AUDEZE MM-500 × エンジニア檜谷瞬六 〜スタジオ水準のヘッドフォン

AUDEZE MM-500 × エンジニア檜谷瞬六 〜スタジオ水準のヘッドフォン

AUDEZE(オーデジー)は、カリフォルニアを拠点とするオーディオ・ブランド。独自の“平面磁界型”ドライバーを搭載するスタジオ品質のモニター・ヘッドフォンを中心に製品ラインナップを展開し、海外のレコーディング・スタジオへの納入実績も多い。ここでは、AUDEZEが高品質のモニター・ヘッドフォンを開発しはじめた経緯を紹介しつつ、最新機種であり、エンジニアのマニー・マロクィン氏も開発に携わったMM-500のユーザー・レビューを掲載。レビュワーには、AUDEZE製品を愛用するエンジニアの檜谷瞬六氏に登場いただき、実際のミックス作業で感じたサウンドの特長や活用が期待されるポイントについて伺った。

Photo:Hiroki Obara(メイン写真、※印)

AUDEZEの歴史と現行モデルを紹介

軍事用テクノロジーから発展したAUDEZE

 2008年にアメリカ、カリフォルニアで創立したAUDEZE。その製品の最大の特長といえるのが、“平面磁界型”のドライバーを搭載していることだ。これは元をたどると、軍事用コミュニケーション・システムとして使用するスピーカーに向けて開発されたもので、1.6km先まで音声を伝えられる性能を持ち、ひずみが少なく明確に音声が伝わると高い評価を受けていた。その後、AUDEZEは軍事用システムで得た知見を生かして業務用スピーカー・システムの開発に着手。宇宙航空産業用の音声通信技術を応用することで、コンサート・ホール用のPAスピーカー開発にも成功した。

 その技術をさらに応用して開発されたのが、平面磁界型のドライバーを搭載したモニター・ヘッドフォンだった。2009年に平面磁界型ドライバーを搭載したヘッドフォンのプロトタイプが製作され、ポータブル・オーディオのコミュニティHead-Fiが主催するヘッドフォン・イベント“CanJam”で高評価を得る。それを受けて開発は継続され、同年には業界初となる平面磁界型ヘッドフォンLCD-2が発表された。

 続いて2013年には現在も改良を重ねて活躍する開放型ヘッドフォンのLCD-Xや密閉型ヘッドフォンのLCD-XCを発売。2018年にはゲーミング用ヘッドフォンMobius、2021年には平面磁界型イア・モニターEuclidを発売するなど、その技術を応用した多様なラインナップが展開されている。

CRBN

CRBN|価格:オープン・プライス(市場予想価格:660,000円前後)

CRBN|価格:オープン・プライス(市場予想価格:660,000円前後)

 金属の代わりにカーボン・ナノ・チューブ・フィルムを採用した独自の極薄振動板を搭載した静電型。20Hzまでの再生を実現した。

LCD-5

LCD-5|価格:オープン・プライス(市場予想価格:594,000円前後)

LCD-5|価格:オープン・プライス(市場予想価格:594,000円前後)

 平面磁界型ドライバーを採用し、位相を整えて、中低域のサウンド・チューニングに大きな役割を果たすパーツ“Fazor”を搭載。

LCD-X 2021

LCD-X 2021|価格:オープン・プライス(市場予想価格:187,000円前後)

LCD-X 2021|価格:オープン・プライス(市場予想価格:187,000円前後)

 2013年に発売された開放型ヘッドフォンLCD-Xの高域を音質改善したモデル。アルミニウム製ハウジングが採用されている。

LCD-XC 2021

LCD-XC 2021|価格:オープン・プライス(市場予想価格:198,000円前後)

LCD-XC 2021|価格:オープン・プライス(市場予想価格:198,000円前後)

 2013年に発売された密閉型ヘッドフォンLCD-XCの高域を音質改善したモデル。カーボン製ハウジングが採用されている。

Euclid in-Ear

Euclid in-Ear|価格:オープン・プライス(市場予想価格:198,000円前後)

Euclid in-Ear|価格:オープン・プライス(市場予想価格:198,000円前後)

 18mm平面磁界型ドライバーを搭載した密閉型イア・モニター。ヘッドフォン同様、位相を整えるFazorを搭載し、ひずみを低減。

MM-500

MM-500|オープン・プライス(市場予想価格:297,000円前後)

MM-500|オープン・プライス(市場予想価格:297,000円前後)

MMシリーズ

 アリシア・キーズやブルーノ・マーズ、リアーナらの作品を手掛け、グラミー賞を幾度も受賞してきた世界的エンジニア、マニー・マロクィン氏とAUDEZEが共同開発した“MMシリーズ”。現行機種はMM-500のみだが、今年4月に行われたNAMM Showでは、下位モデルとなるMM-100も発表された。

マニー・マロクィン

マニー・マロクィン

エンジニア檜谷瞬六がMM-500をレビュー

 グラミー・エンジニア、マニー・マロクィン氏と共同開発されたMM-500は、スタジオ以外の環境下でも、スタジオ作業と同様のクオリティを提供することをコンセプトとして開発された“スタジオ・モニター・ヘッドフォン”だ。ここでは、かねてよりAUDEZEのヘッドフォンを愛用し、最近MM-500を導入したエンジニアの檜谷瞬六氏に、使用感を尋ねた。

MM-500|オープン・プライス(市場予想価格:297,000円前後)

MM-500|オープン・プライス(市場予想価格:297,000円前後)

SPECIFICATION
▪形式:開放型 ▪ドライバー方式:平面磁界駆動型 ▪マグネット:ネオジム N50 ▪感度:100dB/1mW ▪最大SPL:130dB以上 ▪インピーダンス:18Ω ▪重量:495g ▪付属品:ケーブル(ミニXLR-ステレオ・フォーン、250cm)、プレミアム・アルミニウム・ケース

解像度の高さとシビアさを良いバランスで両立

 檜谷氏がAUDEZEを導入したのは今から4年ほど前。

 「ミックスの助けになると思い、10万円以上の価格帯のヘッドフォンを販売店で幾つか試聴したところ、店員の方が出してくれたのがAUDEZE LCD-XCでした。幾つかのリファレンス音源で判断してすごく良かったので、その日に買って帰りました。気に入って長年使用してきましたが、マニー・マロクィンさんがチューニングしたMM-500が出ると聞き、これならアップグレードできると思って導入しました」

 AUDEZEの音の傾向はどのように感じるのだろうか?

 「高級なヘッドフォンでないと出せない解像度の高さと、モニター・ヘッドフォンとしてのシビアさを良いバランスで両立しています。モニター機器は良く聴こえすぎるのも問題で、例えば、制作途中のミックスが気持ち良く聴こえすぎてしまうと、もっと追い込めるはずなのにゴールしたような気になってしまうんです。でもAUDEZEは、良くない部分も含めて正直に聴こえますね。パンニングも機器によって聴こえ方に差があるのですが、AUDEZEは指定したパンの数値に対して正確に再生してくれている印象があります」

 これまで使用してきたLCD-XCは密閉型であるのに対し、MM-500は開放型のヘッドフォンだが、檜谷氏は開放型ヘッドフォンへの印象の変化があったと話す。

 「実は、個人的に開放型のヘッドフォンだと音が散って判断がつきにくい印象があって、ミックスには密閉型を好んでいたんです。でも、MM-500には全然そういう違和感がなく、開放型でも全く抵抗がありません。以前、同じく開放型モデルのLCD-Xを聴いたときも“これなら大丈夫だな”と思ったので、開放型に対して同じような印象がある方はぜひAUDEZEのヘッドフォンを試してみてほしいです」

 ミックス段階によりモニター機器を使い分ける檜谷氏。

 「僕はスピーカーを使って大きい音でミックスをスタートし、良い感じに仕上がってきた段階で小型のスピーカーやヘッドフォンに切り替えて見落としている問題点を探し、最終段階ではコンシューマー向けのヘッドフォンでも確認したりするのですが、MM-500には、そのルーティンの前半戦も任せられるポテンシャルがあります。例えば、コンシューマー用ヘッドフォンだと臨場感や音圧を感じにくい分、キックやベースの音作りが進めにくいのですが、AUDEZEはそういう感じがしません。最後の方の役割も任せられるし、どの段階でもある程度正確な判断ができるので、僕のルーティンの中で、MM-500はほかのヘッドフォンとは役目が違います」

MM-500には、アルミニウム製の専用ケースが付属。「頑丈なので、持ち運んで使う人にとっては運搬中の故障などの心配が減りますね」と檜谷氏

MM-500には、アルミニウム製の専用ケースが付属。「頑丈なので、持ち運んで使う人にとっては運搬中の故障などの心配が減りますね」と檜谷氏

コンプを緩めた状態の正しいバランスが見つかる

 檜谷氏は、モニターに優れた点として具体例をこう話す。

 「例えば、コンプをかけたりして音のエンベロープを操作するときの音色変化が圧倒的に分かりやすいです。変化の感じ方が良い環境でチューニングされたモニター・スピーカーに似ているので、狙ったポイントを見つけやすくなります。ヘッドフォンでミックスしていると、ピークを取って耳なじみを良くしようとしがちなのですが、MM-500は音色の変化にかなりシビアなのでコンプのかけすぎが改善され、よりダイナミクスやトランジェントを残した状態で正しいバランスを見つけようとするようになりました。その結果、よりミックスの抜けや分離感も良くなり、既に良い結果が出ていますね。極めて優秀なミックス用モニター・ヘッドフォンだと思います」

 檜谷氏は装着感についても好印象を持ったようだ。

 「イア・パッドの質感がすごく良く、装着しやすいですし、見た目もかっこよくてシャープなので気に入ってます。何より、LCD-XCに比べて軽量化が図られたことで長時間の作業でも疲れにくいのですごく助かっています」

 最後に、MM-500を薦めたいユーザーを尋ねてみよう。

 「同業者やミックスをする方には文句なく薦めたいですね。特に最近は自宅などスピーカーをベストの状態で鳴らせない環境で作業する人も増えているので、MM-500はかなりの助けになると思います」

MM-500のイア・パッドは前方がフラットで、後方には厚みとスロープを持たせたオリジナル設計が施されている

MM-500のイア・パッドは前方がフラットで、後方には厚みとスロープを持たせたオリジナル設計が施されている

檜谷瞬六【Profile】prime sound studio formやstudio MSRを経て、フリーランスのエンジニアに。ジャズを中心にアコースティック録音を得意とし、ポストクラシカルの分野で世界的に評価される小瀬村晶の作品も手掛ける

檜谷瞬六
【Profile】prime sound studio formやstudio MSRを経て、フリーランスのエンジニアに。ジャズを中心にアコースティック録音を得意とし、ポストクラシカルの分野で世界的に評価される小瀬村晶の作品も手掛ける

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