2023年4月から放映が開始されたTVアニメ『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』のブルー役として声優を務めると同時に、同作のオープニング・テーマ曲「MAGICAL DESTROYER」の歌唱も担当した愛美は、声優アーティストとして音楽活動にも精力的に取り組んでいる。2023年は、3クール連続でTVアニメのオープニング・テーマを担当することが決定しており、7月放映開始のアニメ『てんぷる』では蒼葉結月役を演じながら、オープニング・テーマ曲「煩悩☆パラダイス」では歌に加えて、アニメのオープニング・テーマとしては初の作詞も手掛けている。これら一連の愛美作品を手掛ける音楽制作チームが、ヘッドフォンのULTRASONE Signature Masterをリファレンスに用いているという情報が編集部に飛び込んできた。そのメンバーは、プロデューサー/原盤制作ディレクターであり作編曲家の島崎貴光氏、キングレコードで音楽プロデューサーを務める寒川大輔氏、レコーディング/ミックス・エンジニアの清水裕貴氏(「MAGICAL DESTROYER」のミックスは作編曲/プロデュースを手掛けた上田剛士氏)、そしてマスタリング・エンジニアの森﨑雅人氏の4名。なぜ同じヘッドフォンを使用するようになったのか、そこにはどんなメリットがあるのか、ぜひお話を伺いたいと思い、皆さんにお集まりいただくことにした。
Photo:Hiroki Obara
ULTRASONE Signature Masterとは?
マスタリングでの使用も視野に入れて開発され、直径40mmのチタン・プレイテッド・マイラー・ドライバーを搭載した密閉型ヘッドフォン。自然な音場を実現するというULTRASONEの独自技術、S-Logic 3テクノロジーとDDF(Double Deflector Fin)を搭載しているのが特徴。ディテールや明瞭感を損なうことなく、耳への負担を軽減した空間表現を可能にしているという。ハウジングには純金メッキ加工を施した金属製プレートを装着することにより高い遮音性を実現。柔らかくて耐久性にも優れたシープ・スキン(羊革)によるイア・パッドを採用するなど細部にもこだわった作りも見逃せない。1.2mストレート・ケーブル(ステレオ・ミニ)、1.2mリモコン・マイク付きケーブル(3.5mm/4極、L字)、3mストレート・ケーブル(ステレオ・フォーン)、プロテイン・レザー製の交換用イア・パッド、キャリング・ケースが付属。
◎Signature Master|価格:139,980円
同じヘッドフォンを使うようになった経緯とは?
今回お集まりいただいた4名のうち、島崎貴光氏と清水裕貴氏は、以前からプロデューサー/ディレクター/作編曲家とエンジニアという関係で、仕事をよく共にしていたとのこと。また、島崎貴光氏は音楽プロダクションのスマイルカンパニー「プロデューサーズルーム」でチーフ音楽プロデューサーも務めているが、キングレコードの寒川大輔氏が愛美作品の作編曲を同社所属のクリエイター、めんま氏へ依頼した際に、原盤制作ディレクターとして島崎氏が参加したことから、寒川氏、島崎氏、清水氏という3人のつながりが生まれたという。このときの楽曲「アナグラハイウェイ」は、愛美がソロ活動を再開した際の第2弾シングル『カザニア』のカップリング曲として2021年7月にリリースされた。寒川氏は当時を振り返り、「島崎さん、清水さんともに信頼のおけるお仕事ぶりで、音楽的な判断や感覚においても共通認識を持てる方々だと感じ、愛美のプロジェクトで長期的にご一緒したいなと思いました」と話す。
愛美
2010年に『探偵オペラ ミルキィホームズ』にて声優デビュー。翌年には声優アーティストとして歌手活動をスタート。2015年、ゲーム/アニメ/コミックスをベースにしたメディア・ミックス・プロジェクト『BanG Dream!(バンドリ!)』発のリアル・バンドとして結成されたPoppin’Partyのフロント・メンバー戸山香澄役(Gt./Vo.)として大ブレイク。2021年4月にはKING AMUSEMENT CREATIVE移籍第1弾シングル『ReSTARTING!!』で再び声優アーティストとしてソロ活動を開始。2023年は4月から3クール連続でTVアニメのオープニング・テーマを担当する。
同年12月、愛美は配信シングル「LIGHTS」を発表。その際のマスタリング・エンジニアとして島崎氏から名前が挙がったのが森﨑雅人氏だった。ただ、このときはコロナ禍の最中だったため、スタジオで全員が顔を合わせることはなく、その機会が訪れたのは、2022年7月リリースのアルバム『AIMI SOUND』の制作でのこと。同作もこの4人が軸となって制作を進めたが、そこで登場したのがSignature Masterだ。最初に使いはじめたのは森﨑氏。そのファースト・インプレッションは素晴らしく、すぐ購入することに決めたという。
「1kHzの鳴りが驚異的に良かったんです。この帯域の音がしっかりしていると、例えばピアノであれば鍵盤の重さを感じますし、スネアだったらスティックが当たるカツンという音で生っぽさを感じることができます。生演奏の柔らかくて立ち上がりの速い、芯のある音を再現できるんです。また経験を積んだミュージシャンやプロデューサーの方は、周波数特性よりも先に、演奏のタイム感やグルーブ感のお話をされます。ですから、モニタリングにおいてもそこをキャッチできないと会話が成立しません。それはつまりモニターにおいては音符と休符の再現性が重要ということなんです。元のキックの音がドンだったら、ヘッドフォンから聴こえる音もドンでなければいけません。ドーンでもドでも駄目。その点においてSignature Masterは完璧でした」
寒川氏は、森﨑氏のスタジオARTISANS MASTERINGでSignature Masterを目撃し、気にはなったもののコロナ禍において他者とヘッドフォンを共有するのははばかられたため、後日、自ら輸入代理店に連絡してデモ機を試聴。すぐに購入を決断したそうだ。
「森﨑さんのお話とも共通しますが、ファースト・インプレッションでは音が適性な速さで飛んでくるという印象でした。特にキックの打点と量感をここまで適正なバランスで聴かせてくれるヘッドフォンには、今まで出会ったことがなかったんです。また、エンジニアさんが配置したボーカルや楽器が“あるべき定位と距離感”のままで聴こえてくるのもモニター用として適していると思いました。あと、自分にとっては重要なポイントなんですが、リスニング用として純粋に“音楽を聴きたくなる”ヘッドフォンなんです。とは言っても、どんな音楽でも気持ちよく聴かせてくれる色付けされた音作りというわけではなくて、作り手の描いた音楽をありのままで聴かせてくれるので、素敵な歌唱、演奏、録音、ミックス、マスタリングで届けられた音楽は本当に心地よく聴くことができますし、逆もしかり。だから僕はプライベートでも使っています」
寒川氏からSignature Masterを薦められて導入に至った島崎氏も「テンションが上がるかどうかはめちゃくちゃ大事」と続ける。
「曲を作る人間にとって、気持ちの良い音かどうかはすごく大切なんですけど、これまでは例えば、4つ打ちの曲を作るときには低域に特化したヘッドフォンで無理やりテンションを上げていました。ただ、そうした製品は高域が見えづらい側面があったので、別途ドンシャリ系のヘッドフォンを組み合わせたりしていたんです。でも、Signature Masterならこれ1台でスーパー・ローから高域まで曇りなく見ることができます。まさに“キターッ”という感じ。また、僕の役割はディレクションやサウンド・プロデュースですから、1音1音の細部から楽曲全体までを見渡して判断し、セレクトとジャッジをしなくてはなりません。つまり、自分の好みに関係なくすべてが見える必要がある。そういう面でもSignature Masterは優れていますね」
さらに、森﨑氏や寒川氏が言及する音符や休符の再現性の高さにも全く同感とのこと。
「歌においては立ち上がりはもちろんのこと、吐息の消え際まで聴こえるかというのは、すごく重要です。特に愛美さんの歌はとてもシルキーで、吐息成分においしい要素があるので、それが聴こえなければ歌のセレクトはできません」
島崎氏から推薦を受けて購入した清水氏は、機材選びでレスポンスの良さを大事にしているそう。その視点で見ると、Signature Masterは「レスポンスの良さと低域の量感を両立しているヘッドフォン」だという。
「Signature Masterは低域の量感がありつつ、キックもベースも音の立ち上がりから切れ際までよく分かります。また、僕はスピーカーでミックスした後、ヘッドフォンで微調整するという使い方なのですが、スピーカーとの違和感がないんです。その上で、スピーカーで見えないところが見えてくるんですよね。特に、完成に近づいているけど、まだ少し足りない状態のミックスを完成まで持っていくときなどは、その変化をリニアに感じ取ることができます」
S-Logic 3の空間表現がなせる技
制作スタッフが同じヘッドフォンを持つメリットとしては、例えば、離れた場所にいても同じ音を聴けるといったことは容易に想像できる。島崎氏も「Signature Masterはいわば共通言語として使っている」と話す。この“共通言語”は、実はリモートだけでなく、スタジオ内でも有効と清水氏。
「ミックスのチェックをスタジオのコントロール・ルームで行う場合、実はエンジニアが座っている場所と後方のソファでは音の印象が異なる場合があります。それは後ろの方に低域がたまりやすいからなんですね。だから、後ろに座っている人から“低音を下げてほしい”と言われたりするんですけど、そんなときは前の方で聴いてもらうか、もしくはSignature Masterで聴いてもらいます。まさに昨日、僕と島崎さん、寒川さんがスタジオでミックスをチェックしていたのですが、スピーカーの音を切って、3人ともヘッドフォンを聴いている時間がありました(笑)」
こうしたスタイルが可能なのも、スピーカーを聴いているときと印象が変わらないという特徴があるからと森﨑氏。
「ULTRASONEのヘッドフォンに採用されているS-Logic 3という技術は、簡単に言えば音をいったん外耳に当てて、それから内耳に入るようにするというものなので、スピーカーで聴いているときと限りなく近い印象で聴けるんです。だから、Signature Masterでマスタリングを仕上げた作品をスピーカーで聴いても印象は変わらなかったんですよ」
島崎氏はS-Logic 3の効果が定位にも表れると話す。
「多くのヘッドフォンは脳内で定位しますが、Signature Masterはスピーカーと同じように顔の前に定位するんです。しかも、すごく空気感があるんですよ。そして、この空気感は疲れにくさにもつながっていると感じます。候補曲を聴きながらブラッシュアップの方法を考えるときなどは、何時間もSignature Masterで聴きながらメモしていきますが、そういう作業も苦になりません」
今後、ヘッドフォンの重要性はますます高まるだろうと島崎氏は続ける。
「K-POPなどでも低域にこだわった作り方をしていますが、これから作家を目指す人たちは、そういう音に対応できる環境がないと、そもそもその手の音楽は作れない。でもSignature Masterなら低域をしっかり聴くことができます」
森﨑氏によれば、「Signature Masterはある程度の大きさのスピーカーとサブウーファーと組み合わせたような質感の低域が聴ける」とのこと。清水氏も「まさに僕はニアフィールド・スピーカー+サブウーファーをいう環境で仕事していますが、違和感ないですね」と語る。
「今はエンジニアの方も自宅で作業することが多いので、そういう面でもヘッドフォンの重要性は高くなっていると思います。自宅でルーム・アコースティックを完全に整えるというのはなかなか難しいと思いますが、Signature Masterであればデッド・ポイントはないですからね。もっと言えば、初めて作業するスタジオでも重宝します。リズム録りでベースのある周波数が聴こえてこないという場合、それがスピーカーや部屋などのモニター環境のせいなのか、それとも機材的なトラブルなのか判断に迷う場合がありますが、そういうときにはSignature Masterでチェックしています」
音楽制作のあらゆる場面で活躍するSignature Masterだが、一般の方にもぜひ使ってみてほしいと寒川氏。
「Signature Masterは、僕らの制作環境とリスナーさんの耳を直結して感じてもらえるヘッドフォンです。ぜひ愛美の楽曲をこのヘッドフォンで楽しんでもらえたらと思います」