国内ブランドACOUSTUNEが、音楽制作に向けてリリースしたスタジオ・モニター・イアフォンRS Three。Monitorシリーズ第2弾の製品で、ローエンドやシビランス、定位などの再現性を特徴としている。今回は、レコーディング/ミキシング・エンジニアの牧野英司氏が実機をチェック。「イアフォンは沼」と言うほど、リスニングにも仕事にもイアフォンを活用している氏だが、RS Threeへの評価やいかに? インプレッションを語っていただくとしよう。
Photo:Hiroki Obara
ACOUSTUNE RS Three
モニター・イアフォンRS Oneに続く、Monitorシリーズ第2弾。プロの作曲家たちから意見収集した上で開発され、ローエンドやシビランス、リップ音、定位などを捉えやすく設計。ドライバーは、RS OneのMyrinx ELを礎にしつつ、振動板をより綿密に制御した“Myrinx EL-S”を採用している。医療にも使われる軽量&高剛性の樹脂を素材とし、内部損失の大きさから付帯音を軽減。定位や空気感の再現性を高めている。また、振動板のストローク幅(≒振動できる幅)に余裕を持たせ、突発的な耐入力性を上げている。ポリカーボネートを使った耐久性重視のハウジング、伝導性能に優れるという日本ディックス製コネクターPentaconn Earなども魅力だ。
●ドライバー:Myrinx EL-S(9.2mm径シングル・ダイナミック・ドライバー) ●周波数特性:20Hz~40kHz ●インピーダンス:32Ω@1kHz ●重量:約29g
上下に色付けが無く、中域がよく分かる
普段から、ミックスの最終チェックとして、イアフォンでどう聴こえるかを確かめるようにしているんです。着目するのは定位、ドラムの各パーツのバランス、ハイハットやシンバルと歌のシビランスが同時に鳴る部分の中高域の出方、そしてローエンド。僕はキックの47HzをQ幅の広いEQで5dBほど持ち上げ、37Hzに−24dB/octのローカットを入れる、という処理をよくやるんです。ラージ・モニターやクラブで鳴らしたときの気持ち良さを考えてのことですが、イアフォンで聴くとローエンドがひずみっぽく感じられる場合があるため、チェックは必須です。また、スピーカーで気持ち良く鳴るローも、イアフォンだと思っていたバランスと違って聴こえることがあるから、その際は調整が必要になります。
こうしたチェックの用途において、RS Threeの音は非常にバランスが取れていると思います。色付けが感じられず、フラットでクリア。自分のミックスを聴いたとき、意図したものと違って聴こえることがありませんでした。また、リスニング向けのイアフォンとは異なりローやハイが強調されていないため、中域がしっかりと聴こえる。歌の輪郭がよく見え、ピッチ感やノイズの有無も分かりやすいです。
ノイズと言えば、キックのノイズがよく分かることにも驚きました。キックには、特にプラスティックのビーターを強く踏んだときに“ピチッ”というノイズが入りがちです。それはスピーカーでも分かりますが、RS Threeならより精細に見えます。また、ライブ録音のミックスに使ったところ、オーディエンス・マイクに入ったノイズやドラムの荒々しさ、強すぎたり弱すぎたりする部分がよく分かりました。やはり中域が見えやすいからでしょう。だからこそ、キックの質感やキック&ベースのバランスなどもきちんと捉えられるし、ローに色付けが無いことの恩恵だと思いますね。
定位が良い上にリバーブの長さが見やすい
フラットで各帯域のつながりが良く、中域が安定していることから“シングル・ダイナミック・ドライバーの機種なのかな?”と思っていたら、その通りでした。クロスオーバー帯域が無いので、中域の再現性だけでなく、定位も優れています。ボケたように聴こえませんしね。そして一番びっくりしたのは、リバーブのテイルの長さが手に取るように分かること。特に歌のリバーブです。ライブ録音のミックスを聴くと、ホールの響きとリバーブの溶け合い方までよく見えました。
SN比の良さやタッチ・ノイズの少なさも特徴です。ケーブルを触ってもノイズがほとんど発生しないし、歩きながら使うときに聴こえるレゾナンスっぽい音、ケーブルが服にこすれて生じるノイズも極めて少ない。だから、ステージ用のインイア・モニターとしても、かなり有用なのではないかと思います。イアフォン本体とケーブルをつなぐコネクターの部分に汗が入りにくい仕様も良く、性能と価格のバランスを考えると、すごくリーズナブルですね。あらためて価格を見てみると、2万円以上してもよいイアフォンだと思います。
【牧野英司】レコーディング/ミックス・エンジニア。新宿LOFTのPAエンジニアとして音楽業界に飛び込み、マグネットやツー・ツー・ワンなどのスタジオに務めた後、フリーランスに。Coccoやアイナ・ジ・エンド、BUMP OF CHICKEN、[Alexandros]などの作品に携わり、最近はライブ録音のミキシングも数多くこなす。