドラッグするとよいでしょう。

 ここまでで元になるサウンドはOKです。“これのどこが水だ!余計暑くなってきたぞLOBOTIX!!”という状態ですが、ここにマジックを加えます。Spectral Suiteの一つであるFrequency Splitの出番です。Polysynthの後ろにこのデバイスを立ち上げて鳴らしてみると周波数分布が4色に分かれています。右にはそれぞれに対応したツマミなどがあり、周波数別に独立したサウンド処理が可能です。

 まずは青以外のスピーカー・アイコンをクリックしてミュート。すると青色の周波数だけが鳴っている状態になりますね。次に画面左のパラメーターを調整していきます。左上のSplitsを2.00に、その右にある矢印アイコンを真ん中の両極矢印に設定。最後に左下のNudgeを−0.03辺りにしましょう。音量がかなり小さいので、Toolデバイスを追加してGainを+20dBほど上げておきます。すると細い周波数帯で“トロロロ……”という水漏れのような音になります。

いかにも最先端なサウンドが作れそうで実際作れるFrequency Split。これ自体は色分けされた周波数をそれぞれ独立してサウンド処理するための分岐装置といったイメージ。ここにエフェクトを加えることはもちろん、モジュレーターでパラメーターを動かすことで聴いたこともないようなサウンドを作り出せる

いかにも最先端なサウンドが作れそうで実際作れるFrequency Split。これ自体は色分けされた周波数をそれぞれ独立してサウンド処理するための分岐装置といったイメージ。ここにエフェクトを加えることはもちろん、モジュレーターでパラメーターを動かすことで聴いたこともないようなサウンドを作り出せる

 これだとご家庭内の水回りという感じなので動きをつけましょう。Randomモジュレーターを使います。単位はHzにしてRateは25くらいに。アサイン先はFrequency Split画面下部のSpinのさらに右にある斜線のアイコン、Split Bend(2つある斜線アイコンの左側)です。ドラッグして70%くらいでアサインしましょう。

Randomモジュレーター(赤枠)を立ち上げて、Frequency Splitの画面下部にあるSplit Bend(黄枠)にアサイン。今回はエフェクトは加えず、青色の周波数(緑枠)だけ残すというフィルター的アプローチ。スプリットされた青色の帯域がランダムに動くことでまるで水のようなニュアンスが生まれる

Randomモジュレーター(赤枠)を立ち上げて、Frequency Splitの画面下部にあるSplit Bend(黄枠)にアサイン。今回はエフェクトは加えず、青色の周波数(緑枠)だけ残すというフィルター的アプローチ。スプリットされた青色の帯域がランダムに動くことでまるで水のようなニュアンスが生まれる

 すると小川のせせらぎのようなサウンドになってきました! なおFrequency Splitの左側画面の中央にある白いドットをドラッグするといろんなニュアンスになります。左上の方は水中のコポコポした感じ、下へいくとハッキリしたサウンドになるので、しばし遊んで好きなサウンドを探してみましょう。

VocoderのCarrierにはスーパー・ソウ・サウンドのPolysynthを

 次は、ここにVocoderデバイスを加えます。ロボット・ボイスやハーモニー・ボイスを作るのにおなじみのエフェクトですが、カラーベースでも応用できます。このトラックのサウンドは、画面左側のModulatorに入力されています。あとはシンセでコード・サウンドを作り画面右側のCarrierへ入力するのですが、デフォルトではCarrierにBrown NoiseとAudio Receiverが入っています。これらは削除しましょう。

見た目もサウンドもカッコイイBitwig StudioのVocoder。ややこしそうだが仕組みが分かるとシンプルでかなり使いやすい。エフェクト音だけ処理するためのWet FXやMixももちろん完備。デフォルトではBrown NoiseがCarrierとして組み込まれている

見た目もサウンドもカッコイイBitwig StudioのVocoder。ややこしそうだが仕組みが分かるとシンプルでかなり使いやすい。エフェクト音だけ処理するためのWet FXやMixももちろん完備。デフォルトではBrown NoiseがCarrierとして組み込まれている

 そして、“ひとまず”新しいトラックを作ってPolysynthを立ち上げスーパー・ソウ・サウンドを作ります。左上のオシレーターのセクションにあるOSC1 Unison Voicesを16vに設定し、その上のUnisonツマミを60cents辺りに。そして、右上のFilter TypeでBypassを選べば完成です。

 一般的なDAWでは複数トラックを使ってVocoderにルーティングしていきますが、Bitwig Studioではその必要はありません! PolysynthをクリックしたままVocoderの黄色いCarrier内までドラッグ&ドロップします。これだけでOK!

右側のデバイスがスーパー・ソウの音作りをしたCarrier用のPolysynth。別トラックで音色の設定をしてから、Carrier(赤枠)へドラッグすると、別トラックを使わずに、インストゥルメントチャンネルのMIDI信号はFX内の階層まで送られる。筆者がBitwig Studioで最も驚いた仕様の一つ。このCarrier中にArpeggiatorなどNote FXを入れることもできるし、サンプラーなどを入れても面白い!

右側のデバイスがスーパー・ソウの音作りをしたCarrier用のPolysynth。別トラックで音色の設定をしてから、Carrier(赤枠)へドラッグすると、別トラックを使わずに、インストゥルメントチャンネルのMIDI信号はFX内の階層まで送られる。筆者がBitwig Studioで最も驚いた仕様の一つ。このCarrier中にArpeggiatorなどNote FXを入れることもできるし、サンプラーなどを入れても面白い!

 早速コードを演奏してみると、水のテクスチャーにコード・サウンドがミックスされます! Vocoderの左下、Stereoアイコンをクリックして、さらにバンド数やGlobal Bandwidthで好みを探してみましょう。最後にマルチバンド・コンプのXFER RECORDS OTTやReverbなどを加えて雰囲気を出せば、はああああ涼しい……!!

Vocoderの後段に本連載でおなじみのマルチバンド・コンプ、XFER RECORDS OTTをインサートしてダイナミクスを整え、さらにBitwig Studio付属のリバーブ、Reverbで臨場感をプラス。Vocoderはデフォルトではモノラル出力なので左下のステレオ設定(赤枠)を忘れずに。筆者はバンド数(黄枠)は72 bands、Global Bandwidth(緑枠)は57%あたりが好みです

Vocoderの後段に本連載でおなじみのマルチバンド・コンプ、XFER RECORDS OTTをインサートしてダイナミクスを整え、さらにBitwig Studio付属のリバーブ、Reverbで臨場感をプラス。Vocoderはデフォルトではモノラル出力なので左下のステレオ設定(赤枠)を忘れずに。筆者はバンド数(黄枠)は72 bands、Global Bandwidth(緑枠)は57%あたりが好みです

 なお、Frequecy Splitの2つの斜線アイコン、BendとPinchでドットの動きをコントロールできるので、オートメーションなどで曲中での表情を変えたりできます。RandomのRateを変えたりしても楽しいので、ぜひいろいろ遊んでみてください。

 これでASMR系ウォータ−・パッド・サウンドの完成です。お疲れさまでした! 次回はいよいよ最終回。Bitwig Studioでダブステップを作る際のさまざまな強みを紹介していく予定です。それでは、またお会いしましょう!

 

LOBOTIX

【Profile】エレクトロニック・ミュージック・アーティスト、VTuber。2018年よりダブステップなどのベース・ミュージックを中心にプロデュース。自身のYouTubeチャンネル、LOBOTIX CHANNELではDTMがより楽しくなるような制作チュートリアルを多数アップしている。ユニークでエッジの効いたサウンド・デザインを分かりやすく解説した動画は、DTM初心者をはじめ国内外の実績あるミュージシャンからも好評。海外プラグイン・メーカーへのプリセット提供や開発にも携わっている。

【Recent work】

『LOUDER E.P.』
LOBOTIX

 

BITWIG Bitwig Studio

BITWIG Bitwig Studio

LINE UP
Bitwig Studio:フル・バージョン/ダウンロード版:50,875円|クロスグレード版またはエデュケーション版:34,100円|12カ月アップグレード版:20,900円

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降、macOS 12、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
▪Windows:Windows 7(64ビット)、Windows 8(64ビット)、Windows 10(64ビット)、Windows11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
▪Linux:Ubuntu 18.04以降、64ビットDual-Core CPUまたはBetter ×86 CPU(SSE4.1対応)
▪共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インターネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)

製品情報

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