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TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION- Disc1 全曲レビュー

TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-

TM NETWORKの40周年を記念したトリビュート・アルバム。インタビューでその制作の詳細を伺った2曲以外にも、TMへの愛と感謝があふれる素晴らしいカバーがそろいました。ここでは各曲の聴きどころを紹介。どこにその“愛と感謝”があるのかを考察してみました。

TM NETWORK

TM NETWORK

1. GRe4N BOYZ 「SEVEN DAYS WAR」

 冒頭のピアノやシンセから、オリジナルの完コピかと思いきや、オーケストラ解釈での完コピとも言えるトラック。サビのストリングス(門脇大輔さんのグループ)の動きに惚れ惚れします。Bメロの転調部を支えるストリングスの動きも奇麗で、この素晴らしいアレンジを手掛けたのはFANKSと知られるnishi-kenさんで納得です。後半のオーケストレーションの盛り上がりは、この曲が映画『ぼくらの七日間戦争』主題歌だったということを思い出させてくれます。そうしたリスペクトと併せて、GReeeeN改めGRe4N BOYZの個性を生かしたボーカル・アレンジとミックス。そのミックスはグレゴリ・ジェルメンさんが手掛けていますが、ストリングスのレコーディングはTMの歴史を支えた名匠=伊藤俊郎さんが担当されています。

 

 オリジナル曲収録作品 

『SEVEN DAYS WAR』 TM NETWORK1988年)

 

2. CAPSULE 「Self Control(⽅⾈に曳かれて)」

 説明するまでもなく、中田ヤスタカさんのプロデュース。おなじみのリフのイントロの前に、もう一つ大胆なパートが追加されています。フックとなるようなリハモが随所で行われ、併せてコード・チェンジが増えているのがアップトゥデートなポイントです。大サビ前の下降フレーズのリフはキラキラとしたCAPSULEらしさ満載。2番の頭や終わりのブレイクもグッと来ます。それでいて派手なクラップ、4つ打ちキックの硬めの音色、ギターのようなひずんだリードなどからはオリジナルへのリスペクトが感じられます。オリジナルは、宇都宮さんのたたみかけるようなボーカルで疾走感を生んでいたのに対し、こしじまとしこさんのボーカルは“高速だけど定速”。だからこそ間奏で歌う“Fooo〜”の1音がかえって映えます。

 

 オリジナル曲収録作品 

『Self Control』 TM NETWORK(1987年

 

3. B'z 「Get Wild」

 いまさら説明は不要ですが、B'zの松本孝弘さんはB'z結成前後の期間にTM NETWORKのサポートを長く務めていました。多くのFANKSには、松本さんのその姿と演奏が今でも印象深いと思います。とはいえ、今回の「Get Wild」は完全に“今のB'z”。松本さんのアプローチもかつてのそれとは全く異なり、自由闊達に吠えまくっています。また、“抜ける〜”を前めに歌ってドライブ感を生む稲葉浩志さんのボーカルも王者の風格です。トラックは中田ヤスタカさんの手によるもの。ハイハットがなくタムでアクセントを生む独特なビートやシーケンスなど、全く同じではないですが使用音色も含めた姿勢として“完コピ”と言えるでしょう。「Self Control」とは対照的な注目ポイントです。

 

 オリジナル曲収録作品 

『Get Wild』 TM NETWORK(1987年

 

4. 澤野弘之 feat. SennaRin  「BEYOND THE TIME  (メビウスの宇宙を越えて)」

 澤野弘之さんと言えば『機動戦士ガンダム』シリーズの音楽を多数手掛けていらっしゃるので、今回はこの『逆襲のシャア』主題歌を担当されたのだと思います。ブレスを強調した、SennaRinさんのエモーショナルなボーカルがまずポイント。オリジナルとは曲の表情が全く変わって聴こえます。Aメロのリフレインでメロディが重なるポイントは、バッサリとミュートして切り替わる辺りが斬新です。トラックは伊藤ハルトシさんのミュート・ギターが全体を引っ張りながら、ゴリッとした骨太な屋台骨を作ります。小室さんの曲は、AメロとBメロがキーだけ異なるほぼ相似形を成しているものが多いのですが、それを汲み取ってAメロとBメロでのアレンジをガラッと変えている澤野さんの手腕はさすがです。

 

 オリジナル曲収録作品 

『BEYOND THE TIME』 TM NETWORK(1988年

 

5. ヒャダイン with DJ KOO 「Maria Club(百億の夜とクレオパトラの孤独)」(Remix)

 TM NETWORKがオープニング・ライブを行った福岡のディスコ“マリアクラブ”(1986年開業)にちなんだもので、小室さんと木根さんの共作。DJ KOOさんのラップが入ると1990年代のTKプロデュース作全盛期を思わせる雰囲気が出てきますが、当時KOOさんはまさにマリアクラブでこんなMCをしながらDJをしたことがあったのかもしれません。トラックはヒャダインさんらしさ満載のにぎやかなものですが、フィル的なシンセの上昇フレーズなどの細やかなところも多数。キックのパターンは、イントロのシーケンスから着想を得たのでしょうか。あちこちにオリジナルのディストーション・ギターが散りばめられています。お祝いという意味でこのアルバムにあってしかるべきリミックスです。

ヒャダインさんのインタビューはこちらから!

 

 オリジナル曲収録作品 

『Self Control』 TM NETWORK(1987年

 

6. 乃⽊坂46 「BE TOGETHER」

 アレンジを担当されている野⼝⼤志さんは、乃木坂46の楽曲も手掛けている作曲家。そのアレンジは8ビートのドラム、シンセ・リード、間奏でエレキギターのソロが入るところなど、TM版のエッセンスを踏まえた形になっています。女性が歌うので、2番のAメロは少し鈴木あみ版の面影もありますが、オリジナルのイメージを継承した印象が強いです。それもすなわち“原曲への愛”と言えましょう(“Shake My Soul”の音程は鈴木あみ版がモデルのようです)。サビのコーラスはさすがに人数感が出て、にぎやかな感じになります。“Give me All Night”で始まるバージョンだと大人すぎるかもしれませんが、“Welcome to the FANKS!”はアリだったかも、と妄想してしまいます。

 

 オリジナル曲収録作品 

『humansystem』 TM NETWORK(1987年

 

7. ⻄川貴教 「LOVE TRAIN」

 西川貴教さんの歌声は、短い音にもかかるビブラートやベンドがこの曲の骨っぽさと色っぽさに映えます。アレンジはTK SONG MAFIA。小室さんの制作を支えている久保こーじ、溝口和彦、赤堀眞之の御三方ですが、それでも近年のTMとは全く違うサウンドになっているのが面白いところです。オリジナルの「LOVE TRAIN」と言えば葛城哲哉さんのギター・リフですが、あえてスタブ系音色で新しいリフを構築。腰の座ったキックとノイズっぽいスネアのマッチングが良く、お約束となっているBメロのキメのユニゾンがタイトに決まります。2番のサビ前が2拍伸びて、サビでリズムが抜けるところのドロップ感も心地よいです。構成要素が全然違うのに、どこか“踏襲している”感じがするところに尊敬と愛を感じます。

 

 オリジナル曲収録作品 

『EXPO』 TMN(1981年

 

8.  松任⾕由実 with SKYE 「Human System」

 『ユーミン乾杯!!』への小室さんの参加への返礼でしょうか。松任谷由実さんが、鈴木茂、小原礼、林立夫、松任谷正隆という皆様=SKYEとともに参加されたのは驚きでした。アレンジ的にはTM版の要素はほぼなく、「トルコ行進曲」も引用せず、ホーンをフィーチャーしたパンチーなサウンドと演奏になっています。松任谷さんとSKYEの皆さんが意識したとは思えないのですが、“サウンドとしてのFANKS”の根底にあったファンクネスのルーツと、実は共通しているのではないかと思います。そして、“ユーミンがこの細かい音符を歌うとこうなるだろうな”という想像した通りだったボーカルは、さすがの個性です。この曲に鈴木茂さんの伸びやかな音でギター・ソロが入っているなんて、それだけでも尊く感じます。

 

 オリジナル曲収録作品 

『humansystem』 TM NETWORK(1987年

 

9.  坂本美⾬ 「TIMEMACHINE」

 FANKSである坂本美雨さんが歌うのは、小室さん作詞、木根さん作曲による初期の名バラード。昨年『DEVOTION』に初めてスタジオ録音版が収録されて話題になりました。アレンジは、サンレコではおなじみ、DUMB TYPEやNODA・MAPでの活躍でも知られる原 摩利彦さん。ボーカル、ピアノ、シンセに弦カルを加えた編成です。ピアノと弦の生音が輪郭のはっきりした、かつウェットなサウンドで捉えられていて、音だけで酔えます。よく聴くと、生のストリングスとシンセが溶け合うようにモジュレーションがかかっている瞬間があり、まさにタイムマシンに乗っているかのように時空がよじれます。また美雨さんのボーカルは全編にわたってオクターブで重ねられていて、過去と未来の二重性を示しているかのようです。

 

 オリジナル曲収録作品 

『DEVOTION』 TM NETWORK(2023年

 

10.  くるり  「STILL LOVE HER   (失われた⾵景)」

 近年のくるりにしては珍しく、打ち込みによるビートとシンセのシーケンス・フレーズを多用したアレンジ。一瞬「ばらの花」や「赤い電車」のようなかつての名曲を思い起こしましたが、それらの焼き直しではなく、オーケストレーション的なカウンター・フレーズを多数散りばめた新しい形をきちんと提示しています。個人的にくるりは、その時代ごとに日本のロックの指標となるサウンド作りをしてきたバンドだと思っていて、本作でも的を外しません。小室さんと木根さんの共作によるオリジナルのフォーキーさとはまた違った形で、でも肩に力が入っているように感じさせない、たおやかな仕上がりです。最後に、別の曲(アルバムのラスト曲つながりですかね)を引用しているのも、トリビュートらしくてとても素敵です。

 

 オリジナル曲収録作品 

『CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜』 TM NETWORK(1988年

 

11. 満島ひかり 「ELECTRIC PROPHET(電気じかけの予⾔者)」

 TM NETWORKのヒット曲だけ知っている方には伝わりにくいかもしれませんが、FANKSにとっては超重要な、小室さんと木根さんの共作による壮大なバラード。アレンジについてはミトさんに詳しく伺っているので割愛しますが、直球勝負で向かい合ったミトさんと満島ひかりさんには最大限の賛辞と感謝を贈りたいです。個人的にもこの曲への思い入れが深すぎて、このカバーを聴くたびに目が潤みます(私も“こじれて”いるわけです)。橋本まさしさんとの四半世紀ぶりの共同作業、満島さんの音楽的志向、そして「エレプロ」とTMへの思いなど、ミトさんから伺ったお話は誌面の文字数には収まりきらなかったので、ぜひサンレコWebでのロング・バージョンも併せてお読みください。

 オリジナル曲収録作品 

『TWINKLE NIGHT』 TM NETWORK(1985年

ミトさんのインタビュー(ロングバージョン)はこちらから!

 

松本伊織
【Profile】『サウンド&レコーディング・マガジン』編集長を経て、現在はサンレコWebプロデューサー。FANKS歴は1988年からの『CAROL』世代。1994年、上京直後に東京ドーム2daysでの“終了”を目撃する。近年は本誌でのTM NETWORK記事の取材や編集を担当



TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-
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